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2 領都学校6回生 内定祝

17歳になったホノカは大きな荷物を持って自宅への道を急いでいた。ここは領都、5年間通った領都の学校もあと半年で卒業だ。


「ただいまー」

「おかえりなさい」


ホノカが玄関を開けると、奥からノドカの声がした。乱暴に靴を脱ぎ、荷物を持ってリビングへと向かう。

リビングにはノドカ以外の人物がいた。ケイである。あの魔物との遭遇から5年が経過し、たくましく成長したケイがノドカの隣に腰かけていた。


「早かったのね」

「ノドカさんの料理が食べられるんだから、最優先で来るだろう」

「はいはい、ケイは姉さん大好きだもんねー」

「おう。大好きだぞ」

「もー、ホノカちゃん茶化さないの!ケイくんも悪ノリしない!」

「はーい」

「はいはい」


いつものやり取りを終えたホノカはノドカに荷物を渡した。

テーブルには多くの料理が準備されいる。ノドカはそれらの料理の真ん中に空いたスペースに荷物を置いた。


「ちょっと待っててね、切り分ける準備するから」


ナイフを用意しつつ、ノドカは荷物を紐とく。出てきたのは大きなケーキだった。


「おお、すごいな」

「でしょ。あのお店のケーキ、すごく評判いいんだよ。味だってカオリのお墨付き」

「そりゃ期待できる」


食べ歩きが趣味というホノカの友人の名前がでてきたところで、味の期待もいよいよ高まってきた。


「あとは飲み物か」


ケイがつぶやいたとき、来訪者を知らせるベルが鳴った。


「時間ばっちりね」


ホノカが玄関へと向かう。扉を開けるとマッチョの巨漢と背の高い女性、その後ろに眼鏡をかけた背の低い少女という3人組が立っていた。


「まってたよー。入って入って」


ホノカが3人をリビングへと通す。


「おじゃましまーす。お、うまそうだな」

「私オススメのお店よ。当然じゃない」

「・・・(じゅるり)」


マッチョの名前はガイ。見た目の通り筋肉を愛する男だ。背の高い女性は先ほど話題に上がったカオリ。グラビアモデル体型である。何も言わずに料理を凝視している眼鏡をかけた背の低い少女はウルハ。この3人にケイ、ホノカを加えた5人は学校で仲のいい同級生グループだ。


「はいこれ。とっておきだぜ」


ガイが抱えていた荷物をテーブルの上に置く。そこから多くのビンがのぞいていた。

アルコール飲料であることを示すラベルが張り付いている。


「よし、これでそろったね」


ノドカがグラスを用意し、ホノカが全員のグラスに飲み物を注いで回る。

全員のグラスが満たされたところでホノカが声を上げた。


「それでは、ケイの竜騎士団入団決定を祝して、カンパーイ」

「「「「「カンパーイ」」」」」


皆が飲み物に口をつけノドカの用意した料理に舌鼓を打つ。しばし今日の出来事などを話していた一同だが、話題はおのずと今日のメインであるケイの入団に移っていった。


「それにしても、本当にケイが竜騎士団に入るとはねー」

「入団って条件があるんだろ?新人が入隊するってなかなかないって聞いてるぜ」

「そうそう。領中から選ばれた者たちが所属する部隊。何をしているのかよく分からないけど、噂では重大な役割を担ってるとか」

「・・・友人としてとても嬉しい」

「そんなに褒めてもなにもでないぜ」


内心の複雑な気持ちを隠しつつ、ケイは友人たちの祝福に答えた。


「本当のところ、ケイはどうして竜騎士団を目指したんだ?」

ガイの問いかけに対してケイは5年前の記憶を思い返した。




腹を貫かれ、大怪我を負ったケイを助けたのは青年だった。

青年は触手を引き抜くと同時に強力な癒しの魔法を使い傷を癒した。失った血までは戻らないためケイは意識不明の時期が続いたが、一月もたつ頃には、大きな傷が残ったもののもと通りに動くことができるようになった。


そして、走馬灯で見た記憶を基に、ケイは変わった。ひたすらに自分を鍛えるようになったのだ。もちろん12年を過ごしたこの世界の記憶がなくなったわけではない。あくまでも自分はケイであり、家族は田舎にいる両親と兄弟だが、転生前の記憶も断片的にではあるが確かにある。今のケイは誰もが望む人生のやり直しをしているのである。


転生前の知識をフル活用しつつ、魔法のある世界で自由に生きるため効率的に自分を鍛えた結果、ケイは領都の学校でトップクラスの成績をとるまでになった。


黙々と自分の道を歩くケイをホノカとノドカは気にかけていた。入学式には出席できず、当然のように友人を作る最初の機会を逃したケイに対し、ホノカは新たな友人としてカオリとウルハを紹介した。その後すぐにガイとの出会いがあり、結局この5人がグループに落ち着いた。


ケイには、自分を助けてくれた青年と同じ竜騎士団に入るという目標ができた。竜騎士団はここハルト辺境伯領に実在する部隊であるが実際の実力というよりも噂が先行する部隊であり、人気は低い。だが、青年の戦いを間近にみたケイはその実力を確信していた。


竜騎士団に入るには何をすればいいのか分からなかったケイであるが、ダメもとで学園の校長に突撃すると、あっさりと推薦で入団が許可されてしまった。これには拍子抜けであったが、ともかくケイは卒業後、竜騎士団に入ることになったのだ。



「やっぱり、あの人がかっこよかったからだな」

「うんうん」


ガイの問いに答えるケイの言葉にホノカが同意した。魔物を瞬殺するところを一緒に見たホノカとノドカはケイの目標を応援してくれていた。


「今度はケイちゃんがあの時みたいにみんなを助けなきゃね」

「ノドカさん・・・そうだね!」


その後、宴は続き、夜も遅くなったため全員がホノカの家に泊まることになった。女性陣は部屋に戻り、片付けを終えたリビングにはケイとガイの二人が布団を並べていた。


「ガイは卒業後どうするんだ?」

「俺は土木部を目指すつもりだ。家は兄貴が継ぐからな。俺はケイみたいに頭よくないし、体を動かすほうが性に合ってる」

「そうか・・・がんばれよ」

「お前こそ頑張れよ。まだ先は厳しいんだろ?」

「そうだな・・・あの人にはまだまだ追いついてないよ」


ケイは小さいときに見た青年の強さには程遠いと自覚している。これからも努力あるのみ、とケイは改めて気を引き締めた。


アルコールをしこたま摂取したケイとガイは色々なことを話していたが、いつの間にか寝落ちしてしまった。


卒業まであと半年の出来事である。


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