14話 選択と代償
そこから初めて避難所に来てから二日が経過した。
この二日間避難所にも定期的にモンスターが近くに来ていたが気配を感じた時点で俺がひっそりと処分していた。そのおかげかレベルも上がり魔術に対する理解度もかなり上がったと言える。
それと最近飛び方を覚えた。飛ぼうと意識すると勝手に背中から羽が生えてくるので上の服などは着ることができないが空を飛ぶのはかなり楽しい。
最初は魔力を消費することによる倦怠感が辛かったが今となっては歩くよりもかなり楽にはなった。
おそらく倦怠感に体が慣れただけだとは思うけど最近一人で動くときはずっと飛んで移動している。
そして俺と茜は夏美に呼ばれてショッピングモールの屋上に呼び出されていた。
おそらく決意がようやく固まったのだろう。それにしてもこの二日間大変だった。モンスターを狩れるのはありがたかったが施設内を歩くたびに「悪魔様」と声を掛けられ不貞を働いた高校生の男たちにはすれ違う度に睨まれ、夏美はなぜか俺のことは避けていく。なぜ俺だけこんなに嫌な思いをしなければならないのか...
屋上の扉は鍵などもかかっていなかったため特にノックなどもしないですぐに扉を開ける。
そこには屋上から地上を見下ろす夏美がいた。
「ごめんね夏美。待たせちゃった?」
「ん...大丈夫...ノワールもありがとう...来てくれて...」
「気にするな。」
茜は緊張したように夏美に尋ねる。
「どうするか決まった?」
「ん...けどその前に...二人に...質問しても...いい...?」
「どうしたの?」
「二人は...脱出したあと...どうするの...?」
「私はまだ決めてないかな...でもこのままここで現状維持しても意味ないと思ったの。それにあの男たちも信用できないから...この世界がある程度復旧するまで何とか生き残るつもり。」
「ん...ノワールは...?」
「俺は契約を完了したらダンジョンに行くだけだ。この世界がどうなろうとそれほど興味ないからな。せっかくこんな世界になったんだ。世界を見て回る。」
「ふーん...一緒には...居ないの...?」
「あぁあくまで契約満了までの間だ。」
それを聞いて茜は少し悲しそうに
「そ、そうですよね...」
とつぶやいていたが俺はあえて反応しない。
「契約したら...一緒に...居れるの...?」
「内容次第だ。」
夏美はその返事を聞いてしばらく考え込んだ後しゃべり始める。
「私...茜についてく...けどノワールもいないと...やだ...!」
「は?俺はずっと一緒にいるつもりはないぞ。」
「わかってる...だから契約...次は...私と...」
「だ、だめだよ!ノワールは私と契約してるんだから!」
こいつらはなぜ俺がどっちかと契約する前提で話を進めているんだ。
『その件ですが悪魔族は種族の特徴として契約をすると契約相手のスキルやステータスをお互いに反映されます。なので契約するとお得ではあります。また契約数はのちの種族進化の条件になりやすいので今のうちに契約の数を増やしておくべきだと思います。』
なるほどな。理解できた。
っと、その前にこいつらの言い合ってるのを止めないとな。
「おい、お前ら。喧嘩は一回やめて話を聞け。」
「私...スキル強い...それにノワールと相性...良い...」
「私が先に契約してるし私のほうが仲いいもん!このまま私と再契約のほうがいいよ!そうでしょ!ノワール!」
「あー、悪いんだがそもそもお前らどっちかって話じゃないんだ。そんなもめるなら二人ともまとめて契約してやる。その代わり契約内容なんかは俺が決めるぞ。」
「わ、わかりました。それでいいです...!」
「えろい...お願いは...無し...」
「そこは興味ないから安心しろ」
ハナ。契約のやり方はどうすりゃいいんだ?
『魔力を込め契約内容を唱え相手の体のどこかに触れ「この魔力に誓う」と宣言すれば契約できます。』
ふーん。なるほどな。少しこっぱずかしいがいいか。
「さて、それじゃまずマスターこっちに来てくれ。」
「は、はい...。」
俺は小声で耳打ちする。
「今回は本当に契約することになるけどどうする?」
「むしろお願いしたいです!」
「そ、そうか...なら行くぞ。」
そして俺は魔力を口に集めゆっくりと言葉を紡ぎ始める。
「俺は夏美をマスターと定め、マスターに害をなす存在がいるときは俺が守ろう。代償としてマスターは俺を裏切らないで誠実な心で俺と契約することを望む。いいな?」
「はい!ダイジョブです!」
「ではこの魔力に誓おう。お間を守ってやると。」
そういいながら俺は茜の左手を握る。すると、茜の左手に俺の魔力が流れて良き手の甲に独特な紋章が出来上がる。
『あなたは地球で初めて人間と契約しました。称号「契約した悪魔」を手に入れました。」
お、称号も手に入ったな。
「特に変な感じとかはないか?」
「は、はい...大丈夫です...契約ってこんな感じなんですね...」
すると夏美が茜に声をかける。
「契約...してたんじゃないの...?」
「あぁー、それは返答無しだ。悪いがお前にも今のをしてもらう。俺が触った個所に紋章ができるんだが同じく手の甲でいいか?」
「んー...目には...できないの...?」
「んと、目ってのは眼球のことか?」
「うん...」
ハナ、どうなんだ?
『出来なくはありません。ただし繊細で濃密な魔力が必要になるので口づけでの契約を推奨します。』
「ま、まじかよ...」
つい声が漏れてしまった。
「どうしたの...?ノワール...」
「あぁ、いやできなくはないんだが...あんま推奨はしないぞ?」
「どうするの...?」
「あぁー目の近くに口づけで俺が魔力操作して眼球に魔力を流してく感じだな。」
「うん...それでいい...」
「そ、そうかじゃあ契約するか...」
「俺は茜をマスターと定め、マスターに害をなす存在がいるときは俺が守ろう。代償としてマスターは俺を裏切らないで誠実な心で俺と契約することを望む。いいか?」
「ダメ...私も...守るから...」
「そうか。まぁその内容でいい。俺たちは互いに守りあうことをこの魔力に誓おう。」
俺はそう言いながら夏美の目元に口づけをする。
そして俺は流れた魔力を操作し目元に集中させていく。
すると夏美の右目の色が変わり白目は黒くなり黒目の部分は赤く変化し模様が刻まれた。
すると夏美は、
「私の...右目がうずく...」
と、変な発言をしていたが俺はそれを無視した。
『あなたは地球で初めて竜人族と契約しました。特殊スキル「ドラゴンブレス」を獲得しました。』
「え、お前人族じゃないのか!?」
「ん...なんでわかったの...?」
「いやほら、なんかスキルとかレベルアップしたときに声が聞こえるだろ?それだよ。」
「なるほど...うかつ...」
「ふ、二人で何の話してるの?」
そういいながら顔をひきつらせた茜が声をかけてくる。
「秘密...」
と夏美は悪い笑顔を浮かべそれに対して茜は
「なんでよー!教えてよ!!!」
と二人でイチャコラしている。
まぁ脅してはいたがこんな代償なら合ってないようなもんだろ。
それにしても脱出するならしっかりと潜伏先は決めておかないとな。
このまま平和な感じでことが進めばいいんだがな...