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春の始まり その2

「それでこれから生徒会室に行くって認識でいいんですかね?」


「その認識で合ってるぞ。」


「もうそろそろ6時なんで、明日じゃダメなんですか?」


「善は急げだ。それとも君は久しぶりの人との会話に緊張してるのか?」


「勝手に秘境に住んでる人みたいにしないでくださいよ。違いますよ、別に。」 


「そうか、その割にはそわそわしてるな。」


「先生の気のせいですよ。」


 そうこうしてるうちに生徒会室に着いた。生徒会室なんて仰々しく言っているが、それは生徒会の人たちが使っているから言っているだけでただの教室なのだが。

ガラッ。先生が勢いよく扉を開ける。


「何ですか、松本先生。」


 教室には向かい合うように長机が置いてあり入り口から一番遠い場所にパイプ椅子を置き座っていたそいつは、勉強中だったと思われる手を止め、顔を上げた。


―顔を上げた彼女は一言で言えば、格好良かった。―


「おいおい、そんな顔するなよ。私は君のため、いや生徒会のために、良いことをしにきただけだぞ。」


「はぁ、そうですか。で後ろの彼は誰ですか?」


俺は口を挟めない。


「よく聞いてくれたな。こいつは今日から生徒会に入り手伝いをしてもらう高階周だ。」


「は?」


「なんだ、なんか間違ったこと言ったか?」


「いや生徒会に入るなんて聞いてないんですけど。」


「生徒会の手伝いをするんだろ。じゃあ入ったほうが楽だろう。」


「それとこれとは話が別でしょう。」


「どこがだ?」


 ダメだ伝わんない。何でだよ、適当に手伝いしてれば良いだけだと思っていたのに。そんなことを考えていると彼女が口を開いた。


「お言葉ですが先生、私は助けを必要としていません。業務は問題なく回っているはずです。先生や、彼が何を考えているかは知りませんが余計なお世話です。」


「いや、彼には生徒会の雑務を主にやらせるつもりだ。」


「だからそんな雑務は残って」


先生が言葉を遮る。


「それに姫路の件もある。...とにかくこれはすでに決定された事項だ。工藤、君にこの決定を変える権利はない。」


「...」


 黙っちゃったけどどうすんだよこれ。てか、なんか思ったよりややこしいことが起こってない?ほんとに雑務やら何だかなんですよね。松本先生頼みますよ。


「まぁいい、とりあえずこの辺でいいだろう。今日はお開きだ、もう6時だしな。では気をつけて帰るように。」


 そう言って松本先生は教室から出て行ってしまった。

 え、何この状況、初対面の女子と一対一とかどうしろっていうんだよ。早くこの教室から出よう。


「えっと、じゃあ帰りますね。」


「待ちなさい。」


え、何で止めるの。帰らせてよ。


「えっと、何ですかね。」


「高階君だったかしら。災難だったわね。明日からは来なくて良いわ。私からも松本先生に言っておくから。」


「いやそういうわけにも。」


「来なくていいわ。」


はなから行きたくは無かったよ。クソ。


「わ、わかったよ。じゃあ」


 そう言って生徒会したから逃げ出すように、出てきた。空はもう暗くなり始めていた。

――――――――――――――――――――――

 帰りの電車で考える。もちろん今日は呼び出しがあったから一緒に帰る人がいない。というわけではなくいつも1人で帰っている。1人でも寂しくないもん。

 実際、1人でいるのは楽だし、考える時間はたくさんある。電車の中で友達と騒いでいる馬鹿みたいな高校生とは違い、俺は時間を有意義に使っている。俺は友達がいないのではなく、作らない。好き好んで1人でいるのだ。

 とにかく今日は普段とは違いすぎた。平穏とは言えないまでも、不穏ではなかった。そんな俺の学校生活が何で他人によって壊れないといけないんだ。だから俺は友達を作らない。人と繋がるということは自身を蔑ろにするということだ。人と付き合うということは自分を曲げる覚悟をするということだ。俺は自分が好きだし、他人のために自分を曲げるなんてそんなのはただの綺麗事だ。だがそれは目を逸らしているだけなのかもしれない。自分が他人と比べどれだけ劣っているのかが分かるのが怖いのかもしれない、ただ自分を否定されるのが恐ろしいだけなのかもしれない。それでも俺は独りでいたい。自分を守れるのは自分しか居ないのだから。

 そんなふうに考えている間に家への最寄駅についた。今日は疲れた。帰ったら風呂入って、飯食って、課題やって寝よう。明日のことは明日の俺が何とかする。

――――――――――――――――――――――

 明日になった。いや、今日になった。いつも通りクラスは賑やかで3つぐらいのグループに分かれて馬鹿みたいに話している。内輪ネタで盛り上がり、不幸自慢をして、やはり何も考えていないような顔で笑っている。あれが青春だというのなら、俺には一生青春なんてものは訪れないのだろう。むしろ訪れてほしくもない。

 そして放課後、俺は生徒会室の前にいた。何事もなく帰ろうとしたら松本先生に捕まった。殴られなかったからまぁよかったと思おう。

俺は扉をノックする。


「どうぞ。」


ガラガラ、扉は心地よい音を立てて空いた。


「あら、来たのね。あれで来るなんて空気が読めないのね。...えっと誰だったかしら。」


「高階です。」


「あぁそうだったわね。で何で来たの?あなたにくる理由なんてなかったと思うのだけれど。まさか...私のことが好きなの?」


何言ってんだよこいつ。


「はぁ、好きも何も俺はあなたのこと何も知らないんですけど。」


「まぁ貴方みたいな冴えない男が、私みたいな芯のあるかっこいい女に惚れるのも無理わないわね、でもごめんなさい。私は貴方に興味がないわ。」


話聞いてんのかこいつ。


「そもそも来なくていいって言われたって、はいそうですか。って来なくなるわけにも行かないんだよ、こっちは。」


「はぁそんなこと言いながら、あわよくば私と付き合えないかなって狙ってるんでしょ。」


「そもそも、お前誰なんだよ。俺の名前だけ知られててフェアじゃないだろ。」


「確かに、あなた如きにお前と言われるのも癪だしね。よく聞いてなさい。私の名前は工藤英名。工場の工に、藤の花の藤、英語の英に名前の名で、工藤英名よ。工藤様と呼ぶことを許すわ。」


「どっかの華族かよお前は。」


「私に突っ込まないで、それとお前って呼ばないで。」


「すいませんね、工藤サマ。」


「許すわ。」


 俺は今一度、工藤英名を見た。彼女は凛としていた。まるで彼女がいうことが全て正しいのではないか。そう思わせる雰囲気があった。


「高階くん、君は自分の言ったことすら守れないの?」


「は?どういうことだよ。」


「あなたは、昨日確かに私が来なくていいと言った後に、わかったと言ったわ。それなのにここにいる。そういうことよ。わかったかしら。」


「ちょっと待て俺は別にお前に返事したわけじゃない。」


「じゃあ、あのわかったはどういうことなの?」


「お前には話が通じないことがわかったんだよ。」


「IQが離れてると会話が成り立たないらしいわよ。」


「暗に俺のことを馬鹿にしてんのか?」


「いいや、直接よ。わからなかったかしら。」


ウゼー、なんだよコイツ。


「それにしても、話が通じないことがわかった。なんてつまらない屁理屈ね。その場繋ぎの嘘にしか聞こえないわ。言い訳にしてももうちょっと考えてみたらどうかしら。」


「余計なお世話だよ。」


「あなたのお世話なんて、頼まれてもやらないわ。」


「おい、俺の親には申し訳ないとは思わないのか?」


「確かにそうね。あなたの親は息子があなたで大変な苦労をしただろうに、あなたのご両親には同情するわ。」


「そういうことじゃねぇよ。」


「あら、そう。」


「大体、好き勝手に色々言ってくれてるが、俺は別に少し授業態度が悪くて、友達を作ってないだけで、成績優秀な優等生なんだぞ。冴えないかもしれないが、ブサイクでもないし。お前にそこまで言われる筋合いはねぇよ。」


「あなたの欠点は、成績優秀の一点だけで補えるものでもないし、あなたの顔は整っている、いない以前に何もかもを嫌がっているような、人を不快にさせる表情をしてるわよ。だからかしら、あなたのいうことが納得できない。」


「それに、私みたいな美少女としゃべれている時点で、一生分の運を使っても足りないくらいなんだからむしろ感謝なさい。」


 彼女は間違ったことは言っていないのかもしれない。少しでもそう思ってしまった自分が嫌になる。それでもやはり、不愉快だった。


コンコン


扉をノックする音が教室に響く。

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