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イベント・春 (2025)

魔法使いの課題です




 魔法はごく限られた人のみ使える力と教わった。

(その他大勢の私には縁の遠い話よね)

 卒業式前の定期検査をぼんやりと私は受ける。

 

「陽性ですね。後天的に魔法の才能が開花しました」

「はい?」

「中学からは魔法学校の編入になります」

 突然のことに戸惑い(みな)から羨望(せんぼう)眼差(まなざ)しを受けた。

 

「魔法学校行っても私たちは友達だからね!」

 友人の言葉が私の胸に迫り、温かくしみていく。

 卒業式を終え、私は魔法学校に編入(へんにゅう)した。


 ☆  ☆  ☆  ☆  ☆


「編入生を紹介するわ。みんな仲良くしてね」

 魔法学校の先生に促され私は自己紹介をしていく。

 興味津々で見る子もいればそっぽ向く子もいた。

 

「編入ってことは魔法が使えるんだねおめでとう」

「そもそも編入自体が珍しいよな。何年ぶりだ?」

「外の世界の学校ってどんなことやってんの?」

 休み時間になると次々に質問が飛ぶ。

 

「編入生が来たぐらいでこの騒ぎ、まるで祭りだな」

「まーた委員長はそういうこと言う」

「委員長なの?あの人?」

 冷たい発言の人が委員長と聞き近くの人に尋ねる。

「そうよ。この学校は魔法の成績で役が決まるの」

「委員長は言い方キツいから気をつけとけよ」


「ということでテレポートは目印が必要な魔法です」

 魔法学校での授業が始まる。

(小学校の授業に魔法が入っただけの時間割よね)

 先生の話と授業をしっかりと聞く。

 その上で小学校とどう変わった点を探していた。

「こちらから向こうに行くのがテレポート」

 先生は魔法を使って教壇(きょうだん)の端から端へ移動する。

「向こうのものをこちらに呼び寄せるのがアポート」

 教卓の上にあった教科書が先生の手元に動く。

「こんな感じになります」

 

「今日は編入生もいるので基本のおさらいです」

 魔法の実技が始まり実技の先生が口を開く。

「このろうそくに魔法を使って火を灯しましょう」

 魔法を使う教室に移動した私たちに題が出される。


「えっいきなり?」

 (おどろ)く私の前でみんな次々に魔法を使う。

「なにをぼさっとしている、編入生」

 委員長が私に話しかけてきた。

「魔法を使うのは初めてだろう?ならちゃんと見ろ」

 キツい言い方で委員長は私に話す。

(現状なんの魔法を使ってるかさっぱりだよ)

 その状態で見て覚えろは(こく)な話と思う。

 みんな思い思いのやり方でろうそくを灯していく。

 

(っと私の番か)

「編入された方ですね。頭の中で火を思い浮かべて」

 実技の先生の指導が始まる。

「しっかりと思い浮かびましたか?」

 先生の質問に元気よく答えた。


「ならそれを外に出すのをイメージしましょう」

 それが魔法と教わり私はその通りに手をかざす。

 ろうそくに向け先生と同じ魔法の言葉を(つむ)ぐ。

 

(あれ?)

 ろうそくは静かにたたずんでいた。

 何度も同じことを繰り返す。

 結果は同じだった。

「んーまあ明日までにできていれば良いですよ」


 ☆  ★  ☆  ★  ☆


「火の思い浮かべ方が弱いと思う」

「外に出すときちゃんとイメージしてる?」

「これ本当に魔法の初歩の初歩だぜ?」

 授業後クラスメイトが次々にヒントを口を出す。


「まさかここまでとは……」 

「今更基礎のおさらいかあ」

「進学したんだから新しいことやりたかった」


 だんだんイライラしてきた。

「ストップ。そこまでだ」

 委員長が割って入ると次第に静かになっていく。

「事実を陳列(ちんれつ)すると名誉棄損になるぞ」

(え?そっち?)

 私のためだと思っていた。

「いじめはPT(心的外傷後)SD(ストレス障害)にもなる。気をつけろ」


(みんなのためなわけね……)

 疎外感(そがいかん)を感じた私は一人居残りを決意する。

 

「なんで委員長がいるのよ!?」

「先生に頼まれた」

 私の質問に委員長が手短に話す。

「そうだ!委員長の魔法の使い方を教えてよ」

「断る」

 (わら)にも(すが)る私の提案を委員長は一蹴(いっしゅう)する。

 

「なんか理由あるの!?」

「俺のは特殊だ。みんなや授業を参考にしろ」

「はいはいそーですか。わかりました」

 返事もおざなりに授業とアドバイスを復唱する。

 そしてひたすら魔法を使い続けた。


 ★  ☆  ★  ☆  ★


「あーもー!」

 もういくど試しただろう。

 何度やってもやり方を変えても結果は同じだった。

「火さえつけば!火さえつけばなんとかなるのに!」

「……火がつけばいいのか?」

 思いのたけをぶちまけた私に委員長が聞いてくる。

 

「そうよ!魔法で火をつけるのが課題だもん!」

「正確には()()()使()()()火をつける、だ」

 ()げ足を取られ私のイライラはさらに増していく。

「だからそれが問題なんでしょう!」

 私の言葉を聞いて委員長は大きく息を吐いた。

「わかった」

 委員長はそう言ってパチンと指を鳴らす。

「これで火はつくぞ」


「ホント!ありがとう委員長!」

 満面の笑みを浮かべて私はお礼を言う。

「時間が惜しい。試してみろ」

 委員長は少し顔を赤らめつっけんどんに言い返す。

「ようし――って委員長!?」

 私のすぐ近くに委員長がきた。

「いいから早く」

 なにかあるのだろうかと思いながら魔法を紡ぐ。

 

 シュボっと音がした。

 見ると灯台から離れたところに火はついていた。

「やった!成功よ――ってわわ!」

 あろうことか火は教室全体に燃え広がっていく。

「ちょっ!」

 委員長が急に私を抱き寄せる。

「な、な、なにを――」

「舌を()むぞ」

 委員長はそういうと周囲に薄い膜をはった。

 火は私たちを避けてあたりを覆いつくす。

「これは?」

「この教室は失敗した魔法を散らす」

「さっきの指鳴らしはその魔法を消すため?」

「ああ」

 そう答えると委員長は魔法を唱えだす。


(心臓の音が大きすぎて聞きそびれる……)

 私か委員長かの心臓の音が大きく聞こえる。

 シュボっと音が聞こえ委員長は抱きしめをとく。

 

「どうなったの?火は?」

「あたりを真空にして消した」

 私の問いかけに委員長は淡々と答える。

「これで魔法は使えるって分かったな」

 まだドキドキする私の横で委員長は言った。

 

「なんでこんな危険(きけん)なことすんのよ!」

「これが俺の教わったやり方だ」

 平静さを(よそお)う私に委員長は静かに答えた。

 

「うちは由緒(ゆいしょ)正しい魔法使いの一族でな」

「その教え方がこれ?」

「ああ。身体で覚えるやり方だ」

「まるで昔の自転車の乗り方ね……」

「ん?今はストライダーがあるだろう?」


 委員長の言葉に私は頭を抱える。

「ストライダーの前は体で覚えるやり方だったの」

 私は歴史を説明する。

「朝言ってたPTSDもそう!」

「PTSDと自転車になんの関係が?」

「技術の進歩の話!今はちゃんと治療できるの!」

 兄さんが言っていたことを思い出す。

 

『ねえ兄さんPSTDって治るの?』

『今はDec(神経に関する)Nef(反応の解読)法があるからね』

『なにそれ?』

『DecNef法は怖さを楽しさで上書きするんだ』

『機械と人工知能で記憶まで変えれるのね!』

 

 私が話し終えると委員長は立ち尽くしていた。


「もはやどっちが魔法なんだか……」

 委員長はようやく言葉を発する。

 うれしさ半分さみしさ半分な様子が感じ取れた。

「さて、どうする?」

 そろそろ日も()れなずむ時間になる。

「うーん。そうねえ」

「魔法が使えることはわかったろ?あとは考えろ」

 委員長という人がつかめてきた。

(昔と今の境界(きょうかい)にいるのね、委員長は)

 だから自分にも他人にも(きび)しいと思う。

「そうね。時間も時間だしエスコートしてくれる?」

「今日だけだぞ」

(ほらなんだかんだでやさしい)

 言い方がキツいだけの人と私は結論づけた。

「テストは自分の力だけで乗り越えろ」


 ★  ★  ★  ★  ★


 あくる日、魔法の実習の時間に迎える。

 

「さて、魔法を使って火はつけられましたか?」

「はい。大丈夫です」

 自信を持った私の答えに周囲がどよめく。

 

「では見せてください」

「行きます!アポート!」

 私は昨日の授業で学んだ魔法を(つむ)ぐ。

 取り寄せた道具に火をつける。

 その火をろうそくへ(うつ)す。

 

「これでどうですか?」

「はい。正解です。よくできました」

 先生は私に微笑(ほほえ)んで話してくれた。


「先生、これってありなの?」

「ありですよ。()()()使()()()ですから」

 クラスメイトの質問に先生は答える。

「あー確かに魔法使って火をつけてるわ」

 魔法で火をつけるものだろと、議論(ぎろん)が飛び()う。

「みんないろいろやってたのは私に教えるため?」

 ざわつく中、私は(となり)の子に聞いてみた。

「それもあるし得意なやり方でいいのよ。土とかね」

「土で?どうやるの?」

「地熱とか火打石とか」

 みんないろいろ創育工夫を重ねている。

(うん!なんとかやっていけそうね。これからも)

「静かに!火はついた!それでいいだろ!」

 委員長が(さわ)いでる子たちに向かって言う。

「早く授業に入ろうって言ってるね、あれは」

「え?委員長の言ってる意味わかるの!?」

「だいたいこんな感じかなって」

「なら委員長語の翻訳(ほんやく)、お願いできる?」

「うんいいよ」

 前の子から急に話しかけられてびっくりした。


(受け入れてくれたんだよね、これは)

 そう思うとうれしい気持ちがこみあげてくる。

「これからよろしくね!」

 私は新しい友人たちに(あらた)めて声をかけた。


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