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魔法使いはどこから来たか。  作者: きみかげ
第1章 商業都市ウォッタリラ
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15 メリールゥの冒険者③



「失礼します。」


ソラはウォッタリラギルド北支部内にある来客用応接間の戸をたたく。

中から返事があって、扉を開けて中に入ると、座って待っていたのは桃色髪が特徴的な森民族(エルフ)の女性だった。


「魔女族のソラさんですね、初めまして。」


丁寧な物腰で握手を求められたので、ソラはそれに応じる。


――こいつが、“(はかりごと)天秤(リブラ)”か。


話に聞くような冷酷な人間には見えないが、外見や態度ではわからないものである。

「今日はお時間をくださりありがとうございます。どうしてもお話ししたいことがございまして、お呼び立てさせていただきました。」

「はあ、まあ、マスターから聞いてますよ」


ソラはリブラの向かいに腰掛けながらさっそく本題を切り出す。

「大会に出た指名手配犯の逃走幇助(ほうじょ)で、俺に疑いがかかっているとか。心外ではありますが、そのような誤解はお互いに不毛だと思いますので、早急な解決のために応じることにしました。」

ソラは不快な態度を隠そうともせずに言った。


実際、リブラの疑いは的を射ているわけではあるが、ソラには初めからまともに打て合う気はなかった。

彼女が所属するメリールゥのギルドは未だに小数種族や絶滅者(エルラ)を保護どころか追い詰めている立場であり、門外地区の住民にとっては強く警戒すべき対象の1つだからだ。


「ああ、そんな風に伝えられているのですね。こちらとしては、手がかりを掴むための参考人としてお呼びしたにすぎないのですが。」

「言い方の問題でしょう。それで、本題は?」


リブラが聞きたいことは『カタリ族シヒナ』のことに決まっている。この件では口を滑らせないよう、事前にリュメさんと打ち合わせ済みだ。その台本をなぞって答えたら、話は終わりになる。


そう高をくくっていると、リブラは微笑んだ。

「お会いするのは今日が初めてですが、私はずっとあなたとお話ししてみたかったのですよ。ソラ氏」

「……?」

意味深なほほえみに、ソラは怪訝な顔をする。


リブラは続けた。

「噂によれば、戦闘能力はさることながら、他に類を見ないような感知能力をお持ちだとか。しかもそれに加えて、遺跡の瘴気への耐性もおありだそうですね。」

「…光栄ですが、いったい何の話をするおつもりでしょうか。」

雲行きが怪しい。まさかとは思うが。


「いかがでしょう、あなたをメリールゥへ歓迎したいのですが。」

「御冗談を。」


ソラは間髪を入れずに突っぱねた。


メリールゥは、過去の歴史で魔女族を迫害し奴隷化していた主要都市の1つ。さらに言えば、現在の門外地区の住民には、レイ以外にもメリールゥで被害を受けた者もいる。

そこに自分が身を置こうなど、ありえないことだった。


ソラは作り笑いを張り付けて言った。

「買い被られているようですが、自分は研究都市で使っていただけるような人材ではありませんよ」

「謙遜ですね。…破格の待遇を用意しております。」


リブラは数枚の紙と分厚い封筒を差し出した。

紙にはメリールゥギルドに専属契約した場合の高額な契約金や任務の報奨金、衣食住も特別待遇が保障される旨などが記載されている。封筒は移住する場合の前金らしい。


「ウォッタリラで厳しい任務に応じるよりもずっと素晴らしい生活を送れますよ。」

確かに、一介の冒険者に対する待遇にしてはこれ以上ないくらいだ。


――それでも、彼女たちに加担するなど話にならない。

自分の種族を売って研究都市での地位を得たリブラには、彼の心情を説明したところで通じないだろう。


ソラは契約書と封筒を突き返す。

「お話はそれだけですか?でしたら、自分はもう帰らせていただきますが」


立ち上がりかけたソラに、リブラはつぶやくように言う。

「…『門外地区』の一枚板ぶりは聞いていたのですが、想像以上ですね」

「…はい?」

「万一の際の仲間のことを考え、あなたは外部の者に与することはないのでしょう。そしてそうやって、千載一遇のチャンスを逃すことに気づけない」


――悪態をついているだけか。

「俺にとっては、何よりも仲間といられることが大切なので。」

「だから言っているのです。」

リブラは怪訝な顔をするソラに向けて続ける。

「あなたには、何をしてでももう一度会いたい人がいるでしょう。」

「は?」


「あなたはずっと、そのために生きているはずです。

  ――確かそう、『青灰の久蘭(クラン)』。」



ソラがガタンと音を立てて立ち上がった。

わかりやすい動揺を見せる彼を、リブラは冷静に見上げる。


「あなたほどの方に必死に探してもらえるなんて、『久蘭』殿も幸せ者ですね。」

「…どこで、それを――なんであんたが知ってる」

リブラは満足げにほほ笑んだ。

「我々は、あなたの欲しい情報を持っています。――この際、メリールゥへの移住までは求めません。それでもあなたが私に協力してくだされば、我々もあなたへの助力を約束いたしましょう。」


固まったソラを見上げ、リブラは促す。

「お座りください。話をしましょう」



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