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53 竜騎士団3年目 累加領域

春の晴れた日、ケイは屋内特別戦闘訓練場でカイ団長を待っていた。

魔術訓練に使うそれなりに広い屋内スペースで、場所予約をしてあるため現在この場にいるのはケイ一人だけだ。


動きやすい服装で来るように、と指定されたため運動着を着ている。


「待たせたね」


カイ団長が普段の装い、討伐任務でも着用する軍服姿で入口に姿を見せた。

そのまま団長は訓練場の端の方に立つケイの近くに歩いてきた。


「最初に少し話そう」


団長とケイは壁際の椅子に腰かけた。


「ケイも3年目。このあたりで一枚壁にぶつかるころだろう」

「はい」


「最初に目的と手段を説明するよ。まず、この訓練の目的は、ケイが累加領域での戦闘技術を習得することとする」

「累加領域、ですか」


聞きなれない単語だが、何となく意味していることはわかる。


「自分の認識する時間の流れと周囲の時間の流れが異なる状態。特に自分の思考と行動が通常ありえないレベルで加速している状態を累加領域と呼んでいる。と言っても、私がそう仮称しているだけだがね。私はこの技術を教わったわけでもないし、誰かに教えたこともないから」

「団長の固有スキルということですか?武術でいう縮地、的なものでしょうか」


ケイはケンイチが良く使う、超スピードで移動する歩法をイメージした。


「縮地とは違う。累加領域は魔術要素が強い」

「たしか、雷属性を鍛える必要がある、ということでしたね」

「そう、考課面談のときはそう言った。それを確かめるために、まずはケイの属性魔術を一通り見せて欲しい。どの属性を鍛えるかを判断したい」

「分かりました」


ケイは団長に指定されるまま、魔術を順番に発動していく。

火、水、風、土、雷、光、闇。


いずれも領都学校で習う基本の魔術だ。


「習熟度としては、水、土、闇が高く、風が普通、火、雷、光が低い、という感じかな」

「学生時代の魔術教官にもそう評価されました」

「一昨年、ケイが練習していた魔術は水と土属性。その結果この魔術を使うようになった」


団長は剣を抜くと、その刃に高圧力の水を纏わせる。

ケイが夏の間によく使う魔術、‘水刃’だ。


「はい。不得意な魔術を練習するよりも得意な魔術を伸ばした方が役に立つと思いました」

「発想はいい。自分の強みを強化するのは大切だ」


団長は魔術を止めて剣を再び鞘へと収めた。


「この2年の結果は上々。3年目からは次の段階に入る」

「はい。次の段階というのはどういうことでしょうか?」

「これまで通りに強みを伸ばすのではなく、不得手な部分を鍛えてもらう」


ケイにはそこがどうにも理解できなかった。

方針をまるっきり逆転させる理由がわからない。


「短期的な成長という意味では、強みを伸ばすことは重要。強みを自覚し自信を持てば意識も前向きに、積極的に討伐任務に当たれると思う。いいことだが、そのままだと強さの上昇曲線は一定レベルでサチることが多い」

「サチる」

「個々の才能、肉体的限界等の制約によって、あるところでそれ以上伸びなくなる、そこまでいかなくても、伸びるスピードは鈍化する」

「限界値ということですか」

「その人の限界値に近いところまで近づき続けることはできる。ただ、竜騎士団われわれは任務の都合上、限界値を突破する必要がある」

「限界値を突破するためには、弱点をなくすことが必要ということでしょうか?」

「・・・ケイの場合は、そうだと思う」


団長は答えた。答えが一タイミング遅れたのは、団長も迷っているから・・・?


「限界を突破する方法は一つではない。今のままの努力を重ねることによって限界を超えることもおそらく可能。実際ケンイチやレイジはこのタイプ。体術や魔術をひたすらに磨き上げて限界を越えている。一方でケイの突破方法は、というと・・・私の突破方法に近いと思う。累加領域への適応による限界突破。それをこの特訓の目的とする」

「はい」


「ここまでが特訓の背景、ここからは、どうやって累加領域に入るか、についてだ」

「はい」


「ケイは感覚が、思考が加速する原因は何だと思う?」

「命の危険を自覚した際の、火事場の馬鹿力、だと思います」


命を守るために一時的に限界を越えた力をだせるようになる。

ケイはそう思っていた。


「そうだ。実際、私も最初に累加領域を認識したのは命の危険を感じたときだった。で、あればどうして命の危険を感じたら世界がスローモーションになるのか?その原理は何なのか、は考えてみたか?」

「そこまで考えていませんでした。感覚的なもの、そういうものだとばかり・・・」


ケイが最初に累加領域を認識したのは、8年前。団長と魔族の闘いに巻き込まれて魔族の触手に腹を貫かれる直前。最近の記憶は、聖地での出来事。コトネの首についた爆発物を処理したとき。どちらも命の危機を強く認識したときだ。


正直なところ、長い間気のせいだと思っていた。


「命の危険とは無関係のときはなかったかい?」

「それは・・・あります」


思い出すのは、竜騎士団1年目の成果確認試験で団長を模した人形と戦ったとき。人形の剣を切り裂いたときにも、周りは短時間ではあるがスローモーションになっていた。

あのときは命の危険は感じていなかった。


ケイは団長にその時のことを伝えた。


「あれは火事場の馬鹿力ではない。ということですか?」

「そう。累加領域を感情や意識といった曖昧なものではなく、その原因を自覚し、起こるべくして起こす。反復練習で自由に扱えるようにするんだ」


団長は急に話を変えた。


「初歩的な質問だ。魔術と魔力はどういう関係にある?」

「え?魔術を発動させるためには魔力が必要です」


「どうやって魔術を発動させる?」

「魔術式を構成し、そこに魔力を流し込みます」


「魔術師の習熟度、強さ弱さは何で決まる?」

「魔術式の設計練度、構築スピード、緻密さ、魔力変換効率などに由来します」

「そう。魔力は魔術へと変換させる際、エネルギー的にロスが発生する」

「ですね。そう習いました」

「もしそのエネルギーロスがなければ魔術の威力が上がるが、そんなことはあり得ない・・・一般常識ではね」


一呼吸置いて団長は続けた。


「エネルギーロスを極めてゼロに近くする方法はある」

「まさか、そんな話聞いたことがありません」

「だろうね。私も何故そうなるのかは分からない。だが実際そうなるのだから仕方ない。方法は、全ての属性の魔術変換を特定の強度で同時実行すること。そうすれば、なぜかエネルギ―ロスがゼロになる。古い知識のイメージで言うならば、それまで鉄の電線だと思っていたものが、急に超電導体の電線になるんだ。いきなり抵抗値ゼロだ」

「・・・」


何となく団長の言いたいことはわかるが、完全には理解できない。例えが特殊すぎる。


「この状態になると、魔術効率が最大化することに加えて肉体的にも影響が出てくる。神経伝達信号に影響しているのか、思考スピードや肉体の反応速度が格段に上がり、結果的に魔術式の構成スピードや精密さも上がる。この状態を私は累加領域と呼んでいる」


団長は話を止めた。ケイが理解できたか確認しているようだ。


「命の危険を感じたときに何故累加領域に入るのか、正確なメカニズムは分からない。今言えるのは、同じことを人為的に起こすことはできる、ということだけだ」

「他の人たち、魔術研究者の方々はこの事実に気付いていないのですか?」


学校や研究所にはケイよりも魔術操作に長けた人物は多い。

ケイの質問に対し、団長は首を横に振った


「分からない。私の知る限り情報はないので他にも条件があると推測している。例えば、転生者であること、が条件であれば発現者は限られる」

「不思議ですね・・・」

「ああ」

「あ、レイジさんはどうなんですか?魔術的の現象ならレイジさんは再現できないのですか?」

「一度試してもらったことがあるが、累加領域に入ることはなかった。肉体強度的な問題があるのかもしれないな・・・ともかく、ケイは既に累加領域に入ったことがある。訓練によって自在に使えるようになる可能性が高い。やってみる価値はある」

「わかりました」

「これができれば、魔人とも互角以上に戦えるようになる。戦力アップのためにも期待しているよ」

「やってみます!」


団長に期待されている。

単純なもので、ケイはそれだけでやる気が出てきた。


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