40 竜騎士団2年目 救出
コトネの首に巻かれたチョーカー。そこに埋め込まれた二つの魔石のうち、小さい方が輝きだすのを見てケイは頭に血が上るのを感じると同時に、自分の状況をどこか第三者目線で見ていることに気づいた。
過去、無差別テロに使われたこともあり、帝国内では使用が禁止されている魔道具。
こんなものを少女に着けるとは。
首輪は後数秒で爆発する。今から普通に外しても間に合わない。それどころかケイも爆発に巻き込まれる。
自分はこんなところで死ねない。この少女も死なせない。
次の瞬間、ケイから離れようとしていたコトネの声が聞こえなくなった。自分以外の時間の流れがゆっくりになる。
(やる!)
コトネの腕から剣鉈を取ると雷刃を発動させる。
鉈の表面を這うように広がる雷撃の光がやけに遅く感じる。
そのままコトネの首とチョーカーの間に無理やり隙間を作り、鉈でチョーカーを切断。
鉈を持っていない方の手で、大きい方の魔石が輝きだしたチョーカーを奪いとり、投げ飛ばす。同時にコトネに覆いかぶさるように地面に伏せ、魔術による防壁を張る。
投げ飛ばされたチョーカーはケイ達から5メートルほど離れた空中で爆発した。
防壁は爆発の衝撃に耐えきった。
周囲の世界の速さと音が元通りになると同時にケイに疲労感が襲い掛かってきた。
深く呼吸をしながら、このまま倒れこんでしまうのを耐える。
それが出来ない事情が自分の身体の下にいるからだ。
「あぁぁ!」
爆発の恐怖からだろうか、コトネは大声をあげた。ケイはその口を塞ぎ、小声でたしなめる
「んんんんんん!」
「落ち着け。爆弾は外した」
「んんん・・・ん?」
「そうだ、外した」
目を白黒させるコトネに対して再び、ゆっくりと言い聞かせる。
「あぁぁ・・・」
自分の首に手を当ててチョーカーがないことを確認したコトネの下半身から、奇妙な音が聞こえた。同時にツンとした匂いが広がる。
穿いているズボンの股間部が濡れていく。安心して気が緩んだのだろうか。
(まずい・・・!)
「あぁ・・・見ないでください!」
真っ赤な顔で抗議するコトネに覆いかぶさるのをやめて立ち上がる。
「これ、着て」
「うぅ・・・」
ケイが顔をそらしつつ自分の上着を脱いで差し出すと、ゆっくりと立ち上がったコトネはそれを受け取り、前の合わせをしっかりと閉じて羽織った。
「ごめん」
「いえ、私こそ、すいません。お見苦しいものを。助けてもらったのに」
「あ、うん・・・えっと・・・」
何と声を掛けたものか、と思っているとコトネの方から話を続けてきた。
「あの、あなたは?どなたでしょうか?」
「あ、うん。俺はフブキちゃんの友達。助けに来ました」
「フブキちゃんの?」
「そう。一応騎士団員。聖騎士じゃなくて竜騎士だけど」
「竜騎士・・・そうですか。私はコトネと言います」
「俺はケイ」
話の途中、一瞬期待の表情を浮かべたコトネだったが、ケイが聖騎士団員ではないと知り表情は再び暗くなった。
「とりあえず、場所を移動しよう」
「あ、はい」
爆発音を聞きつけて魔物たちが集まってくる気配がする。
二人は急いで移動を開始した。
フブキと合流する前に、コトネの提案で一軒の家に立ち寄った。
「私の家です。すいません。少し待ってください」
そう言って家の奥に消えたコトネはすぐに戻ってきた。服を着替え、手に一本の剣と巾着袋を持っている。
「姉の予備の剣、対魔物用の魔石、それに回復薬です。こんなものしかありませんが」
「いや、すごく助かる。ありがとう」
準備を整えてコトネの家を出た二人はフブキとの合流地点へと急ぐ。
フブキは草むらの中、息をひそめて二人を待っていた。
「コトネちゃん!」
「フブキちゃん!」
狐状態のフブキをコトネが抱きしめる。
「よかった。無事だったんだね」
「うん。コトネちゃんも」
「この人に助けてもらったの」
「ケイさんは信用できる人だよ。ケイさん、本当にありがとう」
束の間再会を喜び、3人はすぐに行動を開始した。
「フブキちゃんとコトネちゃんを結界内に送り届ける。途中の魔物は俺が排除するから、フブキちゃんは結界を通過できるように準備して」
「はい」
「コトネちゃんは、里の状況を教えてくれる?何が起こったの?」
「それは・・・ごめんなさい。私のせいなんです」
「・・・最初から、教えてほしい」
「はい」
コトネは言葉を選びながら説明を始めた。
「私、普段は領都で暮らしているんですけど、週末は里に戻っているので、今日の夕方もいつも通り里に戻ろうとしたんです。領都のはずれにある門を通って。いつものように人払いの結界を発動させたら、急に人が現れて、そのまま捕まってしまって」
「さっきの?」
「はい。あの人達に脅されて、門を開いたらそこで魔物をいっぱい召喚されて。偶々今日が当番だったお姉ちゃんがみんなをお社に避難させてくれたんです」
「他の聖騎士団員は助けにこなかった?」
「わかりません。お姉ちゃんが連絡したと思うんですけど・・・とにかく魔物の数に押されて結局お姉ちゃんも捕まってしまって」
「あいつらの目的は人身売買かな」
「あの偉そうにしていた人、里のみんなを捕まえようとしていました。商品だからなるべく傷つけるなって」
「天狐の子孫を相手に誘拐をやろうと思うなんて、本当に事前情報を集めていたのか?何か自信を持つ根拠があったのか?少人数で敵地に攻め込んだくせに大分余裕あるな。聖騎士団に踏み込まれたらそれで終わりそうな計画なのに」
「その聖騎士団が助けに来てくれないのも気になります」
「まだ分からないことばかりか・・・」
何となく背景が見えてきた。最後に一言だけ。
「今の状況はコトネちゃんのせいじゃない。悪いのはあいつらだ。そんなに思いつめない方がいい」
「はい・・・ありがとうございます」
その後、お社の近くまで戻って来ると、コヨミが一人奮闘しているのが見える。
魔物に囲まれている。ボロボロになりながらも孤軍奮闘している様子だ。
「お姉ちゃん・・・」
心配で駆けだしそうなコトネの手をフブキ握り、思いとどまらせる。
ケイはお社を包囲する魔物たちの包囲網の薄い場所を探った。
「あそこを抜けよう」
不審者たちからは死角になるお社の裏門。そこには特に大きな岩竜が配置されていた。
あの3人以外に人の気配はない。
ホームグラウンドである岩場で戦えば厄介な岩竜ではあるが、ここは林の中。数々の魔物の単独討伐を経験したケイにとって、本来の実力を発揮できない岩竜など恐れるに足らず。
物陰に隠れて近づいた3人は、ケイを先頭にタイミングを計って飛び出した。
岩竜が接近者に気づき周りへ異常を知らせるための咆哮を上げる直前、ケイが首を切り落とした。
絶命し倒れこむ岩竜の躯を横目に3人はお社へと走る。
さすがに魔物使いの男は気づいたらしく、周囲を警戒していた雪熊たちが集まってきた。
その間に3人はお社の結界までたどり着いた。フブキとコトネを守るように結界に背を向けて立つケイの背後で、フブキは結界に手を当てると意識を集中し始める。
全身が淡く光り始めたフブキの額にはじわりと汗が浮かんできた。その背中に手を当てたコトネも、同じく体が光り始める。
30秒ほどその状態をキープしていたフブキが、ゆっくりと結界に向けて一歩踏み出した。
手の先から順番に体が結界に埋まっていく。そのまま前進し結界を通過することおよそ30秒。フブキとコトネは厚さ50センチの半透明状の結界を抜け、お社の境内に到達した。
結界に取り付いてからおよそ一分の間、ケイは集まってきた3体の雪熊を相手に二人を守っていた。
「ケイさん、大丈夫です」
コトネの声にケイが横目で確認すると、コトネは荒い息でへたり込むフブキを肩で支えていた。
境内の奥から避難していた住人たちが走って来るのが見える。
「フブキちゃん、よくやった」
「ん・・・」
雪熊3体を斃したケイは二人へ向き直り頷いた。境内の二人も頷き返してくる。
「お姉ちゃんをお願いします!」
「任せろ」
ケイはコヨミの援護のため移動を開始した。




