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1 プロローグ

新シリーズです。そんなに長くはならない(はず)です。

ハルト辺境伯領は帝都から遠く離れた、険しい山岳地帯と山間部に存在する盆地からなる土地だ。


ケイはその辺境伯領のさらに地方の町で農家の長男として生まれた。ケイの家は人を雇って山間部で果樹園を、平野で豆や野菜の農場を経営する豪農である。家族は父親と母親、弟と妹が一人ずつ。近所に住む祖父家族との関係も良好だ。


12歳になったケイは、卒業を目前に控えた夜父親に部屋に呼ばれた。部屋には父親と母親が待っており、ケイに、幼年学校を卒業したら辺境伯領の中心にある町、領都の学校へ入学するように命じた。領都はこの町から馬車を飛ばして一日の距離にある。領都には辺境伯で最も有名な学校があり、父親の親族も大勢暮らしており、その親族の家に居候しろということだった。


ケイは抵抗した。幼いながらにも農場を継ぐのは自分だという想いがあり、幼年学校在学中も熱心に家業を手伝ってきたつもりだった。その気持ちを裏切られた気がしたのだ。抵抗するケイに対し、父親は根気強く説得を続けた。曰く、領都の学校のレベルが高い、今後のケイが必要な知識が学べる、仕送りはする、領都の女の子はレベルが高い・・・等々。


ケイは徐々に冷静になり最後には、一日考える時間をもらいたい、と言った。態度の変化を感じ取った両親はほっとした様子でその一日の猶予を許可したので、ケイは布団の中で残りわずかな幼年学校生活で何をしたいか、夜通し考えた。


翌日、ケイは一人の女の子を呼び出し告白した。相手は幼年学校の同級生。ケイはあまり話したことはないが、優しくてかわいいと評判の子だった。当然結果は玉砕だった。


その晩、ケイは領都への進学を承諾する旨両親に報告した。両親は喜び、今後のことについて話を始めた。ケイはその話をじっと聞いていた。



時は流れ春。幼年学校を卒業したケイは馬車に乗って領都へ出発した。


「ケイは傷心のうちに故郷を旅立つのであった」


モノローグを入れたのは隣に座るニヤニヤしている少女だった。名前はホノカ。ケイと同じ12歳でケイの実家のある町の町長の娘だ。


「は?俺はもう傷ついてない。ていうかさっき泣いてたのはお前じゃねーか」

「あれは目にごみがはいっただけだし!」


ケイはむきになって言い返し、そこにホノカがさらに言い返した。ホノカが一緒にいるのは、ケイと同様に領都の学校に進学するためである。町の同級生たちのうち、ケイとホノカの二人が領都の学校へ進学することになった。見送りに来た友人たちと抱き合っていたときに涙がこぼれていたことを、ケイは目ざとくも確認していた。


「二人とも、ケンカはダメよ」


険悪な雰囲気を察知したもう一人の同乗者が二人を諫めた。同乗していたのはホノカの姉、ノドカである。15歳、学年としては2つ上の少女は小さいころから遊んでもらっていたこともあり、ケイやホノカは頭が上がらない、おっとりやさしいお姉さんである。


ノドカはすでに領都の学校に通っており、普段は学校の寮で暮らしている。長期休みを利用して帰省しており、ノドカとホノカが領都へ向かうためにホノカの親が用意した馬車にケイは同乗させもらっていた。


「はーい」

「はい・・・」


しぶしぶ、といった様子で仲直りのそぶりを見せた二人を、ノドカは優しい目でみていた。

馬車は快調に飛ばしており、朝早く出発した馬車はこのまま問題なければ夕方には領都に到着するはずだった。



正午過ぎ、馬たちの休憩を取るため、馬車は道から少しはずれた木陰で停車していた。馬車の中で3人が昼食を取っていると、雷のような音が聞こえてきた。


「雨?」


ホノカが興味津々といった様子で馬車の窓に顔を寄せる。だが、窓から見える外の様子は雲一つない晴天で雷が発生するとは思えなかった。

そうこうしているうちに、雷の音は大きくなってきた。


「反対側かな?」


ケイが漏らした声に反応し、ホノカが馬車の扉を開けて外へと出た。ケイも後に続く。

馬車の中からは見えなかった方向、空の上に人影が見えた。二つの影は急速に近づいたり、離れたりを繰り返しつつこちらに近づいていた。時折片方の人影から光が放たれており、その音が雷のように聞こえているようだ。


「人?」


人影はみるみるうちに近づいてきて、だんだんと細部まで見えるようになってきた。片方は軽鎧をまとった人のようだが、もう片方は角と翼を持つ、一見して魔物と分かる容貌だった。

ケイが直感的に危険を感じ、ホノカの手を取り馬車へと戻ろうとしたとき、ケイたちの近くに魔物が勢いよく降り立った。


ケイとホノカは異形の着地の衝撃によって飛ばされ、手も離れてしまった。

魔物は二人に目を止めると、より近くにいたホノカの近くに移動してつかみ上げた。宙吊りにされたホノカが苦しそうに呻く。


魔物はさらにもう片方の腕をケイに伸ばそうとして、瞬間的に後ろに下がった。

その魔物とケイの間に人影が降り立った。雷光をまとう軽装の青年。手には光り輝く剣を持っていた。


魔物は宙吊りにしたホノカを降り立った青年との間に掲げ、青年は剣を構えるがそれ以上は動けない様子だった。

ホノカの苦しそうな呻きだけが聞こえる、じりじりした時間が過ぎていたとき、魔物の後ろから氷の矢が飛んできた。


「妹を・・・放して!」


馬車から出ていたノドカが魔術を放っていた。ケイも咄嗟に土魔術を使った。魔物の足元を柔らかく、粘着質なものにする。それらの魔術は魔物にダメージを与えるようなものではなかったが、隙を作らせるには十分だった。

青年は一瞬で魔物との距離を詰めると首を切り落とした。剣を持っていない方の手でホノカを抱えると、魔物から飛び離れる。


首を切り落とされた魔物は、そのまま朽ちるだけと思われたが、道連れだといわんばかりにケイとノドカに向かって手を伸ばし、そこから猛烈な勢いで触手が伸びた。


ケイは自分に迫ってくる触手をスローモーションになった世界で見ていた。このままだと死ぬ。目の端で、ノドカの方へ向かった触手を青年が剣で両断しているのが見えた。

その後、こちらの触手も切ろうと移動を開始したようだが、間に合わない。


生まれてから12年の月日が走馬灯のように浮かんだ。その中に、見たことのない、だが懐かしい映像があった。日本という国で生きた記憶の映像。その時、ケイは自分が異世界に転生していたのだということを理解した。


(異世界転生を悟った瞬間終わりかよ・・・)


ケイは腹を貫かれ、意識はそこで途切れた。


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