73 竜騎士団3年目 監視が増えた
ケイは領都のバーにいた。
隣には領都へ出張してきた学生時代の友人、ガイ。久しぶりのサシ飲みである。
カウンターの端の方で並んで乾杯する。
「乾杯」
「乾杯」
グラスを掲げて口をつけると、甘めの果実風味。アルコールにあまり強くないケイでも飲めるように調整されていた。
「ケイがこんなところを指定するなんて珍しいな。カオリから教えてもらったのか?」
「まぁ、そんなところだ」
しばし、二人は学生の時のようにバカ話をしながら酒を飲む。
話題は過去の話から、現代の話へと変わっていく。
ガイは去年の話を始めた。
「去年はすまなかった。挨拶もできずに帰って」
「気にするな。急に仕事が入った俺の方こそすまんかった。カオリから話は聞いたよな」
「大丈夫だった、んだよな?」
「ああ。問題は……なかったとは言わないが、悪いことにはなってない。この店だってそのときの成果物のひとつだぜ」
「どういうつながりだよ?」
「あの時に知り合った人が経営してる店なんだ。従業員さんにも知り合いがいるし、割引券も貰ってる」
財布から割引券を取り出してひらひらさせる。小さな紙には半額OFFの文字が書かれていた。
「半額OFFってすげーな。こんな高そうな店でいいのか?」
「経営者の道楽みたいな店らしいから、大丈夫だろ」
カウンターの中にいる若い女性に手を振って合図を送る。
ケイに軽く会釈した女性は他の客の接客に戻った。
「知り合いか?」
「まぁな」
そんなこんなで話題は後輩の感想に至った。先に話し出したのはケイである。
「今年の新人は素直なんだが、やはり事情があるみたいでさ」
かくかくしかじか。まるまるうまうま。
「竜騎士団のキャリアパスねぇ。そんなこと考える奴もいるんだな。贅沢な悩みだなぁ」
「贅沢か?もっといい部署に行きたい、やりがいのある仕事がしたいっていうのは自然な感情だろ」
「それを言えるのは余裕がある奴だってことさ。今の仕事が安定している上で、他の仕事をやっていける十分な実力があったり、裕福な家庭だったり、権力者と知り合いだったり。……本当に逼迫してるやつは今を生きるので精いっぱいだぜ」
ガイの言葉には重みがあった。ガイ自身、決して裕福な家庭環境というわけではない。
領都学校では奨学金を利用していたはず。
「そうか……」
「俺はお前らと知り合えたことが分岐点だったと思ってる。これでも感謝してるんだぜ」
「俺もさ。最初のきっかけはなんだったかな……」
しばし領都学校時代の思い出に花を咲かせる。
「学生時代に色恋に興味ないって顔してたお前が、所帯を持つかもしれないなんてな」
「おいおい。気が早いぜ」
「なんだ。何か障害でもあるのか?」
「障害なんてなかった。この間までは……でもな……」
言い淀んだケイに対してガイは問いかける。
「今はあるのか?」
「あると言えばあるし、ないと言えばない」
「なんだよ。はっきりしねーな」
「カオリの気持ちがよくわからなくなったんだよ……」
「急に冷たくなったとか?愛想をつかされたか」
「そういうことじゃない。……すまん。詳しいことは言えないんだ……」
「そうか?まぁ、話す気になったら話してくれ。何もできないが、聞くことくらいはできるぜ」
「ああ。ありがとう」
そこで思い出した。
「ガイこそ、あの後輩ちゃんとはどうなったんだ?」
「まぁ、順調だ。というか、今日はその連絡でな……」
ガイは傍らの鞄から手紙を取り出した。
「結婚式の招待状だ。よければ参加してくれ」
「マジか!?おめでとう。っていうか、最初に言えよ。これが今日のメインじゃねーか」
「そだな。すまん」
「いや、いいんだけど!」
なんだかんだ盛り上がってしまった。
「いつからだよ。お前に惚れてたのはバレバレだったけど、いつからそういう関係なんだ?」
「あの旅行の直後だ。彼女はいいところのお嬢さんだったから、ご両親に反対されるかとも思ったんだがそんなことはなかった」
「半年か。急いだな」
「向こうの親御さんの都合と俺の都合の兼ね合いでそうなった。なるべく早くしたいっていうのと、この冬に俺が手掛けたプロジェクトが完了するんだ。そのタイミングで行うことにした。仕事の実績ができたところで、向こうのご両親にも顔向けができるって寸法よ」
「そっか。うん、いいじゃないか」
ガイはプライベートが上手くいっているようでなによりだ。
話は互いの後輩の話題へと戻ってきた。
ガイの後輩は仕事を止めて専業主婦になるらしい。
一方のナツキはどうするのか。ケイには分からなかった。
ナツキの不安は分かる。このまま竜騎士団で特殊個体を狩り続けることで、魔導士としての技術が磨かれたとしても、結局それだけ。
以前、対魔物騎士団のハルヒが言っていた事情が正しいとすれば、将来竜騎士団を離れるという選択は十分にあり得る。
(おそらく、あの夜の相手はその状況を覆す人物)
「ケイ?」
「おっと。すまん。ちょっと別のこと考えてた」
「おいおい。大丈夫が?疲れてないか?」
「大丈夫。まだまだいけるぜ」
新しい酒を注文しつつ、ガイとの飲み開は続いた。
~数時間後~
ケイとガイはお店から出てきた。
今日はケイのおごりである。
「次会うのは式になるかな」
「おう。カオリとウルハの分は確かに預かった。責任もって渡しておく」
「頼む。じゃあ、またな」
「また。元気で」
店の前でガイと別れる。ガイの後ろ姿が見えなくなったのを見計らってケイに話しかける人物が一人。
「お友達ですか?」
「領都学校時代の友人だよ」
「卒業後も交流があるって素敵ですね」
「……ん……」
ケイの後ろから声を掛けたのはコトネ。バーテンの服を着ている。
先ほどまでカウンターの中で、店員として客に対応していたのはコトネである。
「この店で働いてたんだね。アルバイト?」
「ええ。ここは聖騎士団OBのお店ですから、聖地関係者は優先的に採用されるんです。聞いてませんでした?」
「カオリに半額券渡されただけだから。正直驚いた」
コトネは近づいてくるとケイの上着の裾をつまんできた。
「……」
「あの日以来ですね……」
「そうだね」
ナツキの歓迎会であの店に行った際、ケイはまたもや騙された。
ミコトに扮していたのは、今、隣にいる少女だった。ケイはカオリの演技だと思い込んでいたので、一切の手加減なく一晩ハッスルしてしまったのだ。
あの日の翌朝、気持ちよく寝ていたケイは乱暴に蹴り起こされた。
隣で寝ていたのはコトネ。ケイを蹴り飛ばしたのはカオリ。立会人としてマヤもいた。
ろくな抵抗もできずに全裸土下座をさせられたケイは、その場で二人に対して責任を取るという血判状を作らされた。
罠にかけられたのは自分なのに。
とはいえ、決して悪い条件ではない。正妻公認の愛人がいるというのが今の状況だ。世の男がうらやむ、夢のような状況かもしれない。
「少し待っていただけますか?もう上がりますので、着替えてきます。今日は姉様に呼ばれているんです。ご一緒します」
「ん。わかった」
店に戻っていくコトネを見送る。
コトネは、実の姉であるコヨミのことを‘お姉ちゃん’と呼ぶのに対し、カオリのことを‘姉様’と呼ぶ。また、ケイの見る限り、コトネとカオリの関係は良好。不思議だ。
男は女には勝てない、ケイはつくづくそう思った。
なかなか時間が取れませんが、ぼちぼち書いてます。




