21 竜騎士団2年目 帝都出張2
竜団会議への出発日、4人はそろって領都の飛行船乗り場へとやってきた。
会議への参加者は団長、ケイ、ツララの3人であるが、ユリも同行する。
出張という名目で帝都への往復旅費が出て、ウキウキ状態だ。
「近くでみると大きいですねー」
ツララが飛行船を見上げて声を上げる。
飛行船は定期的に領都上空を飛ぶため、見たことがないわけではない。ただ、上空高くを飛ぶために地上からだと実際の大きさが分かり難い。
ツララとしては、想像以上の大きさだったのだろう。
「荷物を後ろから積み込んでます」
飛行船の後部扉が大きく開き、そこから荷物が続々と積み込まれている。
「重要な物資はこの定期船で運ばれるからね」
陸路や水路での輸送に比べて高額となる空路であるが、早いし安全なのでこれらを重視する物資はこの定期船で運ばれる。
早いというのは移動時間のことで、陸路の5分の1以下だ。飛行船のスピードはそこまででもないが、辺境伯領から帝都まで、山脈や川の存在を無視して進むメリットは大きい。
安全という面では、飛行船に常駐する警備騎士団によるものが多い。魔物討伐の専門、対人戦闘の専門、施設警備及び治安維持の専門。各騎士団から一定の人員が乗り込むため、飛行船の中は秩序が保たれている。
4人が向かったのは乗船受付。
そこでは身分確認と荷物検査が行われる。各人の持ち込み重量にも制限があるので、お土産を考慮し必要最低限の物だけを持ち込もうとしていた。
「身分証、拝見します」
「はい」
確認したのは、ケイが去年の集合研修で同じチームを組んだ団員、警備騎士団に所属する同期だった。
「よ、久しぶりだな」
「久しぶり・・・あれ、飛行船勤務だったっけ?」
「希望出して、異動になった」
「あ、そうなんだ」
少し声を下げ、ケイにささやいてきた。
「回りは美人ばかりだからな。いいだろ」
「いいな。あとで話聞かせろよ」
同期と別れ、搭乗口へと向かう。
飛行船の甲板には渡し通路かかけられており、そこを通って乗り込む。
帝都までの移動時間1日強をこの船で過ごすことになる。
客室にはランクがある。
一番下のランクが大部屋の雑魚寝。学生時代の研修旅行ではここを利用した。
下から二つ目のランクが個室。部屋によって据え付けられているベッド数には差があるが、基本的にベッドしかなく狭い。
その上のランクがちょっといい個室。部屋が少し広くなり、くつろぐこともできる。
これ以上のランクは基本的に来賓用であり、一般人には関係のないことである。
今回、ケイたちは各々狭い個室を予約していた。
出張費として許可されるギリギリの金額である。
荷物を部屋に置くと、ツララと共に船内をぶらつく。団長とユリは別行動だ。
「先輩もこの船で帝都に移動したんですか?」
「そう。大部屋での雑魚寝だったけど、それはそれで楽しかったよ」
飛行船が動き出したのを感じる。
「外に出てみようか」
「外?出れるんですか?」
「甲板は出られるよ」
甲板への扉を開けると複数の乗客がくつろいでいた。
上空を飛ぶ飛行船の周りの温度や気圧は当然下がるが、船に搭載された魔道具によって甲板周りの環境は快適に保たれている。
ケイたちは甲板の端、人が少ない場所へと移動した。少し離れた場所では親子連れが遠くなった地面を見下ろしている。
「すごいですね。私の記憶にも、こういう乗り物はありません」
「魔道具の力で、こんなことも可能になるんだよ」
ツララの言葉は転生者としての感想だったため、ケイもそれを踏まえた返答をした。
転生前の記憶を持つものにとって、この世界は歪である。
まず、電気がない。
では、夜の明かりはランプか、と言われるとそうではない。光を発する石が安価で供給されており、夜も町は明るい。さすがにテレビやパソコンに相当するものはないが、新聞や雑誌はあるし、冷蔵後や洗濯機に相当するものだってある。上下水道も存在する。
内燃機関・電気を動力とするものが、魔力を動力としたものに置き換わっているのだ。
コンセントを繋いで電源を入れる代わりに、人が自分の魔力を注ぐことによって動く様々な魔道具が存在している。
何にでも応用できる魔力は、エネルギー源としては非常に優秀だ。
普通の人は、わざわざ内燃機関を作るという発想に至らないのだろう。
前世の記憶を振り返るケイとツララはしばらくの間、無言で甲板から地上を見下ろしていた。そのうち、ツララのお腹が鳴った。
「・・・お腹すきました」
「何か食べに行こうか」
ツララが恥ずかしそうにするのを見て、ケイは船内食堂へとツララを誘った。
食堂で空定食を食べた二人は個室エリアまで戻ってきた。
そこを曲がれば部屋、というところで、ケイはツララの行く手を塞いだ。手で口をふさぎ、気配を殺す。
「?!?」
「しっ。静かに」
おとなしくなったツララを抱え、そっと曲がり角から先を伺う。
その先にはユリがいた。団長の部屋をノック、扉が開き、中に消えていった。
「・・・」
「・・・」
ツララを開放し、ケイとツララは視線を合わせて、その光景を見なかったことにした。
そのまま無言で各自の部屋の前まで戻る。
「では、また後で」
「はい、お疲れ様です」
飛行船は大きなトラブルもなく、帝都が見える距離までやってきた。
船を降りるまではもう少し時間があるが、ケイたち4人は甲板上にやってきた。
「・・・あれが、帝都・・・」
ツララが呟いた。上空からだと帝都の巨大さがよく分かる。
ケイは故郷の町から初めて領都に出てきたとき、まるで別世界にきたようだ、と思った。その後、初めて帝都に来たときも、同じ感想を持った。
前世の知識で例えるならば、領都と帝都の間にはある差は、第二次世界大戦前の東京とニューヨークの差だ。格が違う。
飛行船は帝都へと接近し、郊外の乗り場へと着陸した。
周囲には、他領からの定期飛行船が何隻も停泊していた。
「よし、降りよう」
3人は団長に続いて接続通路を通り下船した。
発着場のメインホールに帝都の発着場の大きさ、人の数は領都とは比べ物にならない。
「すごいです。超都会です」
「領都も栄えているけど、帝都と比べるとどうしても見劣りするよね。3年前に来た時よりも発着場が大きくなった気がする」
「ツララちゃん、キョロキョロしてると危ないわよ」
お上りさん丸出しのツララに対して、ユリがやんわりとたしなめる。
ツララは元暗部なのに、こんなに感情を出していいのだろうか?記憶を思い出したことで元の性格に影響があるのか?
自分の事を棚に上げて、ケイはツララを見ながら、転生者に関する疑問が湧いてくるのを感じた。
「あら、ユリじゃない?カイ団長も」
別の通路からやってきた女性が団長に話しかけてきた。
見た目はユリよりも年上で、大きな旅行鞄を引いていた。
「リノさんもこの時間だったのですか」
「こんにちは、リノさん」
ユリと話しはじめた女性の後ろには、若い女性が一人。
話が終わるのを待っているようだった。団長が二人を紹介する
「リノさん、こちらがうちの新人のケイ、と仮所属中のツララです。二人とも、こちらがワフ侯爵領の竜騎士団団長リノさん。」
「初めまして。ケイと申します。よろしくお願いします」
「ツララです。よろしくお願いします」
「あら、ご丁寧にどうも。私はリノです。よろしくね。」
そう言ったのち、リノは後ろに控えていた女性を呼んだ。
「こちらが、うちの新人、アイナです。ケイさんと同期ね。よろしくしてあげて。アイナ、こちら、ハルト辺境伯領のカイ団長と、団員のユリさん」
「アイナです。よろしくお願いします」
少し小柄な女性、アイナもリノと同様に大きな鞄を持っていた。
「今から近衛本部でしょ?一緒に行きましょ」
「そうですね。軽く食事してからにしませんか」
リノとユリが行先を決めてしまった。団長も特に異論なかったようで、そのまま6人で移動する。その間、アイナは無言。
ケイは、同期と仲良くなれるだろうか、と思いつつ最後方を歩いていた。




