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66 竜騎士団3年目 新人集合研修5

ケイの視線の先では、雷鳥が臨戦状態で飛行していた。


ケイは雷鳥の個々体を判別できるような鳥マニアではないが、確信があった。

あれは、先ほどの青年が手懐けた雷鳥だ。


漆黒の獣は雷鳥へ攻撃を開始した。雷鳥は高速移動により回避している。ケイの近くに寄ってこないので、ケイを休憩させようという意図が見える。


ケイは息を整えつつ、今の状況を整理した。


あの青年、この状況を想定していたと思われる。よく考えたらこんな山奥に軽装で一人なんてあからさまに怪しい。


(けど、あの青年と会話していると、何故か怪しいという気持ちが消えてしまうんだよなぁ……精神操作系の魔術を使われた?)


罠に嵌められたというのに、あの青年に対する恨みの感情がいまいち湧いてこない。

むしろ、雷鳥を助っ人として送ってくれてありがとうという感謝の念が芽生えるのだ。


目の前で雷鳥は獣の魔術をひたすら回避しているが、徐々に余裕がなくなっているように見える。助っ人が元気なうちに対処しなければ。ケイは一旦青年の素性を考えるのを止め、この場をどう乗り切るか、獣をどう処理するかを考え始めた。


まず、あの尻尾は切断できる。けどそのためには有利属性の攻撃が必要である。

先ほどは水属性の尻尾を雷属性の刃で切断できた。2本目は風属性の尻尾だった。属性相性的には風と雷は有利不利のない関係である。だが攻撃は通らなかった。


次に、あの尻尾は復元する。切断された側の尻尾はそのまま消滅したが、水属性の尻尾は10秒かからずに元通りになった。

何もしていないように見える本体部分が回復を担っている。


……本体を狙ってみるか……


息を整え、魔術式を構築する。

移動速度を上げる自己強化、剣には闇属性のエンチャントをかける。


(尻尾の復元を担当するのが本体部分であれば、光属性のはず。防御を抜くために反対属性の闇属性)


4本の尻尾から雷鳥に向けて魔術が放たれたタイミングで、一気に駆ける。

残り1本の尻尾がケイに向くが、もう遅い。ケイは獣の首の部分を狙って剣を下から切り上げる。


剣は獣の首の表面から内部へと潜り込む。


「!“#$%&‘()」


このまま両断する、と力を込めている途中、衝撃と共に剣が止まった。

表層は切り裂くことができたが、首の骨にあたる部分、そこで剣が止まってそれ以上進まない。


(一旦離脱……できない!?)


剣が切り裂いた表層部分が急速再生され、剣が飲み込まれて固定される。

ケイの背中に嫌な汗が流れる。剣を手放して逃げようとしたとき、ビギッッという嫌な音と共にケイが持つ剣、その固定が解除された。


ケイは獣と距離を取る。

右手に握った騎士団正式採用剣に残ったのは刃の根本から3分の1まで。残りの部分は獣の体内に残ったままだ。獣に目をやると、首の部分からガッ、ベギッ、ギャリッと刃が砕ける音が聞こえる。


獣は再びケイを敵として認識したようで、雷鳥の方を向いていた本体がケイに向き直る。


致命的な隙をさらしたケイに尻尾からの攻撃が来なかったのは雷鳥がデコイを務めていたおかげである。その雷鳥も地属性の尻尾が展開する魔術防壁によって有効な打撃が封じられつつある。


主武装である剣の破損は痛手。その引き換えに、新たな情報も得た。


(本体の表層は光属性、深層は別属性……多分闇属性。結局全属性欲張りセットじゃん……)


ここまで考えて、ケイは悟った。


(これ、俺への課題じゃないか?)


体の各部署が別々の属性を持つ敵に対し、攻撃を通すためには優位属性で攻撃する必要がある。攻撃が通った場合でも、そのままだとすぐに復元してしまう。極短時間のうちに大ダメージを与えるためには全属性で攻撃する必要がある。


復元スピードは数秒。普通に考えたらそんなことは不可能。

だが、ケイにはそれを可能にする手段がある。


(ここで累加領域を使えってことだろうな……)


自分の思考と行動を通常ありえないレベルで加速させる技術、累加領域。累加領域に入れば、超速で攻撃属性を変更することができ、7つの属性で各場所を攻撃することができるだろう。


この半年練習している成果をここで見せろ、ということではないか。

今の状況と辻褄は合う。


(問題は……累加領域をまだ使えないこと)


ケイは現状、6属性までの同時発動は可能である。が、7属性同時発動は未だ一度も成功していない。それは言い換えると累加領域を一度も成功させたことがない、それどころか前提条件さえクリアしていないということだ。


どうしても雷属性を同時発動に組み込めない。自分の不得意属性なので、最近は意識して使うようにしているが、結果は芳しくない。団長もそのことは知っている。


(この状態でどうしろと……もしかしてあの雷鳥を使えってことか?)


今の状況が試験であれば、あの雷鳥も何等かの役割があってしかるべき。

雷属性をつかうのであれば、累加領域を発動する補助としてこの場にいるのでは?

ケイはそう推測し、雷鳥に向かって声を上げた。


「おい、すまないが援護してくれ。雷属性の強化バフを頼む!」


雷鳥はケイの言葉を聞いてガァーと鳴いた。……了解の合図だよな?

不安が頭をよぎったものの、ちゃんと話は通じたらしい。


ケイの体を雷属性の魔力が包む。

同時に、ケイは雷属性以外の6属性の魔力変換を行った。これだけでは目当ての現象、累加領域には入れない。


そこで行うのが雷魔術の属性制御。雷鳥が発動した魔術を流用して強度を調整する。


(全属性変換を行うことが累加領域に入る条件。必要なのが過程ではなく結果なのであれば、必ずしも全部自分一人でやる必要はないのでは?オブジェクト指向ってやつだ)


今回は雷属性の変換をするのではなく、雷鳥が行った魔術変換の強度を調整し、自分の魔術式にそのまま取り込む。



ドクン



結果はすぐに表れた。

獣の動きがゆっくりになり、雷鳥の発する雷属性魔術の音がやけに鈍い。


(よし!)


以前、聖域で起きた現象と同じ。累加領域に入った。

ケイは決断した。一気に決める。


折れた剣の先から水属性の魔術で刃を形成。使用した魔力消費がありえないレベルで少ない。


そのまま獣に襲い掛かる。獣はケイの動きに反応できていない。

ろくな迎撃もなくケイは獣に接近できた。


最初に切断するのは火属性の尻尾。切断直後に刃の属性を地属性へと変換し雷属性の尻尾を切断。以降同様にして5つの尻尾を切断する。

切り離された尻尾が消えるよりも前に、さらに属性を変更して本体へ攻撃。


首と胴体を切り裂いたところでケイに限界が来た。

視界が狭くなってきたことに気づき、獣と距離を取った上で累加領域を出る。


途端に全身に倦怠感が襲ってきたので、深呼吸しながら耐える。


ケイの視線の先では、本体が頭、上半身、下半身の3つに分割された獣が消えていくところだった。切り離された尻尾と同様、空間に溶けるように影が薄くなっている。

ケイが息を整えたころには、獣の影は完全に消失していた。


獣がいた場所には腕輪が一つ転がっていた。

あれがお目当ての魔導具だろう。


雷鳥は雷を発するのをやめ、ケイの近くに降り立った。そのまま動かないということは、あの腕輪をどうこうするつもりはないようだ。アレを持っていくのはあくまでもケイ、ということだ。


ケイは腕輪に近づき、慎重に拾い上げようとした。

指先が腕輪に触れると、腕輪から光が溢れた。光の中、一匹の獣を見たような気がした。


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