表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

なろうラジオ大賞5

金魚鉢の空を泳ぐ

作者: 夕日色の鳥

なろうラジオ大賞5参加作品です。

ヒューマンドラマです。

「おばあちゃんが死んだら、ヒロちゃんが金魚の面倒を見てくれるかい?」


 ベッドに横たわるばあちゃんが俺にそんなことを言ってきた。

 

「……分かってるよ、ばあちゃん」


 それに対して、「そんなこと言うなよ」と言うほど高校生になった俺は子供じゃなかった。


「ありがとねぇ」


 俺が頷くと、ばあちゃんは目を細くして笑った。

 そして、今度はその微笑んだ目を窓辺に向ける。


「良かったねぇ、金ちゃん」


 金ちゃんというのは、窓辺に置かれた金魚鉢の中で漂っている金魚のことだ。

 真っ赤な体の少し大きな金魚。

 何年か前にばあちゃんと一緒に夏祭りに行った時に金魚すくいで俺が取ったものだが、俺がすぐに興味をなくしたものだから結局ばあちゃんが面倒を見ることになった。


 お祭りの金魚はすぐ死ぬ。


 だけれども、こいつは今も金魚鉢の中を泳いでいる。

 きっとばあちゃんが甲斐甲斐しく世話をしていたからだろう。


「こっからだとね、金ちゃんが空を泳いでるみたいに見えるんだよ」


「ホントだ」


 ばあちゃんは余命宣告をされていた。

 最期は家で、というばあちゃんの願いを受けて、自宅で介護を受けながら残りの時間を過ごすことになった。


「ヒロちゃんがたくさん会いに来てくれるから、おばあちゃんちっとも寂しくないよ。金ちゃんもいるしねぇ」


「……そっか」


「ありがとねぇ」


 俺の家はばあちゃんの家から近かった。母ちゃんがばあちゃんの世話をするのを俺は手伝った。

 ばあちゃんは本当に優しかった。俺はばあちゃんが大好きだ。

 だから、俺は残された時間を精一杯一緒に過ごそうと思った。


「ありがとねぇ、ありがとねぇ」


 体を拭いていると、ばあちゃんはいつもそう言った。

 俺は日に日に細くなっていくその体を拭きながら、目元が潤むのを懸命に(こら)えた。






 程なくして、ばあちゃんは穏やかに息を引き取った。


『ありがとねぇ』


 それがばあちゃんの最期の言葉だった。


 そして、俺は結局金魚を引き取らなかった。

 ばあちゃんが亡くなってすぐ、後を追うように金魚も死んでしまったから。


「待ってて、くれたのか」


 お祭りの金魚はすぐ死ぬ。


 それでもこいつは、ばあちゃんが寂しくないように何年も生きていてくれたのだろう。

 そしてその役目を終えたから、今度はばあちゃんが向こうで寂しくないように追いかけていったんだ。


「……ありがとな」


 何も入ってない金魚鉢を空に透かす。

 その果てしない向こう側では、ばあちゃんと金魚が楽しそうに空を泳いでるような気がした。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 高校生の俺、おばあちゃんが大好きだったんですね。 おばあちゃんも孫にこんなに大事に思われて幸せだったでしょうね。 おばあちゃんの『ありがとねぇ』 俺の「……ありがとな」 とても印象に残りま…
[良い点] 泣けました( ;∀;) こういうお話は本当に刺さります……。 洗練された文章、さすが夕日さんなのです。 読ませていただきありがとうございます((* ´ ` )* . .))”
2023/12/05 11:43 退会済み
管理
[良い点] 情緒が詰まってました!! じんわりが胸に残る〜(≧Д≦) 金魚も金魚鉢の使い方も最高。 お祭り金魚のエピソードも良いですー!! [一言] うちの金魚もお祭り出身(人•͈ᴗ•͈)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ