36 竜騎士団2年目 里の現状
「で、お話というのは?」
「そうそう。この里の状況について、騎士団の方と情報交換したいと思いまして」
「それは構いませんが・・・」
なんとも漠然とした話である。
「最近、里の門を外から開こうとする者がいるのです」
「・・・」
「幸いにして、今はどの里も侵入者を許してはいません。隠れ里は帝国内にいくつかあり、その門の座標は固定ですが、どうやら里の存在を認識している外部の人物がいるようなのです。その人物あるいは集団は望まざる客です。我々の既知の人物であれば、外から門をこじ開けるなんてことをしなくても里に入れますから」
「それは・・・」
「この不審者に里の者で対処しようにも、捕縛できるような実力者は数が少なく。さらに相手は逃げ足が速くて尻尾を捕ませてくれません。かといって、ずっと里に引き籠るわけにもいかなくて。里にはフブキのような小さい子が何人もいます。6年前のように、こっそり里を抜け出して不審者に遭遇でもしたら大変です」
「むー・・・」
フブキが唸る。少し不満そうだ。
「今回お二人が通ったあの門は、まだ存在が知られていないと思われる門です。他の門と違い、この門はこじ開けようとした形跡がありません。・・・おそらく、この門が警備騎士団が守る施設内にあるからでしょう」
「このあたりは有名リゾート。その中心となるレジャー施設で、騎士団以外にも私服警備員が多いですからね」
「不審者もおいそれと行動できないのでしょうね。ですが、そうではない門もあります」
「一目につかない場所の門が狙われていると」
「その通りです」
「ということは、竜騎士団としてそこを警備してほしいと?」
「いえ、今は特に何か行動してほしいということではありません。里の正門はお宮と繋がっていて、そこを経由して聖騎士団が警備しています。我々だけでは手が回らないときに、お手伝いというか、ご助力をお願いするかも、ということです」
「そういうことでしたら、私がプライベートで動く分には大丈夫だと思います。騎士団として動くのは難しいかもしれませんね。今は何とも言えないです」
「いえ、それで十分です。ありがとうございます。あとは最近不審者が多いことについて何か知ってることがありませんか?」
「不審者の情報ですか・・・」
警備騎士団の同期に聞いてみようか?
「ここ一年で件数が10倍以上に増加したのです。他の里と比較しても突出した件数で、困っています」
「10倍以上ですか。それは何かあったとしか思えないですね。あと、他の里というのは?」
「里は帝国内に5つ存在します。帝都に一つ、帝都を囲むように4つ。ここは北東の里です」
北東の里だけが件数増加している。
似たようなことを先日聞いたばかりだ。
「もしかして、門は列島領にもありますか?」
「いえ、門はいずれも辺境伯領内です。もちろん、列島領の近くにもありますが」
ミコトはケイの言葉を聞き、察したようだった。
「魔国関連でしょうか?」
「根拠はありません。ただ、列島領の方が騒がしくなってきたのは事実です。7年前と同じ状況になりつつあるそうです」
「そうですか。あの時と」
ミコトは少し言葉を濁らせた。
一方のケイはこのタイミングで気づいた。これ、言ったらダメだったか?情報漏洩してしまったかも。
「あ、その、今の情報は表向きは内緒にしていただけませんか」
慌てて言葉を付け加えたケイに対し、ミコトは微笑んだ。
「ふふ。分かりました。私とフブキの心の中に留めておきますね」
「お願いします・・・」
「大丈夫。内緒」
ふんす、と鼻息あらくフブキが答える。
ミコトさんのペースで情報を引き出されてしまった。この顔で話をされると、一年前のことを思い出してつい気が緩んでしまう。
休み明け、団長に相談した方がいいかもしれない。
「ここの話を竜騎士団内で共有してもいいですか?」
「構いませんよ。皆さんであれば友人として歓迎します。先代の竜騎士団団長さんは私の先々代と親しかったんですよ。今の団長さんも何度かここに来たことはあります」
「そうなんですか?」
「団長になってからはなかなか来てくれなくなってしまって。時々マヤが来てるくらいですね」
「マヤさんが」
「私、マヤとは領都学校時代からの友人なので」
「!?」
「私たち、表向きの立場があるんですよ。各神社の住み込み従業員ということになっていて、納税だってしています。学校にだって通います。私は領都学校に通ってました」
「先輩だったのですか」
「ええ。・・・あの先生はまだいるんですか?」
その後、ひとしきり領都学校生活の話や里の話で盛り上がっていると、お昼近くになってきた。
「もうこんな時間ですね。そろそろお暇させもらいます」
「今日は急にお呼びだてして申し訳なかったです」
「いえ。いい経験になりました。楽しかったです」
「それはよかったです」
小屋を出ると、鳥居の前まで二人は見送ってくれた。
「このまま鳥居をくぐれば、元居た場所に戻ります。あとは祠から離れれば、自然と人払い結界から出られます」
「分かりました」
「この里の他の門の場所は、カオリさんが知っているので、ぜひまた来てくださいね」
「ええ。では、また」
「またね~」
手を振るフブキに手を振り返し、鳥居を潜る。
ケイとカオリは元居たスキー場のコース上にいた。
「行こう」
「ああ」
滑り出すと、だんだんと周囲を滑る人が増えてきた。人払いの結界を抜けたようだ。
一番下につくと、ちょうどお昼になったので、レストランで食事をとることにした。
二人は端の方のテーブルでカレーを食べながら、小声で先ほどのやり取りについて話をする。
「正直なところ、驚いた。ずっと隠しごとしてたのか?」
「うん。・・・怒った?」
「いや。怒ってないよ。もうちょっと早く教えてほしかったとは思う」
「ごめん」
「気にしないでいいよ。それよりあの場で聞けなかったこと、教えて欲しい」
「・・・何?」
警戒した様子のカオリだが、これから聞かれることは予想できているはずだ。
里での会話では話題にならなかったことだが、ひどく気になっていることがある。
「どうして、ミコトさんの格好でフブキって名乗ってたの?」
「・・・秘密」
「いや、秘密じゃなくて、」
「今晩話す。ここでは話せない」
二人の周りには多くの人が食事をとっている。確かに、ここで話すことではないか。
「分かった。絶対だぞ」
「約束する」
「じゃ、この話題は終わり。・・・みんな来ないな」
「そうだね。混雑ピークの時間帯とずらすつもりなのかな?」
「かもな。ま、それならそうで問題ないが、誰かに伝えときたいんだよな。俺たちは夕食に向けて買い出しに行くって」
「うん。解散する前に話しとけばよかったね」
「ん・・・あれ、ウルハじゃないか?」
そんなことを話していると、入口からウルハとツララが入ってきた。
「本当だ。おーい!」
手を振ると、こちらに気づいて近づいてきた。
「早いね。もう食べ終わったの?」
「おう。ついさっき食べ終わって、みんな来ないなって話してたところ。早めに食べ終えてたのかと思ったよ」
「ちょっと勝負が白熱してね・・・」
「どっちが勝った?」
ケイの問いかけに、ツララが答えた。
「ウルハさんです!さすが、経験が違いますね」
「ツララも速かったよ。でもまぁ、私の方が早かったけど」
「体重差でしょうか?」
「・・・」
ノーコメント。
「このテーブル確保してるから、買って来なよ」
「では、買ってきます。ウルハさんは何食べますか?」
「カレーで」
「了解です!」
お金を手渡されたツララはカウンターへと向かっていった。
「大したものだよ。飲み込みが速いし、あの年にしては体力もある。ケイの指導の賜物かな?」
「最近はあまり指導できてないけどね」
「来年から領都学校だっけ?かなりいい所までいくんじゃないかな?」
「だといいな。・・・そうだ。俺たちは午後ちょっと滑ったら先にコテージで準備しておくから。みんなを率いて来てくれ。5時ごろにここを出れば十分だと思うから」
「地図はこれ。コテージの場所と道順は書いておいたから」
「了解」
ツララが戻ってきたので席を譲り、ケイたちはレストランを出た。
その後、滑りを満喫した二人は、一足先にスキー場を後にした。




