16話 死と恐怖
夜になってみんなが寝静まったころ俺たちはショッピングモールを出ることにした。
見張りなどはいるがそんなに気にする必要はないだろうと言うことで俺たちはこっそり屋上に移動する。
「よし、じゃあつかまれ」
俺は両手を広げながら二人に声をかける。
もともと猫みたいな感じで運ぼうと思っていたが二人が嫌がったのでとりあえず抱きかかえて飛ぶことにした。二人は恐る恐るといった感じで抱き着いてきたが俺は万が一落ちてしまうなんてことがないように魔法を鞭のように活用し俺の体に二人をしっかり固定しそのまま羽を生やし空へと飛ぶ。
「わぁ!す、すごいです!そ、空飛んでます!!!」
「うん...!きれい...!」
「いい景色だろ?これで光があったらもっと最高なんだろうけどな。しばらくかなうことはなさそうだ。」
そのまま俺たちは以前見かけたあのピラミッドの方面に飛んでいく。
あそこが俺の知ってる今唯一のダンジョンだからな。
そういえば不思議なんだがなぜか空にはモンスターがいないんだよな。エリアの問題なのか時期の問題なのかは知らないがそれのおかげで地上よりもだいぶ楽に移動することができる。
そうして大体30分ほど移動したところで目的地が見えてくる。
以前はあそこからモンスターがあふれていたが今はどうなっているんだろうな。
すぐに降りるのは危険かもしれないと判断し俺は空中から入口をよく観察してみる。
そこには前とは違いモンスターがダンジョンから出ていくってことはなく変わりに扉がある。
そしてその扉は青く光っており何か文字が書いてあるようで空からだとよく見えない。
「ひとまず大丈夫そうだから降りるぞ。」
「はい!わかりまs...きゃーーーー!」
俺はいつも通り急降下からの地面近くでぴたりと止まる。
「あ、悪いいつもの癖で同じ降り方しちまった。」
「き、気を付けてください...!」
「ノワール...危ない...」
「すまんすまん。とりあえずこれが俺たちの目的だったダンジョンだな。」
そして俺たちはダンジョンの扉を見る。
近くで見ると気づくことが増えたんだがまず扉が光ってるんじゃなくて入口の部分に青い光があってそれが扉っぽく見えてただけみたいだ。まぁゲートみたいな感じか。
そしてゲートに書いてある文字はこうだ。
『入場可能』
つまりこれはパーティーとか誰かが入ったら何分以内に入らないと一緒に攻略できないとかそういう感じのやつなのだろうか。
「これってパーティー組むみたいなシステムでもあんのか?」
「聞いたこと...ない...」
「そうですね...それに日本でまだゲート攻略しようとしてる人も多くないでしょうし...」
「まぁとりあえず入ってみればわかるだろ。」
そう言って俺は先にゲートの先に進む。そのあとに続いて二人とも入ってくる。
中に入って俺はすぐ周りを見渡した。
中はレンガ造りの迷宮のようになっていて空気は少し冷え込んでおりなぜか天井が発光しており視界に困ることはなさそうだ。まぁ悪魔になってからあんまり暗闇に困らなくなったんだけどな。そして後ろにはゲートと同じようなものがあるが色が変わり赤くなっている。
そして文字も変化し、
『入場不可』
と、書いている。
「どうやらいっぺんに入れる人数はそんなに多くなさそうだな。もしかしたらダンジョンごとにルールがあるのかもしれないしわからないけどな。」
「無事に帰れますよね...?」
「あぁ、契約したからな。」
「ノワールと私...強いから...あかねも安心...!」
そして俺、茜、夏美の順番で進んでいく。道中出てくるのはゴブリンやレッサードッグしか出てこない見飽きた俺は少し退屈に感じていた。余裕もあるだろうし夏美と茜に戦闘は任せレベルアップに専念させ俺は死んだモンスターの吸収と魔石の回収に勤しんでいた。しかし俺は途中でリポップするのか気になり途中で倒した後進まないでその場にとどまることにした。そうして一時間ほど経ったころようやくリポップしてきた。俺は叫んだ。
「レベル上げチャンスだ!!!」
そうして俺たちはかれこれ10時間以上レベルアップの作業をしていた。
まぁ主に俺以外の二人なんだけどな。
ステータスは後で確認するとして狩りをしていると奥に仰々しい扉があった。
いわゆるボス部屋だろう。
「休憩したら行くか。」
「はぁはぁ...ノワールさんは元気有り余ってますね...!」
「鬼畜...悪魔...」
「そりゃステータスに差があるんだから仕方ないだろ。俺だってレベルはあげたいけど...この中のボスは俺がメインで戦ってみたいんだけどいいか?さすがに危険だろうしな。」
「うん...私.疲れた...」
「私も同じくです...譲ります...」
俺はその返事を聞いて少しうれしくなり二人にアイスを渡し休憩時間は煙草を吸って過ごした。
そして二人が回復したころに俺たちはボス部屋の扉を開けた。
ギギギとかなり古びていそうな音を上げながら扉が開く。
ボス部屋に雰囲気は通路の時とは違い中世のお城のような外観になっていた。
奥には王座のような椅子があり俺はそこに座る”ソレ”を認知したとき全身から血の気が引いた。
”ソレ”は少女のような見た目をしていた。見た目は中学生くらいの少女だ。
けど間違いなくソレは人間じゃない。見た目に騙されるなと俺の本能が全身に警鐘を出している。
「あれ?少女ですか?」
と、茜が不用心に発言をしたのを見て俺は叫ぶ。
「茜!!!避けろ!」
叫んだ瞬間茜の横を剣戟のようなものが通り過ぎていく。
地面は削れ風圧だけで茜と夏美は吹き飛ばされてしまう。
そしてその少女は喋り始める。
「ほう、私の攻撃を知覚し指示を出ししかも意識を失わないとはの...」
「お、お前は何者なんだ...?」
「私は見ての通りこのダンジョンのマスターじゃよ。わからんか?」
まじかよ...おかしいだろ...ボス部屋だけ難易度カンストしてんじゃねえか...
ハナ?聞こえるか?
「親切に答えてやったというのになぜ無視をするのじゃ?」
「い、いやすまない。そんなつもりじゃないんだ...」
俺は体の冷や汗が止まらない。それにハナの応答がない。なんでだ。この部屋のせいか?
「どれ、少し遊んでやろう。頑張って生き残るとよい、羽虫。」
少女がそういった瞬間俺の足元が少し熱くなる。俺はまずいと思いすぐにその場から離れる。避けた後すぐに俺の立っていた場所に火柱が上がる。それを見て少女は嬉しそうに、
「これも避けるとお主、黒のくせに感覚が鋭いの。珍しいタイプじゃな。」
「く、黒って何の話だ?」
少女は話しかけてくる間も攻撃をやめない。俺は弄ばれているようで俺が反応できるギリギリで魔法を使われているようで会話をする余裕が生まれた。
「む?お主も変なことを聞くの。」
少女はそういった後攻撃の手を止める。
俺は急なことに驚きながらも戸惑うようにその場にとどまる。
「お主...名は何という?」
「荒田 翔だ...」
「お主まさか人間か...?」
「まさかというか人間だけど...今は悪魔だけど...」
「はっはっは!なるほどの。そういうことか!」
き、急になんだ...怖いよ...
「お主称号はなんじゃ?」
「げ、原初の悪魔だ...」
「そうかそうか...あやつと同じか...運命じゃな...」
「な、何の話だ...?」
「いや、よい。最後に願いを聞いてやる。慎重に祈るとよい。」
少女がそう言った瞬間俺はその場で崩れ落ちる。何が起きたか理解出来ず足元を見ると俺の両足が無くなっていた。
「う、うわーーーーーーー!!!!!」
俺はあまりの痛みに叫んでしまう。この体になってからここまでの大ダメージを受けたのは俺が初めてだった。
俺の叫びを聞いて少女は煩わしそうに、
「うるさいのう...望みはないってことでよいのかの?」
「はぁはぁはぁ...」
「どうやら無いようじゃの。」
「お、俺は殺されるのか...?」
「あぁ、面白いから見逃してやろうと思ったが都合が変わってしもうてな。恨むならお主の運命を恨むとよい。」
俺は途切れそうな意識のなかマスターたちを見る。
あいつらだけでも生かさないと...
「望みは...マスターは...無傷で返してくれ...」
「ほう、殊勝なものじゃな。良かろう。無傷で返してやろう。」
「し、親切な...死神...だな...」
「ではな。」
少女を踏み潰すように俺の頭に足を置く。
そして俺は死んでしまった。