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魔法使いはどこから来たか。  作者: きみかげ
第1章 商業都市ウォッタリラ
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1 商業都市ウォッタリラ


都市の主要な施設が集まる場所にそびえたつ、ひときわ大きく荘厳な赤レンガの建物。


ここは大陸5大都市に数えられる『商業都市』ウォッタリラ、その冒険者ギルド北支部である。


ウォッタリラはもはや都市というより国に近く、広大な領地と人口、経済力を有しており、それを統括するギルドは中央と東西南北の5か所に分かれて都市の冒険者をまとめあげている。


赤レンガが特徴的な北支部は、1階部がロビーとなっており、依頼の張り紙を見る冒険者たちでにぎわっていた。


そのロビーを素通りし、上階への階段へつながる通路へ進む青年がひとり。

通路脇の受付に、銀色のギルドカードを見せる。

「任務のことで、マスターのところに。」

「お疲れ様です。お通りください」



彼は七階建ての建物を最上階まで登り、一番奥の最も大きな扉をたたく。

「ソラです。昨夜ウォッタリラに帰還し、報告に上がりました。」

「入れ。」


中は、ギルドマスターの執務室。左右には壁一面に並ぶ書類棚、正面は巨大な窓となっており、その窓を背に緑色の長い髪を1つにまとめた女性が座っていた。彼女の執務机は山積みの書類で埋まっている。


手元の書類に落としていた彼女の琥珀色の瞳が、ソラに向けられる。

「今回の任務、ご苦労だった。無理を承知で頼んだが、よく無事に帰ってきてくれた。先んじて送ってくれた報告書には目を通しているが、改めてその口から報告してくれ。」

「わかりました。」


彼は、ポルドゥガ近くの遺跡での記録を報告した。

ウォッタリラに帰る前に、ポルドゥガから報告書を送っておいたので、ほとんどそれをなぞるだけだ。

「以上です。」

「ああ、ありがとう。」


報告を聞きながら視線は手元の書類にやっているマスターは、ずっと眉間にしわを寄せている。その様子に、何やら不穏な気配を感じて、彼は身構えた。


彼としては、今回の報告は大きな成果として称賛されるだろうと思っていた。未知の遺跡で中心部にたどり着き、無傷で帰還したうえに記録も十分残している。それにもかかわらずマスターの浮かない表情が消えないので、段々と冷や汗をかいてきた。何かミスをしただろうか。


「あの…何か、報告に問題でも」

「ああいや…」


彼女は暗い表情を変えないまま、書類をめくりつつ応じる。

「なに、任務は文句なしの達成だ。追加報酬もはずもう。それとは別に、気になることがあってね…」

「――お聞きしても?」


そこでやっと、彼女は顔を上げた。

「遺跡中心部へ案内してくれたレイという冒険者の話なんだが…」

「彼女が何か?」

「報告書では名前しか書かれていないが、特徴を詳しく話してくれないか。」

「特徴…」

彼は頭をかく。

「すみません、名前とランク以外は何も。顔はずっと隠していたので」

「なら種族もわからないかい」

「はい…ただ、おそらく魔女族かと。」

「なぜそう思う?」


ポルドゥガの町にいるときからずっと、彼女に強大な魔力は感じなかった。しかし、代わりに妙な気配を感じていた。そして、洞窟でのできごと。


「普段から容姿だけでなく自身の魔力も隠しているようでした。正確に推し量ることはできませんが、莫大な魔力量を有しているように思います。魔女族でもなければ考えられません。容姿を隠すのも、差別の残る種族であるからと考えれば納得はできます。」


魔女族は魔力が全種族の中でも最も高いと言われる反面、肉体的には極めて脆弱だ。遠い昔には、それにつけこみ、身体を弱らせて拘束し魔力を生産させるための奴隷として狩られていた時代があった。


ただし、そうした被害は近年ではほとんど見受けられない。


全世界的な魔法の発展が、魔力の高い魔女族の総力と地位を急速に向上させた。かくいうソラも魔女族であるが、容姿を隠さずとも普通の生活を送ることができている。


しかしながら、奴隷として扱われていた歴史が一部の閉じた地域で差別や偏見という形で残っているため、旅人であれば種族を隠す者もそう珍しくない。


「そう思うかい。」

「はい。」

「では、端的に言おう。その冒険者は現在行方不明ということになっている。」


今度はソラが眉間にしわを刻む番だった。

「…え?」

「中心部の位置と侵入法を正確に知る者は聞いたことがなくてね、ギルドとしては喉から手が出るほど欲しい人材だった。それであんたの報告をもとにBランク冒険者を洗おうとしたんだが、浮上した魔女族レイという冒険者は最近捜索の手配書が回されていた。」


「いつからですか?」

ソラは険しい顔で聞き返す。


「行方不明の人間にしては疲弊した様子は見られませんでしたが。」

「2,3週間前にギルドの規約違反をした直後だと聞いたが、その内容がなんとも腑に落ちない。」


マスターは手配書をソラに見せた。

「…規約違反?」

「滞在していた都市のギルドからの招集命令を無視したそうだ。そのまま逃走し、行方がわからなくなったので捜索が始まった。」

「招集無視くらいで全都市に捜索届を出すのは早急すぎるかと思いますが」

「ああ。そもそも冒険者にはギルドからの命令や依頼を拒否する権利がある。」


命令拒否には明確な理由が必要だが、無視したところで、注意を受けることはあれど規約違反で捜索願というのは大げさな気がする。


「…所在地を確認したいのでしたら、ポルドゥガの自警団に問い合わせれば何かつかめるかと。」

マスターは手元の書類を指ではじいた。


「既に確認した。門番が覚えていたよ、一般的によそ者が使わない東門から市民証を持たない旅人が入ってきたそうでね。背格好は報告と一致している。ミンセフという都市で手に入れた仮市民証を使っていたそうだ。そしてその後の行方はつかめていない」

「そうですか…」


しかし、探されていると知っているなら、あの場でギルドカードを見せた意味は何だろうか。


「彼女は、俺がウォッタリラのギルドマスターからの委任を受けてきていると話した後、身分証を見せてきました。もし意図的に逃げているならわざわざギルドと密接な俺に身分を明かすようなことはしないと思いますが…」


「そう、それにこの件に関しては他にもおかしな部分がある。」

「おかしな部分?」


「彼女が招集命令を無視したのはミンセフというここから遠く離れた中規模都市だが、どうやら捜索にはある都市のギルドが裏で口を出し、そのまま押し切ったらしい形跡がある。」

「ある都市?」

「5大都市の1つ、『研究都市』メリールゥ。」


ミンセフからはまた随分遠い、北の果ての都市だ。


「急な捜索手配にいくつかの都市から疑問の声が上がったようだが、メリールゥとミンセフが結託して黙らせたようだね。」


冒険者レイの行動は確かに不審な点が多いが、それよりも。

「ミンセフとメリールゥのギルドは何を考えているんでしょう?」

たかが招集無視で、過敏に反応しすぎではないのか。


「わからない。ただ、メリールゥに関することで、過去にも不審な事件があってね。彼女の捜索に陰で関わっているのが本当なら、その事件とつながっている可能性がある。」

「事件?」

「各都市ギルドのマスタークラスにのみ通達された機密事項だが、あんたはSランクだし、話しておこうと思う。口外するな。」


「研究都市メリールゥで起きた、ある少女の行方不明事件についてだ。」





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