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5 竜騎士団1年目 1Q

竜騎士団1年目はあっという間に過ぎていく。

最初の2か月はマヤについて回るのが8割、訓練2割だった。マヤについて回って行うのは各種事務作業である。領の法令変更といった組織的な連絡から、騎士団メンバー間の備品、制服、給料関連のやりとりなどであるが、当然この世界には一斉メールなんて便利なものはない。必然的に他部署との書類の手渡しがメインになるのだが、それを行うことで他部署との顔見知りが増えた。


自然と他部署の庶務担当の若い女性とお知り合いになってくるとケイも浮ついた気持ちになってきた。この世界では市庁舎に努める若い女性は騎士団員のお嫁さん候補である。竜騎士団の一員である自分も悪くはないはず、と考えるものの、そういう雰囲気になることはなかった。


そうこうしているうちに、顔採用された女性たちは日を追うごとに減っていき、連絡相手がいわゆるお局様ポジションの女性に変わったことで、ケイは今年度の戦いに敗れたことを知った。そう、若い新人女性とお近づきになりたい独身男たちの戦いは年度初めに始まり、数か月で終えたのである。


残ったのは敗者である独身男たち。ケイは訓練を共にする他騎士団の独身メンバーたちとある種の意識を共有し、自然と交流するようになった。それはケイに情報共有の重要さを再認識させることになった。


なお、マヤという女性は見た目悪くない、年齢不詳の独身女性である。となるとアプローチする男も出てきそうなものだが、なぜがそういうそぶりも噂もなかった。

一度ケイも話を振ってみたのだが


「私、そういうこと言うケイくん好きじゃないな~」


と真顔で言われた。噂好きの他部署のおばちゃんでさえ避ける話題のため、それ以上何も言えなくなった。わざわざ上司の逆鱗に触れる必要はない。


余裕があったのはこのあたりまで。季節が夏に移り変わったころ、ケイには初めての魔物討伐指令が伝えられた。討伐対象は山間部で発見されたミノタウロスの特殊個体。ミノタウロスは、この世界の一般的な騎士団員が1対1で相手にしてはいけない、逆にいうと複数人であればなんとかなる程度の魔物である。


問題は、それが特殊個体だということだった。

通常とは異なる能力を持つものを特殊個体と呼び、その能力は未知の場合も多い。竜騎士団の相手は基本的にこれだ。通常の退治方法では被害が大きくなりそうな相手に対して、辺境伯領の最大戦力をピンポイントで当てる、という思想のもと竜騎士団は発足している。


「私がフォローするから、気楽にいこう」


現在の辺境伯領最大戦力その人であるカイ団長がケイに声をかける。

ここはルイが管理している竜舎で、ケイは初日に挨拶した緑色の飛竜(名前はみーくん)に乗るところだった。

竜騎士団は他の騎士団と異なり、各町に支部のようなものはなく領都にのみ存在する。広大な辺境伯領を小人数でカバーする竜騎士団にとって、移動時間を短縮できる飛竜たちは欠かせない存在だ。あくまでも移動手段であり、よっぽどのことがない限り戦闘には参加しない。


なお、団長は飛竜に乗るよりも自力で移動した方が早いし楽らしい。

そういえば5年前も生身で空中戦を繰り広げていたな、とケイは思った。


ケイの現状の戦闘能力は実際大したことはない。今年入団した騎士団員としては他の騎士団含めてトップレベルだがベテラン団員と比較すると色々な面で劣る。


ケイが得意とする戦闘スタイルは体術と魔法を組み合わせた、正統派とでもいうべきものだ。主に用いる武装は剣だが、場面に応じて何でも使う。これは過去のカイ団長を目標としていたが、自分の剣の才能不足も感じていたからだ。12歳まで普通の子供だったケイが5年ガチったことで、多くの面で秀才にはなれたがその道の天才には劣る、という状況である。総合力で勝負するために身に着けたスタイルと言える。


一般ミノタウロスであれば問題なく制圧できるケイであったが、さすがに特殊個体は一筋縄ではいかない。今回は筋力が異常発達しており、強さ、速さ、耐久が段違いという事前情報がクロカゲからもたらされていた。


ケイは事前情報を基に自分の得意な戦術、すなわち様々な魔法や戦い方を織り交ぜてダメージを与えていく。このまま討伐できる、とケイが少し気を緩めたとき、魔物は突然術を使いだした。危うく致命傷を受けそうになったが、すかさず団長がフォローに入った。

その後、体制を立て直し、敵の情報をアップデートしたケイによって討伐は成功した。


「うん。最初ならこんなものさ。よくやった」


実際、初めての特殊個体討伐でしっかりと目的を達成したケイは優秀と言える。

団長は座り込んだケイをねぎらいつつ、回復魔法をかけ、認識阻害アイテムを渡した。


「さて、じゃああとは私の討伐を見ていてもらおう。ケイの参考になるよう戦うから」


そういうと移動を始めた。ケイも立ち上がり団長の後を追った。みーくんに乗って移動した先は、より標高が高く、自生する木の種類が変わり、岩場になっている場所だった。


「さっき渡したマントとネックレスを身に着けて、少し離れてついてきてくれ」


みーくんから降りたケイが歩いて丘を越えるとそこには全長5メートルを越える岩竜がいた。厳密な分類としては竜ではないが、極めて高い戦闘能力を持つために竜という名前を冠する魔物である。特殊個体ではないようだが、ケイが戦ったミノタウロスの特殊個体よりも強いと思われた。


「里近くまで下りてくる若い岩竜だ。被害も出ているので討伐命令が出ている」


団長は無造作に岩竜に近づいていく。そこには気負いのようなものは全く感じられず、とても自然な足の運びだった。足元には砂利が散乱しているが、足音などはない。

その代わり、気配を消すでもなく、むしろ自分を見つけてくれとでも言うように真正面からの接近だった。


岩竜は飛ぶことはできない。その代わりに硬い外皮によって高い物理防御と魔法防御を両立している。周囲の岩を操ることもでき、ここは岩竜にとってホームグラウンドだ。

岩をぶつけようとしてくる岩竜に対し、団長は最小現の見切りでそのすべてを躱していく。


「魔物が使う術には特徴が二つある、種族としての特徴と、個体としての特徴だ。この二つを把握することで術に対処する」

「・・・」


ケイはステルス性の高い道具で気配を消しつつ、その言葉を聞いていた。

団長は腰に下げていた剣を抜いた。その剣はいつも団長が使う剣ではない。あえて、新人騎士団員に与えられる正式採用剣を持っていた。


岩竜は自身の体を用いての攻撃を開始した。自分よりも弱いものを一時的に行動不能にする咆哮を放ったのち、爪で地面をえぐり礫を散弾のように放つ。


「これは種族としての特徴」


そのすべてを躱した団長は魔法を放つ。得意とする雷系ではなく、水系の魔法だった。それも上位魔法ではなく中級魔法だった。ケイが使える最大威力程度になるように手加減されていた。


「弱点をみつけたら、躊躇せずにそこをつく。手段が豊富であるというのはそれだけで強みになる」


そういうと、団長は岩竜の攻撃を躱すのではなく、剣を使ってすべて弾く。岩竜に肉薄し剣をふるう。その一撃は外皮に阻まれて大きな傷は与えられなかった。

岩竜は団長の攻撃がたいしたことはないと判断したのか、より攻撃的になった。


「とはいうものの、最終的には技の威力と精度が問題になる。これは一朝一夕でどうこうなるものではない。そのため、日々研鑽を重ねることだ」


そう言うと、そのまま同様の戦い方を続けた。いや、少しずつ剣戟の精度を上げていく。

岩竜も本気になったのか、戦いが熾烈になってきた。


団長は一度仕切り直すように距離をとる。


「雷刃」


そうつぶやくと、団長は一瞬で距離を詰めて岩竜の首を切り落とす。剣は雷光をまとい、それはケイが初めて見た団長の技に似ていた。

地属性を持つ岩竜に対して雷属性の技は効果が薄いはずだが、それでも一撃で終わった。


「人は弱い。種族としての肉体的強度でいえば、ミノタウロスにさえ負ける。だからこそ、鍛える必要がある」

「・・・」

「これは騎士団員ならばだれでも知っている、新人時代に叩き込まれる当たり前の内容だ。竜騎士団でも例外ではない。改めて、覚えておいて欲しい」


ケイは団長の戦い方を見つつ、今の自分に不足している部分を理解しようとした。

とりあえず分かるのは‘全部たりない’だった。


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