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魔法使いはどこから来たか。  作者: きみかげ
第1章 商業都市ウォッタリラ
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18 協力者②


「ミンセフ以来かな。よかった、元気そうで」


灰色の髪の彼は、ユーアの頭をくしゃくしゃと撫でる。

渦潮のような、同心円状の珍しい模様をした彼の目が、優しそうに細められた。


彼の目は、『渦眼(かがん)族』という少数種族の特徴らしい。


目に特殊な力が宿るという渦眼族の中でも特に、彼の目は奇異らしく、そのせいで苦労も多かったと聞いている。それで絶滅者(エルラ)であると思われるユーアに同情し、目をかけてくれているようだ。


「ミンセフのギルドマスターの交代は焦ったけど、無事に逃げられたみたいだね」

「はい、なんとか」

「それにしても…ついにウォッタリラまでたどり着けたんだな。まだ子供なのに、普通は一人でここまでできるもんじゃない。本当にすごいよ」

「あなたのおかげです」


彼女は笑顔で応える。

久しぶりに会えた嬉しさと安心感で、頬が緩んでしまう。


その様子を見ながら、彼はユーアの頭を撫でるのをやめ、心配そうな保護者の顔をした。

「…本当によかった。心配してたんだ。今、ウォッタリラの街の状況は知っている?」

「え?」

「メリールゥとドラヴィダから追っ手が来ているんだ。」


その言葉に、ユーアも顔を引き締めた。


「――はい。」

「そう、気づいていたんだね。俺がウォッタリラは安全だって教えてしまっていたから、捕まってしまっていないか心配になって急いでこのダンジョンに来たんだ。まだ街には入っていない?」


「いえ…一度街に入って、大会にも出場しました。」

「え!?」

彼は驚いた表情をする。


「大会って…この前の?」

「はい、前に教えてもらった通り、ギルドカードを発行しようとして。」

「…その時にはもうメリールゥの奴らがいたはずだ。大丈夫だった?」


ユーアは、これまでの経緯を話した。


ポルドゥガで出会った冒険者が、たまたまウォッタリラのSランク冒険者であったこと。


ウォッタリラ西部の大会でその冒険者――ソラが手を貸してくれたことで、からくも難を逃れたこと。


そして今、『門外地区』で世話になっていることも。


「門外地区の方にお願いして次の大会の出場申請をしていて、『ユーア』という名前で今度こそ新しいギルドカードを発行するつもりです。」

「そうか――」


ユーアの話を聞いて、彼は考え込む。

てっきり喜んでくれると思っていたユーアは、彼の表情が曇っていることが不安で仕方ない。

「あの…?」

「いや…」


眉間にしわを刻んで、彼は心配そうに尋ねる。

「その門外地区で、危ない目には遭っていない?」


「はい、今のところよくしてもらっています」

「…本当?」


彼は疑うような表情をする。

前の大会ですでに一度助けてもらっているのに、彼は何が不安なのだろう。

「…何かあるんですか…?」

「いや…今のところ害がないなら、まだいいんだけど…」


ぶつぶつとつぶやいた後、彼はかがんでユーアの両肩に手を置き、心配そうに彼女の目を見て言った。

「よく聞いてね。前に俺、ウォッタリラは大丈夫な都市って言ったけど」


「はい。」

「君を助けてくれたっていう、『ソラ』という人のことは、もう信用しない方がいい。」


その言葉に、ユーアは目を見開いた。

「え…?」

「その『ソラ』という人は、メリールゥのリブラの仲間だ。」

「!!」

「むしろいっしょに君を探しているのかと思っていた。」


ユーアはその言葉に、頭を殴られたような衝撃を受け、眩暈がした。

彼は悲しそうに続ける。


「彼の『特殊技能』は俺も知ってたから、てっきりそれでメリールゥの依頼を受けたのかと思って。君の変装術も見破られてしまう可能性があったから、その『ソラ』という冒険者に注意するように、今日君に伝えるつもりだったんだ。…まさか、もう君と接触済みだとは…」


手遅れだった、と彼は歯噛みする。


ユーアはおずおずと言う。

「…あの、ソラさんは私の居場所をごまかすためにリブラに嘘をついてくれているはずなんです。たぶん、その件で…」

「だといいけど、そんな感じじゃなかったよ。街では奴らの一員かのようによくいっしょにいる。」

「――」


「ただ、ウォッタリラ全体がリブラに協力的な感じじゃないから、彼の単独行動だと思う。リブラと個人的な取引があったのかも。」

「そんな…」

「リブラはそういう交渉術に長けている。個人の弱みを握ったり、都市政府やギルド内の政争を読んで利用することで、水面下で味方を増やし自分の利益を最大化する。」


彼は眉間のしわを深くした。

「ミンセフの新しいギルドマスターだって買収されていただろ。それまでミンセフは君に仮市民証や『遺跡探索者』の称号までくれていたのに、新しいマスターはあっさり君をメリールゥに売ってしまった。まさか忘れてないよね?」

「はい…」


忘れるはずがない。ミンセフのギルドの方針転換は、彼女にとってまさに晴天の霹靂だった。

彼の警告がなければ、ミンセフでユーアは捕まっていただろう。


そして、ソラはこの2週間、門外地区に帰ってきていない。

まさか。


「でも、彼は私が門外地区にいることは知っています。本当に私を売る気なら、もう売っているのでは…」


「それも一理あるかもしれないけど…『門外地区』っていうところのことを俺はよく知らないから安心はできないな…。噂程度にしか聞いたことないけど、この帝国の身分制度を逆手にとって犯罪も誤魔化してるとか。…とにかく、一筋縄ではいかない厄介者の集まりのはずだ。正直俺じゃ、その人たちが何を考えているのか読めない。」


そんなことはない、とユーアは言いたかったが、何も言い返せなかった。ユーア自身、アーデルたちのことはよく知らない。


そしてユーアが知らされたごくわずかな情報によれば、『帝国の身分制度を逆手に取っている』のはある種事実と言える。


様々な都市の事情に精通した彼が、『読めない』とはっきり言うのは珍しい。それだけ、門外地区は得体の知れない存在ということだろう。


「次の大会も彼らの手引きだろう?それが罠かもしれない」

「罠…」

「その人たちがもし金にでも困っていたら、それだけでも君を売る理由になる。リブラから好条件を引き出すために、一時的に君の身柄を確保しているだけの可能性だってあるんだ」


この2週間、門外地区の生活に馴染むようにと家事や畑仕事を教えてくれているアーデルたち。

それが罠だなんて、考えたくもないが、まさか――。


「…私の面倒を見てくださっている、アーデルさん…門外地区の方は、すごくいいひとなんです。騙しているようには…」

「簡単に信用してはダメだよ。君は自分の希少性がわかってないんだから…」


彼はしばらく考えこんでいたが、意を決したように顔をあげ、言った。

「いいかい。今から俺の言うことをよく聞いて。」

「はい。」

ユーアはすぐにうなずく。彼の言うことに逆らったことはない。


「次のウォッタリラの大会は、間違いなく大きな混乱が起きる。」

「え?」

「リブラが大規模なことを仕掛けてくるはずだ。君をあぶりだす目的で。――それもあってドラヴィダ兵と組んでいるんだ」

「それって……もしかして。」

「ああ。『ソラ』という人がどこまで知っているかはわからないけど、――昔、君が俺に話してくれたことが、いよいよ現実に起きるかもしれない。」


彼は苦々しい表情をして言った。

メリールゥがかねてから、ユーアを含む孤児たちを使って、ダンジョンの瘴気について実験を繰り返していた、その理由。


「メリールゥが開発している『兵器』が完成しつつある。その試作品が、恐らく次のウォッタリラの大会で使われるはずだ。」

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