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嘘偽りない人生

作者: 近江 蓮

「嘘は素晴らしい」

人は無意識に嘘をついている。嘘をつく事に何の抵抗もなくなった私の壮絶な生い立ち。この世の中で、本当に信じられるものなんて一つも存在しないということに皆さんは早く気づいた方が良い。

 

 私は、俗に言う八方美人だ。

人を傷つけないため、喜ばせるためになら息をするように嘘をつく。

なぜならその方が物事がスムーズにいくからだ。

不毛なやり取りをする必要がない。



 先日、仕事場で同僚の貴美恵(きみえ)が婚約破棄になった。

貴美恵は、淡麗な顔立ちで、承認欲求が高くすぐにマウントをとりたがる女性だ。

その勝ち気な性格から会社のリーダー的存在であり、派閥があるほどだ。


そんな貴美恵がある朝、目元を腫れさせて出社した。

年上の彼氏の浮気が発覚したからだ。

ハワイ旅行でのプロポーズ後、翌日には女と会っていたらしい。


私は前に一度、彼氏にも会ったことがある。

お世辞にも顔が整っているとは言えないが、邪な部分は一切ない塩顔男性だった。

とはいえスペック的には高く、外資系でエリート軌道に乗っていた。

総合的に見ても、世の女性達は放っておかないだろう。

ただ学生時代、勉強に全てを捧げてきた彼にとって、一人の女性を愛し通せるほどの器はまだ持ち合わせていなかったようだ。


正直、そんなことは私にとってどうだっていい。

貴美恵を心底、嫌っていた私にとってむしろ愉快にまで感じた。


だがここで嘘をつかなければ、女性社会では上手に生きていくことが出来ない。


「そっか、残念だね。また次の出会いがあるよ。」


一言目にこれではダメだ。

自分にとって興味がないという感情が漏れ出てしまっている。

女性は、繊細で気を遣いながら自分を愛す生き物だ。


「そんなことってないよ。とても辛かったよね。」


私は、自分の気持ちと相反する言葉を発した。

彼女は、また目に涙を浮かべて下を向く。

問題は何も解決してはいない。

ただこれで良いのが女性だと私は確信している。




 そんな私でも一度、嘘をつけなかった時がある。

それは、父が癌で亡くなった日のことだった。


父が私に性的な行為を強要してくるようになったのは10歳の小学4年生の頃だった。

もちろん当初は、それが嫌でたまらなく反抗していた。


中学生になり限界を迎えた私は、母に相談した。

母は衝撃を受けた様子であったが、その後、顔をこわばらせてボソッとこう言った。


「なんであなたなのよ....」


その日から”自分である”というのがどういう事か分からなくなった。

この世には、心から信頼できる人など存在しないというのも悟った。


自分が高校を卒業したタイミングで、父は膵臓癌で亡くなった。

それは、私の青春を味わい終えて捨てるようだった。

復讐すらさせてもらえないのかと、絶望した記憶がある。


その3日後に葬儀が行われ、親戚一同出席した。

そして父の兄は、私の隣に座り、声を震わせながら言った。


「あいつ、結構良い父親だったろう。」


その時、その時だけは私は嘘をつくことが出来なかった。

父は既に死んでいたが、いまだに自分の手で殺したいと思っていたほど強く憎んでいたからだ。


「あの人を父と思ったことは一度もありません。」


完全に心のブレーキが壊れてしまった私はその日以来、嘘を吐き続けている。




 嘘は素晴らしい。

時に人を操ることができ、自分の思うままに動かすことができる。

この世の成功している人の中で、私は嘘をつかない人を見たことがない。

自覚が無いだけで、無意識に都合の良いような嘘をつく人もいる。



ここまで読んだあなたは、私のことをどう思うだろうか。

「可哀想」とか「仕方がない」と言う人もいるかもしれない。


その人に、ここまでの話が全て嘘だと言っても同じように思ってくれるだろうか。


私はそういう女だ。



初めて短編小説を書いてみました。

ちなみに私は、女性の意図を汲み取るの苦手な一般男性です。

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