14 新しい名前、新しい仲間
「もとの名前が『ユーレンフェミリア』でしょー?じゃあ、ユーレンとか、フェミィとか…うーん。」
飛沫がうなる。
レイ、アーデル、飛沫の3人は、リビングに集まったまま、レイの新しい呼び名を考えていた。
「ねえ、『ユーレンフェミリア』って本名?」
「…わかりません。メリールゥではそう呼ばれていました。私にそれより前の記憶はないので…」
「へえ。じゃあ、そのあと名乗ってきた『レイ』とか『シヒナ』は?」
「それは、変装していた種族によくある名前を借りてました。」
「それじゃ『ユーレンフェミリア』がやっぱり本名みたいなものかしら。」
「かっこいい名前だしどうにかして使おうよー。」
飛沫はその名前を気に入ってくれているようだ。さっきから、もじって使いやすい名前にして活かせないかを考えてくれている。
「にしても長い名前よね。ニックネームとかなかったの?」
「『ユーフェ』と省略して呼ばれていました。」
「ユーフェね。いいんじゃない?呼びやすいわよ」
「え~。でもそうやって呼ばれるたびにメリールゥでの生活思い出しちゃうかもよ。よくないよくない」
飛沫がレイの心情を代弁してくれた。
「ねえねえ、『ユーア』とかどう?」
飛沫が新しく考えた名前を提案する。
「あんまり変わらないじゃない。最初と最後とっただけ?」
「あえてひねらないでおいてみた!」
飛沫が子供らしくニカッと笑う。
「今までたくさん隠れて嘘ついて生きてきて、ぼくらのとこに来たんだ。もうありのままで暮らしていいんだよって、そういうぼくの気持ち!」
明るい笑顔と優しい心遣いに、レイの胸もなんだか温かい気持ちに包まれる。
「私も…その名前、すてきだなって思います」
「ほら!ね、アーデル、いいと思わない?」
「そ。気に入ったならそれでいいんじゃない?」
「じゃあ決まり。これからぼくらはユーアって呼ぶから、ユーアもそう名乗んなきゃだめだよ!」
「は、はい。」
彼女は、口の中で小さくその名を繰り返した。
新しい名前。しかも、誰かが自分のために考えてつけてくれた名前。
――うれしい。
「で、ユーア。種族名はどうする?」
「もとが無種族だったので、種族はなんでも…」
「見た目的に絶滅者っぽいものね。それはそのままで大丈夫でしょ」
「じゃあ『無種族ユーア』で決定だね」
とんとん拍子に進んでしまった。かなり安直な決め方だったが、大丈夫だろうか。
「もとの名義と大きく変わらないような…見つかりやすいですよね。姿も、銀髪のままでいいんでしょうか。」
「門外地区の後ろ盾があれば関係ないわ。心配なら、大勢の目につく大会の間だけ変装しときなさい。」
「じゃあ、とりあえずこれで大会の申込書書くね~」
飛沫が勝手に来月の大会の申請書に名前を書いていく。
「そういえば、今回は誰が出る?」
「まだ決めてなかったわね。」
「みなさんも出場するんですか?」
疑問に思って聞いてみる。
「門外地区の住民も冒険者としては北支部登録だからね。北部で開かれる大会は、絶対に門外地区からも誰か出場することになってるよ。」
「名ばかりの貴族だなんて言われてるから、権威を保つために時々こういうパフォーマンスが必要なのよ。面倒だけど」
「なるほど…」
そういえば、ここの住民は全員実力者だと聞いた。大会で実力を誇示するというわけか。
「前回誰が出たんだっけ?」
「ハイドとニコだったかしら。」
「あ、そうだったね。ユーアが出ることだし、今回はぼくが出ようかなあ」
1度戦ってみたいしね、と飛沫が小さく言う。
マイペースに見せかけて意外と好戦的なのかもしれない。
「八百長はだめよ。」
「わかってるよ~」
「ユーアも」
「え」
アーデルがじろりとユーアを見る。
「目立たないようにって、わざと途中で負けるとかやめなさいよね。」
西部地区の大会でまさにそれを行なった彼女はギクリとする。
「あんたが弱いと門外地区の威信にも関わるのよ。優勝以外許されないつもりでいなさい。」
「わあ厳しい。てかそれ、ぼくがユーアに負けるって言ってる?」
勝つからね、と飛沫がユーアに笑顔を向ける。しかし目があまり笑っていない。
ユーアは慌てて胸の前で両手を振り否定する。
「いや、私7年かけてやっとBランクなので、買い被らないでほしいと言うか…」
「冗談。ダンジョンに単独で潜れるやつが本当にB止まりのわけないでしょ」
ため息をついたアーデルが続ける。
「私は今回出ないでおくわ。メリールゥの動向を見張る意味も兼ねて客席から見てるから。舐めた真似したら承知しないわよ」
「…わかりました。」
「決勝で会おうねえユーア!」
飛沫が元気に拳を突き出してきた。
「――はい。」
その拳に自らの拳を合わせ、彼に応えた。
と、そこで突然、リビングの扉が大きな音を立てて勢いよく開かれた。
「話は聞かせてもらっちゃったよ!」
突然現れたふわふわの寝間着姿の女の子が、ビシッとユーアを指さす。
「飛沫に勝つため修行するのね!」
呆気にとられるユーアの横で、アーデルと飛沫が冷静に答える。
「全然ちがうわ。」
「寝坊だよ琴葉。」
「えー。」
琴葉と呼ばれた女の子は目をこすりながら不満そうに口をとがらせる。
年齢は飛沫と同じくらいだろうか。長い亜麻色の髪をゆるく2つに結び、大きな青い目をしている。
「何時だと思ってるの、この寝坊助。」
「寝坊じゃないよ!1時間前にはとっくに起きてたもん。布団が気持ちよくてごろごろしてただけで」
「それ寝坊よ。」
「いいから、ご飯自分でよそってきなね。」
琴葉はしぶしぶキッチンに向かい、自分の朝食を皿に移した。
彼女の容姿、すなわち髪と瞳の色の組み合わせは、飛沫と酷似している。つまり、この女の子も飛沫と同種族で、絶滅者である可能性が高い。
席について食べ始めながら、琴葉がユーアに話しかけた。
「初めまして、わたし琴葉。」
「レイ…じゃなくて、ユーアです。お邪魔してます」
「ユーア。髪と目がすごくきれいだね。ユーアって魔力が何だかキンキンしてない?ふしぎな感じ」
寝起きにしては元気に朝食を頬張りながら琴葉は続ける。
「あたしのほうが年下だけど、ここでは先輩なんだから、ちゃん付けはやめてね。呼び捨てにして。」
「はい。…琴葉。」
「うん。で、あたし最後の方しか聞こえてなかったけど、弱くても決勝まで勝ち進みたいって話じゃなかったの?」
「違うわ。弱くないのに弱い振りするなって話よ。」
「あー…。」
早とちりが恥ずかしいのか、琴葉はぽりぽりと頭をかいた。
「そっかそっか。で、ユーアは何ができる人なの?」
「…何がって、どういうことですか?」
「え、だって新入りなんでしょ?何か特別なことできないとここに住めないじゃん。」
琴葉は初対面でも全く物怖じしない性格なのだろう、せわしなく口を動かしよくしゃべる。
「琴葉。ユーアがここに住むのは確定じゃないわ。」
「そうなの?」
「保留中ってとこね。1ヶ月は任務を受けたりせずに過ごすわ。その代わり」
アーデルが腕組みしてソファにふんぞり返る。そして親指でユーアを指した。
「こいつは1ヶ月、私たちの奴隷よ。」
「ど、どれい!?」
「奴隷はひどくないー?」
驚くユーア。飛沫が苦笑いしながらいっしょに抗議した。
「当然でしょ。働かざる者食うべからず、自分の任務を取らないのなら強制的に私たちの任務を手伝ってもらうわ。」
「ああ、なんだあ。そういうことか」
飛沫が今度は楽しそうに笑う。
「毎日交代でぼくらのうち誰かの仕事を手伝ってもらうんだね?」
「ええ。」
「でも、何ができるか教えてくんないと、手伝いも頼めないよ。能力によって向き不向きあるもん」
琴葉が横から言った。
確かに、例えば高い感知能力を持ち味とするソラと、『嘘を見抜く』スキルを持つアーデルとでは、受ける任務の優先順位が大きく変わるだろう。
「それはその時々で聞きなさい。最低でもBランク以上の実力はあるわけだし、一応、遺跡では何かしら発揮できる力があるみたいよ。そうでしょ?」
アーデルがユーアに確認をとる。
「そう…ですね。遺跡探索任務とか、魔物退治とかならお手伝いできると思います」
「なーんだ、じゃあ別に聞かなくてもいっか。」
「むしろ取り合いになりそうだねえ。魔物退治は全員当番制の仕事だし」
「…当番制?」
飛沫の発言に思わず聞き返す。
すると、アーデルが代わりに答えた。
「この門外地区は、ウォッタリラの都市群とダンジョンとの間に位置してるの。生活に関わるし、ギルドもまずこっちに頼んでくるから、魔物退治は必須任務なのよ。」
「なるほど…」
ウォッタリラ近くの遺跡は、大規模な自然災害が原因で遺跡の境界が壊れた結果、普通の遺跡よりも魔物が遺跡外へ流れ出しやすくなってしまったと聞いている。
ということは、門外地区は人が住むには立地が悪い場所だ。
「…ここの管理人さんが『条件付きで辺境伯の爵位を与えられてる』って言ってましたが、その『条件』ってもしかして魔物から街を守ることですか?」
「ええそうよ。今の門外地区はウォッタリラにとって防波堤の役割を果たしているから。――それだけってわけでもないけど。」
「他にも条件があるんですか?」
「詳しくはよく知らないわ。いろいろ複雑らしいわよ。」
「へえ…」
しかしこれで、特別な地位を与えて実力者を囲っているのには納得がいった。
「ねえねえ、最初はだれの仕事についていくの?」
興味津々といった様子で琴葉がユーアに尋ねた。
「それは私が決める。こいつに選択権はないわ。奴隷だもの。…飛沫。」
アーデルが飛沫に目を向ける。そしてユーアを指さした。
「今日一日、こき使っていいわよ」
「やったー!」
「えー、ずるーい」
口をとがらせる琴葉をよそに、飛沫が笑顔でよろしくね、と声をかけた。




