58 竜騎士団3年目 知人とよく遭遇する休日
久しぶりののんびりした休日、ケイはカオリと商店街まで買い物に来ていた。
そこに声をかける人物が一人。
「先輩、お久しぶりです」
「ツララ、久しぶり」
「ツララちゃん。こんにちは」
休日なのに制服を着こんだツララはケイ達を見つけて近寄ってきた。
「今日は休日だよね?その恰好どうしたの?」
「ちょっと学校に用事があって。お二人はお買い物ですか?」
「足りない食材を補充にね。少し凝った料理を作ろうと思って」
「先輩、料理できるんでしたっけ?」
「料理するのはこっちの人です」
隣に立つカオリを指し示すケイ。
「指ささないで」
ペシっとその手を軽くたたくと、カオリはツララに話しかけた。
「今日はお肉を買いに来たの。もしよければ一緒に晩御飯どうかしら?」
「お誘いはうれしいのですが……ごめんなさい。今日は別の約束がありまして」
「いいのいいの。気にしないで」
「本当にすいません。またの機会にぜひ」
恐縮するツララに対しケイは別のことを聞いた。
「学校生活はどう?慣れた?」
「雰囲気には慣れてきました。一通り入学後の手続きやオリエンテーションは終わっています。授業の進みが結構早いなって感じです」
「分かる。俺も予習しないと授業についていけなかったなぁ」
「最初は学校生活のリズムに慣れることからだね。私は、寮の先輩たちの中で自分がいいなぁって思える生活をしている人を真似したよ。そのあとで自分のやりやすいように細部をカスタムする感じ」
カオリも話を合わせてきた。
「友達はできた?」
「はい。地方から出てきた子と仲良くなりました。あ、2年前まで一緒の学校に通っていた男子も入学してきていたので仲良くしてます」
「そういうこともあるんだ。偶然だね」
「ええ。もしかしたらその子、将来竜騎士団に入るかもしれませんよ」
ツララの言葉にケイは反応した。
「へぇ。その子、見込みあるの?」
「少なくとも、竜騎士団に所属するための条件を一つは満たしています」
「すごいね」
「今の私よりも強い同級生がいるとは思いませんでした」
「対人戦闘訓練をやったの?」
「やりました。初めての対人戦ではみんな腰が引けてました」
「最初はそうだよね。お互いの遠慮がなくなるまでは実力がある子が勝つんじゃなくて気が強い子が勝つの」
「その通りでしたが、その子はちゃんと強かったですよ」
今のツララは平均的な領都学校1年生とは一線を画す強さを持っている。
それより強いとはかなりの実力の持ち主だ。
カオリもケイ経由の情報でツララの実力を知っているため、話題に上がった同級生が非常に強いという意味で理解したようだった。
だが事情を知るものにとって、先の言葉の意味は異なる。
ケイにはツララが何を伝えようとしているのかわかった。
今年の入学生に有能な転生者がいる。恐らく覚醒済の男子。
「有望な男子か。調子にのって余計なことをしないように、ツララも注意してあげて」
「気を付けてね。男子はすぐに調子に乗るから。ちょっと強いからって上から目線で偉そうに接してくる奴にはパンチだよ。遠慮なく殴り返して鼻っ柱を折ってやればいいんだよ」
「あはは……」
ツララの愛想笑いをみながら、ケイは昔のカオリを思い出した。
入学当初、まだケイに対して友好的ではなかったころは確かにそんな感じだった。
ツララがちらっと時計に目をやった。
「あ、ごめんね。話しこんじゃって。用事あったんだよね」
「いえ。大丈夫です。時間はまだありますので」
「あんまり引き留めても悪いし」
ケイを突っつくカオリ。
「そうだな。また今度。たまには竜騎士団詰所にも顔を出してくれると嬉しい」
「はい。ぜひ。……では失礼します」
ツララはお辞儀をして去っていった。
ケイ達も元々の場所に向かって歩き出した。
「元気そうでよかったね」
「ん。領都学校に入学したのは正解だったみたい」
楽しくやっているようで安心した。
話題に上がった男子のことは後で団長にでも確認しよう。
食料品店に入ろうとしたところで、また別の知り合いに遭遇した。というかカオリが遠目に見つけた。
「あそこにいるの、コヨミさんじゃない?」
「え?どこ?」
「ほら、あそこ。向こうの喫茶店」
「本当だ」
オープンテラスの喫茶店のテーブルに座っているのを見つけた。待ち合わせという
「挨拶した方がいいかな?」
そう言ったところでコヨミが立ち上がった。
おや、と思ったところでもう一人の人物が現れるのが見えた。
ケイの知る人物。レイジである。
「そっとしておこう」
歩き出そうとしたカオリの肩に手を乗せ引き留める。
「……そうね」
振り返ってケイの真面目な表情を見て、またコトネ達を見たところで何かを察したのか、カオリはすぐに同意した。
向こうもこちらに気づいていたかもしれないが、だからといって今あそこに突撃してもお互い気まずくなる可能性が大きい。
ケイはこういうシチュエーションに対しては小心者だった。
カオリもそれを分かっているので引いてくれる。ありがたい。
何やら挨拶を交わしているコヨミ達に背を向けてケイはお店の中へと入っていくのだった。
食料品店から出てきたところをまた声を掛けられた。
「ケイさん、こんにちは」
「こんにちは、ナツキくん」
正面から歩いてきたのはナツキと同年代の女性が二人。
二人ともナツキと同じくらいの背丈。女性としては高めだ。
ナツキの後ろで話が終わるのを待っているようだった。
「今日はお買い物ですか?」
「食料を補給にね」
両手に抱えた袋を軽く上げて答える。
「そっちも買い物?」
「いえ、学生時代の友人と遊ぶ約束をしていて」
後ろの二人に目をやると軽く会釈を返して来た。
どちらもこちらを探るようなまなざしだが、微妙にそれだけではない感情がこもっているような気がした。
「すいません。お邪魔でしたか?」
「そんなことないよ。……そうだ。ついでに紹介しておくと、これが例の弁当作成者です」
「ケイがお世話になっています」
とっさに話を振られたカオリはそつなく挨拶をした。
「こちらこそ、ケイさんにはお世話になっています」
「ケイって適当なこと言うことも多いから、そういうときは聞き流してあげてね」
「あ、はい」
「人聞きの悪いこと言うなよ」
「何?ついさっき弁当作成者とか適当なこといった人がそれを言うの?」
「……はい、すいません。その通りです」
漫才を見せられたナツキは困ったように一言。
「仲がいいんですね」
そうするうちにナツキの背後にいた女性がナツキを急かす。
「あ、すいません。ケイさん。ちょっと予定の時間が迫ってて、これで失礼します」
「うん。また来週」
「はい」
ナツキ達は足早に去っていった。
それにしても今日は良く知り合いと遭遇する日だ。珍しい。
感慨にふけっていると隣からプレッシャーを感じた。
「で?職場で他にどんな適当なこと言ってるの?」
「ちょっとした冗談だよ。気にしないで」
「気にするに決まってるでしょうが!」
機嫌を取るために、追加でスイーツ屋さんによることになった。思わぬ出費。
その後、自宅に帰っても機嫌取りは続いた。
口は災いのもとである。成長して顔面パンチされない程度に丸くなっていたことだけは幸いだった。




