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34 竜騎士団2年目 6年前の出来事

カオリに向かって振り下ろされた雪熊の爪は、ケイが展開した魔術防壁によって

直前で弾かれた。

一撃を防いだものの、防壁はその衝撃で破壊された。


「ひっ!」


尻もちをついたカオリに対し、追撃を放とうとする雪熊。

ケイは再度防壁を展開して守る。


「立て!」

「あ・・・!」


雪熊の迫力に圧倒されているカオリ。

その瞬間思ったのは、カオリを守る、ということだった。


2年前、ホノカと共に魔物に襲われたときの記憶が蘇る。

今回はあの青年はいない。ケイが何とかするしかない。


「逃げるぞ!」

「あ・・・うん!」

「先に行け!」


狐を抱いたまま立ち上がったカオリが、ふらふらと滑り出す。


ケイは雪熊との間に何枚もの防壁を展開して時間を稼ぐが、14歳時点でのケイは魔術の精度も強度も大したことはない。

あっさりとすべて破壊されてしまった。


ここまではケイの想定通り。最後の防壁が破られる直前に逃げ出した。


随分先に行かせたと思っていたカオリだが、すぐに追いついてしまった。

緊張しているのか、はたまた狐を抱いているせいか、スピードが出ないようだ。

後ろから追いかけてくる雪熊のスピードが思った以上に早く、追いつかれるのは時間の問題。


同時にケイは今の状況に違和感を覚えた。


(おかしい。どうして他に人がいない?それに、コースが長すぎる)


コースのスタート地点には他のスキーヤーが何人もいたが、転倒以降、一人として見かけていない。

さらに、下まで戻れば常駐する警備騎士団が対処してくれると思って逃げを選択したのに

いつまでたってもゴールに到着しない。


このままだと先に追いつかれる。ケイは覚悟を決めた。

滑りながらカオリに告げる。


「もう一回、俺が時間を稼ぐ!」

「無茶だよ!」

「無茶じゃない!お前が助けを呼んでこい」

「ダメだよ!死んじゃう!」

「死なない。約束する」

「でも!」

「いいから、こんな時くらい格好つけさせろ!」

「あ・・・!」


急停止したケイに対し、カオリはスピードを緩めそうになったが、結局そのまま下って行った。


(さて・・・やるぞ)


格好いいセリフを言ってみたものの、ケイは今武器になりそうなものは何も持っていない。

迫ってくる雪熊は全長2メートル強。雪熊としては小型サイズではあるが、今のケイにとってはとてつもなく大きく見えた。

そんなものが猛スピードで突っ込んでくる。


後悔は一瞬。

頭を切り替え、どうすれば止められるかを考える。


タイミングを合わせて横飛びに回避することは却下。成功する可能性が低いし、そのままカオリを追いかけられるとヤバい。

となると、物理的に止めるか、ヘイトコントロールでこちらを向かせる必要がある。


まずはケイと雪熊の間、直線上に雪を集める。

回りにある雪を移動させて雪の塊を発生させたため、直線的に向かってくるよりも少し横に逸れた方が明らかに進みやすい。


雪熊は雪の塊を急回避、進行ルートが横にズレたことで突撃スピードが少し落ちる。

そのズレた先に雪の塊を発生させる。


再度回避してきたため、再びその眼前に雪を集める。

3回目になるとスピードも落ちていたが、ケイとの距離が詰まっていたこともあり、雪熊は体格にものを言わせて雪の塊に体当たり。突破しようとしてきた。


その塊を抜けた雪熊は、直後、2メートルほど落下した。

ケイは雪熊の視界がふさがれた数秒の間で、自身の目前の雪を吹き飛ばして即席の落とし穴を作成、そこに氷でできた鋭い杭を設置していた。


自重で氷の杭に落下した雪熊であったが、その毛皮の強靭さもあってか、ダメージは軽微だった。


ケイは距離を開けつつ、激高して回避行動に遅れが出た雪熊の顔を目標に、幾筋もの電撃を飛ばす。

そのうちの一撃が、運よく左目に直撃、潰すことができた。


「ガァァ!」


怒りの咆哮を上げて即席の落とし穴から這い出た雪熊はケイに対し明確な敵意を持っていた。


(ここからだ・・・)


普段あまり使用しない魔術を連発したケイは、自身の精神力がごっそり削られたのを感じていた。


何とか相手を手負い状態にすることはできたが、このまま止めを刺すことはできないだろう。むしろ、このまま戦ったら負ける

できるだけ、時間を稼いで逃げてやる。


雪熊はじわじわとケイとの距離を詰めてきた。

生臭い息の匂いが分かるようになり、一足刀の間合い、というとこで前足を振り下ろしながら飛び掛かってきた。


咄嗟に防壁を張ったが、先ほどカオリを守るために張ったものと比べ、強度が格段に劣る。

魔術の連続使用によって精度が下がっていた。


ケイは、一撃で防壁を貫通してそのまま自分の顔に向かってくる雪熊の爪を見ていた。


(まずい・・・・・・・???!)


半ば諦めかけたとき、頭の中で何かが切り替わる感覚があった。

途端に、目の前に迫る爪のスピードが鈍くなる。これなら回避できる。


体をずらし、一撃を回避したところで周囲の動きが元の速さに戻った。

雪熊は回避されると思っていなかったのか、一瞬戸惑った様子をみせたが、再度攻撃を仕掛けてきた。逆の腕を水平に振るってきた。


ケイは、再びスローモーションになった世界でその一撃を回避。

そのまま距離をとったところで世界のスピードが元通りになった。


(体感時間が変わっている!?)


何故かはわからないが、この状況を打破できるのであれば何でもいい。

その後も何度か攻撃を回避。


(ここだ!)


数回目の回避タイミングに合わせて、雪熊の右目を狙って電撃を放つ。


「グガァァァ!!!」


両目を潰されて荒れ狂う雪熊。

いける、と思ったとき、世界のスピードは不意に元通りになった。


ケイの全身から力が抜け、そのまま雪の上に倒れこむ。


(え?)


首から上がかろうじて動くものの、体や手足は指先まで、ピクリとも動かせない。

雪熊は未だ暴れている。


(意識が・・眠い・・・・・まずい・・・・・・・?誰だ?)


「グオォォォオ!」


一瞬の熱量とその後の雪熊の咆哮。

雪の上に倒れ伏したケイは、誰かが近づいてくる足音を聞きながら、意識を手放した。




―― ケイが気を失う少し前 ――


カオリは狐を腕に抱き、コースを精一杯の速さで下っていた。

ケイを見殺しにしてしまったことで、彼女の心は罪悪感に苛まれていた。


(早く!誰か!)


だが、そんな思いとは裏腹に、いくら滑っても回りには誰もいない。

焦りが限界を超えようとしたとき、コースの先に誰かが立っているのが見えた。


こちらに顔を向けた、その人の前で急停止して窮状を訴える。


「助けてください!」

「どうしたの?」

「あの、上で、熊が出て!」

「熊?」

「そうです、で、友達が襲われて。助けてください!」

「・・・」


話しかけた女性は困惑しているようだった。

視線が、カオリが抱いている白狐に向いた。


「この子は、そこで、助けようとして・・・」


上手く説明できないでいると、狐が急に動き出した。

ぐいぐいと腕の中から抜け出し、女性に向かって飛ぶ。女性は狐を受け止めると、顔を突き合わせて少し見つめ合っていた。


「分かった。助けてあげる」

「連絡とか、できませんか?」

「ゴメンね。通信用の道具は持ってないの。貴方はこのまま下まで行って助けを呼んで」

「お姉さんは?」

「私は、あのリフトで上に行きます」


お姉さんが指さした方には、リフトが地上近くを通る場所があった。


「そんな無茶な」

「大丈夫。私は熊を狩ったことが何度もあるの。強いのよ」

「でも・・・」

「さ、行きなさい。こっちから下にいけるはずよ」

「・・・・・・はい!」


離れていくカオリを見ながら、女性は狐に話しかける


「仕方ないわね。手遅れかもしれないけど、行ってみるわ」

「・・・」

「それはどうかしら。生きていればいいけど」


次の瞬間、女性の姿は消えた。



女性が現場に来たとき、雪熊は両目にダメージを受けて暴れていた。

すぐ近くにケイが倒れ伏している。


「間に合ったみたいね」


女性の周りに、青白い炎がいくつも浮かんだ。

そのまま熊に向かって飛び、着弾すると全身が炎に包まれる。


「グオォォォオ!」


暴れること数秒、雪熊は焼き尽くされた。


「・・・」


狐は女性の腕から飛び降り、ケイへと近づく。


「生きてるみたいね。怪我はないみたいだけど、随分衰弱してるわね・・・」

「・・・」

「それはできるけど。じゃあ、約束できる?」

「・・・」

「今回は特別。後で説教よ」


ケイの体を光が包み込む。

顔のそばに寄った狐は、ケイが呼吸していることを確認すると、女性と共に姿を消した。




その後、下まで降りて警備騎士団を読んできたカオリは、ケイがコースの途中で倒れているのを見つけた。


倒れていた場所の周囲には、何かの魔術が使われたと思われる痕跡が残っていたものの、肝心の雪熊は影も形もなかった。

さらに、そのコースを滑っていた他のスキーヤーも、そんな様子は見ていないと証言した。カオリは下に来るまで誰とも会っていないが、あの時間、あのコースをそこそこの人数が滑っていたらしい。


結局、翌日カオリが雪熊に襲われたという当初の証言を修正。見間違いかもしれない、ということになり、教師たちはケイとカオリが何かを勘違いした、という結論を下した。


ケイは翌日の夕方にやっと目を覚まし、ホノカ達に心配された。

起きたときには、狐を見つけたことや雪熊との死闘、あのコースを滑ったという事実、全てを忘れていた。


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