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魔法使いはどこから来たか。  作者: きみかげ
第1章 商業都市ウォッタリラ
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22 宿敵②


大会の午前の部が終わり、昼休憩に入った。

個室観覧席――リブラとドラヴィダ兵たちが待機するその部屋の、ドアがノックされる。


「ソラです。失礼します。」

「どうぞ。」


応えると同時にリブラは立ち上がった。


開かれたドアから、ソラが一人の少女を横抱きに抱えて入ってくる。


少女は顔を覆うほどにフードを深くかぶせられ、腕がぐったりと力なく垂れ下がっている。

「お探しの者を連れてまいりました。」


少女は気を失っているようだ。

ソラは、ソファに少女を寝かせた。


「……もうですか?」

リブラは驚いて尋ねた。


依頼した内容と異なっている。


大会で『ユーレンフェミリア』の目星をつけたら、その後は、じっくりと警戒を解いてから引き渡すようにと頼んでいたはずだった。


ソラは飄々と続ける。


「早い方がいいと思いまして。少し眠ってもらっています。条件は、『ケガをさせずに穏便に引き渡す』ということでしたので、構いませんよね?」


「……ええ。」

リブラは戸惑いながら青年を横目で見つつ、ゆっくりと立ち上がった。


「ありがとうございます。」

そうしてリブラは寝かせられた少女に近づく。


フードをめくると、ぐったりと目を閉じた少女の素顔が見えた。

まるで光を放っているのかと見紛うほどの、美しくやわらかい銀色の髪。

目の色は眠っているためわからないが、この髪色は他にそういない。


「姿は前回の大会と違いますが、『カタリ族シヒナ』と名乗っていた者と同一人物で間違いありません。」

リブラの背後でソラが言った。


リブラはおもむろに、懐から魔力量の測定器を取り出して、眠っている少女にかざした。


計測器にエラーの表示が出る。魔力量が測定できない。


リブラはメリールゥで様々な種族の魔力量を測ったことがあるが、計測器のエラーを見たのは初めてだ。

『ユーレンフェミリア』は、メリールゥにいた10歳の段階ですでに膨大な魔力量を有していた。

7年が経ち彼女も成長した今、もはや計測できない領域となっていても不思議ではない。


「これで、任務は達成ということで間違いありませんね?」

背後からリブラを急かす声がした。


「――ソラ殿。」


リブラはソラの方を向き直る。

そして、リブラは満足げに微笑んだ。


「ありがとうございます。さすが、ウォッタリラが誇るSランク冒険者といったところでしょうか。」

「恐れ入ります。」

ソラは軽く一礼する。


「――では、報酬のお話をさせていただいてもよいでしょうか。」

「ええ。そうですね。――“青灰の久蘭(クラン)”殿の情報でしたね。」


ソラがごくりと唾をのみ、こぶしを握った。


「はい。」


そのソラを見てフッとほほ笑んだリブラは、窓の方へ身体を向けた。


「――正直、驚いています。」

「え?」


「失礼ながら、あなたがこれほど素直に協力してくださるとは。メリールゥのことはお嫌いだったはずでは?」

「はは。単刀直入ですね」


ソラが苦笑いする。

「持ち掛けてきたのはそちらでしょう。」

「ええ、まあ、そうではありますが……」


数秒沈黙したリブラを見て、ソラは焦る。

「まさか……嘘だったなんて言いませんよね。」


ソラはうっすら浮かべていた愛想笑いのまま、口元をひくつかせる。

「メリールゥの誇りにかけて、情報の信頼性は保証していただける。そのようなお話だったはずです。」


「ええ、もちろんですよ。すみません、不安にさせてしまいましたね。私が申し上げたいのは、もっとお互いにとって良い話です」

「良い話?」


リブラは改めて微笑み、ソラ手を差し出して握手を求めてきた、

怪訝な顔をしたソラはその握手にすぐには応じず、問い直す。


「どういうことですか?」

「ソラ殿。私は、やはり――あなたが欲しい。」

「は?」


ソラは数歩後ずさった。


「ぜひ、メリールゥにお越しください。」

「その件ははっきりとお断りしたはずです。」

「しかし、今回仲間に背を向けてご協力いただいたではないですか。門外地区で保護されていた『ユーレンフェミリア』を、差し出してくださって。」

「!!」


ソラは一気に身体をこわばらせ、警戒を強める。


リブラは、握手のため差し出した手が行き場を失ったのを残念そうにしながら、手を下ろして続ける。


「私は最初から、あなたが『ユーレンフェミリア』と接触済みであることは、ほぼ確信していました。」


「……前大会でのことですか?『カタリ族シヒナ』と名乗っていた彼女と確かに接触していましたが――」

「いえ、それより前です。極めて小さな町であるポルドゥガでの、『魔女族レイ』の滞在期間と、あなたの滞在期間がかなり被っている。」


「――!」


「小さな町で冒険者が集まる場所など限られていますから、出会っていても何らおかしくない。

それに、新たに発見されたばかりの情報が少ないダンジョンで、危険を顧みず単独行動する遺跡探索者などそうそういないのですから、お互い目立ったでしょう。少なくとも感知能力の高いあなたは気になるはずです。」


「……」

――すでに、そこまで調べがついていたのか。


「あの子とどんな話をしたのか知りませんが、一度は門外地区に匿うことにしたのでしょう?でなければ、ウォッタリラでこれほど完全にあの子の消息が途絶えることはありえない。ドラヴィダ兵にも人海戦術にご協力いただいて、都市内はくまなく探したのですよ、これでも」


「……そこまでご存じの上で、わざわざとぼけていたのですか。」

観念して認めつつ、ソラは悪態をついた。


「お人が悪いとは言われませんか?」

リブラはその言葉に、上機嫌に笑った。


「すべてお伝えして責め立てたところで、のらりくらりとかわすおつもりでしたでしょう?我々メリールゥが、いかにウォッタリラに嫌われているかなど、重々承知していますよ。」


「……なるほど。俺は、リブラ殿を甘く見ていたようです。だから、このような回りくどいことをされたのですね。」


ソラは懐から通信機を取り出した。

それをリブラにつき返しながら言う。


「門外地区の位置を探ろうとしておられましたね。」


リブラがソラへ手渡していた通信機。位置情報をリブラへ発信しているものだ。

リブラはそのことをソラに隠していたつもりのようだが、ソラは自身の感知能力ですぐに気づいていた。


門外地区の正確な位置は機密事項である。住民と、一部の関係者以外には知らされていない。


一般人に対しては、ウォッタリラ領の北側、ダンジョンと都市部の間にある険しい山の奥まった場所のどこかに位置していることは公表されているが、ウォッタリラ領は広いうえ、門外地区は結界で隠されている。部外者が近寄ることがないようになっているのだ。


リブラは、ソラが通信機を持って門外地区に帰れば、その位置を確かめられると踏んだのだろう。

それを悟っていたソラは、リブラと手を組むふりをし通信機を持ち歩いていたこの1か月間、一切門外地区に立ち寄らなかった。


「私も、あなたの『特殊技能』を甘く見ていたようです。やはり気づかれていましたか。」

リブラは受け取った通信機を見つめる。


「お気を悪くさせて申し訳ございませんでした。門外地区の場所さえわかれば、あの子に会えると思いまして。でも本当にご協力いただけるのならそんな必要はありませんでした。……お互い、すべて知りながら、相手を泳がせているつもりでいただけの不毛な1か月間でしたね。」


「……そのようですね。」


「しかし、こうして今回、利害が一致し協力できたわけです。不毛な探り合いはもうやめにして、これを機に、純粋な協力関係になりませんか?」

「協力できたというにはまだ早いのではないですか。」


ソラはやや不快そうにリブラに言う。


「“報酬”をまだいただけていません。」

「もちろん、その話はこの後じっくりと。私が申し上げたいのは、それきりで終わりではなく、もっと深い仲間になれるのでは、ということです。」


リブラは通信機を懐にしまうと、窓辺にゆっくりと近づいた。


「本当は、ドラヴィダの方にお見せする予定で用意したのですが。ソラ殿もどうぞごいっしょにご覧ください。」

「――?」


警戒を強めるソラを見てクスリと笑い、リブラは右手を挙げた。


そして、掲げた右手の指をパチンと鳴らす。


その瞬間―――



ドゴッ



「!?」


会場中のあちこちで、小規模な爆発音がした。


ソラは慌てて窓辺に駆け寄る。


連鎖するように、どんどん爆発の数が増えていく。二か所や三か所ではない。

数十…いや数百の規模だ。

そして次に、灰色の煙が、ソラたちがいる個室を除いて、会場中を包んでいく。


そして――


「さあ。我らがメリールゥの偉大なる研究成果をご覧にいれましょう。」


煙が晴れたとき、窓の外に見えたのは、会場の人々が次々に倒れ、悶え苦しむ光景だった。

ある人は頭を抱えながら何かを叫び、またある人はうずくまって吐きはじめ、またある人は泡を吹いて意識を失う。


ソラは窓の向こうの光景に目を見開いて、立ちすくんだ。


ソラはすぐに気づいてしまった。


――耐性がなければ、屈強な冒険者をもすぐ死に至らしめる、旧世界時代の遺跡の中心部に蔓延している毒のようなもの。

それが、会場中に撒かれたのだ。

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