20 懐疑
「――アーデルさん。」
門外地区に戻ったユーアは、リビングのソファにゆったりと座って新聞を読んでいたアーデルに声をかけた。
アーデルは新聞に目を落としたまま応じる。
「ずいぶん早かったわね。5日も休みをあげたのに、2日で帰ってくるなんて。目的は達成できたの?」
「……」
返事がないことに気づき、アーデルは新聞から顔をあげてユーアの顔を見た。
そして、ユーアが神妙な面持ちをしていることに気づく。
「…どうしたの?」
「…お話があります。」
アーデルはユーアをじっと見つめた後、何かを察し、新聞を脇に置いた。
「…なに?」
「その…次の大会、やっぱり辞退させていただきたいのです。」
「…」
アーデルは少し沈黙した後、静かに尋ねる。
「…怖くなったの?街にまだメリールゥの連中がいるから」
「――はい。」
「そう…まあ、そうね…連中、ウォッタリラを引き上げる様子はまだないみたいだから。」
少しうつむいて逡巡した後、顔をあげてアーデルはユーアを見た。
「街にいるリュメさんやソラから聞く限りだと、今のところ連中は大人しそうだけど…前回の大会で大胆に会場を包囲したんだから、もしかしたら次も何か仕掛けてくるかもしれないわね。」
「はい…」
「でも、それだとギルドカードはどうするの?」
アーデルの表情は、本当にユーアを心配しているように見える。
「リブラたちがメリールゥに帰るまで、門外地区で過ごす?…私は構わないけど。管理人のナグモが許可すれば、それもいいかもしれないわ。」
「…」
アーデルは、何も知らないのだろうか。
ソラが、リブラたちと行動を共にしていること。
ソラが独断でやっているだけで、アーデルは純粋にユーアを想ってくれているのか。
それとも、ユーアを心配している風のこの表情は演技で、ソラといっしょになって、ユーアを売る気なのか。
ユーアには判断がつかなかった。
「その…次の大会は、ひとまず様子見で。何もなければ、そのさらに次の大会でギルドカードを発行できないでしょうか」
ユーアはとりあえず、決断を先延ばしにするような発言をした。
「できると思うわよ。私たちと同じ北支部所属の冒険者にはなれないけど。慎重に行くならそれがいいわね」
アーデルは言いながら、ユーアの目をじっと見る。
ユーアは思わずアーデルから目をそらした。何を尋ねられるか、気が気でない。
――もし、アーデルも敵に回っているとすれば、受け答えに気を付けなければならない。
アーデルには嘘が通用しない。ユーアの内心を悟られてはならない。
アーデルはユーアの表情を見つめながら、低いトーンで言った。
「…何か、他に言いたいことがあるなら聞くけど。」
「いえ、何も…」
「ダンジョンで何があったの?」
その質問にドキリとする。
当然の疑問だ。
しかし答えていくと、ユーアが渦眼の彼に指示されたことがばれてしまうかもしれない。
ユーアは黙りこくるしかなかった。
「……」
アーデルはしばらくユーアの返答を待ち続けた後、それでも無言を貫くユーアを見て、ため息をついた。
「…そ。」
アーデルは目を伏せ、そのまま立ち上がった。
「…アーデルさん…」
「一応言っとくけどね。私ぐずは嫌いだけど、今じゃあんたのことは割と気に入ってる方よ。」
リビングを去りながら、肩越しに振り返って最後に彼女は言った。
「一人でどうしようもなくなったら言いなさい。」
それだけ言い残して、彼女は去って行く。
何も言っていないのに、まるで、何か見透かされたかのようだった。




