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「マリア、こっちに来て〜」

「なんですか?」


執務室でいつも通り護衛謙お手伝いをしているとロイ殿下に手招きで近くまで呼ばれる。


「疲れたから充電♪」


そんな風に言いながら私の腹部に抱きつくこの男はやはり女の敵だ。

とても早打ちしている私の心臓はもう限界だった。


「は、離れてください!!夕方までに仕事終わらないですよ??」

「マリーちゃん照れてる?かわいー!!」

「相変わらずの女たらしですね」


『マリアにしかこんなことしないよ』なんて言いながらお互い仕事に戻る。


「今日は収穫祭、絶対にいくよー!」


今日は年に一度の収穫祭の日

街のあちこちに出店が並び、旬の野菜などで作った料理のお店が並ぶ日なのだ。

ルイ殿下は、毎年必ず街にでて出店を周り食べ歩きをしていた。

去年までは違う騎士に護衛を任せていたが、今年は一緒に行きたいと言われ、私が担当することになったのだ。


何とか無事に業務を終わらせ16時に正門で待ち合わせる。

騎士服じゃ目立つから町に馴染める服装でとのことで、たまに街に買い物に出る時に着ているごく普通のブラウスにブラウンのスラックスを着用

待ち合わせ場所に行くと、いつも馬を用意してくれているのだが、今回は一頭しか見当たらない。


「お待たせしました!私も馬を連れてきますね」

「いや?今日は一緒に乗るんだよ」

「は?」


花が咲いたようにご機嫌な笑顔で、馬に乗れとアピールしてくるルイ殿下


「.....別々の方が良くないですか?」

「俺は一緒にのりたいの」


ダメ?とウルウルしたスカイブルーの瞳で見つめられたら、もう私の負け。

『わかりました』と馬に跨る。

ルイが私の後ろに乗り手綱を引く形となった。


そして街について馬を繋いだあと、たくさんの出店を回った。

キャベツのお好み焼きがお腹に凄く溜まって苦しいのに、焼き鳥のねぎまをルイにケラケラ笑いながら無理矢理口にねじ込まれる。食ハラで訴えてやろうか?


「マリアがハムスターみたいで可愛い......」


『はぅっ』とか言いながら大袈裟に胸を抑えてるこの男は無視しておこう、口の中に食べ物が詰まっていて今は喋れないし.....


私の実家、フォーブス伯爵領にもお祭りがあり、子供の頃はドレスを着せられてるにも関わらず、木刀片手によく行ったなぁと思い出す。


「フォーブス領の感謝祭も、来月だね!」

「(モグモグ、ゴックン)......よくご存知ですね」

「5才の時かな?フォーブス領で感謝祭があると、侍女達の話で知って、内緒で行ったんだよね、1人で護衛騎士も連れずに....王都を離れるのは初めてだった。今思えば本当やんちゃな子供だったなと思うよ。

フォーブス領は犯罪件数も少なくて良い領地だが、身分丸出しな服装で5歳児が1人で出掛けてはいけなかった。この国の政治に不満を持った大人に捕まってしまってね、その人も俺のことを傷付けようとはしてなかったかもしれないが、薬を嗅がされて身体が動かなくなったんだ」

「.........」

「で、薬の影響で喋れず、震えて閉じ込められてた所に、木刀を持った同じ年くらいの女の子が窓を突き破ってきてね、相手は大人なのに、木刀を振り回して向かっていったんだ『この子に触るなー!』ってね」


ニヤっとしながら私をみるルイ


「わ、私だ...でも、全く記憶にない....」


木刀を振り回す五歳女児なんて、私以外に、そうそういてたまるか。


「その女の子ね、貴族だったみたいで見張り役の執事さんが後を付けていたんだろうね。その人が警備隊に助けを呼んでくれて助かったんだ、身体が痺れていて言葉も上手く喋れず、お礼も言えなかったんだ」


「お礼を言ってもらいたくて助けた訳じゃないと思います」


「うん...でもお礼がどうしても言いたくて、会いに行ったんだ、今度は護衛を連れて、不自然なくらいボロボロな服を着てさ、広場で遊ぶ君に勇気を振り絞って話しかけたんだ。君は気さくに仲間に入れてくれてその日は生まれて初めて同年代の子と遊んだ日になった。楽しかったなぁ

やっぱり、女の子に助けられたあの時の、かっこ悪い子供だってバレたくないって思って、またお礼を言わずに帰って来ちゃったんだよね」


ハハハッと笑うルイ


「騎士になりたいと言っていたから、騎士団に入団できる年齢になったら、また会える、君なら絶対に来ると何故か確信していた。そしてその年、綺麗な女性騎士が1人入ったと噂になった。マリア、君だって確信していたよ、すぐに第二騎士団に配属にした」


そして腕をひかれ、私より背の高いルイに抱きしめられる。


「........子供の頃から君に惚れていた」


そして私のおでこにキスを落とした。




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