表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
169/177

20240107 その4



「トマスさまっ探しましたわよ」


「こんなところにいらっしゃったのね!」


「今夜こそ逃がしませんわよ!」


 次は何だ、とげんなりした顔になって、リリィとキースがのろのろと視線を巡らす。目付け役(シャペロン)を伴った女性の集団が何やら言い争いながら集団で移動してきているのが見えた。

 ルークの姿は花壇の中から消えており、ブレアの背後には黒くて長細い布袋が二つ転がされている。後始末に慣れている感じが非常に恐ろしい。……ひょっとして、普段からこんなことばかりやっているのだろうか。


 ――うん、普通にやってそう。


 リリィとキースはそっと黒い袋から目を逸らした。


「トマスさま、ここではっきりさせていただきますわ!」「わたくしたちの内の誰をお選びになるのか、今ここでおっしゃってください」「そうですわ。このわたくしこそが一番だと、皆の前でそうおっしゃってくださいませ!」「違うわ、トマスさまと結ばれるのはこのわたくしなのよ!」「あなた何を言っているの! トマスさまと結婚するのはこのわたくしです!」


 花壇の前に集まった女性たちの口論は激化の一途を辿っていた。より大きな声を出して相手を言い負かそうとするため大変騒がしい。これでは兄が何かを言ったとしても聞こえないし……聞くつもりもなさそうだ。全員自分が選ばれると信じて疑っていない。


 リリィとキースは無言のまま踵を返し、草花を踏んで折らないように気を使いながら東屋へと移動を開始する。

 二人は躊躇うことなく兄を見捨てた。良心の呵責に苛まれることもなかった。自分たちは何も見ていないし聞いてもいない。使用人姿の自分たちに今できることは、速やかに高貴な人々の視界から消え去ることだけだ。


「トマスさま、どこに逃げるおつもりですかっ」「お待ちになって!」「今夜こそ逃がしませんわよ」「ここではっきりさせていただきますから。わたくしと結婚するのだとはっきりおっしゃってください」「何を言っているの! トマスさまと結婚するのはわたくしよ!」「ちがうわ。トマスさまがお優しいからといって、勘違いなさらないで」「あなたこそ何を言っているのよ」


 同時にトマスも別の方角に逃亡したようだ。最初に捕まえた女性が結婚できるという訳でもないだろうに、逃げられると追いかけずにはいられないものらしい。騒ぎ声が遠ざかってゆき、やがて夜の庭園は静けさを取り戻した。


 これでようやく一息つける……と思ったのに、辿り着いた真っ暗な東屋の中では、ブランケットを頭から被った令嬢が、ひっくひっくと肩を震わせて泣いていた。

 リリィとキースの顔から生気が失われた。寄せては返す波のように絶え間なく、面倒な人が目の前に現れる。……泣きたいのはこっちの方だ。


「もういや……田舎に帰りたい……こんな怖いところにいたくない……」

 

 胸を高鳴らせながら幼い頃に憧れた王子様と一緒に舞踏会にやって来たら、王子様は目前で暗殺者に襲われて地面に倒れて動かなくなり、その光景を目撃してしまった彼女は『何も見なかったことにしろ!』と脅迫された。……故郷に帰りたくなる気持ちはわからなくもない。


「まぁ、物語じゃないんだから、王子様と結婚できたとしても『二人はお城でいつまでも仲良く幸せに暮らしました、めでたしめでたし』という訳にはいかないわよ……」


 リリィは慰めるつもりで声をかけたのだが、


「だったらお城で暮らさなければいいのよ!」


 その言葉の中の何かが彼女を刺激してしまったらしく、自称アレンの幼馴染は、勢いよく立ち上がって夜空を振り仰いだ。ブランケットが地面に落ちて、涙と鼻水で真っ赤になっている顔が露になる。

 呆気に取られて固まったリリィの横で、キースがこれ見よがしにため息をついていた。余計なこと言うから……とその顔にはっきりと書いてあった。


 ……声をかけたことを心の底から後悔しているので、そんな目で見ないでほしい。


「やっぱり、アレンさまはこんなところにいるべきではないわ。もっと自由に生きないと。そうよ。わたしはずっとアレンさまのおそばにいてお守りしなくっちゃいけないの。アレンさまは会う度におっしゃるの。わたしの笑顔を見てると癒される。難しいことは言わない所が可愛いよって。そうやって自然体で楽しそうにお喋りしている姿を見ているだけで心が満たされるって。そうよ、アレンさまはわたしのことを、誰よりも大切にして下さっていたわ!」


 普通の令嬢というものは存外立ち直りが早いらしいとリリィは学んだ。……が、果たして彼女を『普通』に分類していいものだろうかという迷いも生じている。


「ねぇ……それって、自分の感情や意見を持つな、逆らわずにこちらにすべて従えって意味にも取れるわよ? しかも別にあなたである必要ないように思えるんだけど……」


 ……大丈夫かこの子? とリリィは思わず心配になって尋ねる。


「……ちがうわ。あなた、何もわかっていないのね」


 彼女は何を言っているんだ、と言いたげな表情をリリィに向けた。

 そこは否定しないし、懇切丁寧に説明されたとしても理解できる気がしない。


「アレンさまはわたしだけを必要としているのよ? ほら、他の人には、アレンさまの本当の気持ちなんて理解できないのよね! やっぱり、わたしじゃなきゃダメなのよ!」


 唇の両端がゆっくりと持ち上がり、大きく見開かれた目がキラキラと輝き始めている。これはよくない兆候だった

 言葉にすることで気持ちの整理がついた彼女は完全に自信を取り戻した。ダンスホールで対面した時と同様に、淀みなく己の正当性を主張し始める。いつの間にやらすっかり元通りだ。


「アレンさまはわたしにだけ本当の気持ちを伝えてくれているの。そして、わたしだけが理解することができるの。アレンさまはわたしに癒されて嫌なことを全部忘れられるのよ。わたしたちはお互いがお互いを必要としているの。だから一刻も早くアレンさまをこんな汚い場所から連れ出してあげないといけないわ!」


 これは、お墓をどこに建てるかという話なのだろうか? 彼女の中ではアレンはまだ生きているのかそれとも魂だけになっているのか……どっちなのだろう。

 キースはあからさまに気味が悪いものを見てしまったような顔を彼女に向けている。さすがにそれは失礼だろうと、リリィは軽く肘で脇腹を小突いておいた。


「あなた本当は私のことが羨ましいんでしょう? 私のことが羨ましくて仕方がないのよね? アレンさまはわたしのことだけを愛しているのよ? わたしだけが本当のアレンさまを理解しているの。お互いに必要とし愛し合っているの。それってとても素晴らしいことなのよ。あなたには一生理解できないと思うけど!」


 確かに一生理解できないと思うし、したくもない!

 そう思ってしまったのは、負け惜しみではないはずだ。


 頬に突き刺さるようなキースの視線が痛い。……反省しているから、そんな不満そうな顔でこちらを見ないで欲しい。


「そうですね、大変羨ましいです。素晴らしいことだと思いますわ」


 返事をしないと変に絡まれそうだったので、リリィは顔を伏せてそう答えておいた。殊勝な態度は大変お気に召したらしく、彼女は顎を持ち上げて勝ち誇った笑顔を浮かべた。


「そうよ。アレンさまに選ばれたわたしは、この国で一番しあわせになれ……」


「お話の途中ですが、我々はお顔を拭くためのお湯と布を取りに行って参ります」

 

 キースは強引に言葉を遮ると。突然の大声に驚いた彼女がきょとんとしている隙に、リリィの肩を両手で掴んでくるっと体を反転させ……


「髪を直せる侍女も呼んでまいりますので、今しばらくこちらでお待ちください」


 慇懃無礼に一礼してから、リリィの手首を引っ掴んで東屋の外へと飛び出した。


「ちょ……ちょっと待ちなさいよ! まだ話は終わっていないわ。どこに行くのよ。戻りなさいっ」


 我に返った彼女が背後で怒りの声を上げている。

 キースはリリィを引きずりながら、暗い方暗い方へと向かってゆく。幸いにも、この世界のリリィはそれなりに運動しているらしい。普段より早く走れるし、足がもつれるようなこともなかった。


 屋敷からの光が届かない真っ暗な場所に辿り着いたところで、キースは足を止めた。彼女が追いかけきている様子はない。呼吸を整えてから、リリィはちらっと背後を振り返った。

 ここからは見えないが、一番気分がいいところで中断させられたのだ。面白くないに決まっている。もしかしたら、誰か捕まえて話の続きを聞かせないことにはどうにも気が収まらないという状態に陥っているかもしれない。


「……あの子、あそこに置いて行って大丈夫だったのかしら?」


「後はブレアさんが何とかしてくれますよ……もうさっさと図書室行きましょう…………これ以上ここにいると、昔の事を思い出しそうですっごく嫌なんですよ。ダンスホールにも戻りたくない」


 言い訳めいた言葉を耳にしてようやく、キースがこの場からリリィを引き離そうとした理由を理解できた。


 ――ここには、現実ではもう失われてしまったものが、まだ残っていた。


 リリィの脳裏に一瞬ボロボロの肖像画が浮かんで……消える。


「私は……昔のことなんか、思い出しもしなかった。正直それどころじゃなかったし。リリアも屋根にのぼることしか考えてないわよ」


 生きている父親の姿を見ても、リリィは何とも思わなかった。この世界の両親の姿はあまりに現実と違いすぎたからなのだろうか。代役として急遽連れてこられた役者のように感じていた。

 だけど、『兄たち』は、違ったのかもしれない。

 ルークが不機嫌だったのも、ずっとリリィが監視されていたことも、トマスが不在がちだったのも、きっとその全部が同じ理由だった。


「なら、いいです……」


 どこかぼんやりとした声で、キースはそう答える。

 リリィはムッと眉間に皺を寄せてキースとの距離を詰めると、両手を大きく広げて勢いよく彼の頬を両手で挟んだ。パンッ! という平手打ちのような音がして、うっかり熱いものに触れてしまったかのように手のひらがヒリヒリした。


「……いったぁ……バカなことしたぁ……」


 情けない声でそう言いながら、キースの頬に両手を押し付けたままぎゅっと目を瞑って想定外の痛みに耐える。


「いや、絶対に俺の方が痛いんですけど。……手袋してないの忘れてたんですね」


 呆れ顔でそう言ったキースの両頬は、リリィの手が触れていない部分まで真っ赤になっていた。


「キースごめんー」


 リリィは神妙な顔で謝罪の言葉を口にする。キースの言う通り手袋をしているつもりだったので、革が衝撃を吸収してくれると思い込んで力いっっぱい叩いてしまったのだ。……びっくりするくらい痛かった。


「わざとじゃないのわかってるんで、いいです。……誰かに見つかる前に急いで図書室行きましょう。言い訳できない顔になってるんで」


 目は充血し、往復ビンタされたかのように両頬は真っ赤。まさに見る者の想像力を掻き立てるようなボロボロ具合だ。しかし、涙に溶けそうになっている琥珀色を瞳からはすっかり翳りが消えていた。痛い思いをすることにはなったけれど、気分が切り替わるきっかけにはなったのだろう。


「本当にごめん……」


「だから憐れまれる方が辛いんですって。さっさと図書室で本見つけて、これ以上何か起こる前に現実に戻りましょう。このまま何事もなく朝日を拝める気がしないのはなんでだろう……」

 

「そうね……私もさっさとこんな夢から抜け出したい。贅沢にも飽きた」


「伯爵家没落していないからここにいた方が将来安定してそうなんですけどねー」


「数年後には没落するわよ、ここ」


 リリィはきっぱりと断言した。……が、キースから半信半疑の目を向けられた。


「贅沢しすぎなのよ。あと使用人が多すぎる。私は現実世界の領地収入しかわからないけれど、多分そんなに差はないと思うのよ。そうなると、支出の方がはるかに上回っているはず。もってあと五年ってとこかしら」


「それで、リリィお嬢さまが王族と結婚することになったんですかね?」


「うーんどうなんだろう……王族との繋がりを強化したからと言って、収入が劇的に増えるという訳ではないだろうし……てっとり早いのは不要な支出を抑えることなんだけど、一度贅沢に慣れてしまうと、生活の質を下げるのに抵抗を感じるのかもしれない」


「……結局この家没落するんですね」


 キースが何とも言えないような表情で屋敷の方に顔を向けた。

 屋敷の中はどこもかしこも昼間のように明るく照らされ、闇の中で白く浮き上がって見える。床をピカピカに磨き上げたダンスホールでは楽団が奏でる音楽に合わせて、着飾った紳士淑女が夜通し踊り続ける。軽食室には最高級の食材で作られた料理や、海外から取り寄せた珍しい果物で作られた氷菓が次々に運び込まれ、高価なお酒が惜しげもなく振舞われていることだろう。普段よりも着飾った使用人たちは息つく暇もない。


(でもこの美しく飾られた箱の中は空っぽなんだわ……)


 着るものも食べるものも、実はもうすでに身の丈に合っていない。

 ……ただ権威を誇示するためだけに、贅沢な暮らしをしている。


「誰か来ます」


 キースが緊張した声でそう言ってリリィを背中に庇った。前方の木陰で炎が一つ揺れている。蝋燭で足元を照らしながら誰かがこちらに向かって歩いて来ているようだ。相手側がこちらの存在に気付いたのか、何かの合図のように炎を左右に大きく三回揺らした。


「あートマスさまですね、あの感じ」


 気が抜けた声でそう言って、キースは横に一歩ずれる。その場で待っていると、真鍮製の小さな手職を持ったトマスが闇の中から現れた。背中を丸めてよろよろ歩く姿はまるで老人のようだ。


「何とか全員まいた……」


 トマスはへなへなとしゃがみ込んで明かりを地面に置くと、そのまま背中を丸めてがっくりと項垂れる。


「お疲れさまでしたぁ」


「没落してないと大変なのね」


 二人は全く気持ちのこもっていない労いの声をかけた。


「まぁ、未婚の若い伯爵令息な訳ですし? この世界の僕って、アレンと同様に女性関係がかなり派手なんだよね」


 そう言った声はひどく平坦で冷たく感じられた。俯いているため表情はわからない、単純に疲れているだけなのかもしれないが……普段と違う兄の様子にリリィは少し戸惑う。傍らに立つキースも不安げな表情を浮かべているから、違和感のようなものを感じたのかもしれない。


「二人とも気付いてないみたいだけど、ここって、前回の夢より少し過去の世界なんだよ。この舞踏会でアレンはマーガレットに出会う。アレンに気に入られたことによって、ハウスメイドだったマーガレットはリリィの侍女になるんだ。リリィと結婚すれば、もれなく侍女のマーガレットもついてくるって訳だね。それで無理なく二人一度に手に入る」


「……は? この世界のアレンって私と結婚する気あったの? じゃあ、あの……幼馴染だとかいう彼女は何だったのよ……」


 リリィは思わず背後を振り返った。しかし、ここからは東屋の様子はわからない。置き去りにされた彼女は今何を考えているのだろうか。


「僕たちは仲間内で女性のイニシャルを数字に置き換えたカード賭博をしているんだ。それにアレンも参加している。例えば『A』がつく名前はそのまま数字の一のカードになる。絵札はそのまま『J』と『Q』と『K』だ。同じカードは二度と使えないルールだから、適当に始末してまた新しいカードを集めることになる。前回の夢の世界の中で、あの子は登場しなかっただろう? 結局、彼女は賭け事に勝つために必要な一枚のカードに過ぎなかった。適当に言い包められて遠くに追いやられたとかなら、まだマシな方。……そういうことを平気でやってのけるんだ。この世界の僕とアレンはね」


 トマスは地面に向かって淡々と説明を続けている。その姿を見下ろしながら、リリィは説明のつかない不安が心にじわじわと広がってゆくのを感じていた。

 顔が見えないせいだろうか、兄が知らない人のように見えてくる……


「この夢の世界には『王家の色』が存在しない。だから、ここでは第一王子であるアレンが次の王様になる可能性が高い。親に尻拭いしてもらえる今の内に遊んでおこうって感じで、やりたい放題。……いつか刺されるんじゃない?」


 あまりに衝撃が大きすぎると……何も反応できないものらしい。脳が兄の言葉を理解することを拒否している。リリィとキースは思考停止状態に陥った。


「……うん。僕もこの国終わったなって思ったよ? 二人とも息はしといてね」


 ははははっと投げやりに笑って立ち上がると、兄はキースとリリィの鼻を両手で同時につまむ。指先が離れた途端に、二人は「ふはっ」と大きく息を吸った。


「因みにルークは海の向こうの国の王子様ね。こっちでも女嫌いの潔癖症で有名らしいよ。今はこの国に留学中なんだって。自国の王子様の婚約者が他国の王子様と仲良く腕を組んで退場すれば大騒ぎにもなるよねぇ」


 一歩進むごとに人垣が割れた謎現象の原因が解明されたところで、トマスはジャケットの内側から一冊の本を取り出した。


「そんな訳だから、悪夢に絡めとられる前に、二人は現実に戻りなさい」


 展開の速さについてゆけずに、リリィとキースはパチパチと目を瞬く。一度に与えられた情報量が多すぎてうまく事態を飲み込めない。

 まるで手品を見せられているかのようだった。恐らく服に隠しポケットなどの仕掛けがあるのだろうが……今はどうでもいい。

 目の前に、探し求めていた本がある。黒い表紙に描かれた金色の六芒星が、闇の中でぼうっと淡く輝いている。あの本に触れれば、この夢から抜け出すことができるのだ。


「執務机の一番上の引き出しに入れてあったよ。中には自分に都合のいい嘘と妄想ばかりが書いてあった。……つまりここは、亡者の夢の中ということになるんだろうね」


 トマスは本の表紙を開いて指先でパラパラとめくり始めた。中には乱れた手書きの文字でびっしりと埋め尽くされている。左上には日付が記されていた。


「頁の真ん中に手のひらで触れれば戻れるはずだよ」


 丁度全体の半分まで捲ったあたりで手を止めて、兄はすっとリリィの胸の前に()()()を差し出した。


「……お兄さまは?」


 掠れた声でリリィは尋ねる。緊張のせいなのか、他に何か理由があるのか、口の中がからからに乾いていた。


「僕は、戻る『時間』がリリィたちとは違うんだよ。だから気にしなくていい」


 トマスは落ち着き払った表情で静かに微笑む。違和感の正体に気付いたリリィは、挑むような目をして兄に尋ねた。


「……ねぇ、お兄さま、今いくつなの?」


「それは内緒」


 そう言って笑ったトマスはリリィの良く知る『兄』の顔をしていた。……だからきっと、『過去』ではないのだ。


「二人とも手を出して頁に触れなさい。これは当主命令ね。君たちが戻るのを確認したら、これは図書室の中に隠しておくよ。……腕がだるくなってきたから早くしてくれる?」


 いつものようにやる気のなさそうな声でそう付け加えてから、トマスは柔らかく目を細めた。

 観念したかのように唇を噛んで頷いたキースが、リリィの手を取って頁の上に乗せてから、自らの手をその上に重ねる。左上に書かれた日付を確認しようと目を凝らすが、突如ページが白く輝き始めて文字をかき消してしまった。


 視界が白一色に塗りつぶされる。


「……大丈夫。悪い夢は僕の手で終わらせておくから」


 最後にそんな声を聞いた気がした。




 すみません。中途半端になってしまったのですが、とりあえず出します。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ