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龍の腕は世界を抱く  作者: 萌葱クレイオ
第二章 儚き夢の旅路へ
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41話 小さくて弱いのに、誰よりも頑張って生きてる

読んでいただきありがとうございます。

本日二話目。

 


 レイがグレイ爺の謝罪を受け入れ、グレイ爺が罪悪感と救済を経て自覚したより色濃い親愛をレイに向け始めた頃、シオは森の中腹、中層と深層の境である大きな湖の湖畔で銀狼と対峙していた。


 普通ならば半身たるレイの目が覚めるまで傍で見守っていてやりたかったシオだが、今回ばかりは事情が異なっていて、庭先で休息をとっていた銀狼が目を覚ますと同時に湖までやってきたのだった。


 そんなシオは今、日常を過ごす時のような、レイやグレイ爺と並んでいる時の人間の子供くらいの大きさではなく、レイと共に時を経て成長し続ける本来の大きさに戻っており、その大きさは銀狼と変わりない程に巨大であった。

 いつでも戦う準備は出来ていると言わんばかりに構えたシオは、銀狼に睨みを飛ばす。


(ゼア)の子よ。我に何用か』


 湖面に波一つ立てることなく佇む銀狼が声を発すると、静かな敵意が放たれる。

 突き刺す敵意、見定めるような視線は、深層の魔物でさえも裸足で逃げ出す威圧が込められている。

 そのせいか、以前は竜気で荒れた湖、普段は騒がしい森も今は嘘のように静か。


 この世界にシオと銀狼だけが取り残されたかのような恐怖がシオを取り囲むが、その程度の視線や敵意など、恐れるにも足らなかった。

 シオは臆することなく銀狼に立ち向かう。


「俺の事を知っているようなら自己紹介はいらねぇよな? 俺が聞きたいのは一つだけ。幻想種のお前がレイに近づいた理由はなんだ……。返答次第じゃあ――」

『返答次第ではただではおかぬ、か? 面白い。青二才風情の小童が、我に噛みつこうというのか!』


 湖の上で立ち上がった銀狼は、昼間でも輝きを失わない白銀の毛並みをはためかせ、竜気のみならず魔力までも身に纏う。


 グレイ爺の話にあった、風の神性精霊種。

 幻想の森において、精霊種のほとんどは下級に収まる範疇の幻想種でしかなく、幻想の森では滅多に上級にあたるほどの精霊種は生まれない。生まれてくるのは、能力が欠如した欠陥幻想種が故に、偽精霊種とも呼ばれている。


 だが、シオの目の前に佇む銀狼は、幻想の森にいたどの幻想種よりも強大な力を持っている。

 それはシオの体を震わせるほどの力を迸らせていても尚も銀狼の余裕綽々と言った表情から、それが力の一片でしか無いことが分かる。

 そんな銀狼を偽精霊種と呼ぶには烏滸がましいがゆえに、神性竜種にも並ぶかそれ以上の、神性精霊種と呼ぶのであった。



 その理由こそが、銀狼が身に纏った魔力の存在。



 精霊種は、幻想種の中でも魔力と竜気二つの適性が高く、竜気しか存在しない幻想の森では、精霊種の本領は発揮されない。


 幻想獣種は竜気に100の適性、魔力には10の適性を持っている。

 それに対して、神性精霊種は竜気に80、魔力に80の適性を持っている。


 もちろんこの数字は一種の目安、個体差がピンからキリまで居るのが幻想種であるが、竜気しか存在しない幻想の森では、数の面で多くを占める幻想獣種に勝ち目がなく、偽精霊種と呼ばれ蔑まれ、意思すらはっきりとしないまでに弱かった。


 偽精霊種が魔力を得て初めて、神性精霊種に昇るのだとすれば、目の前の銀狼はまず間違いなくガリウスの牡鹿なんかよりも強い。そして、レイが傍にいない時のシオは牡鹿よりも弱い。


 それを理解していても尚、シオは身に纏う竜気を解くことは無く、臨戦態勢を貫く。


 竜気と魔力が乱れ、湖がまるで嵐に襲われたかのように湖面が揺らぎ、森が騒ぐ。


 戦闘が始まれば確実にどちらかが命を落とすであろう睨み合いの中、先に矛を収めたのは、銀狼の方だった。

 年長者の余裕を見せつけるかのように竜気も魔力も解いた銀狼であったが、それを見てもまだシオは銀狼には敵わないと悟る。


 守りが無い状態で今のシオが銀狼に迫ったとて、命を刈り取るビジョンが見えてこない。

 逆に狩られる光景しか目に浮かんでこない程、シオと銀狼の間には超えられない壁があるようだった。


 そして、当然強者たる銀狼がそれに気付いていないはずも無く、今の睨み合いはただ試されていたに過ぎなかったのだと知るとシオは溜め息を吐いて竜気を解く。

 グレイ爺との鍛錬の際にも同じような目に合わせられ、辟易していたのだった。


「……はぁ、幻想の森にお前みたいなやつはいなかった。そもそも半身(パートナー)がいない時点で、なんとなく分かってはいたんだが」

『……であれば、何故?』


 銀狼はシオの答えに満足そうに、愉快そうに笑いながら問いかける。

 始めからすべて分かっていたかのような余裕の笑みで、問いかけてくる。


「念には念を、と思っただけだ。幻想の森(向こう)の追手でなかろうが、レイに危害を加えるつもりなら、俺は今すぐにでも、レイを連れて逃げるつもりだった」

『それは、疑いが晴れたと考えて良いのだな?』

「信用するとは言ってねぇよ。お前もグレイの爺さん同様、レイを気に入ってるようだしな」

『……は?』


 若干の汗を拭いながら、顎を上げてさも当然のように言ってのけるシオの言葉に、銀狼はポカン、と呆気にとられる。

 しばらくの間をおいてから「クカカカカ」と喉を鳴らして笑い出す。

 湖面の上で、人間のように腹を抱えて笑い悶えていた銀狼が一頻り笑い終えると、シオの事を否定するように、虚仮にするように言葉を続ける。


『クカカ! 我があの小僧を気に入る!? 真に笑える話だったな。だが、我は人間をに興味を抱くことなど、これまでもこれからも、一度たりともありはせぬ』


 突如として突き放すように冷たい言葉を放つ銀狼に対して、シオはどこか人間臭い雰囲気を感じ取る。

 それと同時に、銀狼の過去に人間との間で何があったかは知らないが、レイを否定しレイを馬鹿にしたような口ぶりに、シオは静かに腹を立てる。


「なら、どうしてレイを助けた? 嫌う相手に取る態度としては不正解、正反対の態度だったように思うが?」


 レイを連れてきた時、レイの傷は既に塞がっていた。

 放っておけば死んでしまうと判断したからこそ、癒しの竜術を使った。


 だが、人とはかけ離れた存在、際限のない寿命を持つ幻想種から見れば、その他の生命が消えて行こうとも関係のない話。だというのに、命を助けた。

 さらには、背に乗せたレイが落ちないよう、深層から徒歩でやってきた上に、シオが目にした時のように、竜気に当てられた魔物が誤って近付いてこないよう竜気を周囲にはなって威圧し続けていたというのに、銀狼の口からもたらされたのは『興味無いね』の一言。


 他にも、グレイ爺との語らいの様子は、とても興味がない相手に対する姿勢とは思えなかったのだ。

 加えて、昨夜から頻りにレイを待っているかのような振る舞いは、明らかな矛盾を孕んでおり、その上でシオの大事な大事なかわいいレイを貶されたとあっては、腹が立って仕方がない。


 銀狼は有り得ない、と鼻で笑ってから滔々と語り出す。




『我が興味を持つのはあの小僧の竜気。ひいては(ゼア)の子の竜気よ。人が抱えるには大きすぎる、身に余るはずの竜気を、尚も身に余す量を誇っていた小僧が死ねば(ゼア)の子もまた命を落とす。……人の身に限界はあれど、幻想の身は天井知らず、限界など迎えん。故に、世界を覆す存在の死を見捨てることなどできなんだ。いいか、そもそも人と言うのは身勝手な存在で、我ら幻想種の一割にも満たぬ時間で生まれては老いて朽ちていく。あのボケ爺の姿を見ただろう、醜く、生を諦めていたあの姿を。斯様な人間に我ら幻想種が追い詰められているという事実もまた気に食わんのだが、幻想の森とやらを築いて引きこもった老龍もまた卑怯で偏屈な老害龍であり、その恩恵をありがたいと思って生きている人間どももまた自分勝手、自己中心的存在。我の生まれた時代には幻想種はもっと恐れ多く、敬われる存在であり、そうでなければならぬというのに、あの小僧は過去に存在した今よりももっと竜気に密接だった人間たち、それらを遥かに凌ぐ竜気を内に秘めておる。まるで内にもう一人幻想種に愛されし人間を抱えているかのように。それがなんとも気に食わぬのだ。我にかかればお前もまた人間の呪縛から解き放ってやることも出来る。人の生きる時間など一瞬、我を置いていった人間どもと同じ血を持つ小僧を――』






「――だぁっ!!! うっさい!! 話が長い! くどい!!!!」






『……っ!?』



 銀狼の話の内容は半分どころか一割も頭に入ってこない中で、シオは銀狼の長ったらしい講釈をぶった切って怒りの形相を見せる。


 今の今まで真剣に耳を傾けていてくれたであろうと勘違いをしていた銀狼は目を皿にして驚いている様子だが、それも徐々に人間の話をしていた時のような気に食わない、と言った目つきに変わっていく。


 不快さを露にする銀狼を前に、当然ながらシオもまた負けないくらいの声で銀狼に言い放つ。



「お前が言いてぇことは何となく分かる! 俺もレイも、幻想の森から追放された時に嫌と言う程恐怖したからな!! ……だが、それでも、レイの事を何も知らねぇお前がレイを貶して、馬鹿にするような態度が、一番気に食わねぇッ!! あいつはすげぇんだよ……、俺たちよりもずっと小さくて弱いのに、誰よりも頑張って生きてる。一生懸命に生きているんだよ。誰よりも苦しくても、弱音を吐くことも無く、必死で食らいついてきた。勝てない相手にだって、大切な姉のためなら何回だって立ち向かう強いやつなんだよ。それをお前は、人間だの、幻想種だのうだうだ言いやがってよぉ。人も幻想種も関係ねぇ! レイを見ろ! 長い時間生きてんのに、種でしか相手を見れねぇのか!? レイという人間を見ろ! レイという男を見ろ! あいつは柔らかくて穏やかで笑顔が素敵で、寝ながら俺を抱き寄せる時の寝顔なんかは世界で一番かわいいんだ。それに何よりも……、レイはいいやつなんだよ。あいつの前に立てば、あいつと関われば、魔物だろうが関係なく善人になっちまう。善人になったと勘違いしちまうんだ。俺が凄いのだとしたら、レイはもっと凄いことを成し遂げるぜ? その節穴でもってしかと見届けて見ろや。人も幻想種も関係なく、あいつは尊敬できるやつだ。それでもレイを馬鹿にしようってんなら……俺が許さねぇ」



『ぬ、おお、そ、そうか……』


 この一か月余り、大好きなレイと触れ合えていなかったせいか、溜まりに溜まった鬱憤を晴らすかのようにレイへのラブコールを熱烈に叫んだシオ。

 これでもまだまだ言い足りないシオは、全世界にレイの素晴らしさを知らしめたい、と考えていた。


 途中、レイのプライバシーにかかわる点がいくつかあったが、シオは関係なく言い切った。

 そんな熱烈過ぎる押しに、銀狼は『なんだこいつ……』と若干引き気味で後退ろうとした時、森の中からレイとグレイ爺が姿を現す。


 鼻高々といった様子で胸を張るシオに駆け寄るレイを見て、シオはさらにふふんと銀狼に対して挑発的な態度を取って見せる。


 そんなシオの視線の先に、いつか見た白銀の獣を捉えたレイは流れるような動きで竜気を纏い、グレイ爺も目を瞠る程に洗練された水面歩きを見せて銀狼の元へ駆け寄っていく。


「グレイ爺から聞いて。貴方が僕を見つけて助けてくれた上に、ここまで連れてきてくれた、って。きっと、深層の中でも何度か助けてくれた、よね? それも含めて、本当に、ありがとうございました」

『ぅ、うむ……』


 銀狼にどんな過去があって、どんな理由があった人間を避けようとするのかは、レイとシオは疎か、グレイ爺だって知り得ない。


 けれども、何一つ汚れのない瞳で、純真で思ったままのことを口にするレイはが本当に心の底から感謝していることが分かってしまうために、真正面から淀みのない笑顔を向けられては、今しがたレイを批判し否定した銀狼は言葉に詰まってしまう。


 銀狼を古くから知るグレイ爺と、レイを誇るシオがその後ろでニマニマと笑顔を浮かべる中で、百年単位で森の奥深くに引きこもっていた銀狼が困っていると、レイは頭を上げて、変わらぬキラキラとした瞳で銀狼を見上げ「もふもふ……」と、ぼそりと呟く。


「もう一回、乗りたいな……」

「レイ、それは流石にじゃな……」

「だ、だって、あの時は眠ってて覚えて無かったし!」


 いいでしょ!? とグレイ爺に縋りつくレイに対して、ようやく我に返ることができた銀狼が調子を取り戻す。


『そう簡単に背には乗せられぬ』


 その言葉にショックを隠し切れないレイがシュン、と肩を落として引き下がっていく様子を見て胸をなでおろす銀狼に向かって、シオは嘲るように声を上げた。



「ハッ!! 神性精霊ともあろう銀狼がぁ? 子供一人も乗せられない程に疲れちまっているとはなぁ!! ほら、レイ、あっちは大分年を召しているからな、気を遣ってやろうじゃねぇか。久しぶりに俺が空に連れてってやるぜ」



 大きくなってからレイを乗せられるだけの力を手に入れたシオがそう言うと、れいが両手を上げて水面を駆け寄っていく中で、レイの目の前に姿を現した銀狼が鼻先でレイを持ち上げその白銀の背に乗せる。



『誰が疲れていると言った?』



「無理しなくていいんだぜ? いいからゆっくり休んでいろよ、お・じ・い・ちゃ・ん?」



『我を年寄り扱いするな!!』



 まんまと煽りに乗せられた銀狼がレイを背に乗せ空を駆る。

 その後を追うように天色の軌跡が追いかける中、森の空にレイの楽しそうな声が聞こえてくるのを、グレイ爺は夕食の用意をして見守るのだった。








ちなみにシオ、神性竜種の場合、竜気に120、魔力に120の適性を持っています。

うーん。ぶったまげ。

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