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7 竜騎士団1年目 3Q

Qはクォーター 4半期のことです。 念のため。

集合研修を終えて久しぶりに詰所に戻ったケイは、そこで団長から正式に竜騎士団に配属されたことを告げられた。半年の試用期間が終了した。


「実は、この試用期間でやめていく方、結構いるんですよ」


マヤがお茶とお茶うけを出しながら告げる。珍しく部屋にはクロカゲもいた。

実は他の騎士団から竜騎士団へと移籍を希望する団員はいる。特に魔物討伐専門の腕自慢団員は、自分の能力を生かせる場として移動届を出すこともある。


「でも、自分以外に若い団員って・・・」

「年次的には私になりますが、私は庶務担当ですから」

「ですよね」

「ん?」

「他意はないです」


年齢不詳のマヤだが、とりあえず団長よりも若いことが発覚した。


「ここ数年は先代のころからのベテラン団員の引退や移籍が続いてね。実際の討伐業務は私、ケンイチ、ルイ、レイジの4名で回していた。腕っぷしの強いメンバーを補充したかったんだが、竜騎士団には色々と条件があってね」

「条件、ですか」

「必要なときになったらケイにも教えるよ。今言えるのは一つ。集合研修の最後で魔狼の集団と戦闘になっただろう?アレに勝つことだ」

「魔力なしでアレは結構きつかったですよ?下手すれば死んでたかも・・・」

「当然、本当に危なくなったら助けが入るよ。でもその時点で試験失格さ」


団長は続けた。


「半年前の自分では絶対に勝てないように調整された相手に対して、どんなことをしてもいいから勝利する。これが竜騎士団本採用の条件だ」

「なかなかキツイですね・・・」

「特殊個体を相手にする場合、負けは許されない。一度失敗した場合次の討伐難易度はより高くなる」

「そうなんですか?魔物が賢くなるとかですか」

「そう」


一息置いて、団長は続けた。


「ケイは特殊個体についての知識も学んだよね」

「はい、対魔物戦闘学の一部として講義も受けました」


「そこでは何と?」

「通常個体と同じと考えてはいけない、安易に手を出してはいけない。専門部隊に任せるべき魔物だと」

「それから?特徴は?」

「わかりやすい外見の違いが出ることが多い。特殊な能力を持っている。幼獣から成獣、老獣と成長する中で何等かの要因によって特殊個体になる、と思われる」


講義の内容を思い出しつつケイが答える。


「うん、一般的な認識としてはそれで間違いない。で、ここからが本題。これ以降の話は機密なので、公言しないように」


ケイがうなずいたのを見て、クロカゲが術を発動させた。周囲の雑音が消えた。


「いいぞ・・・」

「ありがとう、クロカゲさん」


団長がクロカゲにお礼を言ったのち、ケイへの話を再開した


「事実として、特殊個体は成長する」

「成長、ですか?」


「魔物が成長する、というと年齢を重ねることで体が大きく、力や俊敏さが上がることを意味するけど、特殊個体にとってはそうじゃない。本当に強くなる」

「強くなる・・・」


「手負いの獣が前回と同じ轍を踏まなくなるのは当然として、戦い方のスキは小さくなり、術の精度も上がる。文字通り、脅威ランクが1つ上がるくらいの成長が起こる。ちなみに、帝国でもこの理由が調査されているが、未だ解明には至っていない」

「・・・」


「特殊個体の成長は、人が訓練によって強くなるのと同じ、と言う研究者もいる。死線をくぐるたびに目に見えて強くなるのは厄介極まりない。だからこそ、少人数で、会敵回数を最小限にして確実に殲滅する、という手段がとられているんだ」

「そのための竜騎士団、ですか」


「そう。正式に竜騎士団団員となったケイには、その事実を知っておいてほしい」

「絶対に、負けられない戦い・・・」


「とはいえ、最初はやはりランクが低いものからね。あと半年は私が同行するから、徐々に慣れていけばいいよ」

「了解です。ありがとうございます」


ついでなので、ケイは疑問をぶつけてみた。


「もし、団長でも勝てない特殊個体が出現した場合はどう対処するんですか?」


少し考えて、団長は答えた。


「竜騎士団全員でも勝率が低いような個体が現れたときは、帝国中から応援を呼ぶことになる。それでもダメなら、‘勇者’の出番だ」

「勇者・・・人の枠を超えた超越者・・・眉唾の噂でしか聞いたことないですが、本当にいるのですか?」

「そうだね。ずいぶん前に、帝都で会ったことがある」


団長は目を細めた。


「見た目は普通の人。だけど、間違いなく人類の守護者。・・・我々にもケツモチはいるってことだよ。だからと言って、討伐任務の失敗が許されるわけではないけどね、」

「はい」

「勇者の存在も機密だ。公言しないように」

「わかりました」


そこまで話したところで、団長の雰囲気が変わった。


「さて、硬い話はここまで。今日はお祝いだ。もう切り上げて、パーッといこう」

「いつものところで、今日は団員全員集合ですよ!」

「俺もいく」


珍しく、クロカゲや他の団員も参加するらしい。

これでようやく受け入れられたのか、とケイは思った。


いつもの定食屋に移動し、懇親会が始まった。店主のおばあちゃんも集合研修のことは知っていたみたいで、ケイはいつもよりも気合が入った料理を堪能した。


いい気分になっていたケイだが、日も落ち、お開きとなった。

普段であれば解散となる時間、一人、また一人と帰宅していき、残ったのはケイと団長、マヤ、クロカゲの3人だった。


団長が最後まで残っているのは普段と同じだったが、クロカゲが残るのは珍しい。お開きになる前にいつの間にかいなくなっているのがクロカゲという男だった。

そしてマヤが帰宅したところで、団長が告げた。


「さて、ケイ。次に行こうか」

「次ですか?」


団長と2次会に行くのは初めてだった。それだけでも珍しいのに、今日はまだクロカゲがいる。


「クロカゲさん、よろしく」

「承知した」


クロカゲが先導して歩き出す。行先は領都の繁華街のようだった。

酒場の集まる地区を抜け、たどり着いたのは色街の地区だった。


「ここって・・・」

「まあ、ついておいで」


団長がいたずらっぽく笑う。クロカゲはもくもくと歩いており、二人はその後をついていく。

クロカゲは色街の外れにある小さな建屋の前で止まった。

扉のベルを鳴らすと扉が開き、女性が姿を現した。


「いらっしゃい、クロカゲさん」


受付の女性はクロカゲと少し話をして、ケイたちに向き直った。


「どうぞ、中へ」


3人は中に入った。待合室に並べられた椅子に座り、ケイは団長に小声で問いかけた。


「団長、ここって」

「マッサージ店だよ。金なら気にしなくていい。私のおごりだ」

「でも、その・・・いきなりで心の準備が・・・」

「敵は待ってはくれないぞ?」

「ここは待ってもらえる場所だと思いますが・・・」


そんな団長とケイのやり取りを黙って聞いていたクロカゲが、咳払いをした。


「お待たせしました」


咳払いの直後、女性は別の女性を二人連れて奥から戻ってきた。その二人は表面積の小さい服を身に着けていた。

カイ団長よりも少し若い程度の年齢と思われる女性が口を開く。


「カイさん、最近来てくれないの、寂しかったです~」

「ゴメンよ。ちょっと立て込んでてね。その分、今日は長時間コースで」

「もう、私張り切っちゃいますよ~」


親しげに話し始めた二人を置いて、受付の女性はケイにもう一人を紹介した。


「こちらが本日お客様のお相手をするキャストです。新人ですよ」

「フブキです。今日は一生懸命頑張ります」

「あ、よろしくお願いします・・・」


フブキと名乗った女性は、ケイと同年代と思われた。ちょっとイモっぽい、言い換えると田舎娘っぽさが抜け切れていない、でも色白で清潔感がありわがままボディという、ケイのどストライクの容姿をしていた。

クロカゲがハンドサインを送る。ケイの好みはばっちり調査されていたらしい。


受付の女性がルールを説明した。


「うちは自由恋愛です。何か間違いがあったとしても、それはお二人で話し合ってください」

「はい・・・」


受付の女性はケイに近づき、耳元でつぶやく。


「フブキちゃんは今回が初めてです。クロカゲさんのご紹介ですもの、ほかの人の手垢がついていない、秘蔵っ娘です。フブキもあなた様を気に入ったみたいですよ・・・ごゆっくり」


ウインクして離れた女性と入れ替わりにフブキがケイに近づいた。


「では、お部屋にご案内します」

「はい・・・」


階段を上ろうとしたケイたちに団長が声をかけた。


「ケイ。時間になったらここに集合。」

「了解です」


ケイは階段を上った。




「では、また来てくださいね」

「ん、きっとくるよ」


フブキに服を整えてもらい、ケイは待合室にもどった。

そこでは、団長とクロカゲがすでに椅子に座って待っていた。


「どうだ?良かったか?」

「それはもう・・・最高でした。団長・クロカゲさん、ありがとうございます」


最後、店から出るところで、受付の女性からカードをもらった。

このカードを使えば、入口の扉を開けることができるらしい。


建物を出て帰宅する途中で、団長が話始めた。


「あの店にもう一度行きたければ、強くなることだ。どんな特殊個体と遭遇しても生きて帰る、という動機になれば、今回連れてきた甲斐もある」

「団長・・・おれ、もっと強くなります。そして、もっとあの店に通います」

「はは、程々にな」



その後すぐ、ケイは団長の出していた課題をクリアした。その後もメキメキと強くなり、特殊個体との戦闘経験を積んでいった。


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