魔法使いの課題です
魔法はごく限られた人のみ使える力と教わった。
(その他大勢の私には縁の遠い話よね)
卒業式前の定期検査をぼんやりと私は受ける。
「陽性ですね。後天的に魔法の才能が開花しました」
「はい?」
「中学からは魔法学校の編入になります」
突然のことに戸惑い皆から羨望の眼差しを受けた。
「魔法学校行っても私たちは友達だからね!」
友人の言葉が私の胸に迫り、温かくしみていく。
卒業式を終え、私は魔法学校に編入した。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「編入生を紹介するわ。みんな仲良くしてね」
魔法学校の先生に促され私は自己紹介をしていく。
興味津々で見る子もいればそっぽ向く子もいた。
「編入ってことは魔法が使えるんだねおめでとう」
「そもそも編入自体が珍しいよな。何年ぶりだ?」
「外の世界の学校ってどんなことやってんの?」
休み時間になると次々に質問が飛ぶ。
「編入生が来たぐらいでこの騒ぎ、まるで祭りだな」
「まーた委員長はそういうこと言う」
「委員長なの?あの人?」
冷たい発言の人が委員長と聞き近くの人に尋ねる。
「そうよ。この学校は魔法の成績で役が決まるの」
「委員長は言い方キツいから気をつけとけよ」
「ということでテレポートは目印が必要な魔法です」
魔法学校での授業が始まる。
(小学校の授業に魔法が入っただけの時間割よね)
先生の話と授業をしっかりと聞く。
その上で小学校とどう変わった点を探していた。
「こちらから向こうに行くのがテレポート」
先生は魔法を使って教壇の端から端へ移動する。
「向こうのものをこちらに呼び寄せるのがアポート」
教卓の上にあった教科書が先生の手元に動く。
「こんな感じになります」
「今日は編入生もいるので基本のおさらいです」
魔法の実技が始まり実技の先生が口を開く。
「このろうそくに魔法を使って火を灯しましょう」
魔法を使う教室に移動した私たちに題が出される。
「えっいきなり?」
驚く私の前でみんな次々に魔法を使う。
「なにをぼさっとしている、編入生」
委員長が私に話しかけてきた。
「魔法を使うのは初めてだろう?ならちゃんと見ろ」
キツい言い方で委員長は私に話す。
(現状なんの魔法を使ってるかさっぱりだよ)
その状態で見て覚えろは酷な話と思う。
みんな思い思いのやり方でろうそくを灯していく。
(っと私の番か)
「編入された方ですね。頭の中で火を思い浮かべて」
実技の先生の指導が始まる。
「しっかりと思い浮かびましたか?」
先生の質問に元気よく答えた。
「ならそれを外に出すのをイメージしましょう」
それが魔法と教わり私はその通りに手をかざす。
ろうそくに向け先生と同じ魔法の言葉を紡ぐ。
(あれ?)
ろうそくは静かにたたずんでいた。
何度も同じことを繰り返す。
結果は同じだった。
「んーまあ明日までにできていれば良いですよ」
☆ ★ ☆ ★ ☆
「火の思い浮かべ方が弱いと思う」
「外に出すときちゃんとイメージしてる?」
「これ本当に魔法の初歩の初歩だぜ?」
授業後クラスメイトが次々にヒントを口を出す。
「まさかここまでとは……」
「今更基礎のおさらいかあ」
「進学したんだから新しいことやりたかった」
だんだんイライラしてきた。
「ストップ。そこまでだ」
委員長が割って入ると次第に静かになっていく。
「事実を陳列すると名誉棄損になるぞ」
(え?そっち?)
私のためだと思っていた。
「いじめはPTSDにもなる。気をつけろ」
(みんなのためなわけね……)
疎外感を感じた私は一人居残りを決意する。
「なんで委員長がいるのよ!?」
「先生に頼まれた」
私の質問に委員長が手短に話す。
「そうだ!委員長の魔法の使い方を教えてよ」
「断る」
藁にも縋る私の提案を委員長は一蹴する。
「なんか理由あるの!?」
「俺のは特殊だ。みんなや授業を参考にしろ」
「はいはいそーですか。わかりました」
返事もおざなりに授業とアドバイスを復唱する。
そしてひたすら魔法を使い続けた。
★ ☆ ★ ☆ ★
「あーもー!」
もういくど試しただろう。
何度やってもやり方を変えても結果は同じだった。
「火さえつけば!火さえつけばなんとかなるのに!」
「……火がつけばいいのか?」
思いのたけをぶちまけた私に委員長が聞いてくる。
「そうよ!魔法で火をつけるのが課題だもん!」
「正確には魔法を使って火をつける、だ」
揚げ足を取られ私のイライラはさらに増していく。
「だからそれが問題なんでしょう!」
私の言葉を聞いて委員長は大きく息を吐いた。
「わかった」
委員長はそう言ってパチンと指を鳴らす。
「これで火はつくぞ」
「ホント!ありがとう委員長!」
満面の笑みを浮かべて私はお礼を言う。
「時間が惜しい。試してみろ」
委員長は少し顔を赤らめつっけんどんに言い返す。
「ようし――って委員長!?」
私のすぐ近くに委員長がきた。
「いいから早く」
なにかあるのだろうかと思いながら魔法を紡ぐ。
シュボっと音がした。
見ると灯台から離れたところに火はついていた。
「やった!成功よ――ってわわ!」
あろうことか火は教室全体に燃え広がっていく。
「ちょっ!」
委員長が急に私を抱き寄せる。
「な、な、なにを――」
「舌を噛むぞ」
委員長はそういうと周囲に薄い膜をはった。
火は私たちを避けてあたりを覆いつくす。
「これは?」
「この教室は失敗した魔法を散らす」
「さっきの指鳴らしはその魔法を消すため?」
「ああ」
そう答えると委員長は魔法を唱えだす。
(心臓の音が大きすぎて聞きそびれる……)
私か委員長かの心臓の音が大きく聞こえる。
シュボっと音が聞こえ委員長は抱きしめをとく。
「どうなったの?火は?」
「あたりを真空にして消した」
私の問いかけに委員長は淡々と答える。
「これで魔法は使えるって分かったな」
まだドキドキする私の横で委員長は言った。
「なんでこんな危険なことすんのよ!」
「これが俺の教わったやり方だ」
平静さを装う私に委員長は静かに答えた。
「うちは由緒正しい魔法使いの一族でな」
「その教え方がこれ?」
「ああ。身体で覚えるやり方だ」
「まるで昔の自転車の乗り方ね……」
「ん?今はストライダーがあるだろう?」
委員長の言葉に私は頭を抱える。
「ストライダーの前は体で覚えるやり方だったの」
私は歴史を説明する。
「朝言ってたPTSDもそう!」
「PTSDと自転車になんの関係が?」
「技術の進歩の話!今はちゃんと治療できるの!」
兄さんが言っていたことを思い出す。
『ねえ兄さんPSTDって治るの?』
『今はDecNef法があるからね』
『なにそれ?』
『DecNef法は怖さを楽しさで上書きするんだ』
『機械と人工知能で記憶まで変えれるのね!』
私が話し終えると委員長は立ち尽くしていた。
「もはやどっちが魔法なんだか……」
委員長はようやく言葉を発する。
うれしさ半分さみしさ半分な様子が感じ取れた。
「さて、どうする?」
そろそろ日も暮れなずむ時間になる。
「うーん。そうねえ」
「魔法が使えることはわかったろ?あとは考えろ」
委員長という人がつかめてきた。
(昔と今の境界にいるのね、委員長は)
だから自分にも他人にも厳しいと思う。
「そうね。時間も時間だしエスコートしてくれる?」
「今日だけだぞ」
(ほらなんだかんだでやさしい)
言い方がキツいだけの人と私は結論づけた。
「テストは自分の力だけで乗り越えろ」
★ ★ ★ ★ ★
あくる日、魔法の実習の時間に迎える。
「さて、魔法を使って火はつけられましたか?」
「はい。大丈夫です」
自信を持った私の答えに周囲がどよめく。
「では見せてください」
「行きます!アポート!」
私は昨日の授業で学んだ魔法を紡ぐ。
取り寄せた道具に火をつける。
その火をろうそくへ移す。
「これでどうですか?」
「はい。正解です。よくできました」
先生は私に微笑んで話してくれた。
「先生、これってありなの?」
「ありですよ。魔法を使ってですから」
クラスメイトの質問に先生は答える。
「あー確かに魔法使って火をつけてるわ」
魔法で火をつけるものだろと、議論が飛び交う。
「みんないろいろやってたのは私に教えるため?」
ざわつく中、私は隣の子に聞いてみた。
「それもあるし得意なやり方でいいのよ。土とかね」
「土で?どうやるの?」
「地熱とか火打石とか」
みんないろいろ創育工夫を重ねている。
(うん!なんとかやっていけそうね。これからも)
「静かに!火はついた!それでいいだろ!」
委員長が騒いでる子たちに向かって言う。
「早く授業に入ろうって言ってるね、あれは」
「え?委員長の言ってる意味わかるの!?」
「だいたいこんな感じかなって」
「なら委員長語の翻訳、お願いできる?」
「うんいいよ」
前の子から急に話しかけられてびっくりした。
(受け入れてくれたんだよね、これは)
そう思うとうれしい気持ちがこみあげてくる。
「これからよろしくね!」
私は新しい友人たちに改めて声をかけた。