番外編「大切な存在たちとの愛しい日々」
極上Dr、極上の罠~とリンクしています。
あちらではかけない部分を。
ここに出てくる青はただの口の悪いお子様(七歳)
基本は翠さん視点で葛井家の物語です。
翠さんにとって年の離れた従姉妹はとても大事という話。
歳が近い青の方とはそこまで親しくないです。
最後の方は、極上drでは現在の時間軸・三月です。
お彼岸のお墓参り。
従姉妹が生まれたその日は、忘れたことがない。
17歳下の従姉妹はとてもかわいらしかった。
妹のいない私にはもう一人のきょうだいのように感じていた。
4歳の弟と共に病室に会いに行って
叔母にお祝いを伝えた。
それからしばらくして、悲しい便りを聞くことになり
信じられない気持ちでいっぱいだった。
あまり時を経ずして実母の紫も亡くした。
義理の姉妹の二人は親しくしていたので天国でも
仲良くしていると今でも思っている。
「……梓たち二人は純佳の忘れ形見のあの子を
自分たちの子として育てたいって
考えてる。翠もこれからは神崎家と親しくして
あの子と仲良くしてやってほしい」
純佳叔母様の忘れ形見は姉の梓叔母様の娘として育てられる。
「梓叔母さまと義叔父さまの
養女になるのが一番ね。
ううん養女じゃなくて、娘か。
二人の娘として育ててもらうのがあの子にとって一番の幸せよ。
私もあの子に会いに行くから!」
「うん。頼んだよ。年の離れた妹みたいに可愛がってあげて」
「私が結婚しても縁は大事にするわ」
父は私の髪を撫でた。
父から頭を撫でられたのはこれが最後だ。
三年が過ぎた頃、私はパートナーと共に
実家のパーティーに参加した。
パーティーといっても親族の集まりだが、
幼い弟には少し気の毒だった。
薄茶色の髪に青い瞳はかなり目立つので、
本人もそれを気にし始めている。
「青、久しぶりー!
相変わらずきらきらしてて王子様みたいだね」
「……姉さんに連れられて
こんなところまで来ちゃってかわいそうですね。
勉強していたほうが有意義じゃないんですか?」
七歳になったばかりの弟は小生意気な口をきいた。
「一回パーティーってのに参加してみたかったんだ。
翠とはただの恋人じゃなくて結婚を約束した
パートナーだから、そこんとこ間違えないようにね。
もうすぐ弟になる青」
「……はあ」
青はこれ見よがしにため息をついた。
ドレスシャツにリボンタイ、大人びた光沢のあるズボンを履いている。
オレンジジュースを飲みながらため息をついている様子に、
本当に嫌なら参加しなければいいのにとも思った。
(父に言われたら断れないのよね。
流されるんじゃなくて自分で決めてるのがえらい)
「青、かわいい従兄妹も来てるわよ。
せっかくだし遊んできたら」
「遊ぶって……四つも下の幼児と何して遊ぶんですか。
話が合わなさすぎるよ」
「……あんたも小1よね!?」
「翠、青は照れてるだけだよ。顔が赤いし」
「勝手に決めつけるな。
そのいんちき眼鏡を外せよ……うさんくさいんだよ」
「人前は緊張するからそれを隠すためなんだよね。
うさんくさいとか言わないで」
「そうだったっけ?」
「そうだよ?」
確か童顔をごまかすためだった気がする。
嘯く計算高さも嫌いではないけれど。
「叔母さまー!」
「翠ちゃん、素敵な男性と一緒なのね」
「葛井陽です。医大の六年です。よろしくお願いします」
「ちゃんと素敵な人を見つけてきたから、
大丈夫ね。あなたはあなたのやり方で
お兄さまを支えてあげて」
「はい。叔母様、結婚式には来てくださいね」
「当たり前じゃない。かわいい姪の晴れの日なんですもの」
父と義叔父が悪ノリをして話しているのを耳にし、
ほんのり呆れたが冗談なのだろう。
むきになった青が、従姉妹をかばい
大人たちに言い返しているのを見て
頼もしく思えた。
(なるほど。青を試したのね……。
従兄妹同士で結婚は珍しくないとしても
親同士が勝手に決めるのはよろしくない)
何もわかってなさそうに見えたが、
青のことを慕っているようだ。
パーティーの間中、青は何かしら従姉妹の面倒を見ていた。
七歳と三歳のかわいらしい二人に空気が和むのを感じる。
さすがに父たちには呆れてお小言は伝えておいたけれど。
それから数年の時が流れた。
あの小さかった従姉妹も小学生になり、
美少女ぶりは加速していた。
叔母に言わせれば私と彼女は似ているという。
叔母は父の妹で血縁関係にあるのだから
似ていてもおかしくないのだが、単純にうれしい。
あの時、妹として藤城家に迎えたいとまで思った子だ。
彼女ははっきりとした物言いをする少女に成長したが、
そのかわいらしさでうちの息子も虜にしているようだった。
そんなある日、私に一大事件が起こった。
夫の陽や父、陽の両親もかなり心配していた。
事故だからと思ってもなくしてしまった事実は消えない。
それでも時間は癒してくれた。
私は夫と幼い息子、三人家族で暮らしていく。
弟や父もいるしあたたかい人達に囲まれている。
何かと親しくしていた女の子も私に癒しをくれた。
叔母夫妻と共に見舞いに来てくれた彼女は、私の手を握って微笑みかけた。
涙まじりに。
「……翠ちゃん、私もいるから。
うちにいつでも遊びに来て。おうちにも遊びに行かせてね! 元気になってね」
「ありがとう。これからも仲良くしてね」
体も回復した頃、遊びに来ていたいとこが、
かわいらしいおねがいをしてくれた。
多分、私を慰めてくれたのだと思う。
「翠ちゃん……勉強を教えてほしいの。
毎日じゃなくて土日のどっちかだけでいいの。駄目かな?」
思わずむぎゅっと抱きしめた。
「それなら陽に頼んでみようか!
土曜日の午後とかどう?」
「陽兄さんはお忙しいでしょう?
病院のお仕事は激務で大変だもの」
小学校三年生になった従姉妹はしっかりした子だった。
「私、教えるのは向いてないのよ。
その点、陽なら適任じゃないかと思うんだけど」
「それなら青兄は!?
中学生なら小学生の勉強くらい見れるでしょう」
彼女はかたくなに断ろうとした。
「それはそうだろうけど……無理だと思う。
どうしてもというのならうちの人で妥協して」
「妥協とか失礼だなあ。
愛璃ちゃん、僕じゃお役に立てないかな」
「……じゃあよろしくお願いします」
愛璃ちゃんは、顔を赤くして頭を下げた。
「陽、くれぐれも頼むわね。
大事な従姉妹だから」
「分かってる。翠の従姉妹なら僕にとっても従姉妹じゃないか」
頼もしい夫はそう言ってくれた。
それから三年間愛璃ちゃんは、毎週うちに来てくれて
陽から勉強を教わった。
「ぶっちゃけていうわ。
陽兄さんが苦手だったから断ろうとしたの。
だってうさんくさかったんだもの」
小6になって少し大人びた愛璃ちゃんは、
ついに本音をぶちまけることにしたらしい。
休憩時間のお茶を持っていこうと扉の前にいた時、聞こえてしまった。
「この眼鏡のせいだろうな……。
うん。外すよ」
薄く開いていた扉をゆっくりと開いた。
「休憩にしましょう。今日は、カステラ!
藤城家でもよく食べてた長崎カステラなのよ」
「カステラ!」
愛璃ちゃんは瞳を輝かせていた。
眼鏡を外した陽に視線を向けず笑っている。
しばらくして愛璃ちゃんはうちに来るのをやめたけれど、
バレンタインの日、私と陽、砌の三人へ
バレンタインチョコをもって現れた。
「翠ちゃん、陽兄さん、私のわがままで
家庭教師を引き受けてくれてありがとう。
とっても嬉しかったの」
「愛璃姉ちゃん、何で急に来なくなったの。
三か月も会えなくて悲しかったんだよ!」
六歳の砌にとって幼い恋だったのか。
たぶん、そうであってそうじゃない。
愛璃ちゃんが親子ほど年齢が離れた男性に
憧れを抱いたのと同じ気持ちだ。
あとから聞いた話だけど恋にならない内に距離を取ろうとしたなんて、
大人の考え方だと思った。昔の私には到底真似できない。
彼女は家庭のことで誤解を抱いたまま、
苦しい気持ちも飲み込むことを知っているからできた。
そう思ったら切なくなったけど。
「ごめんね!
本当はここのお家の人達に会いたかっただけだったの。
お勉強、そんなに苦手でもないし」
「……知ってた。愛璃ちゃんがかわいいから
私も陽も会いたかったの」
「勉強とかそんなの関係なくまた遊びにおいでよ」
「ママはさみしがり屋なんだ。パパは
いっつもいないしね。
愛璃姉ちゃんが来てくれたらおうちはにぎやかになるから
遊びに来てあげてよ」
砌は愛璃ちゃんの足元にくっついていた。
計算高さもない素直さ。
「うん。愛璃ちゃんに会えないとさみしいの。
愛璃ちゃんは妹で、もう一人の娘なんだから」
17歳下の従姉妹は、私を見上げて笑った。
「こんな若いママ……うれしいな。
でも私にとって二人はいとこでお姉さんとお兄さんよ!
砌は弟みたいなのだし」
涙まじりの笑顔だった。
私は彼女の頭を撫でて陽は小さな身体を抱きしめていた。
少し震えていたが顔を上げた愛璃ちゃんはすがすがしく微笑んでいた。
「ずるい……!」
愛璃ちゃんはそうつぶやいた砌を抱きしめた。
それからはしばらく月に一度程度遊びに来てくれたと思う。
私も神崎家にお邪魔させていただくことがあった。
そんな彼女が本当の恋を見つけたのは大学一年生の終わりごろだ。
思わぬ人物で驚いたけれど、何より幸せになってほしかった。
半年前に行われた結婚式は陽と私、砌の三人で出席し祝福を贈った。23歳と27歳、一緒にいなかった期間が不思議なほどぴったりな二人だった。
ブーケを受け取った砌は驚いていたが、
愛璃ちゃんの想いが込められていると感じた。
砌も年上のお姉さんではなく同級生の女の子と恋をしたし、
懸念だった弟も真実の愛で癒されている。
「……今が一番幸せかもしれないわ」
「そんなに幸せって何度もやってくるもの?
そのセリフ何回聞いたんだろ……」
「砌、幸せと思った時が幸せなんだよ」
「……なんとなくわかったような」
今日は三月のお彼岸。
家族三人でもう一人の子供と、実母、叔母のお墓参りに来ていた。
あのクソガキの砌も四月から高校三年生だ。
「陽が未だにモテてるのが解せないところよね」
「彼女が父親目的で結婚したがるとか勘弁してほしい」
「……僕にとってみんな娘のようなもんだよ」
童顔の恐ろしい旦那を見ていると、
やはり私もファザコンだったのかなと感じる。
お父様、大好きだったものね。
車に乗り込んだ時、ふいに砌がつぶやいた。
「結婚式の愛璃姉……、綺麗だったな。
あの人の隣だからあんなにきれいに微笑んでるんだろうな」
「砌もそういうの分かるようになったのね。
ママ、少し切ない」
半年前に行われた結婚式は、とても素敵だった。
最近もたらされた新しい幸せの報告は、
私に新たな希望の光を届けてくれた。
愛璃ちゃんと彼に子供ができるなんて喜ばしいにもほどがある。
「気持ち悪ッ」
車が緩やかに動き出す。
「砌も早く結婚したくなったのかい?」
「……青兄の後でかな。
多分もうすぐでしょ」
「そうね」
「砌が明梨ちゃんを連れてきてくれたら、
にぎやかになるだろうな」
「明梨ちゃんとなら仲良くできそう」
「結婚が何年先かは不明だけど同居は勘弁してほしい」
そう笑い合っている内に家へと到着した。




