19 協力者③
「メリールゥが開発している『兵器』は実戦段階に近い。それをドラヴィダに売却する目算もあって、今奴らは手を組んでいるんだと思う。」
「!!」
――『兵器』。
彼の言葉にユーアは顔を青くした。
ユーアがメリールゥから逃げ出した7年前にはまだ構想段階であったその兵器が、完成しつつあるというのか。
そして、それが――
「その『兵器』が、次のウォッタリラの大会で使われるというんですか…?」
「ああ。その可能性が高い。君がウォッタリラの街のどこかにいると奴らは考えているからね。その『兵器』を目の前で見たら、優しい君は黙って見てはおけないと踏んで、それを利用する気だ。」
彼は苦虫を噛み潰したような表情で吐き捨てるように言った。
「ウォッタリラはメリールゥと対立する筆頭都市だから、なおのこと都合がいいんだろう。最低な連中だよ」
しかしすぐに、気を取り直したように言う。
「でも、君にとってはチャンスだ。」
「――え……?」
「ウォッタリラの冒険者や都市政府の人員の大多数は、その『兵器』の対応に追われ、都市は大混乱になる。一方で君は、黙って大人しくさえしていれば、リブラたちも補足できない。都市の混乱に乗じて君はウォッタリラ領を抜ければいい。」
その言葉にユーアは青ざめた。
ドクドクと心臓が脈打ち始める。
「それって、じゃあ、私のせいで無関係の街の人が――」
「仕方ないんだよ」
彼は、ユーアの言葉を遮って、ピシャリと言った。
「いま、君は自分が逃げることだけ考えろ。君にとってみれば都合がいい。ウォッタリラみたいな人口が多い大都市でテロが起きれば、その混乱は近隣都市にも伝播する。『兵器』が使われた場所はしばらく人間が立ち入れなくなるだろうから、使用される規模によっては、避難民の大移動もあり得るはずだ。避難民の都市移動は入出都市審査も緩くなる。ここで避難民に紛れて他の都市に行けば、君は束の間の自由を手に入れることになる。」
「でも……」
「レイ。いや、ユーレンフェミリア。」
彼の目は真剣そのものだ。
「奴らの思い通りになってはいけない。何のためにこれまで逃げてきた?君が捕まったらあの『兵器』も歯止めが利かなくなる。逆に、現状メリールゥには君の存在が唯一の脅威だ。先のことを考えると、万全を期すまで君は表に出るべきじゃない。」
「いやでも、どちらにしても私、今使えるギルドカードがなくて…」
自分のせいで街が犠牲になることに抵抗があるユーアは、おどおどと迷いながら言い訳がましく言う。
昔、メリールゥの実験で犠牲になった孤児たちの話をしたとき、いっしょに涙を流してくれた彼。
その優しい彼が、大勢の命をあっさり見捨てて利用するようにと指示するなんて思わなかった。
頭が追い付かない。
「大会に出るしかギルドカードを手に入れる方法がないんです。避難民に紛れてウォッタリラ領を出たとしても、それ以降はまた身動きがとれません。だから、カードの発行まで、門外地区に守ってもらうしかなくて…」
「……」
――だから、いっしょに戦ってはくれませんか。
その言葉が、喉の奥に突っかかった。
――あなたも、本当は強いんでしょう?
いつもすぐに姿を消してしまうけれど。
彼女の動揺に気づかないのか、彼は態度を変えずに続ける。
「わかってる、『魔女族レイ』の名義が使えなくなったんだよね。当面これを使うといい。」
彼は、懐から赤色のカードを取り出した。
Aランクのギルドカードだ。
「これは…?」
「俺の友人のギルドカードだよ。本当はダメだけど、君のために借りてきた。」
ギルドカードには、『渦眼族 久蘭』と書かれている。
「悪いけどこのカードは、事情があってウォッタリラでは使えない。必ず他の都市でだけ使って。あとこれ、友人の顔写真。変装するときはこの写真を参考にしてね」
彼は、写真の入ったロケットペンダントを見せた。
写真に写る女性は、黒髪に、彼と同じ渦模様の目をした美しい人だった。
「俺はこの後、5大都市の1つ『宗教都市』コモロンジュに向かう予定だ。いいか、都市の混乱に乗じてウォッタリラ領を抜けたら、君もコモロンジュを目指してくれ。ウォッタリラから遠いから大変だろうけど、ずっと待っているから。」
彼はロケットをユーアの首にかけながら言う。
渋々うなずいた彼女を見て、彼はほっとしたようにうなずき返しながら、もう一度彼女の頭を撫でた。
「いい子だね。それじゃあまた。次はコモロンジュで会おう。どうか無事で。」
そう言って彼は、ユーアの前から姿を消した。
赤いギルドカードを握ったまま、ユーアはしばらくその場に立ち尽くしていた。




