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魔法使いはどこから来たか。  作者: きみかげ
第1章 商業都市ウォッタリラ
31/32

28 病室にて①

病室のドアがノックされる。

「ソラ君。入るよ」


入ってきた男性を見て、ソラは白いベッドから半身を起こす。

「リシュウさん!…痛っつ…」

「あ、こら」


脇腹の痛みに悶えるソラに、リシュウが駆け寄る。

「だめだよ、まだ動いちゃ。傷口が塞がっていないんだろう。」

「…いや、大丈夫です。」


ソラは顔を歪めながら、ベッドの横に来たリシュウを見上げる。


「今、街の状況はどうなってますか?」

リブラの拘束後、ソラは重傷者として病院に運び込まれた。


それから丸1日。

ソラのいる大病院はまだ、バタバタと治療士たちが行き交っている。

リシュウは、ウォッタリラ冒険者ギルド北支部のギルドマスターであるリュメの側近で、北支部の幹部だ。ウォッタリラ北部で起きる大きな事件の顛末は、だいたい彼が把握している。


「まだ混乱はあるけど、今わかっている範囲だと、幸いにも人的被害は軽い。爆発に巻き込まれた人や、撒かれた毒に苦しむ間に倒れたり暴れたりして怪我した人はいるけど、今のところ死者は確認されていない。」

「よかった…」

ソラは目を伏せる。

これは、ただ一人の少女の功績だ。


「…リブラたちは?」

「ドラヴィダの兵士たちと合わせて全員拘束済みだ。今は地下収容所で身柄を預かっている。」

「そうですか」


「被害状況の確認が済んだら都市政府の裁判所で裁かれる予定だけど、極刑が堅いと思ってる。未曽有の大規模なテロ事件と――辺境伯家令息への危害行為。」

そう言い、リシュウはソラの脇腹に目をやる。


包帯が厳重に巻かれたその下には、深い銃創がある。

リブラに至近距離で撃たれた傷だ。


「これほど見境のない連中だったとは。痛かっただろうに。」

「いえ…これくらい。」

ソラは暗い表情で首を振った。

「俺の傷なんて、大したことないですよ。…ユーアに比べれば」

「……」

「ユーアは、今どうなってますか?」


リシュウは険しい顔で答える。

「緊急病棟で治療を受けて、一応、一命はとりとめたとは聞いた。でも、まだ予断を許さない状態だよ。……そもそも、身体が弱い子みたいだね。」

「……そうでしょうね。ユーアの魔力量は尋常じゃないので」


一般的に、魔力量と身体の丈夫さは反比例する。

莫大な魔力量を有するユーアが虚弱体質であるというのは想像に難くない。


「本人の回復力にはあまり期待できないから、治療は長引くと思う。」

「怪我の具合は?」

「両足の怪我は相当ひどい。骨が砕けてしまっている。とりあえず手術は無事終わったけど、歩けるようになるのは当分先だ。少なくとも当面は激しい運動は無理だろう。」


「…冒険者としての復帰は先のことになりそうですね…」

「ああ。――リブラもひどいことするよ。」

リシュウは顔を歪めた。


「でもそれよりずっと深刻なのは、内臓の損傷だ。どうやら、自分の生命力を消費するような系統の危険な魔法を使ってしまったみたいだ。その反動らしい」

「やっぱり…」


あの不気味な黒い鉄槌と、ユーアが纏っていたドス黒いオーラは、ただの魔法ではない。


ユーアの命を削って具現化された、諸刃の剣だ。


あの術によって、ユーアは一時的に、本来の彼女が持ち得ないはずの高い身体能力と物理攻撃力を得た。


「…恐らく、その前に魔力切れで既に瀕死だったんだと思います。」

相当追い詰められていたのだろう。


「魔力切れ…あの、白い光の極大魔法だね。」

「はい。あんな規模の大魔法を連続使用して、魔力を失いすぎてしまった。…あの黒いオーラは、ドーピングのようなもの。一時の身体能力強化でギリギリ命を繋いだんでしょう。」


その代償が、体内の損傷。

ユーアの身体が、あの黒い魔法の負荷に耐えられなかった。


「ソラ君がそう言うならきっとそうなんだろう。要は命の前借りか。」


ソラは苦悶の表情で拳を握りしめる。

一番肝心なときに、門外地区の住民が誰も傍にいてやれなかった。


そもそもあの時、彼女が何を考えて会場にいたのか、誰もわかっていなかった。少なくともソラはアーデルから、ユーアは怖くて大会を辞退するらしいと聞いていたため、彼女は門外地区で留守番するのだと思っていた。


ユーアの目が覚めたら、聞くべきことが山ほどある。


「とりあえず彼女は当分、絶対安静。彼女が目覚めるころにはソラ君は動けるようになっていると思うから、話をしに行ってあげて。きっと不安だろうから。」

「わかりました。」


「それから、辺境伯様からの伝言だ。彼女は、容体がある程度安定したら…即刻、門外地区に連れて帰るようにと。」

「門外地区に?重症なんだから、このまま都市の大病院で治療を受けたほうが…」


「辺境伯様が、ユーアさんに関する情報に箝口令(かんこうれい)を敷かれた。」

「!!」


ソラは眉間にしわを寄せる。

――箝口令。つまり、情報規制だ。


ナグモは高位貴族として強大な権限を持っているが、その権力を振りかざすことはほぼない。

本人が、貴族でありながら貴族政治を嫌っているという変わった性格だからだ。

彼が貴族らしい立派な邸宅に住まず、山奥の家――門外地区に引きこもっているのもそのせいだ。


そのナグモが、貴族の権限を行使して命令を発するのはかなり珍しい。


「…なるほど。箝口令に合わせて、ユーアをなるべく人目に触れさせるなと」

「ああ。ソラ君も話す内容に気を付けて。門外地区の住民同士ならいいと思うけどね」


この状況で、『ユーアに関する情報』に箝口令を敷いたのであれば、今回のテロをだれがどのように止めたのか、それすらも公言してはならないということになる。


リブラの制圧時に現場にいた憲兵や冒険者たちにも同じ命令が下っていることだろう。


「辺境伯様のお考えがわかるわけではないけど、俺は賛成だよ。――そうでもしないと、じきに帝国中が、メリールゥの『兵器』と共に、ユーアさんの話で大騒ぎになる。」

「あ…」


「今弱っているユーアさんに人が群がるようなことは防いだほうがいい。彼女の存在は極力伏せて、人の出入りが多い大病院より、部外者が絶対に入れない門外地区で安全に傷を癒すべきだ。今あの子にこれ以上怖い思いをさせてはいけない。」


この後ウォッタリラの混乱が一旦収拾したとしても、この事件は大陸中に伝播するはずだ。

人類にとって未解明の脅威であった旧世界時代の遺跡(ダンジョン)の瘴気を、秘密裏に兵器化して、数万人の民間人相手に無差別使用したメリールゥ。

そしてそれを止めたのが一人の少女。

このことが広まれば、ユーアが放っておいてもらえるはずがない。


「ギルドマスターと辺境伯様の指示で、ドラヴィダで任務中だったハイドさんにウォッタリラへ急いで帰ってきてもらえるように通達を出したところだ。彼が戻れば門外地区でも十分治療が受けられるはずだよ。」

「そうですね」


「ソラ君も、傷口が塞がったら病院より門外地区で療養するのいいと思う。」

「はい、そうします。…それまで、俺の病室、ユーアの病室の近くに移ることできませんか?」

「どうして?」

「変な奴が襲いに来ても俺が近くにいたらすぐ助けられる」


リシュウは首を振った。

「だめだ。ソラ君も十分重症なんだから安静にしてなきゃ。」

「でも…この状況、何があるかわからないでしょう。特に夜は巡回も少なくて危なくなる」


「まだウォッタリラ外の人間が騒ぎを聞きつけて街にたどり着くには早い。ウォッタリラ内にいたメリールゥとドラヴィダの関係者が全員拘束されている今、すぐに彼女の身に危険が迫ることはないよ。」

「……わかりました。」


ソラは不安の残る顔をしつつ、渋々うなずいた。

何もできないのがもどかしい。

しかし、まずはソラも身体を癒さなければならない。


「とりあえず、今伝えられる情報はこんなところかな…あまりいいニュースが無くてごめんね」

「いえ、ありがとうございます。」

そしてリシュウは、街の混乱の収拾のため、慌ただしく去っていった。


***


部屋が静かになった後で、ソラはふうっとため息をつく。


「…普通にドアから入ってくんねえかな。ナグモ」


ベッドの横の窓、風でひらひらと揺らめくカーテンに影が映る。

そのカーテンの向こうにいる、白い面をつけているであろう人物が、ようやく声を発した。


「ソラ。話がある。」

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