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63 竜騎士団3年目 新人集合研修2

ケイは魔物を排除するため、木々の間を移動していた。


今は迷彩柄の作業着を着用している。普段の戦闘服ほどではないがほどほどの防御力を持ちながら隠密性を高めた装備だ。


標高が高いこともあり、木々が密集して生えている場所は少ない。

所々生えている低木に隠れながら目標に接近する。


20分程度で最初の目標が見えてきた。


(いた…‥!)


大きさはケイの体長の半分くらい。

小さな木に実った黄色い木の実をつついている、白黒まだら模様が特徴的な鳥。雷鳥サンダーバードだ。


食事中の様子は少し大きめの鳥だが、れっきとした魔物である。

好戦的な種ではないが、一度敵対すると激烈。全身に雷光を纏い、雷撃を自在に操る。警戒心が強く機動力も高いので、最初に討伐にやってきた。


雷鳥を視界に捉えつつ、距離が詰まってきたところで複数の属性魔術を発動する。

足音を消す風属性の魔術。

敵からの視認性を下げる光属性の魔術。

雷撃から身を守る地属性の防御魔術


修行も兼ねて3属性の同時発動を行った。数か月の訓練を経て3属性同時発動は容易に実行できるようになっている。自身の成長を実感する。


ケイが魔術を発動させた瞬間、違和感を感じ取ったのか、雷鳥の動きが止まった。

木の実を食べるのをやめ、首を振って回りを見回している。


(気づかれたか?)


動きを止めて息を殺す。


雷鳥はしばらく警戒していたが、結局安全だと判断したようで、食事を再開した。


ケイは物音を立てないように雷鳥の背後に回り込む。


空に逃げられると厄介なので、一気に決める。

ケイが強く踏み込もうとしたところで、後ろから声をかけられた。


「ちょっとすいません」

「!!」


驚き振り返ると、そこには一人の青年が立っていた。


(いつの間に。見落としたのか?)


「ごめんなさい。驚かせるつもりはなかったんです」


ケイよりも少し年下に見えるその青年は申し訳なさそうに謝った。


服装からは敵意は見えない。牧畜を営む青年が偶々やってきた、というような外見。

騎士団の新人や、こっそり同行している教官ではない。味方識別の魔道具を所持していないし、行軍のための荷物や配賦されている戦闘服を身に着けていない。


ケイは警戒した。こんな場所に軽装で一人。普通ではない。

とはいえ、ケイも公務員。万が一相手が一般人である可能性を考えてなるべく柔らかい口調で対応する。


「いえ、少し驚いただけです。気にしないでください」

「それはよかった」

「ところで貴方は?どうしてここに?」

「あ、私はただの通りすがりの者です」


ちょっと散歩に来ました、程度の軽さで青年は答えた。


「通りすがり?」

「ええ。()()()()()()()()()()()。信じてください」

「……」


ケイはわずかに目を細め、青年の様子を改めて観察した。


中肉中背。多少汚れているが、丈夫で動きやすそうな服装。腰にはナイフ。背にはバックパック。バックは小さく、行商人という感じでもない。

顔は普通。どこにでもいそうな、印象に残らなそうな感じ。少なくとも血生臭い雰囲気は何もなく、山賊や密猟者には見えない。

疑問点は多いがとりあえず納得することにした。


「わかりました」

「分かってもらえてよかった。貴方は何故ここに?」

「そういえば」


急いで振り返ると。雷鳥はその場から消えていた。上を向くと、空高く飛び上がりケイ達から遠ざかろうとしているのが見える。特徴的な尾羽が目を引く。


「しまった」

「雷鳥を狙っていたのですか?」

「まずいな……」


思わずつぶやいたところ、青年から更なる声がかかった。


「雷鳥は頭がいいし警戒心が強い。この辺りが危険だと思ったら、当分近づかないでしょうね。どうしてあの鳥を?」


無視してもよかったが、不思議と何か答えなくてはいけない気がする。

何と答えるか一瞬迷い、無難に誤魔化すことにした。


「魔物の危険を排除するためです」

「あ、騎士団の方だったのですか。あの鳥はそんなに好戦的ではないですよ。普通にしていれば危険はないと思いますが」

「普通ではない状況なので……」


ケイは言葉を濁した。

ここまで距離が開き、こちらの動きを察知されたのであれば仕方ない。諦めて残りの魔物を狩りにいこう。


「そうですね。アレは後回しにします」

「この近辺に近づかせたくないのであれば、私が何とかしましょうか?」

「?というと?」

「あの鳥がこちらに危害をあたえなければいいんですよね?私がよく言い聞かせますので見逃してもらえませんか」


目の前の青年はあの雷鳥に言うことを聞かせられる……?

魔物使い系の技術を持っているのか……?


()()()()()()()()

「……分かりました。お願いします」


納得はしていない、再度戻って来るつもりで、でも本当ならば儲けものだと思い、青年に対処を依頼した。

青年は笑みを浮かべて頷いた。


「では、またお会いしましょう」

「貴方は?」

「あの鳥と話をしないといけないので。これで失礼します」


青年はそう言うとケイに背を向けて斜面を下り始めた。

青年の向いた先、一つ先の峰の頂上近くに雷鳥が降下するのが見える。本当にあそこまで行くつもりなのか。


「そうだ。何か追加で言い聞かせておくことはありますか?」

「はい?」

「雷鳥への指示です。ついでなので、あれば承りますよ」

「では……この辺りに私よりも少し若い人たちが大勢やって来る予定です。その人たちへ危害を加えないようにお願いします」

「分かりました。そのように伝えますね」


青年は木々の間に消えていった。

木々の揺れが収まるころ、はっとした。結局、あの青年は何者だったのか。


……よし。見なかったことにしよう。

ケイは次の魔物のいるエリアに向けて移動を開始した。



次のターゲットは鎧熊。名前の由来は見た目から。体毛が非常に丈夫で、体の要所要所が、毛が変異した硬質物体に覆われている。これが非常に高性能で、生半可な剣戟や魔術では

ダメージを通すことはできない。


一方で、体長は雪熊よりも小さい。生態系ピラミッドで同じくらいに位置する雪熊と比較すると、見た目のゴツさと戦闘力の高さの割に生息数は少ない。


温厚な性格で普段であれば無視してもよいのだが、今回は例外。子育て中の家族がいる。意図がどうあれ、下手に子熊に手を出そうものなら親熊との死闘は免れない。親熊2体との戦闘は新人チームには荷が重い。


(排除……どうしたものかねぇ……)


人に害をなすような魔物であれば無慈悲に対処するが、鎧熊はそういう類の魔物ではない。親だけを討伐するのは多少心が痛む。


30分ほどで鎧熊の親子の近くまでやってきた。

先ほどと同じように複数魔術を発動させ、気配を消しながら近づいていく。

母親と思われる大きな熊に2匹の子熊がじゃれているのが見えてきた。


(ここでプレッシャーをかけたら逃げていかないかな……いや、逆上して襲ってくる可能性の方が高いか。すまないが排除させてもらうぞ)


ケイの心が決まったとき、少し先の茂みがガサガサと揺れた。

気配を殺して様子を見ていると、そこから人間が出てきた。先ほど別れたはずの青年だった。


「やぁ、またお会いしましたね」

「……」


雷鳥に言うことを聞かせるために向こうの峰まで行ったのではなかったのか?

そんなケイの感情を察したのか、青年は続けた。


「雷鳥でしたら、素直に言うことを聞いてくれましたよ。むやみに人を襲わないって。ほら」


青年の声の後、鳥の羽音が聞こえてきた。

顔を上げると雷鳥がこちらに向かって飛んできて、上級で旋回を始めた。


青年が手を上に伸ばすと、それを合図に雷鳥が降下。青年の隣に降り立ち、羽をたたんで大人しく待機している。敵意はなさそうだ。


「魔物だって、話せばわかってくれるということです」

「そうですか……」

「ガァー……」


小さく鳴く雷鳥。信じがたいが、この短時間で雷鳥を手懐けたらしい。この青年、魔物使いとしての技量が極めて高いと思われる。


「で、次はあの鎧熊ですね」


青年はケイが観察していた熊達に目を向けた。


「……そうです」

「では、また任せてもらえませんか?」

「いえ。それはちょっと……」


この青年に任せて、万が一怪我でもされたら困る。今度は目の前なので言い訳できない。先ほどは何となく流してしまったが、今回は許可できない。


「であれば、ご一緒にどうですか?」

「どういうことですか?」

「私と一緒に彼らに近づいて、万が一失敗した場合には守って頂ければ、と」

「それならば……」

「決まりですね」


譲歩しつつ答えたケイの答えに満足したのか、青年は頷くと熊達に向けて歩き出した。雷鳥はそのままじっとしている。雷鳥に注意を払いつつ、ケイは青年に続いた。


ガサガサ草をかき分けて青年が近づくと、鎧熊の親が牙をむき出しにして二本足で立ち上がり威嚇してきた。

青年は気配を消すような魔術など何も使っていない。

普通はこうなるよなぁ……とケイが剣を鞘から抜こうとしたところで、先行する青年に動きがあった。


左手を後ろ向きに広げてケイの行動を牽制しつつ、右手の人差し指を立てて顔の前に持ってくる。

眼前の熊に対して、静かに、と語りかけるようなしぐさ。その効果はてきめんだった。

親熊は牙をしまい、唸り声は止まった。


(マジか……)


魔術を発動した様子はなかった。この一瞬でどんな技術を使ったんだ?


ケイの驚きを尻目に、青年は無造作に親熊に近づく。

熊は前脚をつき4つ足にもどると、ふんふん、と青年に顔を近づけて匂いを嗅ぐ。


子熊たちが青年に近づくのを眺めながら、ケイはこの状況をどう収めたらいいのか頭が痛くなってきた。


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