52 竜騎士団3年目 新人配属
新年度開始から2週間。
今日は新人が各部署に配属される日である。
「どんな子なんでしょうね?」
「素直な子だといいなー」
「うむ・・・」
竜騎士団詰所には、ケイ、マヤ、レイジの3人が待機していた。
新人が集合研修を終え、団長が引き取りに行っている。
もう少ししたらやってくるはずだ。
「レイジさん、これまで直属の部下っていなかったんですよね?」
「そもそも竜騎士団は一人親方の寄り合い所帯みたいなものだったからな。去年のケイとツララのような関係の方がレアケースだ」
「そうですよねー。特殊個体を狩れるのであれば、その他は多少問題があろうと目をつぶる、とうのが方針でしたら。前団長のころの方針とは随分と変わりましたよ」
「団の方向性を決めるのは組織の長。団長が変われば方針も変わる。そこに思うものがないことはないが、部下としては素直に従うさ」
(レイジさん的には、団長の指示であれば従う、ということなのかな?)
回りくどい言い方をしたレイジだが、悪感情のようなものは見えなかった。
これがユリであれば団長との関係性からもっと直接的な言葉がポンポンでてくるのだろうなー、とケイが思っていたとき、詰所がノックされた。
そのまま扉が開かれ、二人の人物が入ってくる。
まず先に入ってきたのは団長。いつもの軍服姿だ。
その後に続いて入ってきたのは背の低い、若い男だった。
きっちりとした髪型に真新しい騎士団共通の制服。一見して新人さんだとわかる。
「失礼します!」
緊張しているのか、思いのほか大きな声で入室の挨拶。
「では、団員の紹介からいこう。みんな、こっちへ」
団長の声に応じて、3人は打ち合わせスペースへ移動した。
「この3人がナツキを指導する団員になる。左から、レイジさん。ケイさん。としてマヤさんだ。で、こちらか新人のナツキくん。・・・まずは自己紹介からかな。ナツキくんから左回りで」
「はい。この度、竜騎士団に配属されました。ナツキと申します。早く一人前になれるように頑張りますので、よろしくお願いいたします」
「はい、よろしく。では次、レイジさん」
「魔導戦闘、討伐技術の指導担当になる。レイジです。自分の持っている技術は全て教えるつもりなので、頑張っていこう」
「はい、どうかよろしくお願いします」
「次、ケイさん」
「基礎訓練指導を担当します、ケイです。3年目。竜騎士団では一番の若手なので、何かあったら気軽に聞いてきてね。これからよろしく」
「よろしくお願いします」
「最後、マヤさん」
「竜騎士団の庶務と窓口担当のマヤです。最初に覚えてもらう書類仕事は私が教育担当です。私は討伐任務を担当していないので、大体この詰所にいます。困ったことがあったらまずは私で大丈夫です」
「わかりました。よろしくお願いします」
「今日はマヤさんに共通教育からの引継ぎと庶務関係の手続きをしてもらって、本格始動は明日からお願いします。では、解散」
団長の解散の声でマヤとナツキをその場に残し、団長、レイジ、ケイは自席へと戻る。
「じゃあ、ロッカーの場所から・・・」
マヤの案内によって二人は詰所を出ていった。
ロッカーの場所はすぐにわかる。その後でこの場にいない他の団員にも挨拶に行くのだろう。
・・・一日目にして退団したい、と言い出さないことを願うばかりだ。
ケイは、自分が入団初日に抱いた感想を思い出し、そんなことを考えていた。
幸い、戻ってきたナツキの表情は真面目なままだった。
昼休みに入ったので、マヤとケイの間の机にナツキが座って昼食を食べる。
マヤとケイは弁当。ナツキは売店から軽食を買ってきた。
「お二人とも、お弁当持ってきているんですね。自分で作られるのですか?」
「私は自作の弁当。ケイくんは愛妻弁当」
「先輩はご結婚されているのですか?」
「してない、してない!マヤさん、嘘を吹き込まないでください」
「ごめんなさい。でも、将来そうなるでしょ?ね?」
「それは、まぁ。可能性は高いですけど」
「なら似たようなものでしょう?」
「いや、違いますよ?」
そんなやりとりをしてナツキに話を振る。
「ナツキくんは売店で購入かい?この詰所は端にあるから、休み時間に入ってから買いにいったら売り切れている弁当なんかもある。面倒でなければ先に買っておくか、弁当を持ってきた方が楽だよ」
「特に食にこだわりはないので。大丈夫です。自炊もできなくはないですが、わざわざ手間をかけるよりもお金で解決できるならそっちでいいかな、と思って」
「まぁ、若ければそれもアリだな。弁当作る時間もかかるし、帰ってから弁当箱を洗うのは地味に面倒くさい」
「ケイくんの場合、どっちの行為もケイくんがするわけじゃないでしょ?」
「今はそうですけど。少し前までは弁当箱は基本洗って返してたんですよ」
「へぇ。それは関心、関心。女の子としてはポイント高いよ」
「・・・本当は、妹に一度注意されまして、そこから改めました」
「それは、何も言えないわ・・・」
6歳年下の妹に強く駄目だしされたのは兄として情けないが、事実である。
マヤは話題を変えた。
「ナツキくんは好き嫌いとかあるの?」
「えっと・・・魚卵系が苦手ですね。プチプチ感と生臭さがちょっと・・・」
「そういう人いるよね。うちの父は魚卵好きなんだけど、医者にとめられてたわ。病気の関係で食べちゃダメって」
「好きなのに食べられないって、それ一番つらい奴ですね」
「好きなものは?」
「やっぱり肉系ですね。自分、肉なら結構食べますよ」
「お、頼もしいねぇ。私たちみたいに年を取ってくると、肉もだんだんきつくなってねぇ・・・」
「いや、マヤさんも俺もまだ20代じゃないですか。自分はまだまだいけますよ。肉でも油でもどんとこいです」
「そんなこと言ってると、体重がどんどん増えてくのよ・・・毎年の健康診断結果を積み重ねると分かるわ」
「俺たちはまだ、これから体を作らないといけない段階ですから。なぁ、ナツキくん」
「あ、はい。そうですね」
多少無理やり言わせた気がするが、いいだろう。
基礎訓練担当としては、小柄なナツキにも最低限の体づくりはしてもらいたい。
「私、最近はヘルシー系のメニューを試しているの。食べてみる?」
「え・・・では、少しだけ・・・」
「どう?」
「美味しいです」
「口にあってよかったわ」
「ちなみに、何なんですか?これ。あっさりした肉っぽいですが」
「ふっふっふ。それはね。・・・豆よ」
「豆?これが?」
「最近は疑似肉なんてものも出回ってきたわ。時代の先端を取り入れることは大事よ」
「マヤさん、そういう情報は早いですね」
「まぁね。ナツキくんも、知りたいことが会ったらどんどん聞いてね」
「あ、はい」
そんなこんなで昼食を終え、午後は午前に続いてマヤとナツキはマンツーマンで教育を受けている。
多少うざい絡み方だったが、新人のアイスブレイクとしてはこんなものだろう、とケイは自分を納得させた。
まだナツキの性格を把握していないので、この対応が正解なのか不正解なのかは分からない。
だからと言って必要以上に遠慮していても信頼関係は築けない。
(難しいけど、一番年の近い自分の役割だろうなぁ)
そんなことを思いながら、ケイは次の討伐対象の資料を読み込むのであった。




