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9.ハロウィンの刺客

 「あれから、何か進展はあったかい?」

 マスターがコーヒーを淹れながら聞く。瑠璃は顔を横に振った。夏頃に入って以降、ショーウインドウの中には入れていない。季節は秋に変わり、ショーウインドウの中の飾りつけも変わった。もうすぐハロウィンも近づいてきているというのに。瑠璃はコーヒーカップを両手で包みながら、真っ黒な液面を眺めた。液面には少し不安げな顔をした自分が映っていた。

 「…なんか、姫にアドバイスするのも悩んでしまって。こっちの世界の彼と、ショーウインドウの中の彼は別なのかなって考えると、告白を断るよう勧めるのもおかしいように思えたので、やめてしまいました。なんか良い感じみたいで変に心配させるのも…。でも…もし姫が騙されてたらと思うとなんとも言えなくて…。あのマネキンも因縁の相手的な意味で飾ってるのかな、なんて考え方をしちゃうといよいよ分からなくなってきて…。姫が心配で不安です。」

 はあ…と重い溜息が出る。今日は祝日だが、喫茶店は珍しくお客さんが少なかった。困った顔の彼女を見て、マスターはテーブルの上に一枚の写真を出した。見たことのない顔だ。珍しい帽子を被っている若い男性で、少し口角があがっている。髪は金髪で、外国人のようだ。不思議な顔で瑠璃が見ていると、マスターが説明し始めた。

 「先日、息子からこの写真が送られてきてね。当時のショーウインドウのデザイナーだった人らしい。まさか、海外の方だったとは。ついでにショーウインドウの店の店長も私の知り合いでね。尋ねてみたが、そっちからも少し情報を得られたよ。」

 「今この人はどこに…。」

 マスターは静かに首を横に振った。

 「数年前、亡くなったそうだ。最後のショーウインドウの飾りつけが、あの白い服の二着のやつだったらしい。君が着ていたという白いドレスが、何も飾りつけが無い理由が分かったよ。王子服は装飾が間に合ったけど、君のドレスは間に合わなかったらしい。なんとか真っ白なドレス生地を作って、あとは装飾のみという時に亡くなったそうだ。向かいの店の店主は最後の作品として敬意を払い、彼の遺言通り未完成のままショーウインドウに彼の作品を展示したそうだよ。」

 「そうだったんですか。」

 だからもしかすると、あの世界を作ったのは亡くなった彼なのかもしれないとマスターは言った。なんとも不思議な話だがねとつぶやき、近くの従業員にコーヒーカップを手渡す。瑠璃はもう一度写真をよく見た。青い目で、金色の短髪。年齢は自分と同じくらいだ。国籍はどこだろうなんて考えていると、ポタッ…ポタッ…と、コーヒーのドリップ音が耳に響いてきた。

 「ご馳走様でした、マスター。この写真貰っても良いですか?」

 「全然かまわないよ。またおいで。」

 軽快なベルの音と共に喫茶店を出る。ついでに会社のオフィスに立ち寄り、昨夜緊急で頼まれた仕事をこなす。そんなに時間もかからずに済んだので、後はショーウインドウの前を通って家に帰ることにした。もう秋も半ば。通りを歩く人の服装も長袖になってきている。空気も乾いてきて、風が冷たくなってきた。街路樹からは綺麗な紅葉が落ち始めている。ショーウインドウの中の飾りつけはハロウィンになっていた。かぼちゃが置かれ、背景の夜空には怪しげな三日月が浮かんでいる。マネキンには小悪魔風の衣装や、ドラキュラの服が飾られていた。そっとガラスに触れてみる。腕時計へと目を移すと、あと数分でベルが鳴るのが分かった。


 「見つけたわよ。」

 突然横から声をかけられた。驚いた彼女が横を向くと、ふわふわとした長い茶髪の女性が立っていた。年齢は同じくらいだろうか。自分より身長は少し低い。呆然としている瑠璃の腕を掴むと、きっと睨みつけて来た。どこかで見たことあるような気がしたが、最近いろんな人と会っているせいで、瑠璃の頭は完全に混乱していた。

 「あの…えっと…?」

 動揺し、掴まれた腕と相手の顔を交互に見る。

 「ここから入っていたのね。あれだけ私の世界に入らないでと言ったのに。」

 言ってることの意味を飲み込むのにしばらくかかった。頭の中で見下してきた人物と重なる。信じられない思いで上から下までじっと見た。見る限り普通の服だ。真っ白なドレスは着ていない。相手はフフと微笑んだ。

 「そう、ベリー醸よ。こっちで一回、あっちで二回と貴方に忠告した。」

 両者の間に張り詰めた空気が流れた。掴まれた腕に力がこもる。

 「行かせないわよ、あの世界に。」

 その途端ショッピングセンターのベルが鳴った。ガラスに当てていた手がショーウインドウに引きずり込まれていく。だが、ベリー醸は瑠璃の腕を引っ張り始めた。両腕を違う方向に引っ張られ、瑠璃が痛さのあまり叫ぶ。

 「痛いっ。離して!」

 「なるほどね、ベルの音と共に入るのね。行かせないわよっ。」

 彼女も叫び返しながら、ぐいぐいと腕を引っ張る。ショーウインドウに引きずり込まれる力と彼女が引っ張る力は同じくらいだった。両腕が伸びた状態になり、瑠璃が小さく呻く。ちらりと通行人の方を見たが、誰もこちらに気づいている様子は無い。というか、全く見えていないように思えた。ショッピングセンターのベルが鳴り響く。

 「やめて!私にもどうにもできないんだってば!頼むから、引っ張るのやめてよ。」

 「貴方が最後なのよっ。私が今までどれだけ邪魔してると思ってるの。いい加減にしてよ、このっ。」

 言い合いをしていると、ショッピングセンターのベルが鳴りやんだ。ショッピングセンターに飲み込まれた腕がさらに強く引っ張られるのを感じた。

 「わっ。」

 「きゃ。」

 ベリー醸もろともショーウインドウの中へ引きずり込まれた。


 呻きながら目を開ける。

 「…もうお前には調べがついてんだよ。見て見ぬフリも、俺達にはもう無理だ。証拠を突きつけさせてもらうぞ。」

 (この声は騎士団長の声…。)

 ぼんやりとした目を開けると、少し離れたところに騎士団長の姿が見えた。誰かに支えられてる気がして、視線を上へと上げる。すると心配そうな顔でこちらを見ている彼がいた。

 「大丈夫?」

 上半身だけ彼に起こされているような体制になっているのに気付き、慌てて体を動かそうとする。が、どうにも体が重いのに気が付いた。なんでだろうと考えると頭がぼーっとした。

 「無理しなくて良いよ。君は頭を打ったみたいだから。さっき医者を呼んだから、もう少しで来るはず。」

 そっと腕を取ると、彼は悲しそうな目で見た。瑠璃の視線が腕へと向く。そこには腕を掴まれた跡がはっきりと残っていた。ぼんやりとした頭で騎士団長の方へ視線を向けると、ベリー醸に剣を突きつけているのが見えた。

 「散々邪魔したり脅迫してきやがって。使用人をたぶらかすなんて良い度胸だな。お前、一体何がしたいんだよ。」

 騎士団長の怒りを押し殺した声が聞こえてくる。剣を突きつけられても、ベリー醸は堂々としていた。

 「本当のことよ。貴方達は見て見ぬフリをしてるだけ。なんで、同じ真っ白な衣装を着てるか分かる?この世界を終わらせない為よ。そこの王子と姫が結ばれたら、この世界は終わってしまう。」

 「それが意味わかんねえんだよ。どこに根拠があるんだよ。てか、お前なんでそんな服なんだ?」

 「……あなたなら分かるでしょ?」

 ベリー醸の視線が瑠璃の方へ向く。王子が自分を盾にして瑠璃の視線を遮ろうとしたが、瑠璃がそれを制止した。なんとなく遮るのは良くない気がした。彼女は何かを知っている。それは以前教えてくれようとしたことからも明らかだった。騎士団長が聞いてんのは俺だと言いかけたが、ベリー醸と瑠璃の二人の間に流れる只ならぬ雰囲気に口を閉じた。

 「ショーウインドウの秘密を教えてあげる。」

読んでいただきありがとうございます。

なんとベリー醸、現実にもいました!一体どういうことなんでしょう?彼女は何者なんでしょうか。

ショーウインドウ前で始まるバトル!ショーウインドウの中に入りたい主人公!入らせたくないベリー醸!おおっとしかし、ショーウインドウからの引力が強いっ。このまま二人ともショーウインドウの中へ突入だー!

…いやこんなテンションでは無かったですね。(深夜テンションは恐ろしいものです)

主人公は頭を打ってしまった様子…どれほど強く打ったのでしょう?

これが今後に影響しないと良いのですが…。

そして遂に来ました!ショーウインドウの秘密!

未だに謎の多いこのショーウインドウ、一体その秘密とは…?

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