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46 竜騎士団2年目 考課

ケイはケンイチと道場で訓練をしていた。

目的は、聖域での戦闘で初めて認識した、時間がゆっくり流れるような感覚を再現することだ。


「ケンイチさん、戦いの中で、時間の流れが遅く感じるときってありますか?急に相手の攻撃がよく見えるようになって、通常回避できない攻撃を回避したり、一瞬自分がものすごい速さで動けたり・・・」

「体感時間の変化か。急にどうした?」

「先日の戦闘でそういう感覚があったんです。使えるようになりたくて」

「んー・・・」


ケンイチは手を止め、少し考え込んだ。


「先読みのことを言っているんではないよな?」

「先読み・・・」

「例えば、だ」


ケンイチは正拳付きの構えを取った。


「この状態で俺が一撃を放つ場合、それがケイの予想通りの一撃であれば、対処に幅が出る。拳がくると分かっているから、回避なのかカウンターなのか考える余裕がある。こんな風にな」


ケイは余裕をもってケンイチの拳を回避した。


「逆に、だ。この構えから拳ではない攻撃が来た場合、予想ができていないから判断が遅れる。こんな風に」


ケンイチはノーモーションで後ろ回し蹴りを放ってきた。

ケイはギリギリで蹴りを回避した。


「戦闘経験が増えると、何となく相手のやりたいことが分かるようになってくるし、敵の視線や動き出しの姿勢で次の動作が先読みできるようになる。その結果、思考時間に余裕ができる。その事を言っているのかと思ってな」

「違う、と思います。本当に時間が遅くなったような感じがしたんです。爆弾処理のタイミングでその感覚があったので、相手がどうこうとかではないかと」

「そうなると、ちょっと俺では上手く説明できない。スマン」

「いえ、こちらこそすいません」



ケンイチとの鍛錬を終えたケイは、資料室にレイジを訪ねる。


「レイジさん。ちょっとお聞きしたいことが・・・」

「聞こうか」

「実は・・・」


先ほどケンイチに聞いたことと同じ内容を聞いてみる。ケンイチに聞いた内容も参考として伝えた。


「どうでしょうか?」

「基本的にはケンイチさんが言っていることと同じだ。俺の場合は外見ではなく、魔力の流れを見る」

「魔力の流れ・・・」

「魔術発動時、効果が発現する前にその場の魔力に微小な兆候がでる。発動前、魔力兆候の時点で何をしてくるか分かっていれば、落ち着いて対処できる。これができるようになると、魔術以外、例えば体術であっても、肉体が移動する際に生じる魔力の移動を先読みすることで対処できるようになる」

「なるほど。ちなみにどうやればできるようになるのでしょうか?」

「魔力検知の反復練習だ。コツをつかめば数年でできる」


(そのコツをつかむのに何年もかかりそうです・・・)


「魔力先読みではないようだし、俺も適切なアドバイスはできないな」

「いえ。参考になりました。ありがとうございます」



レイジとの話の後で、ケイは地下室へとやってきた。

関係者以外立ち入り禁止、と書かれた重厚な扉の横にある呼び鈴を押す。スカスカの感覚。呼び鈴の役割を果たしていない。


強めにノックするが返事はない。


(ま、いつものことだし・・・)


「失礼します」


扉を開けて室内へ入る。

資材の箱の向こうに、薬品を調合しているユリが見えた。


「ユリさん」

「5分待って」

「はぁ・・・」


それっきり調合に戻ったユリは、きっかり5分後に道具を置いて振り返った。


「で、どうしたの?」

「ちょっと相談があって・・・時間大丈夫ですか?」

「ええ。一区切りついたから。今は待ちの時間」

「じつは・・・」


ケンイチとレイジに相談したことと同じ内容を聞いてみる。ただし、今回は聞き方を変える。


「動き出しの姿勢や魔力の流れを基にする予測・先読みではない、と思っていて。残るは肉体的な何かだと。動体視力が一時的に向上した、とか。そうなると肉体に影響が出ていないかと思って」

「その言い方だと、メディカルチェック的なものをしたい、ってことでいいのね」

「はい。お願いしたいです」


ちら、と資材の山を見たユリは答えた。


「ちょうどよかったわ。じゃ、そこに横になりなさい。とりあえず、目と脳はチェックした方が良さそうね」

「お願いします・・・」


何やらモニターに繋がる吸盤を体にペタペタくっつけられる。

目を覗き込まれ、ライトを向けられたり。視力チェック。さらに血まで抜かれた。


「目はとくに異常なし。今は正常よ。その後は同様の感覚はない?」

「はい」

「時間も空いているし、回復したのかもしれないわね。脳も正常。・・・現時点では、その感覚は肉体に不可逆的な損傷を与えるものではない、と言っていいと思うわ」

「わかりました。ありがとうございます」


起き上がり、お礼を言って部屋を出ようとしたとき、呼び止められた。


「ケイ、あなたの血、少し使わせてもらっていい?」

「・・・何に、でしょう?」

「私の実験。迷惑はかけないわ」

「・・・いいですよ。あまり変なことはやめてくださいね」

「ありがと」


閉まる扉の間から、薬品に向き直るユリが見えた。




もうすぐ年度末。ケイは会議室で団長と面談していた。

考課面談。今日のやりとりで来年の給料が決まる日だ。


「この一年、どうだった?」

「自己評価はA+です。結構頑張って成果も得たと思っています」


評価はSS ― S ― A+ ― A ― B ― Cの6段階。


「そうだね。よく頑張ってくれた」


年度初めに決めた今年の目標は以下4つ。自己評価も共に記載すると

・竜騎士団2年目としての自分の成長   ・・・ ◎

・ツララの指導             ・・・ 〇

・竜騎士団の組織改革          ・・・ △

・カオリの行動の理由解明        ・・・ ◎(仕事とは無関係なケイの心の中の課題)


特殊個体の単独狩り経験を積み重ね、この一年でケイはさらに強くなった。

ツララは無事竜騎士団仮所属を終え、来年度からは領都学校1年生である。先日学試験を受けて無事通過していた。

組織改革はまだ何も進んでいない。が、先日のケイの行動がきっかけで聖騎士団との人員交流が正式決定した。これを成果としてもいいかもしれないが、あの行動は私的なものという扱いなので今回はこの件の評価は見送り。


団長とは上記のような認識で一致し、その後雑談タイムに入る。

先日団員たちに聞いた疑問について、団長に聞いてなかったことを思い出した。


「時間がゆっくり流れるような感覚か」

「はい」

「・・・懐かしいな」

「懐かしい?」

「私もその感覚に戸惑ったときがあった」

「原因が分かるのですか?」

「私の想像している状態であれば、原因も解決法も分かる。ケイ、自分が得手不得手とする魔術属性、自覚していれば教えてくれ」

「得意なのは土と水。不得意は雷です」


農家の息子だけに、土と水は小さいころから慣れ親しんでいる。


「であれば、不得手な属性を得意な属性と同レベルまで鍛えるんだ。そうすればその感覚に近づける。使いこなすには自分で感覚をつかむしかない」

「雷ですか・・・」

「来年から、定期的に私と戦闘訓練をしよう。一皮むけるためだ」

「はい」


帝都出張前には団長に稽古をつけてもらっていたが、出張後はそれもなくなっていた。

というか、団長が忙しくなり不在の時が多くなっている。そんな時期にわざわざ時間を取ってもらうのだ。頑張ろう。




ケイの面談後、ツララの成果確認試験が行われた。

場所は戦闘訓練場。


その場にいるのはツララ、ケイ、団長、レイジ、ユリ、クロカゲとマヤの7人だった。

レイジが防壁を張り、ユリが人形を配置する。やることは一年前にケイがやったことと同じ。

団員の劣化コピーである人形を倒せばクリアである。


人形は大きくなり、試験開始と同時に目に光が灯る。

光の色は白だった。


「白?」


最初の目の色は青、ケンイチのコピーだったはず。不思議に思ったケイは直後に納得した。

人形の構えが自分そっくりだった。ユリに聞いてみた。


「いつ自分のデータ取ったんですか?」

「先日のメディカルチェック時にね。血も使わせてもらったわ」

「仕事早いですね」

「まぁね~」


ツララも人形がケイのコピーだと気づいたようで、いきなり奥の手の分身を出していた。


「お」

「へぇ」


半年前のケイと同様に、二人のツララの攻撃を捌いていた人形は、戦闘開始から10分後、三人目のツララに両断された。


彼女は10分間分身を維持する体力と、3人目を出す技術をこの半年で身に着けていた。

ケイが出した課題を見事達成したようだ。


満面の笑みを浮かべるツララは、その後復活してケンイチを模した動きをする人形にコテンパンにやられた。だが、その表情は晴れやかだった。



夕方、行きつけの定食屋で懇親会を開き、竜騎士団は今年度の活動を総括した。

来週からは新年度。ケイの竜騎士団2年目はこれにて終了。



竜騎士団2年目 進捗100%。


2年目終了です。

小噺をはさんで、3年目に続きます。

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