64 竜騎士団3年目 新人集合研修3
新人達が研修を行っている辺鄙な山奥で、ケイは10代後半とみられる青年と出会った。
その青年はケイが討伐しようとしていた魔物達をあっという間に手懐けてしまった。
(どうしたものか……)
この魔物達がもうすぐやって来る新人達へ危害を加えないのであれば、問題ない。
だが現状、青年の素性も不明なら魔物がどれだけ言うことを聞くのかも不明。これで脅威が排除されたと判断はできない。
ケイは熊の頭を撫でている青年に向かって問いかけた。
「その鎧熊、本当に言うことを聞くのですか?」
「ええ。何なら芸でもさせましょうか?ほら、回って回って」
青年が指をくるくるさせながら鎧熊に向かって話しかける。
親熊は青年の指示通りにその場でゴロゴロ回転した。
子熊が続いてコロコロしているのがほっこりする。
「どうです?かわいいでしょう」
「……仕込みじゃないですよね」
「もちろん。この子たちとは今日初めて会いました」
青年はケイへと振り返ると話を始めた。
「話が通じる魔物だっている、ということです。信じてくれますね?」
「……わかりました」
青年の自信とそれを証明する目の前の光景。
ケイは受け入れることにした。
「その鎧熊やあの雷鳥には今日一日大人しくしてもらう必要があります。できますか?」
「丸一日は少し大変です。どうしてもというなら不可能ではないですが。もし無理な場合はこの子たちはどうするつもりですか?」
「残念ですが当初の予定通りに排除ということで」
「であれば、ご相談があります」
青年は魔物を処分させたくないのか、真面目な顔で話を始めた。
「実はこの近くに古い遺跡があり、そこに祭壇があるんです」
「遺跡?」
いきなり今の状況とは全然関係ない話を始めた青年をケイはいぶかしげに見つめた。
ケイの不信感を察したのか、青年は言葉を続けた。
「古い神を祀る小さな祠ですが、そこに特殊な魔導具が安置されています。その魔道具の力があれば丸一日この子たちをいい子にしておくことができると思います」
「その話の信憑性はいかほどでしょう?そもそも、貴方はどうしてそれを知っているのですか?」
「話せば長くなるので、かいつまんで説明すると……その祠は遥か昔に私たちの仲間によってつくられたもので、ここ最近は私が管理していたのです。時々祠の状態確認と魔導具の安置状況を確認するのが役目で。今日も元々はそこへ行く予定だったのです」
「そんな祠があるというのは初耳です。本当ですか?」
ポケットから地図を取り出して確認するが、そんな印はなし。警備団長からもそのような情報は何もなかった。
「もう記憶も記録も風化するような昔に建てられたものですからね。一般の方が知らないのも無理はありません。ここからそれほど離れていませんし、良ければご一緒にどうでしょう」
「わかりました」
「なに、ほんの数キロですよ」
青年が歩き出す。
その後ろに鎧熊が続き、頭上には雷鳥が旋回している。
ケイは青年の後を追った。
しばらく後、一団の姿は小さな峰の頂上付近にあった。
「着きました」
「ここが?」
先を行く青年が立ち止まり、振り返る。ケイは近くまで寄ると周りを見回した。
岩が散乱し、雑草が生えているで、祠があるようには見えない。
付近に木々は生えておらず多少視界が開けてはいるものの、それだけ。
「祠を開きますので、少し待ってください」
青年はそう言うと山側に向き直り、一歩前に出た。
大きめの岩に手を置く。直後、周りの風景が歪んだ。
「!!!???」
思わず腰の剣に手をやる。
警戒態勢のケイに対し、青年には特に気負った様子はない。
目の前には大人が3人は手を広げて並んで通れそうな穴が現れた。
「幻術……」
「ええ。獣たちに荒らされては困りますから」
ケイの呟きに答えつつ青年は振り返った。
「この奥に魔導具が安置されています」
「ここからだと奥までは見えませんね」
「数十メートルありますからね。入るなら光と空気の確保は必須です」
「でしょうね」
ケイは奥の様子を探る。冷たい風が吹いてくるのを感じる。異臭はない。
「ガスも出てないはずですが、念のため」
青年は小さな魔石を取り出して入口から中へと投げ入れた。
淡く光る魔石はとくに変わった様子はない。
「大丈夫ですね」
鉱山などで必須のガス検知石である。
「ここからがご相談です」
「はい」
「私はこの状態では祠に入ることができません。この子たちが暴れだすかもしれませんので。なので、私の代わりに魔導具を持ってきてもらいたいんです」
「暴れるのですか?」
「ええ。そんな状況は好ましくないですよね?」
「まぁ、そうですね」
ケイの足元で匂いを嗅ぐ鎧熊の子供。必要であれば魔物を排除することにためらいはないが、できることなら穏便に済ませたい。
「一本道を進めば、少し広い場所があります。そこの祭壇に安置しているモノを持ってきてください」
「モノ……」
「腕輪です。かさばるようなものではないですよ。台の上に置いてあるだけなのですぐに分かると思います」
「なるほど」
ケイは青年に向き合った。
青年の肩には雷鳥が止まり、足元には子熊が遊んでいる。改めて見ても不思議な光景だ。
「竜騎士団員のあなたなら大丈夫。問題ありません」
「わかりました。私が取って来ますのでお待ちください」
「宜しくお願いします。お気をつけて」
ケイは穴に向かって歩み始めた。
慎重に穴の中を歩むケイ。道は緩やかに曲がっており、奥に行くと入口からの光が届かない。
ケイは光の魔術と風の魔術を同時発動しつつ先へ進んだ。
足元は以外と歩きやすいが、土埃が凄い。
100メートルはなかったと思う。思ったよりも長い道の先は青年の言った通りちょっとした広い空間になっていた。
不思議なことに、その空間だけは光が満ちている。
発行する石が壁や天井に埋め込まれており視認性を確保していた。
中央には石の祭壇。
「これ、か?」
祭壇に置かれている金属質の輪。警戒しつつ近づいたケイは、腕輪に触れた。
次の瞬間、腕輪から闇が膨れ上がりケイは抵抗する間もなくその闇にのまれた。
一方そのころ、穴の外の青年は岩に腰かけて鎧熊の子熊を撫でながらその時を待っていた。
ケイが腕輪に触れたまさにその瞬間、青年はピクッと眉を動かした。
急速に近づいてくる存在がある。
親熊は不穏な気配に興奮気味だが、青年の指示によって大人しく地に伏せた。
程なく、青年の前に一人の男が降り立った。
堅い表情のカイ団長だった。




