お母さんのために
都会から離れた小さな村、リュイラタウンは緑豊かな農村。風の女神の名を冠するその村は、森の木々と鳥たちが共存するのどかな集落だ。野菜や果物、お花に畜産。人々の暮らしに必要な産業を担う。
朝早く、荷車を引いて花の圃場へ向かう少女がいた。青緑色の瞳にブロンドのふんわりした髪を耳の辺りで2つにまとめている。
「おはようございまーす」
花の出荷を行う小屋に響き渡る少女の声。少女の名はフィリア。病弱な母の代わりに花屋で働いている。少ししてから小屋の向こう側、温室の方から女性の声が返ってくる。
「フィリアなの?こっちにいらっしゃい」
ここは花を育てる花卉農園。フィリアは声の主、ルーセント夫人の元へ向かった。ガラス張りの大きな温室の中で、たくさんの花々が咲き誇る。外はまだ肌寒い時期だが、温室は昼間の日差しで温められて夜も温度はあまり下がらない。その為、ルーセント夫人の育てる花々は店でも人気がある。珍しい品種も多く花色も多いことから、人々の心を虜にするのだろう。フィリアは彩り豊かな花たちを眺めながら温室を進んでいく。そして、ピンク色のバラの手入れをするルーセント夫人を見つけた。
「今日は随分早いのね」
フィリアの足音に気付き、ルーセント夫人は振り返る。長い金髪を白いリボンでまとめ、白いワンピースの女性。そこにはいつものルーセント夫人の笑顔があった。彼女の笑顔を見ると、フィリアはとても安心する。しかし、今は少し戸惑ってしまうフィリア。
「は、はい…。目が覚めてしまって」
「そうなの?何か悩み事?」
いつもより元気のないフィリアに、ルーセント夫人は少し屈んで親身に問いかける。ルーセント夫人は村の有権者の一人で、花卉農園の経営者。草花の手入れをする為、ワンピースの上に作業用マントを羽織り、ツバの付いた帽子をかぶっている。青く優しい瞳は少し幼く見えるが、多くの人を魅了する。植物学者の肩書の他、若くして錬金術の知識もあり錬金術士協会の会員なのだと噂する者もいる。フィリアの母の病状を知り、花屋の仕事をフィリアに紹介したのはルーセント夫人だった。まだ成人していないフィリアの保護者としても名乗りをあげ、フィリアもルーセント夫人に懐いている。血縁関係は無いが、フィリアとルーセント夫人は容姿が少し似ているせいか、歳の離れた姉妹のようにも見える。
「明日はお母さんの誕生日なのに、なにも買ってあげられなくて…」
「そうなのね。お母様が喜ぶ何かを一緒に考えましょう」
俯くフィリアを励まそうと、ルーセント夫人は優しい笑顔を向ける。
「お腹空いてない?」
「あ…はい…」
「これから朝食なの。一緒に食べながら考えましょうよ」
そう言うとルーセント夫人は手入れ用のハサミをしまい、フィリアの手を引いて屋敷へと戻る。
トーストにハムエッグ、特製シロップの入ったミルクティー。
屋敷に戻ると、ルーセント夫人は手早く二人分の朝食を用意してくれた。
「お誕生日プレゼントって悩むわよね」
「そうなんです。何もいらないと言われて…あ、おいしい…」
ミルクティーは花の蜜のような味がして、フィリアの沈んだ気分を和らげた。朝から何も口にできずにいたフィリアだが、ルーセント夫人と食事をする事で気持ちが少し軽くなった。ルーセント夫人は早くにご主人を亡くし、子供もいない。たまにフィリアを食事に誘い、こうして二人はいろいろな事を話すようになった。そして今日は朝食を一緒に食べて、誕生日プレゼントについて話し合う。食後のミルクティーを飲みながら、ルーセント夫人は何かを閃いた。
「ケーキを作ってみない?」
その言葉にフィリアは目を見開いて、その目を輝かせる。
「お誕生日ケーキ!お母さんもきっと喜びます…!あ、でも…」
しかしフィリアはすぐに落胆してしまう。
「お母さんが元気な時、私の誕生日にケーキを焼いてくれて…おいしかった」
「ごめんなさい。悲しい事を思い出させてしまったわね…」
「いいえ。材料を買うお金も無いし、作り方もわからないし…」
また心配をかけてしまったとフィリアはルーセント夫人に弁明するが、現状は八方塞がりだった。ルーセント夫人もどうにかフィリアの力になりたいと思い、考えを巡らせる。
「ケーキの材料はうちに揃っているわ。買い足す必要は無いから…
そうだ!明日の仕事は15時で終わりにして、うちにいらっしゃいな」
二人の作戦会議は終わり、フィリアは夢を見ているようだった。母のためにケーキを作る事など、一人では考えもしなかったからだ。花屋へ戻る時間が近付き、フィリアは圃場の小屋へ向かう。いつものように出荷分を荷車に積み込むフィリアをルーセント夫人は呼び止める。
「明日の仕事が終わったら、メモに書いたものをイルメイラの店で受け取って来てほしいの」
「あ、あの。材料のお代は…」
「私の代わりに品物を受け取る仕事はどうかしら?
材料費はその報酬って事にしない?」
「わかり…ました」
不安そうなフィリアにルーセント夫人は笑顔で仕事を依頼するのだった。フィリアもその笑顔に元気をもらい、ルーセント夫人からメモを受け取る。そのメモを大事にカバンへ入れ、いつものように花屋へ向かった。
翌日の朝、フィリアが花屋に着くと店長が声をかける。
「おはよう、フィリア。今日は15時になったら上っていいよ。話は夫人から聞いてるから」
そう言うと、店長は配達の準備を始めた。フィリアも開店準備に取り掛かる。
15時。フィリアは支度をして花屋を出る。
イルメイラの店は花屋から少し歩いたところにあった。アンティークなドアを開けると、軽やかな鈴の音が鳴り響く。イルメイラは店の奥のカウンターで棚の整理をしていた。鮮やかだが、品のある異国の伝統工芸品を着こなすイルメイラ。
「フィリア、こんにちは。夫人のお使いなんだってね」
イルメイラは女性に見間違うくらい美しい男性だ。長い黒髪をいつもおしゃれなかんざしでまとめている。瞳と同じ紫色の濃淡二色がデザインされた花のかんざしが印象的で、動く度にゆらゆらと花が揺れる。
「あ、はい。これを受け取るようにと…」
普段はイルメイラの店に来る用事もないフィリア。恐る恐る、カバンからルーセント夫人のメモを差し出す。面と向かってイルメイラと話すのは、なんだか少し緊張するのだ。
「フィリアは仕事をたくさん頑張っていて偉いね。
そこにある髪飾りを一つ選びなさい」
「え?私は…」
困惑するフィリアをイルメイラは笑顔でなだめる。イルメイラの指差す先には多国籍なアクセサリーがたくさん並べられていた。
「今日は年に一度の花の記念日なんだよ。夫人と僕からのささやかな贈り物だ」
「お花の記念日…知らなかった。えと、イルメイラさんと同じのがいいです」
「フィリアの髪なら…うん、これにしよう。色違いだけど、お揃いだ」
イルメイラは同系色の赤い花が3つ付いた髪飾りを選ぶ。そしてその髪飾りを紙袋に入れて、フィリアに手渡す。
「夫人のところに行ったら、髪飾りをつけてもらうといい」
「はい!ありがとうございます」
フィリアは受け取った紙袋をカバンに入れ、イルメイラの店を出る。なんだかフィリアの心は温かくなった。ささやかな暮らしだが、フィリアはたくさんの大人に支えてもらっている。感謝の気持ちを胸に、ルーセント夫人の屋敷を目指す。
屋敷に着くと、ルーセント夫人が出迎えてくれてくれた。
「いらっしゃい。疲れたでしょう?お茶にしましょう」
リビングのテーブルには、手作りクッキーの乗ったお皿が用意されていた。すぐに二人分の紅茶を手にしたルーセント夫人が現れる。
「ルーセント夫人。これ、頼まれたものです」
ルーセント夫人はテーブルに紅茶を置いて、フィリアの紙袋を受け取る。
「ありがとう。さぁ、座って。少し休みましょう」
フィリアは椅子に座って、ウサギの形をしたクッキーを一口食べる。甘すぎず、砕いたナッツの香ばしさが口いっぱいに広がる。
「わぁ、このクッキーおいしい…」
笑顔のフィリアを見て、ルーセント夫人も口元が緩む。
「これね、私が作ったの。私の好きなフィルフィラの実を入れてあるの」
フィルフィラの実は一般的なナッツだ。安価で買える上、健康にも良い。フィリアは母親にも食べさせたいと思った。ルーセント夫人の手作りクッキーは今まで食べたどのクッキーよりもおいしく、フィリアは幸せな気持ちになった。二人は今咲いている花の話題などで談笑し、紅茶を飲み終える。
「そろそろ作り始めましょうか。キッチンに行きましょう」
「はい」
食器を乗せたトレーを持ったルーセント夫人の後に付いて、フィリアもキッチンへ向かう。
キッチンには穀物粉や卵などの材料、調理機器などが並べられていた。ルーセント夫人はキッチンの端にトレーを置くと、フィリアにエプロンをしてあげた。大人用のエプロンなので、フィリアはドレスを着たお姫様のような気分になった。
「大人用のエプロンしか無かったの。小さなお姫様みたいでかわいいわね」
フィリアはなんだか照れくさくなってしまった。ガサガサと紙袋から品物を取り出し、赤い花の付いた髪飾りを見つけるルーセント夫人。
「お花の付いた素敵な髪飾りね!きっとフィリアにピッタリだわ」
ルーセント夫人はフィリアの髪を手ぐしで軽くとかし、柔らかい髪を髪飾りでふんわりとまとめた。誰かに髪を結ってもらう事は久々だったので、フィリアは少し緊張した。
「これで準備完了ね」
「あ、ありがとうございます」
ルーセント夫人の手鏡には、髪飾りの似合う少し大人びた自分の姿が写っていた。フィリアは嬉しくなって、鏡に微笑みかける。
「とても似合っていて、かわいいわ。ねぇフィリア。
お菓子やお料理に大切なのは、食べてくれる人への気持ちが大切なのよ」
そう言って、ルーセント夫人は小さな小瓶を掌に乗せてフィリアに見せた。
「気持ち…?」
「そう。いっしょに食べる人がおいしいって言ってくれたら嬉しいでしょう?」
「うん、嬉しい」
「手を出して」
ルーセント夫人は透明な液体の入った小瓶をフィリアの掌に置く。
「食べてほしい人の笑顔を思い浮かべてみて」
ルーセント夫人の優しい言葉に、フィリアは両手でその小瓶をそっと握りしめる。目を閉じて、自分の作ったケーキをおいしいと言って食べてくれる母親の笑顔を思い浮かべる。フィリアの心はじんわり温かくなった。
「目を開けて、小瓶を見てみて」
フィリアはゆっくり掌を開いて、小瓶を見る。透明だった液体は薄いピンク色になっていた。
「ピンクになってる…」
「このシロップはね、隠し味なの。ケーキの生地に混ぜて焼きましょうね」
フィリアはルーセント夫人と一緒にケーキ作りを始めた。穀物粉を振るって材料を混ぜ合わせる。先ほどの不思議なシロップを最後にまわし入れ、生地をざっくり混ぜたものを型に入れて焼くのだ。土台のケーキが焼き上がるのを待つ間、フィリアはレシピと作り方を自分のノートに書き写しておいた。不思議なシロップのことも。
「そろそろ焼けたかしら」
ルーセント夫人と共にオーブンを覗き込むフィリア。オーブンに入れる前は液体だった生地がふっくらしているのを見て、フィリアはとても驚く。
「わぁ!こんなに膨らむんですね。すごいすごい」
楽しそうに目を輝かせるフィリアを見て、ルーセント夫人も嬉しくなる。フィリアの楽しい気持ちがルーセント夫人にも伝わったのか、二人は自然と笑顔になる。
「オーブンの温度と焼く時間を間違えなければ、美味しく焼けるのよ。
焼き色もちょうど良いわ」
ルーセント夫人はそう言ってオーブンを開ける。オーブンが開くと同時に、ケーキの甘い香りがフィリアを包む。
「いい香り…夢みたい!」
「あらあら。まだ食べてもいないのに」
ルーセント夫人は焼き上がった丸いケーキを横半分にスライスし、余分な部分をカットした。切り口に特製シロップをハケで軽く塗り、休ませる。余った部分を一口大に切り分けて、小さめのお皿に並べたものをフィリアの前に差し出した。
「さぁ、味見をしましょう」
そう言ってルーセント夫人はケーキの端っこを口にする。フィリアも同じように一つ、口に入れる。柔らかくて甘い、今までで1番おいしいとフィリアは思った。食べただけで幸せになれるものがこの世にあるのだと知ったのだ。
「とってもおいしいです!」
「うん、おいしく焼けてるわ」
ルーセント夫人は冷蔵庫からクリームとフルーツを取り出した。
「クリームとフルーツを挟んで、デコレーションしたら出来上がりよ。フィリアのお母様はリュイルベリーはお好き?」
「はい、母も私も大好きです!」
「良かった。このリュイルベリーはうちで採れたものなの。
だから、お金はいらないわ」
ルーセント夫人はリュイルベリーを一つ、フィリアに差し出す。フィリアはそのリュイルベリーを口に運ぶ。
「わぁ、おいしい。小さい頃、お母さんと食べた味だ」
「じゃあ私が半分に切っておくから、フィリアはケーキにクリームを塗ってみて」
フィリアはケーキのスライスされた片方にクリームを塗りはじめた。クリームを塗るのは初めてで、とても楽しくワクワクした。花屋の仕事も好きだが、お金を稼ぐ手段であり楽しい事ばかりではない。家事や食事作りも嫌いではないが、生活する上で必要な事なのでこなしているだけだ。しかし、ケーキ作りは違う。様々な材料が製作過程を経て、おいしいものに生まれ変わるのが不思議で、何より興味深い。もっともっと知りたい、知識を得たいとフィリアは生まれて初めて思った。
「はい、リュイルベリーを並べましょうね」
リュイルベリーを切り終えて、ルーセント夫人。二人でリュイルベリーをクリームの上に置いていく。その上にクリームを軽く塗り、上半分をふんわり乗せる。クリームを1/3程絞り袋に入れ、残りを外側に満遍なくコーティングしていく。それから絞り袋のクリームを恐る恐る、心を込めてデコレーションしていく。少し歪な部分には、クリームを足して誤魔化したりもした。飾りのリュイルベリーを乗せて完成。
「素敵ね!ケーキ屋さんのケーキみたい」
フィリアは、花屋の仕事帰りに通るケーキ屋さんのショーウィンドウを毎日見ていた。いつか母と一緒に食べてみたいと強く憧れていたのだ。季節毎に変わるケーキのバリエーションやデコレーションの違いをいつもチェックしていた。見よう見まねで夢中になって仕上げた、初めての手作りケーキ。こんなに早く夢が叶うとは思ってもみなかった。
「…いつもケーキ屋さんを見ていたので…」
「初めてでこんなに上手にできるんだもの。あなたにはお菓子作りの才能があるのかもしれないわね」
初めてのケーキ作りでこんなに褒めてもらえるとは思わなかったフィリア。
「きっとお母様も喜ぶわ。
そろそろ日が傾いてきたから、帰る支度をしないと」
少し慌ただしいが、母に食べさせたいという気持ちもある。フィリアは帰る支度をし、その間にルーセント夫人はできたばかりのケーキを持ち帰る為に梱包してくれた。
「ルーセント夫人、今日は本当にありがとうございました」
玄関でケーキを受け取ったフィリアはルーセント夫人にお礼を言う。
「いいえ。私も楽しかったわ。また遊びにいらっしゃい」
「はい。とっても楽しかったです」
「今度はクッキーを作りましょうね」
笑顔のルーセント夫人に見送られ、フィリアは屋敷を後にする。そして足早に自宅へと戻った。
フィリアが帰宅すると、祖母・マーサと母・マリアが夕食の支度をしていた。
「ただいま」
「おかえりなさい。今日は少し遅かったのね」
テーブルに夕食を配膳していたマリアは、フィリアの髪型の変化やお花に気付く。
「あら、かわいい。お花のお姫様が帰ってきたみたい」
フィリアはマリアに駆け寄る。
「お母さん、お誕生日ケーキだよ!」
フィリアはテーブルにケーキを置いて、二人に見せた。マーサとマリアはフィリアのケーキを見つめて驚く。
「フィリア…これどうしたの…?」
「ルーセント夫人に教わって作ったんだよ」
「すごいじゃないか!フィリアの手作りケーキなんて。
マリア、今日は最高に素敵な誕生日だね」
マリアはフィリアを抱きしめる。
「フィリア、ありがとう」
フィリアもマリアが喜んでくれたことが嬉しかった。
「お母さん、泣いてるの?お誕生日なんだから泣かないでよ」
「だって…フィリアの作ってくれたケーキを誕生日に食べられるなんて、
世界一幸せ者よ…ありがとう」
「さぁさ、夕飯を食べましょう。フィリアのケーキが楽しみだものね」
「うん。私、手を洗ってくる」
マーサの提案で三人は夕食を食べ始める。ささやかな夕食だが、家族揃って食べる食事は楽しいとフィリアは思う。おいしいものなら、尚更幸せだ。フィリアは髪飾りの事やケーキ作りの話をして、三人の食卓は和やかなものとなった。夕食を食べ終わると、マーサがケーキを切り分けてくれた。
「立派なケーキだね。はい、フィリア。」
「ありがとう、おばあちゃん」
マーサからケーキを受け取るフィリア。
「大好きなお母さんの誕生日だもん。お母さんに喜んでほしくて…」
「そうかい。マリア、良い娘に恵まれたわね」
マリアは目の前にあるケーキを見つめ、また涙を流していた。
「フィリア…本当にありがとう」
「お母さん、泣かないで。また作ってあげるから」
マリアはそう言うフィリアを抱きしめる。
「そうだよ、今日はマリアが主役なんだから。
かわいいお姫様と一緒に食べられるんだもの、おいしいに決まってるわ」
「お母さん、おばあちゃん。食べてみて」
フィリアに促され、マリアとマーサは感謝の祈りをする。そしてそれぞれ、ケーキを口に運ぶ。
「おいしい…フィリアすごいわ」
マリアは目に涙を溜めてケーキを一口、二口と食べる。
「そうね、ケーキ屋さんのケーキみたい!お店を出せるわよ、フィリア」
「おばあちゃん、それは言い過ぎだよ。
ルーセント夫人が材料を用意してくれたおかげだよ」
「ルーセント夫人に感謝しないといけないわね。
フィリア、最高のお誕生日プレゼントをありがとう」
母親に誕生日ケーキを贈ることができ、フィリアはとても嬉しかった。その夜、布団の中で今日一日の出来事を振り返る。イルメイラと髪飾りを選んだ事や、ルーセント夫人とのケーキ作りが楽しかった事。家族がケーキをおいしいと喜んでくれた事。最初はとても不安だったけれど、勇気を出して頑張る事はすごい事なのだと知った。そして、フィリアは将来の夢を見つける事ができた。自分は普通の子供よりも恵まれていない家庭かもしれない。今まで自分の夢について考える余裕が無かったが、やってみたいと思える夢を見つけられた気がした。ルーセント夫人にクッキー作りを教わりに行く時、ケーキ職人になる方法を質問しようとフィリアは考えながら眠りについた。