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孤独な破壊の公爵子息の決意と出会いと未来

作者: 翠月氷真由佳

ルエディア王国。

この王国はこの大陸最大の国であり、魔法技術、商業、政治、などなどあやゆる分野で栄えている王国。

魔法技術が特に進んでおり、この国の王族や王族に近い血統の五つの公爵家『五摂家』などの人間は『固有スキル』を持って生まれる。

この固有スキルは普通の人が持つ魔法技術に加えて、珍しい魔法を使える様になったり、元々ある魔法の威力を高める効果がある。また、魔法では無い異能を使える様になる者もいるらしい。

この固有スキルは色々な人から羨ましがられ、憧れるものなのだ。


固有スキルを持った者は幸せになれる。

固有スキルを持った人は誰からも愛される。


などなどいい事しかないような固有スキルだが、人によっては地獄の様に、呪いの様に感じてしまう。





***

五摂家の一つ、ジェルディア公爵家。

この家には五歳の次男が生まれていた。今、十二歳の兄もいたが、学園に入学したため家には居なかった。

次男の名をオーウェン。小豆色の艶やかな髪を持ち、同じく小豆色の目を持った可愛らしい容姿の子供だった。誰から愛されてもおかしくなかった。いや、ある日までは愛されていた。


「オーウェン!こっちおいでよ!」

よく近くの伯爵家に遊びに行き、歳の近い子と遊んでいた。


「あら?オーウェン、お花を咲かしたの?凄いわね!小さいのに魔法の才能があるのかもしれないわね。」

魔法を早く取得し、注目の的でもあった。

才能と美貌があり多くの人が可愛がり、期待していた。


そんなある日


「オーウェン、この香水は魔力を測れるの。少し、垂らしてみてもいいかしら?」


母に香水を垂らされそうになった時だった。オーウェンの固有スキルが覚醒したのは。

この香水は魔力量により匂いが変化する品物で、鑑識術式を埋め込んだ魔力の塊でもあった。

そして幼いオーウェンは香水の匂いがとてつもなく嫌いだった。嗅覚が鋭かったのだ。


「い、いや!やだ!」


オーウェンは強い拒絶をしたが、オーウェンの母は聞き入れなかった。段々と近づいてくる香水の匂いに耐えられなくなったオーウェンはありったけの力を身体に込めた。それが魔力だとは知らずに。



バーン!!!バチバチバチッッッ!!バンバン!!



けたたましい音が部屋中を鳴り響いた。


「奥様!オーウェン様!大丈夫ですか?!」


部屋の扉に待機していた護衛の二人が慌てて入ってきた。


「こ、これは…」


何と部屋中が粉々になっていたのだ。まるで爆発が起きた後のように。幸い、オーウェンもオーウェンの母も無事だった。


「なにが起こったのですか?」


護衛が恐る恐る尋ねた。


「オーウェンに魔力測定の香水を垂らそうと近寄ったの。そしたら急に爆発が…」


そしてオーウェンの母は恐ろしいものを見るようにオーウェンを見た。


「もしかして貴方が?」


その頃オーウェンは初めて固有スキルを使ったことにより、魔力不足が起きていた。


「ど、どうしよう母上。ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい。」


初めての魔力不足と固有スキル発動と、母を傷つけてしまった事への混乱でオーウェンは取り乱していた。


「渇く、渇く、熱い、いたいいたいいたい どうしよう…」


そして何とオーウェンは周りの空気の魔力や、近くにいる人の魔力を吸収し出した。

オーウェンは人より魔力吸収が激しい、魔力過度吸収体質だったのだ。


魔力過度吸収体質は魔力を人より多く吸収する体質。上手く使いこなせば、他人の魔力を操ることが容易くなるため、魔術師には向いている体質だ。

ただ、コントロールできず魔力を吸収してしまえば周りの人を傷つけることになってしまうし、自分が吸収出来る魔力量を超えて吸収してしまうと、吸収した自分の身体が持たず、壊れてしまう。



「きゃあぁぁ!魔力が吸われていくわっ!」

「な、なんだ!俺の魔力も…!」

「お、俺もだっ!」


オーウェンの母と護衛二人は魔力を吸われていく感覚に混乱していた。その時、大勢の足音が近づいてきた。


「奥様!」


大きな声や爆発の様な音で他の所にいた護衛が集まってきたのだ。


「これは…!」


ジェルティア伯爵家の護衛代表の一人スティーブは冷静にこの事態を考えていた。

スティーブは30代の男性で元国家騎士団の班長だった人だ。班長の最小年齢記録を塗り替えた人物でもある。勿論剣の腕前はあり、魔力察知に長けていた。



「奥様!これは、オーウェン様の固有スキルだと思われます。」



固有スキルは独特の魔力を発する為、魔法に嗜みが有る人はわかる人が多い。

オーウェンの母も固有スキル持ちだが、『魔力色覚』という魔力の色を見分ける能力な為あまり魔法を使おうと思わなかったのだ。

勿論、公爵夫人で有る為、魔力も申し分ないが魔法の造形に詳しくない夫人はオーウェンの固有スキルだと分からなかった様だ。



「取り敢えず、オーウェン様を落ち着かせましょう。このままではオーウェン様が魔力を過度吸収してしまい、暴走してしまいます。オーウェン様は魔力過度吸収体質みたいです。」


スティーブは自らの服を握り小さくなり震えているオーウェンに近づいた。


「オーウェン様、オーウェン様、落ち着いてください。誰も傷ついていませんよ。大丈夫、私が護ります。私、スティーブですよ。だから落ち着いてくださいな。深呼吸、深呼吸。」


スティーブはまるで小さな子供をあやす様にオーウェンに近づき話しかけた。近づくほど魔力を吸われるのが、魔力過度吸収体質なのだがスティーブは人に比べて魔力量が多かったため平然としている。


「スティーブ?僕、ぼく、渇いて、熱くて、怖くて…」


誰も、何も写していなかった空虚なオーウェンの瞳がだんだんと光を取り戻しスティーブを認識し始めた。


「はい、スティーブです。よくがんばりましたね、オーウェン様。」


スティーブは微笑むと、失礼 と言ってオーウェンを抱きかかえた。


「スティーブ!やめてっ!なんか僕、人の何かを、魔力みたいなものを吸収してしまっていて、制御できなくて…僕なんかおかしくなっちゃって…」


泣きそうになってスティーブから離れようとするオーウェンをスティーブはより強く抱きしめた。


「落ち着いて、大丈夫。私は魔力が人より多いので大丈夫ですよ。それにオーウェン様はおかしくなっておりませんよ。ただ少し変わった体質なだけです。まずは魔力を吸収するのを止めましょう。力を抜いて、深呼吸して、そうですね私だけを見ていて下さい。」


「わ、分かった。」


オーウェンはスティーブに言われた通り深呼吸をしていた。オーウェンはスティーブのことを好きで尊敬していたため、大体のことは素直に聞いていた。


「どうですか、オーウェン様?」

「お、落ち着いてきたかも…」

「そうですか。よかったです。」


スティーブが微笑むとオーウェンは泣きたそうな顔をやめ、笑った。


「まって、スティーブ!どうゆう事?オーウェンの固有スキルって!あと、魔力過度吸収体質って…」


オーウェンの母は取り乱してスティーブに問いただした。オーウェンを見ることは一度もなかった。


「言葉通りで御座います、奥様。オーウェン様の固有スキルは爆発を引き起こすなにか。また、オーウェン様は魔力過度吸収体質である事が分かりました。全て事実です。」

「なんて事でしょう…特別な固有スキルがこんな恐ろしいものなんて。それに魔力過度吸収体質は暴走する可能性があるのでしょう?大丈夫かしら…」

「あ、あう…」


オーウェンは母に拒絶されたショックで倒れてしまった。




***


「オーウェン、オーウェン、大丈夫?」


母上の呼び声が聞こえ、僕は目を覚ました。どうやら僕の部屋のベットの上の様だ。


「ははうえ?僕は…」


鈍い頭の痛みと体の痛み、として寝起きであった為、僕は意識がはっきりしていなかった。


「あぁ、オーウェン!よかった。このまま目が覚めないのかと思うと気が気ではなかったわ。スティーブは部屋の外にいるわよ、会いたかった後で会ってちょうだいな。」


だんだん意識がはっきりしていくと、さっきまで起きていたことを思い出した。僕は、部屋を爆発してしまい母上を傷つけてしまって…


「ご、ごめんなさいっ!」


僕は勢いよく謝った。どうしよう、母上に嫌われたかも。どうしよう、見捨てられるかも。

どうしよう、どうしよう、どうしよう…


「いいのよ。あれが貴方の固有スキルなのだもの。私は怪我をしていないし、ねっ。」


母は優しく笑いながら言った。なんて事のない内容だったかもしれない。しかし、僕の心には深く鋭く刺さった。この些細な言葉で僕は八年の年月を母上とギクシャクした関係で過ごすことになった。


「オーウェン?どうしたのかしら、まだ体調悪い?」

「ううん、悪く無いよ。疲れたから少し一人で休んでもいい?」

「勿論よ!ごめんなさいね無理させてしまって。」

 

母上は快く僕の部屋を出て行ってくれた。

しかし、僕の心は深く沈んだまま。

僕の固有スキルがあんなのだから母上は、僕が人を傷つけるのは普通の人だと思ったのかな。僕は母上の心配をする事も許されないのかな…

悶々と悩んでいた僕は固有スキルや、僕が魔力を吸収した原因を一番詳しく知ってそうな人物を呼んだ。


「スティーブ、部屋に入って。一人でお願い。」


ドアのすぐ近くにいるであろうスティーブを呼んだ。


「畏まりました。失礼いたします。」


予想通りスティーブは礼をしてすぐ入ってきた。


「さっきはごめんね。魔力をたくさん吸収してしまって。」

「全然、大した事ありませんよ。それより、オーウェン様にお怪我がなくてよかったです。」

「ありがとう。あのねスティーブ、固有スキルについて教えて欲しいのだけど…」


スティーブは少し黙って何かを考えていると、顔を上げて承諾してくれた。


「畏まりました。」

「ありがとう!」


(だめ!こんな事で喜ぶな!)


話してくれることに安心した自分を叱咤した。そう、これからが本番。話の後僕は()()()()をするのだから。


「オーウェン様は固有スキルについて、どれくらい知っていますか?」

「固有スキルは王族や公爵家の人が多く持つ、魔法を助けたり、特別な魔法を使える様になったりするもの?」

「大体、あっています。固有スキルはたまに、王族や公爵家では無いものにも現れますが殆どありませんね。因みに私は伯爵家の人間ですので固有スキルは有りません。固有スキルはこの国に保持者が多い為、この国独自のスキルの様になっていますが、他の国の王族が持って生まれる事も普通にあります。ただ、この国の王族で固有スキルを持って生まれなかった人が一人もいない為、有名になったのかと思われます。」

「固有スキルはどんなものがあるの?」

「そうですね、今の王族の方のスキルを上げてみましょう。第一王子のルイス様は今十歳ですね。この方もスキルをもう発動されているらしいです。『神声(ゴッドボイス)』これがルイス様のスキルです。」

「神声…どんな能力なの?」

「スキル神声は洗脳作用のある声を魔力を流す事で発する事が出来るスキルです。」

「せんのうってなに?」

「すみません、オーウェン様。洗脳とは相手の思考を改めされる事。つまり、相手を操る様なものです。」

「凄い!他には?」

「第二王子のルーカス様は発表されてませんね。では現王のスキルを上げてみましょう。現王のスキルは『術式解体』です。」

「術式かいたい…どんなスキル?」

「はい、術式解体は魔法式の解体です。つまり、魔法を無効化するスピードが他の人より物凄く早いです。」

「むこうか?」

「えーと、王様には魔法があまり効かないという事です。」

「すご!王様には魔法が効かないんだ!」

「はい。まだ、スキルを上げてみますか?」

「ううん、ありがとう。」


やっぱり色々なスキルがあってとても、強くてカッコイイスキルだ。でも、そろそろ聞きたい事を聞かなくては。


「僕のスキルは?」


スティーブは予想していた様で、少し黙った後教えてくれた。


「オーウェン様の固有スキルは『破壊』だと思われます。」

「破壊…どんなスキル?」

「固有スキル破壊は自らの魔力を爆破させるスキルです。大規模な爆発から、小規模な爆発まで自らの魔力だけで簡単に引き起こすことが可能です。」

「爆発…」

「はい。戦闘に向いており、とても強い固有スキルです。殺傷性が高い固有スキルですが、貴重ですよ。」


スティーブはオーウェンが落ち込んでいるのかと思ったのか、オーウェンの固有スキルの良さを力説した。

しかし、僕は自虐的に笑った。


「殺傷性なんて、求めてないよ…」


前、間違えて使ってしまったナイフで近くにいた鳥を傷つけてしまった事がある。その時、母上に殺傷性のあるナイフだったと言われ、殺傷性の意味を教えてもらった。


「オーウェン様?どうかされましたか?」


幸い、僕の呟きはスティーブに聞かれていなかった様だ。


「なんでもないよ。あと、さっき言っていた魔力かどきゅうしゅうたいしつってなに?」

「魔力過度吸収体質ですね。魔力過度吸収体質とは人より魔力を多く吸収する体質の人です。魔力を魔力量より、吸収してしまうのです。それらを抑える魔道具がありますので、後ほど渡します。普通の人は魔力を空気中の自然なものから吸収するため、寝たり、時間がかかったりしないと魔力が回復しません。しかし、この体質の人は他人や動物からも魔力を吸収する事ができます。ただ、自らの魔法量よりも多く超えた魔力を吸収してしまうと魔力が暴走します。また、魔力暴走を起こした場合多くの魔力を吸収してしまいます。しかし使いこなせば他人の魔力を操る事もできる為魔術師には向いている体質ですね。」

「成る程。よく分かった!ありがとう。」


やっぱり、僕の固有スキルと体質は危険だ。いや、誰もが危険がり僕から離れるだろう。異様な目で見られるだろう。父上や母上にも兄上にも迷惑がかかる。それに、拒絶は辛い。だったら、拒絶される前に僕、()から離れていく。


「今までありがとうスティーブ。さよなら、そしてごめんね。」


笑いながらスティーブに別れを告げる。そして謝罪も。だって今からスティーブを傷つけるから。


「オーウェン様?」


スティーブは困惑した声を上がるが、俺はもう行動に移した。


(ちょっと、カッコつけてみよう。)


「破壊」


俺は、俺の最大の魔力を使って固有スキルを発動した。


バチバチバチッッッ!バンバンバン!ババンッッッ!


意識して使ったからか、先ほどより強い威力の爆発が起こった。


「オーウェン様っ!」


スティーブは結界を使って防御した様だ。やっぱりスティーブは凄い。


「オーウェン!」


勢いよく母上が走り込んできた。俺を心配してくれているのだろう。ありがとう。でも、母上もどうせ俺を拒絶するからね。大好きだけど、さようなら。


「母上。」


俺は笑って母上に話しかけた。


「この爆発、俺がやりました。俺は固有スキルをコントロール出来ませんよ。」


さあ、最後まで道化(ピエロ)を演じよう。俺を拒絶して。





***


「おはようございます。オーウェン様。」


俺は十二歳になった。七年前、俺は自らの部屋を爆発した。反省の色を見せない事(演技)や、制御できず(わざと発動)たまに爆発を起こす事で俺は公爵家本家のお屋敷から少し離れた別荘に移り住んだ。そのおかげで面倒な王族との交流や、社交会に出ることは少なくなり少し嬉しい。俺はいつの間にか捻くれた正確になったらしい。

段々と周囲からの目線も厳しくなり、次第に俺は孤立していった。


「あいつ、親に見捨てられたんだろ。」

「だって別荘にいるもんな。」

「しっ!一応公爵家の人なのよ。」

「不幸の子なんだって。」

「悪魔じゃない?」

「建物を破壊するんだって。こわいわ」


よく分からない噂が流れ、恐ろしいものを見るような目や、蔑むようなような目が俺に向かってくる。

しかし、それが一番いいだろう。俺の近くに居たら皆んな傷ついてしまうし、俺は壊す事しかできないのだ。

だけど、たまに思う。

こんな俺でも生きやすい、楽しい、認められる、求められる世界にならないだろうか、と。

そして、もう疲れた。俺は何をすればいいのだろうか。ゆっくりと庭のベンチに座り考えていると植木の方から物音がした。


ガサガサガサ バタ ガサ


「わっ!」


植木の方から出てきたのは人だった。しかも、ただの人ではない。

この国の第ニ王子、ルーカスだ。

シャンパンゴールドの少し長いウェーブのかかった髪に真っ赤な宝石の様な目。甘いマスクで色気の多い、俺の二つ年上の王子。


「あっ!居た。君が噂の()()()使()()()くん?」


愉快そうに、怪しげに、侵入者は俺に話しかけた。


「何の様ですか?()()()()()。」


『血塗れ王子』


第二王子ルーカスのあだ名。

ルーカスの母はルーインラッド帝国の王族だ。

ルーインラッド帝国は過去、この国ルエディア王国の国民を誘拐する事件が多数起きたため国内では評価が悪い。その為、帝国の出の母を持つルーカスの、帝国の王族特有の赤い目を揶揄したあだ名だ。ただ、帝国の母を持つだけで差別される王子は災難でしかないだろう。


「ははっ!破滅の使い手に血塗れと言われるなんて光栄だな。」

「私こそ、王子様に異名で呼ばれるなど光栄ですよ。」


お互い、皮肉で返す。相手の目は注意深く俺を見ている。俺の目も同じような目になっているだろう。


「ねえ、キミ、退屈していない?」


まるで俺を試すようにルーカスは聞いてきた。つまり、この国がつまらなくないかと聞かれているのだろう。だったらそんなの、


「当たり前でしょう。ずっとこの別荘に住んでいるのだから。」


気づかないふりが一番いい。面倒ごとに巻き込まれるのはごめんだ。


「えー、まあそうだろうけど。じゃあキミなんで生きてるの?」


そんなの、俺も考えている。


「俺に死んで欲しいと?」

「あはは、違うよ。俺は才能ある奴を怖がる底辺共とは違って、才能ある奴こそが活躍する世界がいいと思っているから。」

「つまり、俺には才能があると?」

「せいかぁーい。だって大きな術式と魔力、時間がかかる大規模な爆発をキミは一人で簡単に出来るんだろ?凄いじゃん。」

「そうでしょうか。」

「そうでしょー。それに、キミ()たまに思うだろう?こんな俺でも生きやすい世界にならないだろうかって。ね?」


王子と俺は思考が似ている。そして、この王子は俺の固有スキルを知っているらしい。俺は王子の固有スキルを知らない。第二王子だけ公表されていないのだ。

因みに今、王妃が四人、王子が8人いる。

三年くらい前に第八王子、ノアが生まれた。と、思う。


「俺と組んで国に何をしたいのです?」


惚けるのは飽きたため、確信をついた。それにこの王子は話すのが面倒臭い。取引などに長けているだろう。


「やっぱり、俺が聞きたいこと分かってたねー。そう、こんな生きにくい世界を変えようよ。俺らが必要で必要で堪らなくして、俺らがこの世界の実権を握ろう。」


まるで、無垢な子供の様な笑みで復讐、報復を促した。そして、退屈に身を持て余していた俺の体にゾクゾクとした刺激を与えた。


「具体的に、何を?」


気付いたら言葉を発していた。

ルーカスは目を見開き驚いた後、妖艶に笑った。


「そうだね、まずは国家騎士団の掌握かなぁ?」


『国家騎士団』

いくつかの班があり、王族の護衛から国民の護衛、各地への調査なども行う防犯、政治の要。

そこを掌握したら一気に立ち場が変わる。現に、この国の最高権力者たちが集まる『最高国議会』という会議に騎士団団長や副団長は参加出来る。各班の班長もたまに参加が認められる。


「国家騎士団。成る程、作戦立てるところはどうします?ここにはお忍びで来ているのでしょう?」

「その前に、キミは俺に協力してくれるという事でいいかなー?」

「ええ。」


これは国家反逆罪に値するだろう。しかしもう、この世界は飽きた。つまらない、疲れた。だったら、俺は壊そうと思う。この決断は地獄に向かう早道の切符だろうけど。


「だけど、俺の固有スキルを聞いてもー協力してくれるかなぁ?」


急にルーカスは言い出した。ルーカスの固有スキルはどの様なものなのだろうか。


「固有スキルはなんですか?」

「俺の固有スキルは『神眼(ゴッドアイズ)

「神眼…」


第一王子の神声は洗脳作用のある声だから、神眼は洗脳作用のある眼だろうか。そしたら確かに


「恐ろしい。」

「でしょー?」


ルーカスは自嘲気味に言った。


「神眼はお察しの通り魔力を眼に流すことにより、目を合わしている相手を洗脳できる。つまり、キミも洗脳出来るんだよー。」


成る程。ルーカスが言いたいことは分かった。協力すると言ったのは洗脳されたせいなのではないかと言っているのだ。そして、これからも簡単に洗脳が出来るから利用しているだけかもしれない、と。


「それがなんです?貴方はまだ、魔力を流していないはず。洗脳されているせいで分からないかも知れませんが。たしかにそのスキルは貴方を終始疑いの眼に晒す。しかし、俺の固有スキルだっていつでも貴方の命を刈り取ることが可能ですよ?」


舐めないで欲しい。

俺だって地獄に行く覚悟は出来ている。それに洗脳されていても魔力があるだけで俺は爆発を起こせるのだ。


「ははっ。そんなこと言われたのは初めてだよ。じゃあ改めてよろしく。」

「ええ。」

「さっき言っていた作戦立てる場所は俺の王宮の部屋にしよう。目立っちゃうけど…」

「構いませんよ。」


この決断が正しかったかどうかはわからない。この決断の所為で俺は命を晒した。だか後に俺がこの決断を後悔することはなかった。




***


俺は今日、王宮に呼ばれた。

もちろん、ルーカスから最終作戦確認のため呼ばれたのだ。その前に何度か王宮には来て作戦会議をしている。


「あれが破滅の使い手よ。」

「また血塗れ王子に呼ばれたらしいよ。」

「血塗れ王子って?」

「知らない?あんまり有名じゃないもんね。」

「血塗れ王子と破滅の使い手、異名同士仲良く的な?」

「血塗れ王子ってルーカス様のこと?」

「えっ!ただの美しい王子じゃない。」

「母上のクリスティーナ妃が帝国の出だからよ。」

「お可哀想に。クリスティーナ様も綺麗でお優しいのに。」

「ねー。誘拐事件なんて結構前の話じゃない。」

「ねえー破滅の使い手はなんで?」

「あの人、ジェルディア公爵家の次男でしょ?」

「そうよ。なんか魔法でお屋敷を何回も爆発させたんだって!」

「反省もしないのでしょう。怖いわね。」

「でも可愛いというかカッコいいというか、整ったかおねぇ。」

「ほんとに整った顔。王族の方々も皆んな整っているわ。」


王宮につくと俺は早速噂のネタにされた。侍女達の会話を聞いているとルーカスには母が帝国の出以外は特に批判されていない。いや、むしろ好かれているだろう。

案内役と大きな宮殿の廊下を歩いているとルーカスが歩いてきた。


「オーウェン!よく来たね。私の部屋まで案内するよ。案内役はもういいよ。私が連れて行くから。」

「かしこまりました。ルーカス様。」


案内役は俺の方を向くと一礼し、去っていった。ルーカスはあの日話していた雰囲気と変わり、他人向けの完璧な王子を演じていた。一人称が俺から私になっているし。そういえば俺はルーカスをなんて呼べば良いのだろうか。血塗れ王子は流石に失礼だろう。


「オーウェン?私の部屋に行こう。」


貼り付けた完璧な笑みを向けてきた。気持ち悪い、と思いながら俺も同様の笑みを浮かべる。もしかして俺ら同族かな?


「ありがとうございます王子。是非お願い致します。」


少し歩くとルーカスの部屋があった。中に入るとルーカスは護衛を全員外にだした。


「君達は部屋の外で待ってもらっても?」

「え、しかし王子…」

「友達として話したいんだ。客ではなくて、ね?」

「か、かしこまりました。」


護衛が全員出るとルーカスは俺に笑いかけた。


「いらっしゃーい。ようこそ俺の部屋に、オーウェンクン?」

「お招きいただき以下省略、ルーカス王子?」


やっぱり、ルーカスは腹黒だと思う。


「早速、作戦会議と行きたいところなんだけれどー…」

「なんです?」

「いやー国家騎士団の体験、第一班のね。頼んじゃった!団長のワイアットと、軍事指揮代表のシュバルツ将軍に。えへっ。」


頼んじゃった。

つまり、体験を、すぐ、作戦なしに受けなければならない。

しかも、軍事指揮代表で五摂家の一つルディノット公爵家当主シュバルツ将軍の許可も得たと。

ちなみに、将軍という称号は冒険者で功績を挙げ貰う地位という認識が強い。しかし、国家騎士団の団長や副団長、各班の班長や副班長にも与えられている。ルディノット公爵家の現当主、シュバルツ様は国家騎士団の団長を務めた。今も、国家騎士団の指導係として関わっているそうだ。


それにしても…


「血塗れ公は馬鹿?」


俺はそれ以外かける言葉が見つからない。


「失礼だなぁ。俺は頭が良い方だと思うよー。兄様はちょっと異次元なだけで、俺自身は結構頭いいよ。」

「じゃあ、作戦なしに潜入してどうするの?頭のいいルーカス王子?」

「んー。その事について至急作戦会議をしよう。」


ルーカスの顔つきが変わった、これから真面目な本題に入るみたいだ。俺も思考を切り替えた。


「まずは人材だね。強敵はシュバルツ将軍だね。『剣技』の固有スキルを持っているし。」

「あとは勿論、ワイアット騎士団長と副団長。ワイアット将軍は特別な体質だった気がするけど忘れた。副団長は魔法を得意としていたっけ。」

「そういえば、オーウェンは班の振り分けと役割分かる?」

「あんまり。」

「じゃあ簡単にせつめいするねー。

王宮全体の護衛及び現王、俺の父上ね の護衛が主なのが第一班。この班長は水の魔法が上手。第二班は第一王子の護衛と、公爵家に派遣される。オーウェンの家にも少しいるでしょ?情報の効率化と護衛の意味ね。」

「いた気がする。」

「三班は俺の護衛と竜討伐。知性のない竜が暴走して突っ込んでくるでしょたまに。」

「たしかに。あの、第一班がいるのになんで王子にも班が?」

「俺と兄様だけだよ。俺とルイス兄様は洗脳作用のある固有スキルだから十八歳まで班で護衛がつくんだよ。あぁ、第四班からは地域や城下町担当だから気にしなくていいかな。」


話しているルーカスの顔が少しだけ辛そうに歪んだ。


「そうですか。」

「急に敬語に戻ったね。ねえ、なんで俺の固有スキルが発表されてないか分かる?」


俺がちょうど疑問に思っていたことを問われた。考えられるところは帝国の血筋のものが洗脳スキルを持ったから。洗脳スキルを持った王族は一人しかいらないから。また…


「簡単に処分するため。」


思わず声に出してしまった。慌ててルーカスを見ると分かっていたかのように穏やかに笑っていた。


「やっぱり、オーウェンは賢いなぁ。」

「…申し訳ごさいません。」

「いいよー。俺自身分かってるし、それと敬語はやめてよ。」

「…分かった。」

「うん。団長とシュバルツ将軍は俺の神眼で少しは時間が稼げるだろう。魔力が多い人ほど効きにくいから、魔法に造詣のある副団長と班長二人はオーウェンがどうにか出来る?」

「俺の固有スキルで身体を吹き飛ばしていいなら。」

「治癒魔術師が王宮には居るから大丈夫でしょ。死なないくらいに手加減はできるー?」


固有スキルの練習をあまりした事は無いが可能だろう。


「出来る。」

「ん!5人の司令塔の捕縛と、他の騎士の弾圧。弾圧方法はぁ?」

「神眼はどれくらい使える?」

「あー二人でギリだねぇ。固有スキル使用中は他の魔法も使えないし。」

「俺は魔法を習わしてくれないからな。」

「5人を人質とした弾圧かな?洗脳して二人を動けなくしてから俺は二人を拘束し、暴れない様洗脳をかけ続ける。オーウェンは少し離れて30秒後に固有スキル発動。気付いた他の騎士が攻撃しなくなったら5人の拘束を強くして国家騎士団作戦室に連れ込む。そして取引などにうつる。」

「あまり大事になりたく無いから騎士団の訓練所は孤立していて便利だな。」

「だよねー。」


「ルーカス王子。シュバルツ将軍が、訓練に誘われに来ましたが。」

「通して。」

「はっ。」


ちょうどいいタイミングでシュバルツ将軍が尋ねてきた。俺たちは目くばせするとお互い作り物のような笑顔を浮かべた。

さあ、地獄の始まりと国家反逆者の誕生だ。



***


「こちらが訓練所です。」


将軍の案内で訓練所に行くと大勢の大人が軍服で訓練をしていた。俺とルーカスを見て黙礼している訓練をしていない大人四人は団長と班長達だろう。称号をつけているし、指示らしきものを出している。


「いやぁ、それにしてもルーカス王子が軍に興味を持たれるなんて思ってもいませんでしたよ。」


シュバルツ将軍が人当たりのいい笑みで話しかけてきた。


「ああ。オーウェンが軍に興味があると言っていたため、私も気になったのだよ。あとはオーウェンに見せたいと思ったからでしょうかね。オーウェンには感謝しなくてはね。」

「いえいえ。ルーカス王子、こちらこそ訓練を見れる機会を作っていただきありがとうございます。シュバルツ将軍も私も一緒に参加させていただきありがとうございます。」

「とんでもない。騎士団に興味をお持ちいただけるだけで私は嬉しいのですよ。それにしてもお二人は仲がよろしいのですな。」

「二つ歳は離れているが、話が合うので。」

「ルーカス王子は物知りで、お話ししていて楽しいのですよ。」


作戦室の近くに行くと予想通り団長達がいた。


「ルーカス王子、オーウェン様、初めてお目にかかります。現国家騎士団の団長を務めさせて頂いております、ワイアット・カーターで御座います。」


短髪の好青年の様な人。思ったより若い。スティーブと同じくらいだろうか。


「私は副団長を務めさせて頂いております、グレイソン・ラクセリアです。」


少し長めの白髪を下ろし、眼鏡をかけている真面目そうな人。少し鋭い雰囲気を、持っている。五十歳から六十歳の間だろう。


「第一班班長を務めさせて頂いております、カルラ・ミノカネトです。」

「第二班班長を務めさせて頂いております、ジャクソン・ナヤベクトです。」


班長二人は歳がまあまあいっているな。そういえば全然会っていないが、スティーブは第二班の班長だった気がする。最年少でなったにも関わらず何で辞めたのだろうか。スティーブ元気かな。


「第二王子のルーカスだ。」

「よろしくお願いします。ジェルディア公爵家次男のオーウェン・ジェルディアです。」


当たり障りのない挨拶でその場は収まった。しかし、この後の団長ワイアットの一言で俺とルーカスは凍りついた。


「今日は国王陛下とルイス王子が訓練所に後で来るらしいですよ。ルーカス様の母君も後から来るらしいです。今日は王族が殆ど集まりますね。」


うそ…

王族が後からきたら掌握が難しくなる。ただでさえ、団長と班長が勢揃いなのだ。

ならば王族が来る前に終わらせるしかない。

そう思いながらルーカスを見るとルーカスはわかった様で、頷いて返した。


「ちょっと作戦室の中でシュバルツ将軍とワイアットと話したい。」


ルーカスが切り出した。俺は副団長と班長二人の相手だ。


「でしたら、私は副団長様と班長様達と話していても?」

「喜んでお相手いたします。」


ルーカス達が完全に作戦室に入るのを見ると俺は少し離れながら冷静に30秒を数えながら会話した。


「副団長様は何故魔法を?」

「私は子爵の家の出にも関わらず魔力が多いと言われまして、そのまま魔法を使う道を選んだのですよ。」

「あの、爆発を促す魔法はあります?」

「え?ええ、ありますよ。大規模になるだけ大きな魔法陣と魔力を使うため、時間が掛かりますし、高位な魔術師しか使えませんね。」

「では、一瞬で爆破を出来る人がいたら?」

「それはもう地獄のようですな。勝ち目がないし、被害が大きい。その様な人がいたら会っては見たいですが敵対はしたくないですな。」


地獄…か

まさにそのまんまだ。30秒は経っただろう。班長二人は近くに立っている。これなら俺の固有スキルで3人を無効化出来る。


「お話しありがとうございました。そして申し訳ない。」

「え?どういたしましたオーウェン様?」

「ふふ、いえいえ。ここにいましたね?では地獄へようこそ。」


俺は言い放つと固有スキルを素早く発動させた。出来るだけ抑えて、殺さない様、丁寧に無効化だけを考えて―


バーンバチバチバチ!


小さな爆発が起きた。班長二人は上手く当たり気絶している様だ。副団長はまだ意識があるため、もう一度爆発を起こし吹き飛ばしたら意識を手放した。


「オーウェン、早く3人を作戦室の中へ!」


ルーカスが作戦室から出てきた。ルーカスの眼には大量の魔力がこもっていた。それに息切れがすごい。ルーカスの固有スキルは相当反動が大きい様だ。


「わかった!」


元々持っていた拘束具で3人を拘束すると俺は一人ずつ作戦室の中へ引きずり込んだ。作戦室の中に入ると二人が拘束されていた。5人全員一つの場所にまとめると爆発音を聞いた団員が躊躇いながら近づいてきた。


「団長?殿下?どうされました?」


返事がないことを怪しんだのか団員が入ってきた。


「っ!将軍!団長!殿下っどういうことですかっ!?」

「動かないで。団長や将軍を殺すよ?」

「っ!」


他にも団員が来たが団長達を人質に取られているため身動きがとれない様だ。


「要望を呑んで頂けたら、開放いたしますから。私達とお話し合いしましょう?」


俺は団員達に話しかけた。作戦通りに進んだと思った時騒ぎが起こった。


「国王!お逃げください!竜が来ました!暴走中の竜です。しかもとても大きい!!!」


なんと国王達がもう近くにいた様だ。それだけではない。竜が暴走して近づいて来ている。

段々と足音と声が近づいて来ているため王族達は作戦室に入ろうとしているみたいだ。


「ルーカス!どうするっ竜の出現に王族の接近!」

「くっ!この状況で続けるのは不可能だ!神眼を解いたから取り敢えず逃げるぞオーウェン!」


ルーカスと素早く情報共有をし、作戦室を出ようとしたらちょうど王族達と鉢合わせになってしまった。


「ルーカス!何故お前がここに…!」

「なんでルーカスが!」

「ち、父上。兄上。」

「うっ、ここは…」

「ひゃあ!シュバルツ将軍!」


ルーカスが神眼を解除したため将軍の意識が戻ってしまった。そしてルーカスの母に拘束していた将軍達がバレた。ますます俺らの逃げ場はなくなった。俺らは諦め逃亡を断念した。元々この世界に未練はないのだ。それに俺みたいな人はいつ死んでもいいだろう。作戦室で現王は厳しい目で俺らを見ると問い詰めて来た。


「どういうことだルーカス。それにジェルディア家のオーウェン君もいるじゃないか。」

「父上、騎士団は俺ら二人の様ないらない出来損ないな穢らわしい子供に負けるのですよ?この国はやっぱり衰えてきている!」

「なっ!何を言っているルーカス!」


ルーカスと現王の口論が始まった時とてつもなく大きな音が鳴った。


「陛下!竜が近づいて来ます!」


竜が近づいて来た様だった。

現王は舌打ちをすると団長や将軍を解放し、竜の討伐に向かった。副団長達は使い物にならない様だった。俺のせいで。


「暴走した大規模な竜がこちらに向かっている!竜は複数いる様だっ総員討伐を命じる!」

「「「「「「「はっ!」」」」」」」

「ルーカス達は私の近くに来なさい。」

「「はい」」


俺とルーカスは現王の側に行くと全員で作戦室を出た。空を見上げると複数の大きな竜が舞っていた。


「お前達は後で問い詰める。今はここにいて安全を考えろ。」


現王はそういうと騎士団と一緒に討伐に向かった。


「ルーカス、どうしたの?何がしたかったの?」


ルーカスの母であるクリスティーナ様がルーカスに話しかけた。


「…」

「ルーカス、兄である私にも話して欲しい。そこのオーウェン君も。」


第一王子で正妃アン様の子であるルーカスの兄ルイス王子も話しかけて来た。


「…私はこの国の現状が嫌いだ。ただ、帝国の出であるだけで母上が差別され、帝国の血を引くだけで私が差別される。その他に王族の固有スキルの神がつく洗脳スキルを持つだけで信じて貰えず、努力しているのに固有スキルのせいにされる。兄様だって努力と才能を磨いたのに固有スキルで片付けられる。オーウェンだって素晴らしい能力なのにただそれだけで敬遠される。おかしい、腐っている!だからお前らが怖がり、差別した俺達が必要不可欠である国にしたら変わると思ったんだ。愛されると、必要とされると、穢らわしくもなくなる思ったんだよ。」


ルーカスは吐き捨てる様に言った。

討伐によりすごい風が吹き俺は思わず目を瞑った。そうしたらいつの間にか現王が近くにいた。討伐が少し落ち着いたため少し戻って来た様だった。そして、先程のルーカスの放った言葉も聞いていた様だった。

現王はルーカスの肩を掴むとルーカスの目を覗き込み言った。


「ルーカス、すまなかった。私の力不足で差別なんかを受けさせてしまい、本当にすまなかった。だが、私達はルーカスを愛している。必要としている。ルーカスは穢らわしくも、おかしくも、出来損ないでもない。ルーカスは私達の大事な家族だ。私達はルーカスをいらないと思ったことなど一度もない。」

「そうだよ。ルーカスを私は兄として愛している。」

「もちろん私もよ、ルーカス。」


ルーカスへの王族の言葉をルーカスは涙ぐみながら否定する。


「そんなわけない!父上は帝国の血を引く俺が洗脳スキルを持って生まれてしまったから俺の固有スキルを発表しなかったんだろ!兄上だって洗脳スキルを持つ人間は一人しかいらないから俺が邪魔だろう。ありえない、ありえないんだよ。」

「ルーカス!目を覚ませ!たしかに私はルーカスの固有スキルを公表しなかった。しかし、それは…」

「私がお願いしたのよルーカス。」

「は、母上が…」

「えぇ。ルーカスの神眼を知った人で帝国の血を引くからと言って利用する人が出るかもしれなかったから発表を遅れさせてもらったの。だからカベルウィンド様は貴方を嫌って発表しなかったわけではないのよ。」

「そ、そんなわけ…」

「ルーカス、ごめんね。たった一人の兄なのに弟の悩みを分かってあげられなくて。私はルーカスが邪魔だなんて思っていない。しかもたかが固有スキルなんかで兄弟を差別するものか。私はルーカスをとても大切に思っている。」

「兄上、でも俺は…」

「ルーカス、私はこの国の現王カベルウィンド・ヴィルディストだ。その私がルーカスを愛しているというのだ。国民もルーカスを愛してくれるさ。そして勿論、私やクリスティーナなど王族もルーカスを愛している。ずっと愛している。大好きだよ。今まで気づいてあげられなくてごめんな。」


現王はルーカスをそう言って抱きしめた。クリスティーナ様もルイス王子もルーカスを優しい目で見ている。それを俺は悲しい様な嬉しい様な複雑な心境で見ていた。うすうす気が付いてはいた。使用人の態度や現王の態度。ルーカスは俺と違って必要とされ、愛されている。父に呆れられ、母や護衛をわざと傷つけた俺なんかとは違うんだ。

悶々と考えていたら近くで豪音が鳴り響いた。気付いたらルーカスの近くに竜がいた。ちょうどルーカスが離れて一人心境を整理していたためルーカスは一人だった。


「「ルーカス!!!」」

「きゃあっ!ルーカス逃げてっ!」


現王達が慌ててルーカスに叫んだ。そこにはルーカスの他に副団長が近くにいたが俺たちのせいで攻撃できる体制ではない。俺のせいでこのままではルーカスが死んでしまうっ!俺と違いルーカスは必要とされているのにっ…

そしたら剣が飛んできた。飛んできた方向をみると団長のワイアットが他の竜と闘っていた。


「いけ!オーウェン様っ!ルーカス様を助けられるのは今お前だけだ!」


現王達よりルーカスに近い俺しか…


そう思うと深く考えずに剣を取りルーカスに走って向かった。


「ルーカス!!!」


俺は叫びながらルーカスに近づいてルーカスを突き飛ばすと感覚的に剣を振った。俺は剣を習ったことなどないため無茶苦茶に振った。しかし、何故か剣の道筋が分かり竜を容赦なく斬っていった。固有スキルも使った。沢山の爆発が竜に降り注ぎ、竜を死に追い詰めていった。そして俺は竜の返り血で紅く染め上げられた。

温かくて、鉄の様な匂いだ。


「オーウェン!」


ルーカスは俺に勢いよく駆けて近づいて来た。ルーカスに怪我はない様だ。


「ルーカス。」

「オーウェン!何してるんだよ!大丈夫か?血塗れじゃないか。怪我は?」

「落ち着けルーカス。怪我はない。竜の返り血を浴びただけだ。」

「よ、よかった…」


ルーカスと話していると俺は大きな影に気付いた。竜の影だ。ルーカスは気づいていない様で俺を抱きしめて泣いている。俺は友達がいなかったため自分のために心配してくれていると思うと嬉しくて嬉しくて堪らなくなった。だがルーカスは必要とされている。俺と―違って。

だったら犠牲は俺一人で十分だ。必要とされていない、俺一人で―――


「ルーカス、ありがとう。俺、ルーカスと話していると楽しかったみたいだよ。ありがとう。だけどだめじゃないか、ルーカスは必要とされていた。ルーカスは出来損ないでもない。必要としてくれる家族がいるのだからね。身体を大切にしたよね。じゃあね。」

「オーウェンっ?オーウェン!!!」

俺はルーカスに別れを告げるとルーカスを突き飛ばし竜に突っ込んでいった。魔力が少なくなり固有スキルを使うことは不可能だろう。魔力過度吸収体質を上手く使いこなす方法も知らない。

ふふ、地獄にはこの竜と行くみたいだ。


「お手柔らかに、竜さん?」


俺は剣を落とすと微笑みながら魔力を膨大に取り込んだ。俺自身が魔力で爆発したら竜くらい殺せるだろう。さよなら、ルーカス。さよなら父上、母上…

俺は必要とされたかった様だ…


「オーウェンッッッッ!!!!!」


バチバチバチッッッッドドドバーンッッ!!


激しい轟音が鳴り響いた。



パタパタパタタ…ポタポタポタ…





鮮血があたり一面を覆い尽くした。






立ち込める鉄の様な血の匂いと異様な暖かさ、奇妙な沈黙であたり一面は覆い尽くされていた。誰もが言葉を発さず突っ立っている。普段の任務が終わったあとではないくらいの緊張に包まれながら。

いつもは真っ先に任務終了を言い渡すシュバルツ将軍も言葉を発しない。

ルーカスも突っ立って言葉を発しない。息切れと疲れに呑み囲まれながらおびただしい量の鮮血が広がる中心をそう…



一つの屍を見ながら―――




「ル、ルーカス…?」


俺は鮮血に染まりながらルーカスを見た。そして俺は竜の死体に囲まれていた。

一体、何が起こった?


「オーウェン!」


ルーカスが息を切らしながらやってきた。


「ルーカス?俺生きてる?なんで、俺()()()死んでいいのに…」

「オーウェン!俺()()()だなんて言うなっ!それに俺はオーウェンより年上だ。オーウェンを俺は守って当然だ。それだけではなく、オーウェンは俺に家族との繋がりを改めて教えてくれた。オーウェンのおかげで楽しく過ごせた。そんなオーウェンが一人で勝手に死のうとするなよっ…」


ルーカスは泣きながら俺を抱きしめた。


「な、なんで…ルーカスは愛されていた、必要とされていた。俺はされてないっ!そんな俺を命懸けで助けるなんてルーカスは馬鹿だ。血塗れ公は本当に馬鹿だっ。」



気付いたら俺の頬には温かいものが伝っていた。それは涙だった。


「オーウェン、オーウェン、俺達は必要とされているよ。ねっ。」

「…そんな訳ない。俺はだって俺は破滅だから、破滅の使い手だから。そんな訳ないんだ。」


俯き喋る俺の顎を捉えクイッと上を向かせるとルーカスは俺の目を覗き込んで言った。


「オーウェンは愛されているよ。必要とされているよ。それは俺がオーウェンを必要としているから。オーウェンが行きたくなかったら俺を存在意義とすればいい。俺の為に生きればいい。それだけ、そう、生きていればいいんだよ。俺はオーウェンの存在が必要なんだよ。」


ルーカスも泣いていた。俺は何を今まで見ていたのだろうかと思うくらい世界が輝いて見えた。


「「「オーウェンッッッッ!!」」」


3人の人が駆けつけて来た。父上と母上と兄上だ。


「ごめんなさい。オーウェン、私がちゃんと話していたら。本当にごめんなさい。生きていてよかった…」

「すまない、オーウェン。私がちゃんと父として話していなくて。」

「オーウェン、お兄ちゃんなのに分からなくてごめんね。愛してるよ、大好きだよ。」

「そうよ、私達はみんなあなたを愛してるわ。」



3人は俺を愛してくれていた。嬉しくて、悔しくてだけど、嬉しくて俺は泣いた。泣いて泣いて、気付いたら意識は暗転していたーーー




***


「国王陛下…」


私は気絶したオーウェンを抱き抱えながらベルウェルドに向かい合った。


「ラーウィル、息子のルーカスが世話になった。これからもよろしく頼む。しばらくはオーウェン君を安静にさせておけ。そのうち私とルーカスで見舞いに行く。そなたの息子を巻き込んでしまい申し訳なかった。」


そういうとベルウェルドは頭を下げた。

ということはオーウェンはなんの罪も問われないということだ。そのまま良好な関係を築こうということだろう。ベルウェルドと私は従兄弟にあたる。これからも仲良くしていきたい。


「承知致しました国王陛下。」


「…ラーウィル、オーウェン君と仲直りしろよ。」

「ははっ。君はルーカス様とじゃないか?」

「うぐっ!俺達はいつ間違えてしまったのだろうか。」

「俺に聞くな。俺は今からオーウェンとちゃんと話し合う。そして決着をつける。」

「そ、うだな。オーウェンとルーカスは仲が良さそうだなぁ。羨ましいなオーウェン。」

「お前は本当に息子を溺愛するな。」

「ルーカスは帝国の派閥があり、溺愛できなかったからな。いまからするのだ!」

「ほどほどにな。」


俺はベルウェルドと昔のように喋った後、オーウェンを抱き抱え、公爵家に帰った。

オーウェンを約八年ぶりに使うオーウェンの部屋のベッドに寝かせると妻のリラが泣いてオーウェンを抱きしめた。


「あの時、オーウェンが部屋を爆破した時私が気付いていたら、寄り添っていればオーウェンは孤独を感じることはなかったのに…」

「それは私も同じさリラ。あの時オーウェンの演技を信じて、オーウェン自身を信じてやれなかった。」


私は間違えた。

あの時、オーウェンが反省していない様に見え勝手に危険視していた。実の息子をだ。しかしオーウェンはただ固有スキルで苦しみ、愛や必要性を求めているただの子供なのだ。


「オーウェンごめんね。お兄ちゃんなのに全然会ってあげなくて。」


息子のキリがオーウェンに話しかけた。キリはオーウェンと年が7つも離れていた為あまり話すことがなくずっと学園にいた。


「んっ。」


オーウェンが身じろぎをしながら起きた。


「「「オーウェン!」」」

「あぁよかった。目覚めて。オーウェン大丈夫?」

「オーウェン、俺たちの事分かる?」

「母上、兄上…」


あぁ。本当によかった。オーウェンが生きていてくれて。私はもうオーウェンを手放さない…


「オーウェン、ゆっくり話し合おう。」


これからオーウェンと新しい未来を作る。





***


「んっ。」


鈍い痛みが走り俺の意識が覚醒していった。懐かしい天井が見える。三年ぶりの公爵家の自室だろう。


「「「オーウェン!」」」


3人の声が聞こえた。

「あぁよかった。目覚めて。オーウェン大丈夫?」

「オーウェン、俺たちの事分かる?」

「母上、兄上…」


母とほとんど覚えていない兄が心配そうに話しかけて来た。


「オーウェン、ゆっくり話し合おう。」


穏やかな声が上から降って来た。父の声だろう。


「父上…」


俺はありえないことをした。父に本当に見切れられたのだろう。仕方のない事だ。


「ちちう…」

「オーウェン、済まなかった。」


俺の言葉を遮り父が謝罪した。


「えっ?」

「本当にごめんなさい。」

「ごめんねオーウェン。」


母と兄も謝罪をした。

なんで?俺が悪いことをしたのになんで父達が謝るの?

俺は混乱しながら返事をした。


「私、こそすみません。国を裏切る様な事をして。」

「いや。オーウェンは裏切ってないよ。ベルウェルド、えっと現王が何も問わないと明言したから。」

「そ、そうなのですか…?」

「うん。これからもルーカス様と仲良くする様にだって。」


どうやらルーカスと友達でいるかぎり俺は罪に問われない様だ。ラッキーなのかアンラッキーなのか分からないが。


「オーウェン。今までちゃんと話さなくて済まなかった。今からゆっくり話し合おう。ただ一つだけたくさん話す前にわかっていて欲しい。」

「?なんです?」

「私達ジェルディア家の者は全員オーウェンを愛している。オーウェンは出来損ないでも怖い者でもない。分かったか?」

「つっ。はい。」


俺は気づいていなかったが3人は俺を愛してくれていた様だ。だったら八年間なんで俺を隔離したのだろうか。たしかに隔離は俺が望んだこと。だけど愛してくれていたらもっと早く話してくれていたでしょう?

いや俺はなんて我儘を抱いているのだろう。それこそ俺がわざと手放したものだろうに。

俺が俯いていると父が心配そうに話しかけて来た。


「オーウェン?大丈夫か?どこか痛むか?」

「平気ですよ父上。ありがとうございます。」

「そうか。ではオーウェンが5歳に起こしたあの日から隔離した理由について話すよ。」

「ありがとうございます。お願いします。」


やっと父上達の真意を知れる。

恐怖と好奇心が入り混じった心境で父の話を聞き始めた。


「オーウェンが部屋を爆破した日。オーウェンと私は話したが反省はしていなかった。だからオーウェンは固有スキルを使うことがうまく出来ないだろうと勝手に思い込んだ。固有スキルを悪用したらたまらなきし、大勢の被害が出る。それに…公爵家の名に傷がつくと思ってしまった。最低な父親だ。幸いオーウェンは5歳のお披露目会を終えていた為、学園に入るか後継ぎとして勉強することが無ければ社交会に率先して出す理由がなかった。それをいいことに、いや言い訳にしてオーウェンを閉じ込めた。急に変わった息子とちゃんと話す事を逃げたのだ。そして私は後悔した。だがオーウェンと改めて話すのが怖かった。だから話さなかった。妻とキリはオーウェンと何回も話そうとしたが私がオーウェンを悪く思い込み、何回も遠ざけた。済まなかった。恨むなら私にして欲しい。オーウェンが私達を傷つけるのを恐れ、わざと演技をして私達を拒絶した事を私は気がつくことができなかった。本当にこの八年間済まなかった。」



父は長く話すと涙を流しながら再び謝って来た。

しかし、母と兄は俺とずっと話したいと思い苦しんでいたんだ。父もずっと長いあいだ俺の事でずっと悩んでいて。それだけ俺を考えてくれていた。

嬉しくて、嬉しくて、悔しくて、悲しくて頭がぐちゃぐちゃになりながらおれは3人に向かい合った。


「ありがとう。こんな俺を愛してくれて。ありがとう。俺もずっと愛しています。」


笑いながら言ったつもりだった。しかし俺は笑えていただろうか?




***


オーウェンが俺を庇って竜に殺されそうになった時俺は無我夢中で竜の目を見つめた。そして自分の眼に魔力を込めた。必死に死ねと竜に願った。そしたらいつのまにか血塗れの竜の死体があった。


「ル、ルーカス?」


オーウェンが竜の血で紅く染まりながら俺を見つめて呼んだ。困惑と恐怖、疲れの入り混じった表情を見るととても愛おしく思えた。

この子が俺の親友なのだと。そしたら死んでほしくなくて堪らなくて、消えてしまわない様抱きしめながら話した。それに俺と家族の関係を変えてくれたきっかけはオーウェンだ。オーウェンにも幸せになって欲しい。そう思ったのだ。

オーウェンは家族で話して誤解が解けたと父から聞いた。俺自身もあの後父とたくさん話した。そして、父と仲良くなった。父がめちゃくちゃ俺の部屋に遊びに来る様になった。これは誤算。仲良くなったルイス兄様も沢山遊びに来るがこれはいい。弟のカルネリアスも遊びに来るがそれもいい。父上はやめて欲しい。

だが、家族との関わりをこんなにも楽しく悩める日が来るなど考えてもいなかった。

オーウェンに見舞いのお土産を持って行こうと王宮の魔法庭園に行くと丁度団長のワイアットとワイアットと同じくらいの年齢の青年が会話をしていた。ジェルディア公爵家の家紋入りの洋服を着ている為ジェルディア家のものだろう。

ワイアットには謝罪をしたが改めて謝罪をしようと近くによった。

それが間違えだったかどうかはわからない。


「スティーブ久しぶりだな。元気そうで何より。」

「ワイアットこそ元気そうで何より。それよりありがとな。」

「俺はオーウェン様に剣を渡しただけだぜ。しかしやっぱりオーウェン様は剣の固有スキルでも持ってんのか?めちゃくちゃ剣の才能あるぞ。」

「さぁ?でもオーウェン様は天才肌だからね!」

「お前はオーウェン様好きだなぁ。」

「そりゃあオーウェン様をちっちゃい頃から知ってるからな。それにあの体質と固有スキルだし。苦しいのを分かっていても俺はどうすることもできなかったから。」

「最後、竜に亀裂を入れたのは俺だが殆どがルーカス様の力だ。オーウェン様はルーカス様に大切に思われてるぞ。」

「でもオーウェン様を救ってくれてありがと。」



竜を倒すのを団長が援護していたのか?!

道理で簡単に倒せた訳だ。



「でも、オーウェン様大丈夫かなぁ?」

「…寿命の事ですか?」


「あぁ。魔力過度吸収体質の人は普通の寿命150年のうち半分くらいしか生きた記録がない。それなのに魔力をあり得ないくらい大量に詰め込んだから身体は相当負担がかかっているぞ。」


嘘だ。ありえない。

オーウェンはやっと幸せになれたというのに

やっと楽しくなったのに



「ワイアットは大丈夫?」

「俺はまだ大丈夫だ。スティーブよりは早く死ぬかもしれないがな。」

「二人で最年少記録を塗り替えた仲間だし、親友だ。生き延びる方法は公爵家で考えてる。共同開発だ。死ぬまで付き合うさ。」

「ありがとうスティーブ。だが、それよりもお宅のオーウェン様だぜぇ?」

「何がだ?」


「オーウェン様、今回の一件で相当寿命が散ったぞ。30から40くらいまでしかいまのとこ生きられないぞ。」


「うそだ、そんな…。」



俺はそれ以上二人の会話を聞いていられなかった。

自室に入り悶々と何日も考えているとオーウェンの見舞いの日になった。

話すべきか話さないべきかどうしよう。

俺は何をすればいいのだろう…?

澄んだ青空を眺めながら視界が歪んでいくのを耐えた。





***

今日はルーカスが見舞いに来てくれる日だ。父達との関係も良好化し、体調も万全。兄や母とも最近よく話すし遊ぶ。家族団欒は俺が思っている以上に楽しくて幸せな時間だった。

ふと、温かな日差しが射す窓を眺めた。

ただ、誰にも言えてない事がある。


寿命だ。


最近外に出ないでベッドの上にいたら身体の変化に気づいた。

俺の魔力過度吸収体質を使い無理矢理魔力を吸収したせいだろうと考え魔力過度吸収体質について調べた。

そしたら驚くべき事が分かった。

なんと魔力過度吸収体質の人は平均寿命150年の半分くらいしか生きていないという。そして魔力をあり得ないくらい吸収するほど反動が強い。

それは寿命を削るという。俺は結構寿命が削れているだろう。

こんな親に不孝行な俺に寿命がないなど、天罰だろうか。また親に心配をかけてしまうし、親を長く支えることも出来ない。だから寿命は隠し通そう。I番良い決断でいちばん傷つかないだろう。

でも、俺はこれからどうすればいいのだろうか…


コンコン


「オーウェン様。ルーカス殿下が来られました。」


護衛からルーカスの来訪が告げられた。


「お通しください。」


ルーカスとは久々に会う。ルーカスは俺の初めての友達だと認識してから初めてだ。これからももっと仲良くしていきたいと心を弾ませながらルーカスを見た。俺は12歳のガキだから少し興奮するくらいはいいのだ。


「…オーウェン。」


入ってきたルーカスはおかしかった。無理矢理笑っている様な。変な空気を纏っている。やっぱり俺との関係を反対されたのだろうか?

ルーカスには申し訳ない。


「ルーカス?俺との関係をやっぱり反対された?」


俺が思い切って尋ねると目を見開き驚いた後弱々しく首を横に振った。


「団長のワイアットがオーウェンの剣を褒めていたよ。剣の才能があるって。」


ワイアット団長に褒められた。

その事実はとても嬉しかった。誰かに褒められるのは初めてなのだ。

俺は騎士団に入ろうかと考えながらルーカスをみた。俺との関係を反対されていないのになぜルーカスは暗い表情をしているのだろうか。しばらくルーカスの言葉を待っているとルーカスが決意をした様に顔を上げた。ルーカスの顔には悲痛と哀愁が漂っていた。

まるで俺を憐れむ様に。


「…オーウェン。聞いて欲しい事がある。」


震える声で俺に話しかけた。


「オーウェンの身体についてなんだけど、魔力を無理に詰め込みすぎたみたいで、あっ、その、ふぅ、じゅ、寿命が…」


ルーカスが話し出したのは俺の寿命の事だった。

なんだ。知っていたのか。

諦めの様な喜びの様な気持ちが溢れた。

寿命についてを自分で話す事がなくなったから嬉しかったのだろう。俺はつくづく愚かだと思う。


「ルーカス。知っていたよ。ルーカスも知っていたんだね。」


自分でもびっくりするくらい穏やかな声が出た。

ルーカスは目を見開いたあと、ジワリと涙を浮かべた。


「オーウェンッ。知ってたの?」

「うん。言わないつもりだったのだけど知られちゃったね。」

「つっ、おれはっ俺はオーウェンが助かる方法を探す。俺のせいでこうなってしまったのだから絶対に探す!いつでも寄り添うから、いつでも支えるから俺より先に死なせない!」


ルーカスは叫びながら俺を心配してくれた。ルーカスは罪悪感も抱えているのだろう。

そんな事しなくても心配してくれるだけで嬉しいのに。それに俺は死を怖くないし、恐れてない。そう恐れてなんか…


「ルーカス。ありがとう。でも俺は生きたいわけではないっ…」


ルーカスに話している途中視界がぼやけた。気付いたら止めどなく涙が流れてきた。


「つっ。こっこれは。」

「オーウェン。生きよう。一緒に生きよう。オーウェンはやりたい事あるでしょ?やろうよそれを。ね?俺が支えるからオーウェンも俺を支えて?一緒に生きよう。生きたいでしょ?」


ルーカスに言われた。

親に迷惑がかかるから。兄様がいるから。

生きなくても良い。俺は生きなくてもいい。でも、でもでもやっぱり俺は生きたいっ…


「ゔん。行きたいよルーカス。剣をしてみたい。魔法を使ってみたい。騎士団に所属したい。ルーカスと話したい。友達が欲しい。いっぱい色んなことをしたいのっ。望んじゃダメなのに望んじゃうのルーカスっ。」

「うん。望んで良いよ。いや、望め。第二王子ルーカス・ヴィルディストがそれを許そう。ね。」


ルーカスが抱き寄せてきた。暖かい体温に囲まれながら俺は幸せと死への恐怖を噛み締めた。幸せを感じるほど死への恐怖は強くなる。分かっていても俺は幸せをルーカスと追う方を選んだ。






***


国家騎士団

最年少23歳の班長就任年齢を大幅に更新した見た目麗しい少年がいた。齢15歳で第三班の班長に上り詰めた強者だ。

名前をオーウェン・ジェルディア。

ジェルディア公爵家の次男であり、第二王子ルーカスの専属従者の位も与えられている。

童顔で綺麗に切り揃えられた小豆色の髪を揺らし、可愛さと洗練さを感じさせる顔をしている少年は剣の腕前だけではなく魔法も扱えるという。




「オーウェン班長!」


班員の中で比較的最近に入ってきた青年が尋ねてきた。俺は15歳に班長になってからずっと班長を務めている。副団長への昇格の話が来たが、ルーカスの専属なので断ったのだ。


「どうした?」


青年が竜討伐中に話しかけてくる為、竜を倒しながら尋ねる。今日はルーカスが来ている為皆んな活躍しようとする為仕事がスムーズだ。


「なんで班長はこんなにも剣が上手いのですか?班長の固有スキルって剣技系じゃないっスよね?」

「えー。違うよ。なんでか?分かんない。才能があったんじゃない?」

「そうでしょうけどっ!てか班長はなんで破滅の使い手って呼ばれているんですか?」

「なんででしょうねぇ?」

「笑ってないで教えてくださいよー!」


破滅の使い手


今じゃ俺の名誉なあだ名となっている。


「てかなんで班長が倒した竜とか魔獣とか、場所とかたまにめちゃくちゃに破裂してるんスか?」

「えーそれは…ちょ!前見て!竜が突っ込んで来てる!」


青年は俺との会話に夢中で向かってくる竜三匹を認識していなかった。


「うわぁぁぁっ!やばい!」


青年だけでは間に合わなかったので俺は仕方なく剣を構え、切り倒した。


「はっ班長!まだ二匹!」


迫ってくる竜二匹に背を向けていたため焦ったのか青年が俺に叫んでいる。叫ばなくても分かるというのに。



「『破滅』」



手を掲げると固有スキルで竜の内部を爆破し、被害を少なくした。

竜はお腹から破裂する様に爆発し、血や臓器をぶちまけた。おかげで俺は血塗れだ。



「オーウェン。」


ルーカスがゆっくりとやってきた。そして青年の方を見た。青年は混乱している。他の団員達も全員見ている。公に俺の固有スキルを知らせるのは初めてかな?

俺は微笑みながら言い放つ。


「俺の固有スキルはこれ、『破滅』だよ。」


団員は黙り込んでしまった。やっぱりこの固有スキルは怖いだろうか…


「すげぇ!カッコいいです!」

「まじすごい!」

「え!いいなぁ。」

「固有スキルまじかっこいい!」

「だから破滅の使い手!」

「ピッタリ!」

「強いっ!」


差別や嘲笑、畏怖は無かった。

俺は驚きながらルーカスを見つめた。ルーカスは笑いながら


「やっぱり俺がサポートしなくても大丈夫だっただろ?破滅の使い手」


と言い放った。俺に着いた竜の血をルーカスは自分の顔に一筋塗りながら。


「血塗れ王子、ありがとな。」


俺の実力や固有スキルを求められ、必要とされる快適なこの空間で俺は幸せを噛み締めながら生きていく。ルーカス・ヴィルディストとオーウェン・ジェルディアは澄み渡った空を二人一緒に見上げる。湖に浮かんでいた花が二つ、同時に空に舞った。それはまるで二人の繋がりを表している様だった。

騎士団第三班班長、破滅の使い手。そしてルーカスの専属従者、ルーカスの親友として、いつ途切れるか分からない、人より散るのが早いかもしれない命と身体を持ちながら生きていく。

















もし不幸でも破滅でも、変えることは出来るみたいだ。

読んでいただきありがとうございます!

章ずつ区切った長編版もだしています。そこには番外編も書こうと思っています。

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