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魔法使いはどこから来たか。  作者: きみかげ
第1章 商業都市ウォッタリラ
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11 アーデルアデレード


リュメとソラが出て言ったあと。

アーデルはレイを連れて、ぶっきらぼうながらも家の中を案内してくれていた。


「ここ、風呂。シャワーだけなら2階にもある。トイレはその隣。」

風呂、リビング、キッチンなど、生活に使う1階の共同スペースの位置関係を一通り教えてくれたあと、2階への階段を昇る。


「2階はほとんど個人部屋だから。」


2階の廊下は、階段に近い側にこじんまりした給湯室が、遠い側にシャワー室とトイレがあり、それ以外の壁には等間隔でドアが並んでいた。これらそれぞれが住民の個室なのだろう。


「あんたの部屋ここね。」

アーデルはちょうど真ん中あたりの部屋で止まった。


「は、はい。ありがとうございます。」


ドアを開けると、そこは旅の安宿程度の広さの部屋だった。

家具はベッドとデスク、空っぽの棚だけが置いてある。


しばらく誰も使っていなかったのだろう。少しほこりっぽい。

アーデルは先に中に入って窓を全開にした。

そして、


「“(アネモス)”」


魔法で窓から風を呼び込んだ。


入ってきた強い風はレイのいる廊下までは漏れず、部屋の中をかき乱した後に古い空気を巻き取って窓の外へ帰っていった。


ほこりっぽかった部屋が、一瞬でさっぱりとした緑の匂いがする空気で溢れる。


速い。見事な手腕だ。


そこまで終えてから、アーデルはレイに向き直る。

「両隣は今誰もいないわ。」

またぶっきらぼうに言って、すたすたと廊下に出てきた。


もともといる住人に気を使わなくていいような部屋を選んでくれたのだろうか。


レイが部屋に入り、旅の荷物を下ろしているのを確認してからアーデルは言った。

「1階に行けばだいたいは誰かがいる。じゃあね」

そのまま去ろうとする彼女に慌てて声をかける。


「あの!見ず知らずの私のために、親切にしてくださって、ありがとうございます。」

そう言って深く頭を下げた。


そんなレイに向き直って、アーデルは少しうんざりした顔をする。

そして、あからさまにため息をついて、続けた。


「…あんた、さっきの話し合いに私がいた意味わかる?」


「…?」

レイは顔を上げつつ、急な問いに戸惑いながら答える。


「ここの住人の方だからですか。」

「それならソラだけで十分でしょ。…わかるわけないわよね」


アーデルはレイの部屋の向かいの壁に寄りかかって腕を組んだ。


「教えといてあげる。ここの住人は、安全な居場所をもらう代わりに自分の能力でギルドに貢献するの。例えばソラは強力な感知能力。私は——『嘘を見抜く力』。」


「嘘を見抜く…?」


そこでレイは、ソラからもらっていたメモの内容を思い出した。


『嘘はつくな。』


「私がいたのはリュメさんの命令で、仕方なくよ。私はね、見ず知らずのあんたが信用できるかどうか、確認するためにいたわけ。じゃなきゃリュメさんは証拠なしに信じたりしないわ。あんたが信用できないと判断すればあの場で拘束していたでしょうね。」


「そんな能力が…」


だが、ソラも常識はずれな感知能力を持っていた。同じ住人であるアーデルにもレイにとって未知の能力があったとしてもおかしくない。

ここに来る前に先んじてアーデルと接触させていたのはそのためか。返答次第ではこの家に入ることもなかったのだろう。


「だからわかるの。あんたの感謝は口だけね。」

「そんなことないです!私は本当に…」

「じゃあなんで嘘ついたのよ。」


レイは凍り付いた。

――最後の質問。


「『あんたの魔法と知識は、どこで身に付けたのか。』研究都市で教わったわけじゃなくて、あんたのもともとの能力ね?」


「……」


「おおかた、それで目をつけられてんでしょ。遺跡の毒に耐性があるやつは少ないけど、探せばいないことはないわ。それだけでメリールゥがここまで固執するはずがない。」


「――はい。その通りです。」


観念して、レイは言った。

正直に話せば、メリールゥと同じように、無茶な任務を強要されるかもしれないと考えたのだ。

しかし、アーデルがいたことで、単に信用していないと示しただけになってしまった。


「話したくないならそう言えばよかったのよ。話せない理由が正当なものなら、リュメさんもそれくらい咎めないわ。」

「…すみませんでした。」


「今はそれでもいいけどね。市民証を取得してここを拠点に使いたいなら、あんたも何か自分の能力でウォッタリラの力にならなきゃいけない。リュメさんはたぶん、あんたに遺跡関係の能力を期待してるんでしょうね。それができないのなら次の宿を探しといたほうがいい。」

そこまで言ったあと、アーデルはふいっと顔を背けて去ろうとする。


「アーデルさん!」

思わず部屋を飛び出し、名を呼んだ。

なんとなく、理由はわからないけど、この人には言っていい気がした。

ずっと誰かに聞いたほしかったこと。

「本当のことを言います。私は、私の遺跡に関する魔法と知識を、どこで身に付けたのかわからないんです。…私も、知りたいんです。」


アーデルがゆっくりと顔だけ肩越しに振り向いた。


そのアーデルの目をまっすぐに見て、上ずりそうな声を押さえながら、小さく言った。


「……わたし、〈大海溝〉を越えて来ました。」


数秒、アーデルは反応を示さなかった。

それからゆっくり、彼女の目が見開かれていき、体ごとこちらに振り返った。


「……レイ。あんた、それ…」

「…嘘ではありません。」

「…わかってる、わかってるわよ…」

アーデルはまた数拍呆然とした後、片手を額に当ててため息をついた。

「…なるほどね。でもそれ、私に言って言いわけ?」

「……」

アーデルはもう一度ため息をつき、それから言った。


「食べ物とか、生活に必要なものは家の中にそろってるわ。それでも何か街へ行く必要があるときは、必ず私かソラに声をかけなさい。メリールゥとドラヴィダの連中がまだいるかもしれないから。一人では行かないこと。いいね。」


それだけ言って、今度こそ彼女は去っていった。



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