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35 竜騎士団2年目 隠れ里

6年前の記憶をおぼろげに思い出したケイは、改めて目の前の狐を見た。


「もしかして、この狐はあの時の?」

「そうだよ」


カオリが答えた。

あれから6年、大きくなったなぁ、と思うと同時に、新たな疑問が湧いてきた。


「え・・・なんでカオリはこの狐を抱いていたんだ?」

「説明するから、ちょっと場所を移そう」


カオリの言葉を理解しているのか、狐が祠の方へと移動を始めた。


「行くよ」

「あ、あぁ」


一人と一匹に促され、訳もわからず後をついていく。

狐が祠に近づくにつれ、祠が光り始める。小さな鳥居を狐が潜った瞬間、二人は別の場所に立っていた。


小さな集落の入り口。その道の真ん中。

近くには小さな小屋。道の先には畑や民家が見える。

振り向くと、すぐそこに大きな鳥居があった。


「・・・」


驚きで声も出ないケイをよそに、小屋の扉が開いた。人が一人、扉から出てこちらへ向かって歩いてくる。

その人物の顔を見て、また驚く。


「ようこそ、私たちの里へ」


ケイたちに歩み寄り声を掛けてきたのは、フブキちゃん、としか言い様のない女性だった。

背丈、顔立ち、いずれもカオリが幻術で見せていた架空の人物そのものだ。違いは、髪の毛の色が漆黒ではなく、藍色系統の色が混じっていることと、肌の露出が少ない巫女服のようなものを着ていることだった。


思わず課を横に向けて、並び立つカオリを見てしまう。直後にまたその女性を見る。


「ふふっ」


そんな様子を、フブキ(仮)は面白そうに見ていた。


「え、えぇ!?」

「・・・」


一方のカオリは複雑な表情をしている。

混乱したケイは何が何やら、という状態だった。そもそもここは何処なのか?


「どうぞこちらへ。ご説明します」


フブキ(仮)は自分が出てきた小屋へと皆を誘った。

その後を、背丈の小さな子供がぽてぽてついていく。


(誰!?)


いい加減ケイも驚き疲れてきた。

ついさっきまでこの場にいなかった筈の子供をスルーしつつ、小屋の中へと入る。


椅子を勧められたため並んで座ると、テーブルを挟み向かいにはフブキ(仮)と子供が座った。


「最初は自己紹介からですね。私はミコト。この集落の巫女、所謂まとめ役をやっています。よろしくお願いしますね。で、こちらが」

「私はフブキ、です。巫女見習い、です。よろしく・・・」


「ケイです。初めまして」

「カオリです」


相手の立場が分からないので、とりあえず名前だけ名乗る。

カオリの挨拶は簡潔。焦る様子が全くない所をみると、何か知っているようだが・・・


というか、この子供がフブキなのか。

カオリはミコトさんの格好を幻術で再現しておきながら、フブキと名乗っていた。意味が分からない。


ケイの疑問を傍目に話は続く。


「私から、まずはこちらの説明をさせてもらいますね。ここは、私たち一族が暮らす隠れ里です。お二人は鳥居をくぐられましたよね。あれがこの里へと続く門の役割を果たしています。今回はフブキが開いた門を通ってこられた、ということになります」

「隠れ里、ですか?」

「といっても、結界術で里を隠しているのではなくて、亜空間に存在している里です。この里自体が魔術みたいなものですね。便宜上隠れ里と呼んでいます」


人が何人も生活できるような広大な亜空間を作成、維持し続ける。それはもはや魔術ではない。

まだ人が到達していない領域。魔法の範疇の事象だ。

魔術の知識・技術に優れたレイジやユリでも再現不可能だろう。


こんなことが可能な存在となると、相手の素性は自然と絞られる。


「全てが亜空間。こんなことができるということは、あなたは天狐、でしょうか?」


以前団長から聞いた、手を出してはいけない特殊個体。

そのうちの一匹。帝国公認宗教と友好関係にあり、勇者に匹敵する力をもっていたという狐の名前を口にした。


「違います」


対する回答は明確な否定。


「私はただの妖狐。天狐が創造したこの里を維持する、いち管理人に過ぎません。もちろん、この子も違います。私たちは姉妹でフブキは私の妹です。天狐様はご先祖様に当たります。私たち二人はその子孫・・・子孫はたくさんいるのですが、その中でも力の強い者たちが里を維持する役割を受け持っています。偶々、今は私がそのお役目についています」


コクコク、とフブキは頷いている。


「どうしてお二人をお招きしたか、ということですけど・・・その前に、あなたのことを聞いてもいいかしら?」

「あ、はい」


お二人、ではなくケイのことを聞きたいと言われたので、簡単に自己紹介する。


「騎士団で働いています。カオリさんと同い年で、恋人です」

「!」

「!」

「あらあら」


眼前の二人はカオリとは面識があるようなので、こういった方が分かりやすいかな、という説明をした。


カオリとフブキが驚いている。いや、そんなに驚かなくても。


「カオリさんはそれでいいの?」

「今はこれで良しとします」

「あらあら。若いっていいわね」


その場の雰囲気が和んだところで、改めて説明が始まった。


「さて、今日あなた方を招いたのは理由があります」

「はい」

「始まりは、6年前のことです。フブキが里の外へ遊びに行ったことにより、ある事件が起きました」

「・・・」

「先ほど言った通り、この里は亜空間にあります。里の出入口はいくつかあり、その一つが今回あなた方が使用した門です。あの門を通って、フブキが勝手に外に出てしまったのです」


フブキは居心地が悪そうにしている。


「通常は出口付近に人払いの結界を展開して、周囲に誰もいないことを確認してから門を開くのですが、フブキは当時それを知らなかった。フブキが門を開いたとき、偶然その場所にいたのがお二人でした。その後、雪熊に遭遇してからの出来事はお二人も覚えている通りです」

「あのときの子狐が、フブキ?」

「うん・・・ケイさん、あの時はごめんなさい」

「ん?謝ることなんて何もないだろ?」

「ううん。あのとき、私がちゃんと手順通りに外に出てたら、ケイさんとカオリさんが危険な目にあることはなかったの。特に、ケイさんは死んじゃうところだったの。だから・・・ごめんなさい」

「いいよいいよ。無事だったんだし、気にしないで」

「うん・・・」


謝るフブキを見ていたミコトは、話を続ける。


「フブキがご迷惑をおかけしました。・・・ここからはケイさんが知らない話になります。そうですよね?」

「ええ。まだ何も話していません」

「分かりました。では、あの日の後始末からですね」


カオリに確認を取ったフブキはさらに話を続けた。


「カオリさんからフブキを回収した私は、ケイさんのところに行きました。そこではケイさんは倒れ、雪熊は闇雲に暴れていました。熊は私が処理しました」

「・・・」

「ケイさんは、その時ひどく衰弱していました。魔術の使い過ぎだったのだと思います。なので、その場では私の魔力を一時的に譲渡しました。そして私たちは里に戻り、その間あなた方は騎士団と合流して救助された。・・・ここまで、何か疑問点はありますか?」

「カオリとミコトさんは何処で繋がったのですか?」

「続きの話になります。その晩、私たちは再び里を出て会いに行ったのです。そこでカオリさんと出会いました。本当はこっそりとケイさんから私の魔力を回収するだけのつもりだったんですけどね。寝ているケイさんの側にずっといたので、事情を話して協力してもらったんです。証言も私たちの都合が良いように変更してもらいました」


あの時から、カオリは事情を知ってて、秘密にしていたということか。


「ちょっといいですか?」

「何か?」

「どうしてカオリに事情を話したのですか?当時のミコトさんであれば、いくらでも誤魔化せたのでは?」

「確かに、それは可能でした。そうしなかったのは、それがフブキのお願いでもあったからです。お二人はフブキが初めて会った外の人。自分が迷惑をかけたのに助けようとしてくれたということで、誠実に対応したいと思ったんです」

「そう、ですか・・・」

「他にも理由はあります。例えば・・・結局その晩、ケイさんから私の魔力を回収できなかったんです。人と妖狐の魔力が混じり合い分離できなくなった結果、いつ、どういう影響が出るかもわからない。経過観察をカオリさんにお願いしていました。悪い影響が出なくてよかったです。

カオリさんには、定期的に里に顔を出してもらっています。外の情報が入るのはありがたいですし、フブキもそれを楽しみにしています。・・・門の場所は先ほどの場所以外にもありますよ」


さらっと危険なことを言われた気がするけど、まぁいいか。


「なんとなく6年前の事情は分かりました。・・・で、今回ネタばらしをしたのは一体どうしてですか?」

「こちらからお願いしたんです。一度話がしたい、と。貴方が竜騎士団に入団したことは聞いていましたので、色々と込み入ったお話ができるかと思いまして。本当は1年以上前から、この機会を設けるようにお願いしてはいたんですよ」

「込み入った話・・・」

「でも、これまでカオリさんの許可が下りていませんでした。今日ようやく会えた、ということになります」


横を向くと、ケイと目が合わないようにそっぽを向いていた。


「だって、ミコトさんの外見ってケイの好みそのものじゃない?」

「・・・・・・・・まぁ、そうだな」

「1年前の私たちはただの友人関係だったじゃない。会わせる訳ないよ」


可愛い奴め。後で覚えていろよ。


「あらあら、うふふ」


ほんわかと笑うミコトさん。一年前だったらコロっと魅了されていたであろう笑顔にも、今のケイは動じない。


4人の話は続く。


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