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ヒーローと正義と現実

作者: 蒼井椿

 ただ声さえ聞こえれば戦っていける。


「待ていぃ!!!」

 地の底から響き渡る声。今眼前にいる自分の悪に向かい動きを束縛させるために、自分がここにいると証明させるために叫ぶ。

「そこまでだ! これ以上お前たちの好きにはさせん!!」

 この世にいるはずのない容姿をした怪人。ただ人々の『恐怖』という感情に喜びを見出し自分を満足させるがために襲いかかる悪。

 そんな悪を俺は許せない。人々のかけがえのない笑顔や喜びを奪う奴らを俺はけして許しはしない!

「この俺が世界に存在する限り貴様らの思い通りにはさせん!!」

 そう、俺は正義の味方。弱気を助け、強気を挫く。人々の笑顔のため、守るべき者達を救うために俺は持てる力を使い悪を滅するのだ!!


「貴様……本当に自分が正義だと思っているのか?」

 ライバルとも言える敵の幹部にそう問われた時もあった。

「なに?」

「確かに我らはこの星に住む者の恐怖を求め行動をしている。ああ、求め得ることが至福のことであるからな。我らの幸せということだ」

 自分たちの行為がなにも間違っていないかのようにうっとり満足した顔を俺に向けて言ってきたことを思い出す。本当になにも迷いの無い笑顔だった。

「しかしだ。我らの幸せを奪おうとするお前は悪ではない。そう言い切れるか?」

「なにを言っている。俺の守りたいもの、守るべき笑顔のため俺は正義としてここに存在するんだ!」

「そこだ」

「なに!?」

 やつは俺が間違っていると言った。俺の今まで戦ってきたこと全てを否定しようとしたのだ。

「貴様が倒してきた我らの同胞、仲間。それを悲しむ我らの光景を思い浮かべたことがあるか?」

「しれたことを! 貴様らがやってきた行い、それを許すわけにはいかない。当然の報いではないか!」

 くっくっく。と、俺をバカにするように笑う奴。

「そうか。当然の報い……か。ならば貴様が死ぬのも我らにとって当然の報いであっているのだな?」

「なに?」

「そうであろう!我らの幸せ、仲間を消し去るお前の行為。許すわけにはいかない! それは憎しみ! それは憎悪!! 我らの正義は貴様の悪!! その信じる正義が必ずしも正しいと思うなかれ!!」

「!!」

 正義とは……? 悪……。

 俺の今までしてきたことは本当に正義だったのか。俺は本当に信じて戦ってきたのだろうか。奴の言葉が嫌に心に引っかかる。

 それでも俺は戦い続けた。奴の言葉を思い出し迷う時もあった。だが、それで止まっているわけにもいかない。俺には守らなければならない人たちがいるのだから!

 そう信じて俺は戦っていけた。あの日守るべきものからの一言を聞くまでは。


「いつ守ってくれって言ったの?」

 それはいつものように笑顔を奪おうとする者から人々を守ったある日のこと。

「なに?」

「どうして私たちのことを見てくれないの? あなたの行為はまるでひとりよがりよ」

 少女は俺のしてきたことに疑問を持っていたようだ。

 守ってくれたのになにを言い出すんだ。正直俺はその言葉を聞いたときに苛立を覚えた。

「見て……って。俺は君たちの命を、笑顔を守るためにただ戦っただけだ」

「それがひとりよがりっていうのよ」

「なに……」

「あなたが傷つくところを見たくない。あなた一人にみんなを守らせたくない。私たちだって戦いたい……なんて言うつもりはないわ。だって私は……私たちは弱いもの。なにも特別な力を持っているわけでもない。闘うための武器を持っているわけでもない。あなたみたいな特別な人間に任せるしか出来ない。他力本願ですから」

 顔をうつむかせたまま苦しそうに少女はつぶやく。

 無力だということに負い目があるらしい。いや、少女だけじゃない。俺が守ろうとしている者皆そう思っているようだ。

「仕方ないじゃないか。俺には奴らを倒す力を持っている。この力で君たちを守れる」

 最初からこの力を求めていたわけじゃない。こんな力欲しかったわけじゃない!

 何度そう思っただろうか。俺だって好きでやってるわけじゃない。命の危険だってある。いつ死んでしまうか怖いなんて考え恐怖してしまう夜だってある。

 だが、だがしかし。

「君たちの笑顔さえ見られれば俺は満足なんだ。それだけで戦っていける。やつらを倒せる。君たちの幸せを守れる。それが俺の幸せなんだ」

 そう。誰かの幸せを守るというのが俺の闘う理由。生き甲斐でもあるのだ。

「なにもわかってない。本当になにもわかっていない」

「え?」

「まだあの怪人たちの方がマシだわ」

 俺の決意に呆れた顔で奴らの方がマシだと少女は言った。

「どういう意味だ?」

「あなたには自分が無いのよ」

 自分が無い?

「誰かのためにって行動がまさにそう。他人に理由をつけて彼らを悪と言って戦っている。そう、偽善ってやつね」

「偽善」

「言ったでしょ。いつ守ってくれと言ったのって。私は一度もそんなことは言ってない。あなたには一度も求めてない。そんな自分勝手な行為は迷惑だわ」

 守るべきものからの拒絶。それが今まで受けてきた傷の中で一番深く、そして心に響いた。

「怪人たちの方がマシ。そう、彼らはいつだって自分自信の欲求のために動いてきたわ。確かに組織のためにと言って襲ってくるやつだっていた。けれど、ほとんどが自分の内なる欲求、満足のために人々を襲ってきた。誰のためでも無い自分の願いを叶えるために力を振舞ってきた」

「それは悪ではないか! そうやって誰かを悲しませて喜びを得る。それこそ間違いではないのか?」

 たとえ自分勝手と言われようが誰かが悲しんでいるところを見過ごすわけにはいかない。守るべき力があるのだからそれを使うことが間違いなどと思うわけにはいかない!

「その先に……」

「ん?」

「その先に待つのは一体なんでしょうね」

「その先……?」

 意味深なことを言い少女は去っていった。

 その先とは?戦いの先?俺のやってきたことの結果?


 ただ戦っていればそれでいいと思っていた。

 目の前に敵がいて、誰かが悲しんでいて、それを倒す力があって、助けた後の笑顔を見るのが幸せで。

「自分勝手……か」

 奴らも消耗してきたのだろう。激しくなる侵略。死に物狂いで挑んでくる怪人たち。次々と現れる幹部たち。

 迷いを持ったまま闘うのは危険なことだと承知しているが、振り切ることもできないほど奴らは現れてくる。倒しても倒しても次らから次へと現れ考える暇も与えてくれない。

「邪魔だ!!!」

 今日もまた一匹の怪人を倒す。

「はあ、はあ、はあ……」

 いつもなら昂ぶる心が開放されて心地よく感じるのだが、今日に限ってそうはならない。

「足りない……なにか物足りないんだ……」

 闘うことを求めているのか?自分がやってきていることに疑問があるのか?なぜ、どうして心は落ち着いてくれない。

 空を見上げ心を落ち着かせようとする。

 そこには澄み渡る青空と、この星をまぶしく照らす太陽があった。

「まぶしいな……」

 その輝きに目を細めてしまう。見つめ続けることが出来ない。あまりの眩しさに自分の存在を疑ってしまう。

「これで……いいのか」

 きっとあと少しで戦いは終わるだろう。なぜかそんな予感がする。

 そうすれば俺は開放されもう二度と闘うことがない平和な日常を送れるだろう。

「平和……」

 あたりを見渡す。

 戦いの後に残った瓦礫の山。所々破損したビル。折れ曲がってもう動くことの無い信号機。窓ガラスが割れ見るも無残な車たち。

「これが俺のやってきたこと……」

 今まで気にかけてこなかった風景。敵さえ倒せばそれで終り。後の事なんて考えないで力の限り戦ってきた代償。

「これが俺の正義……」

 遠くから救急車の音が聞こえる。怪人たちの攻撃によって怪我をした人を運んでいるのだろう。

 いつも思う。誰も死ななくてよかった……と。

「死ななければそれでいいのか?怪我をした人の心配をしていないのか?」

 そんなことはない。と、頭に浮かんだ考えを否定する。

 怪我すらさせてはいけないのだ。守ると言うのは心だけじゃない。体だって守らなければならないはずだ。そう、ある意味では街すら守らなければならない。

 建物が壊れれば仕事場が失われる。車が壊れれば移動手段が失われる。

 守るというのはそういうことだ。そうわかっていたはずなのに……

「俺は……なにをしている?」

 それが現状。それが結果

 俺のしてきた正義とは、守るという行為は正しいのか?

「俺は……おれ……は」

 わからない。なにを信じ、なんのために戦えばいいのかわからなくなってきた。

 この戦いの先になにがあるのか……

「わかったか貴様がしてきたことの意味が!!」

「!!」

 突然頭上から叫びが聞こえてくる。

「貴様は!!」

 下げた頭をよく聞いた憎き声の主へと向ける。

「なにが守るだ。なにが正義だ! 結局は犠牲にならなくてはならないものがあるではないか!!」

 空に浮かび仁王立ちする奴が俺を責める。

「貴様が守りたかったものはなんだ!? 人か? 街か? 命か? 笑顔か? 答えよ!!」

「俺が……俺が守りたかったもの」

「もしやなにも犠牲が無いままこの戦いを終えることができるなどと夢想したわけじゃなかろうな? そこまで堕ちたまま戦ってきわけじゃないだろうな?」

「………………」

「その沈黙は肯定と受けよう。そうか、貴様の守ろうとしたのは全てと言うわけか」

 ふんっと一笑される。

「これは滑稽だな。今まで戦ってきた中でなにを見てきたのだろうかな。それを今初めて見て考えたときたか。滑稽も滑稽。笑いが止まらんな」

「うるさい!! 貴様になにがわかる!」

「ふっ、なにもわからぬさ。そうやって自分の行いの罪を認めない者の考えなどな!」

 いつのまにか奴は俺の目の前へと近づいてきた。

「貴様、自分を正義だと言ったな」

「ああ、それのなにが悪い?」

「大方守るべきものに言われた言葉が貴様の正義に迷いを与えたのだろうな」

「なに?」

「誰かのためにという行為は必ずしも正しいわけじゃない。相手にとっては迷惑極まりないことだということもある」

「!!」

「ふっ、図星か。そんなところだと思ったわ」

 なぜ奴は俺の悩みがわかる?敵であるはずのやつがなぜ……。

「そのような悩み一笑してくれるわ!」

 突然顔に衝撃が走る。これが殴られたとわかったのは衝撃で壁にぶつかってしばらくした後のことだ。

「がはっ!!」

「軟弱だな。初めてあった時のお前だったらこの程度避けれただろうに」

 つまらなそうに言い俺に背を向け立ち去ろうとする。

「ま、待て……」

 俺は奴に聞かなければならない。もしかしたら……奴になら俺の悩みの答えを出してくれるのかもとその時俺は思った。

「お前は……なんのために闘う?」

 俺の言葉に奴は歩みを止める。

 笑われるか、もう一度殴られるか。

 言ってから自分の言葉に恥を知る。なぜ敵に答えを求めてしまったのだろうか。戦わなければならない奴になぜ……。

「笑顔のためだ」

 しかし、律儀にも奴は俺の問に答えを言った。

「笑顔……?」

「俺が戦い成果を挙げるとあの人は笑う。俺が苦しい時にあいつらは『頑張れ』と応援してくれる。皆が俺に期待してくれる。それに俺は喜びを感じまた戦える」

「それは……」

 それは俺が考えていたこと。感じていたことではないか。

「偽善だというか?他人のためという行為が俺にとっては満足だ。それを貴様は偽善だと言うか?」

 言えない……そんなことを言ってしまっては自分を否定してしまうからだ。

「確かに求められたものじゃない。後でできた理由だ。戦った先に出た答え。最初はただ戦えればよかった。あの人のためにこの身が犠牲になっても構わないと思った」

 奴は俺から視線を外し空を見上げる。

「だがな、ある時俺を応援してくれる奴が現れた。俺が貴様と闘う所を見たあいつは『負けるな』と俺に言った。『頑張れ』とな」

「応援してくれる人ががいるだと?」

「そうだ。俺が戦い成果上げれば喜び笑ってくれる。確かに犠牲になるものがいる。仕方ないという部分もある。俺自身それを許すわけにはいかなかった。忘れることなど出来なかった」

 何人もの同胞を失ったのだろう。俺が奴の仲間を倒したのだから。

「挫けそうになった。犠牲になった奴など忘れてしまえと主に言われたこともあった。その優しさがいずれ身を滅ぼすと忠告してくれたこともあった」

「それなのになぜ?」

「なぜ? それでもだからだ。そこで終わってしまっては皆に申し訳が立たない。別に俺が戦わなくても誰かがやってくれることだろう。しかし、俺自身が許せないのだ。俺が戦わなければ俺に向けた笑顔すら嘘になってしまうのだ! 俺はそれが怖い……」

 敵であるはずの奴の言葉になぜか他人事じゃない気がして仕方なかった。

「だからその期待に答えるためにも俺は闘う! その先のことなど知らぬ。ただ誰かの期待に答えるために。ただお前と本気で最後まで戦い勝利するために!!」

「それがお前の……」

「そう。俺の闘う理由だ」

 なぜだろうか。やつのきっぱり言ったその姿は太陽のように輝かしく、まぶしく、俺なんかよりもよほど正義をしているように見えた。

「それがお前の正義……」

「そう、これが俺の正義だ」

 奴の正義……俺にとっては悪だというのに、俺自身が悪のように感じてしまう。

「誰かのためにという行為が必ずしも正義ではない。しかし!!」

 ビシッ! と俺に指を指す。

「たとえどんなに犠牲を払おうと、自分が行ってきた事の罪を忘れず抱え、それでも……と戦い続け、自分自身が守ろうと思ったものを守り通す。自分を信じてくれる人のために、自分を信じ嘘にならないために闘う。そこにある笑顔のために闘う」

「それが……」

「それが正義ではないのか!!!」

「!!!!」

 俺は……

「俺はなにを迷っていたんだ……」

 そうだ。俺はそこにある笑顔のために戦ってきたんだ……

 そうだ。守るべきものがあると自分に言い聞かせ守るために戦ってきたんだ……

 それが……それが……

「俺の正義!!」

 奴の言葉に俺の心は熱くなった。

 さっきまで感じていた黒い熱さじゃない。目標を定め、自分がやるべき事が決まり、なんと言われようとも自分を信じてくれた者のために。自分のために!!

「結局は全て自己満足だ。だが、そうであろうとも自分を貫き通す。そうしたものが正義だ!! そこに悪なんてないのだ!!!」

「俺は……俺は……」

「さあ、貴様の敵はなんだ!?」

 俺の敵……そう、それは。

「俺の守りたいものを脅かす貴様らだ!!」

 なにも悩む必要なんてなかった。やるべき事は一つしかなかった。たとえ偽善と言われようとも、俺は俺のやれることを精一杯やる。それしか出来ないんだ。

「ほう、言ったな?」

「あの時見た笑顔を忘れない。あの時感じた幸せを俺はなくさない。あの時失った者を俺は忘れたくない。あの時言った俺の……俺の決意を嘘にしない!!」

 だから、だから!

「俺は闘う!! 貴様らが俺の守ろうとするものを襲うのならば全て倒してやる!!」

「その結果失うもの、犠牲になってしまう物があったらどうするつもりだ?」

「直せるものなら後に直せばいい。傷つけてしまったのならその罪を忘れず罪滅ぼしをする!!」

「自分勝手だな」

「かまうもんか! 全ては目の前の驚異を退けた後で考える。今出来ることを俺はするまで!!」


 もう迷わない。俺は俺の出来ることをする。あの時少女に言われた言葉は今の残っている。けれど迷ってはいられない。誰にも出来ないのなら俺がするまで。この自分勝手を貫き通し必ず罪を償おう。

 俺は目の前にいる敵に向かい宣言する。


「それが俺の正義だ!!」

ただ勢いで書きました。ヒーローだって完全無欠の人間じゃないんだってところを見せたかった。さて何回『正義』って言葉が出てきたでしょうかね。というかこれジャンルなんだろう……

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