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9 竜騎士団1年目 成果確認試験 前編

冬の間、辺境伯領の山々は雪に覆われ、夏に活発化していた魔獣たちの活動は自然と収まり、それらによる被害報告は減ってくる。

入れ替わるように報告が増えるのが、冬の間に活性化する魔物たちである。


冬眠することのない雪熊、白狼、雪女郎や氷竜といった寒冷地を住処とする魔物たちが人里近くまでやって来ることがある。

竜騎士団はそういった魔物の特殊個体を討伐して回っていた。


夏の間はケンイチが討伐任務に出ることが多かったが、冬はレイジが任務に出ることが多い。普段は資料室で古代魔導書を読みふけっているレイジは雪が吹雪く日に好んで任務に出る。


魔術障壁による鉄壁のガードを維持しつつ、広範囲に高威力攻撃魔術をばら撒く戦闘スタイルであるレイジの戦い方はとにかく派手で、しばしば住民から戦い方に関する苦情が来る。一方で本人は魔術オタクであり戦い方を変えるつもりはない。

そのため、戦闘音をごまかすことができる日や人里から遠くはなれた場所、雪がクッションになって大地への影響が緩和される状況での任務を優先的に割り当てられていた。


今回ケイはレイジと共に、特殊個体が率いる白狼の群れを討伐に来ていた。

最寄りの村から山一つ越えた雪原には雪が吹き荒れており、雪から突き出た岩の上に立っているケイに対し、レイジは空中に浮遊していた。


レイジの周囲数メートルの範囲は、不可視の魔術障壁によって守られ、無風状態になっている。


「ケイ、私は上空で対象の位置を把握してから魔術を使います。おとりとして時間を稼いでください。死なないでくださいね」

「どのくらいの時間ですか?」

「すぐですよ。では・・・」


そういうと高度を上げて見えなくなった。


「・・・」


吹雪の中取り残されたケイは気を取り直し、真面目におとりをすることにした。

新人の立場は弱いのだ。


まずは凍えないように自分の周期に薄い空気の断熱幕を魔力で構成する。その後、集中して周囲の様子を伺うと、ところどころ雪の積もり方や風の流れに不自然なところがあることに気づいた。


その違和感のある場所が移動していることに気づき、ケイはそれが白狼だと悟った。ケイを中心として少しずつ範囲を狭めてきており、集団で狩りをしようとしているようだった。

最も近くの違和感が5メートル程度まで近づいてきたとき、そこから急に白狼が飛びかかってきたが、ケイは落ち着いて剣で対処した。


現在のケイは夏に練習した水刃を自在に使えるようになっていた。だが、氷点下の状況では使いにくい。今は水の代わりに微小な鉄片を圧縮空気で剣の周囲を超高速循環させる、チェーンソーのような術を使っていた。


「やばい。この術凶悪すぎる」


強靭な白狼の毛と肉をバターのように切り裂いてしまい、とんでもない術だと自分でドン引きした。白狼たちも驚いたらしく、動きを止めてこれ以上近づかなくなってしまった。


「どうしたもんかな・・・」


膠着状態に陥ったケイが次の手を考えていると、背筋が凍るような感覚を覚えると同時にレイジの声が聞こえた。


「雷よ、我に従え」

「ちょ・・・」


ケイが全力で自分の周囲に魔術防壁を張ったのとほぼ同時に、雷が雨のように降り注ぐ。

閃光と轟音の競演が終わったとき、ケイの周囲には焼け焦げた、もとは白狼だったものが無数に転がっており、多くの気配は消えていた。。


動いているのは少し遠くにいる大きな個体だけだった。レイジの術を防御あるいは回避したのは特殊個体としての意地だったのであろうが、一拍おいた次の瞬間ケイの剣によって両断された。


「お見事」

「いえ、レイジさんの一撃があったからです。というかどうやって敵の場所を特定したんですか?」

「魔力の流れを読み取るんですよ。魔術師としての基本技能です」

「なるほど・・・」


上空から降りてきたレイジにケイが答える。レイジはさらっと言ったが、吹雪の中広範囲の魔力の流れを読むのは並大抵ではない。インドア派ではあるが、レイジもれっきとした竜騎士団団員なのだ。


一方のケイは冬の討伐任務の中で雪の上を一息に駆ける走法、冬でも一撃必殺を可能にする高威力の刃を必要とし、努力によってそれを身に着けていた。


白狼たちの亡骸を回収していると、みーくんたちが戻ってきた。


「では、帰りましょう」


レイジとケイは領都へと飛び立つ。雪原について1時間足らずの出来事だった。




竜騎士団1年目、年度の最後の月に入った日、場所は竜騎士団詰め所。朝のデスクワーク中にケイの机までやってきた団長は告げた。


「1週間後に成果確認試験をする」

「成果確認試験、ですか」


「この一年、竜騎士団団員としてやってきたケイの総合力を試させてもらう。からまで試験だらけの一日になるから、そのつもりでいるように」

「あの、不合格だと竜騎士団追放ですか?」


恐る恐る質問したケイに対し、団長は笑って答える。


「いや、純粋に今の実力を評価するだけだよ。合格、不合格を決めるものではない。当然、成績に応じて退団にしたりはしないよ」

「よかったです・・・」


今さら竜騎士団をリストラされても困ってしまう。実家に帰ったらミノルに何と言われることか。


「ただ、アメとムチはある。とびっきりのものを準備しているから」

「私が準備します。期待してていいですよ」


隣の机で聞いていたマヤがウィンクしてきた。

ケイはとんでもない課題を出されたくはないな、と思った。


「試験内容を聞いてもいいですか?」

「いいよ。午前中は事務処理関連手続きその他についての筆記試験。で、午後は屋外で戦闘能力試験。相手は秘密」

「秘密ですか・・・」


楽しそうに話す団長を前にケイは心配になってきた。この言い方、団長と戦闘るのか?こっちが全力でも、一方的にボコボコにされるだけだぞ?

未だに団長とケイの間には大きな隔たりがある。超一流の団長に対し、ようやく一流に片足突っ込んだケイでは結果は火を見るよりも明らかだ。


この一年で、団長は何気ない言動でヒントを出してることに気づいたケイは、頭の奥で考えを巡らせ始めた

一週間前のこのタイミングで伝えたこと、試験内容についての話し方、これらから、団長が読み取ってほしい何らかの情報があるはずだ。


「試験についての話はこれだけ。今日も一日、ご安全に」


ヨシ、と団長が席に戻る。

ケイは試験のことを頭の片隅におき、日常業務に戻った。



ケイは夜、例の店に来ていた。

受付のお姉さんにカードを見せると、ほどなくしてフブキが待合室にやってきた。


「ケイさん、お待たせして申し訳ありません」

「フブキちゃん、こんばんは」

「どうかしたんですか?いつもよりちょっと早いですね」

「あ、ごめんね」

「そんな、とんでもないです」


フブキはブンブンと手を振り、気にしていないアピールをした。

ケイは初めて店に来て以来、定期的に店に足を運んでいた。もちろん、毎回フブキを指名している。


高級店のため、騎士団の給料では月2回が限度で、フブキの都合もあるので毎回次回予約を取っている。たまたま試験のことを聞いた日が予定を入れていた日だったので、少し早めに来たのだ。


階段を上っていつもの部屋に入ると、フブキが軽い飲み物とおつまみを用意してくれた。


「今日は、景気づけに来たんだ」

「何かあるんですか?」

「うん、来週大事な用事があるんだ。明日から1週間、禁欲しようと思って。だから今日はその分発散しに来た」

「やだー。怖いー」

「ふふ」


キモくて頭の悪いやり取りだが、この店に来るとケイの理性が退化してしまうのだから仕方ない。


目を閉じて顔を近づけてきたフブキに対し、ケイも目を閉じた。



翌朝、すっきりした気分でケイはフブキに見送られて帰宅した。

試験まで後7日。


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