11 竜騎士団2年目 新たな出会い
新年度初め。市庁舎内は今年度各騎士団に入団する初々しい若者たちに溢れている。
が、そんな若者たちも入口から遠く離れた竜騎士団詰め所付近にはいない。
竜騎士団詰め所の中には団員がほぼ全員集合していた。
討伐任務が入っていないので、団長とマヤ、ケイが室内にいることは珍しくはない。ケンイチは半分は武道場にいるが、もう半分は詰所にいるのでそこそこ。ユリ、レイジ、ルイはほぼ詰め所にはいない。
昨年ケイが初めて詰所を訪れたとき、詰所内にいたのはマヤとクロカゲの二人だけだったことを考えると、今の異常さがよく分かる。
「皆さん・・・どうしたんですか?」
マヤの問いに対して、ユリたち、普段詰所にいない組が答えた。
「どうもこうも、クロカゲさんに集合するよう言われたのよ」
「同じく」
「んだ」
そのクロカゲだけはこの場にいなかった。
ケンイチが声を上げる
「俺は団長から、集合の連絡を聞いたぞ」
皆の視線がカイ団長に集まった。
団長は、あ、という顔をした。
「ごめん、みんなに伝えてなかった。今日新人が来るよ」
マヤが早速食ってかかる。
「またですか団長?去年と同じじゃないですか。言いましたよね、大事なことはちゃんと伝えるようにって。準備とかあるんですよ?」
そのままマヤのお説教タイムになるかと思われたとき、詰所の扉がノックされた。
「お、来たようだね」
これ幸い、と団長がドアを開ける。
そこには、クロカゲともう一人、少女がいた。背は150センチあるかどうか、ローティーンに見える。
「若いわね」
ぽそり、とつぶやいたのはユリだった。年齢が気になるお年頃なのだろう。
少女は団長に誘われ、詰所の中に入ってきた。
団長が話を始める。
「みんなに紹介しておく。今年入った新人のツララさんだ。ツララさんはクロカゲの後任候補だ。竜騎士団の情報収集を担ってもらうことになる。皆、そのようなつもりで仲良くしてあげてくれ。では、ツララさん、一言よろしく」
「ツララです。クロカゲさまの後任になること、光栄です。竜騎士団の皆さん、ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします」
ツララはそう言って綺麗なお辞儀をした。
「はい!質問があります」
マヤが手を挙げた。
「はい、マヤさん」
団長がマヤを指名した。
「ツララちゃんとクロカゲさんはどういう関係なんですか?」
「私は・・」
「それは俺から話そう」
珍しく、クロカゲがツララの言葉を遮った。
「ツララは俺が竜騎士団に推薦した。元‘暗部’だ。」
その後、ツララは団長と共に詰所を出て行った。自然解散となり、ルイ達は各々の定場所へと戻っていった。残ったのはマヤ、ケイ、ケンイチの3名。クロカゲはいつの間にかいなくなっていた。
クロカゲがいないことを確認し、マヤが話を始めた。
「クロカゲさんは昔、暗部に所属してたの。で、前団長が情報収集のために竜騎士団にスカウトしたのよ。」
「ヘッドハンティングですね」
前団長は情報の重要性を認識していたようだ。団長クラスになると暗部についての情報が入ってくるのだな、とケイは思った。
「だけど、やっぱり一人だと厳しいみたいね」
「辺境伯領に出現する特殊個体の情報を一人で処理するのは、想像しただけで大変そうです。補充は必然でしょうね。で、手っ取り早くまた暗部から、と」
「暗部は本当、謎の組織なのよね。竜騎士団(私たち)も公開されてる情報は少ないけど、詰め所がどこにあるか、とか団員が誰か、とかは調べようと思えば調べられるもの。でも暗部はそれすら公開されてないし」
「すべてが謎、なんだかわくわくしますね」
一方で、ケンイチは別の事が気になるらしい。
「暗部にも腕利きがいるんだろうか?強い奴なら一度手合わせしてみたいぜ」
「ケンイチさんも詳細は知らないんですか?」
「噂しか知らないな。武道場には暗部は来ない」
そうだろうな、と思いつつケイは訊ねた。
「クロカゲさんとは手合わせしていないんですか?」
「一度あるが・・・なんというか噛み合わなくてな。一応勝ったんだが、勝った気がしなかった。負ける気もしないんだが、もう一度やろうとは思わないな。調子が狂う」
「だったら、ほかの暗部の人もそうなんじゃないですか?」
「それを確認したいんだよ」
「あ、なるほど・・・」
暗部が特殊な技能を持っているのなら、ぜひ拝見したいものだ、とケイは思った。
「じゃあ、まずはツララさんとですね」
「あの嬢ちゃんか・・・なんだかやりにくいな・・・」
ケンイチは少女との手合わせに気が乗らないようだった。
そのままケンイチは詰め所を出て行った。武道場へ向かうのだろう。
ケイがデスクワークに戻ろうとしたところで、隣のマヤが別の話題を振ってきた。
悪い顔をしている。
「ケイくん。カオリちゃんとはその後どうなの?」
「どう、とは?」
「私に言わせたいの?自分から言った方がいいと思うよ」
「・・・順調ですよ」
そう言って、机から弁当の入った巾着袋を出してマヤに見せる。マヤはその言葉に安心したようだった。
ようやくデスクワークに戻ったマヤを横目に、ケイは先日のことを思い出す。
あの時はどうかしていた。
雄の本能のままにカオリを半日好き放題にイジメ倒したものの、今、冷静になって考えれば、カオリはそれを待っていたのだと分かる。典型的な誘い受けだ。
幻術を看破したときは、自分の成長に自画自賛した。が、自信過剰になっており、その後の展開が読めてなかった。いや、それも含めてカオリたちの作戦だった可能性がある。
あの部屋には、思考能力を下げる何かがあったに違いない。きっとそうだ。
すっきり満足したケイが部屋を出て遭遇したのは、無表情のマヤだった。
その時の、血の気が引く感覚を鮮明に覚えている。本当に、その時まで部屋の外のことを失念していた。
静かに、だが確実に圧力をかけてくるマヤには、竜騎士団団員にふさわしい迫力があった。一切の反論を許さない空気。それを加速させたのはカオリだった。
「マヤさん。私、ケイのものになりました・・・♡」
ケイの後ろからカオリがマヤに向け発したのは、とんでもない言葉だった。半日の間、ケイがカオリに繰り返し言い聞かせた言葉なので、自業自得である。
直感的に命の危機を察したケイは即座に土下座した。そして、カオリと真面目に交際することをマヤと約束したのだった。
その後、カオリとは表向き誠実なお付き合いを続けている。
毎朝ケイのお弁当を用意しているのはカオリである。
命を守るための行動として思わず出てしまったカオリとの交際宣言だが、今はナイスな判断だったと思う。
今更お互い自分を過剰に飾らないでいい関係だし、お弁当はおいしいし、美人でスタイルもいい。
ケイはデスクワークを続けた。
今この瞬間もカオリたちの手のひらの上で転がされているとは思わずに。




