表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法使いはどこから来たか。  作者: きみかげ
第1章 商業都市ウォッタリラ
12/32

9 メリールゥの冒険者②


リシュウが部屋を出て、重い扉が閉じる音がしてから数秒後、マスターはやや声を落として口火を切った。


「で、話ってのはなんだい。しょうのない中身だったら承知しないよ」

「…こちらの少女を覚えておられますか。」


桃色髪の女性が見せたのは、銀髪赤目の幼い少女が載った手配書。

写真は古いが、紙自体は最近刷りなおしたものなのか、きれいで新しい。


「ああ、見た覚えがあるね。随分なつかしい顔じゃないか」

「はい。我が都市メリールゥの、優秀なSランク魔導士です。数年前に行方不明となり、現在でもそれきりとなっています。」

「そんな話もあったね。で、これがどうした」


マスターは手配書を突き返しながら言う。


「この子は確かもう死んだんじゃなかったかい。今さらこんな迷子探しに付き合う気はない」

「いえ、生きています。そして今この街にいる」

「まさかそれが、お探しの指名手配犯だなんて言うんじゃないだろうね」


冗談交じりに笑って言ったマスターに対し、桃色髪の女性は真剣な表情でうなずき返した。


「そのまさかなのです。彼女は何年もの間、そうやって素性を偽って生活し続けていました。」

「根拠は?」

「彼女の特殊技能が関わっています。」

「――ほお?」


マスターがおもしろそうに眉をあげる。


Sランク冒険者の3要件の1つ、『特殊技能』。


この少女はその特殊技能だけでSランクに飛び級認定されたが、その技能の詳細は伏せられ続けていた。


「彼女のその技能は、メリールゥだけでなくウォッタリラにも大きな恩恵をもたらすでしょう。」

「聞かせてもらおうじゃないか。」

「――彼女の特殊技能は複数あり、まだ成長の余地も大いにあったため全て把握しきれてはいませんが、そのうちの1つに『遺跡間転移』があります。」 

「遺跡間転移?」


はじめて聞く技能だ。

「なんだいそれは?」

「彼女は一度訪れたことのある遺跡ならば別の遺跡からテレポートすることが可能なのです。ただし、旧世界時代の遺跡(ダンジョン)のみに限定した能力のようですから、『ダンジョン間転移』と言った方がわかりやすいでしょうか。」

「…そんなことが可能なのか。」


「我々メリールゥの研究者にとっても完全に未知の魔法でした。7年前、彼女の冒険者としての能力を測ろうと試験的に遺跡に入った際、彼女はそれを使って行方をくらませました。そしてその次の日、以前連れて行ったことのある別の遺跡の周辺都市で、彼女らしき孤児の目撃情報があった。」


「そこから、そういう魔法があると推察したわけだ。」


「その時点ではわかりませんでした。しかし捜索を続けるにつれ、そうでなければあり得ない場所での目撃情報が相次ぎました。その後高度な変装術を身に着けたようで、目撃情報すら入らなくなり、失踪から約1年後に全都市へ捜索願を出したという次第です。」


「……初めて聞く情報ばかりだね。」

だが、いろいろと合点がいった。


遠く離れた遺跡間をワープするなど、個人が有する魔力量だけでは到底成し得ない。魔女族のように生まれつき魔力量が高い者でも不可能だ。


おそらく、遺跡内に残る旧世界時代の技術を活用している。


――メリールゥの研究者が欲しがるはずだ。


そしてこれを公にすれば、どうにか真似しようとする冒険者が必ず現れる。

そうなれば遺跡を無益に荒らすばかりか、安易に中心部に踏み入って毒に侵され帰らぬ人となる事故も増えたことだろう。

あるいは、旧世界時代の遺産を簡単に入手しやすくなると言って少女を強奪しようとする者も確実に出てくるだろう。メリールゥが危惧したのはこちらの方か。


「で、それが、ウォッタリラの大会に出た冒険者とどうつながる?」


「――彼女が一人で生きていくとすれば、ダンジョン間転移を利用でき、さらに素性をごまかしやすい冒険者業で生計を立てるだろうと考えていました。案の定、それらしい活動歴のある人物はなんとか見つけることができました。メリールゥで与えられた物とは別の名義のギルドカードを使っていましたが。」


「なぜ『それらしい』と判断できた?」

「彼女はどこで情報を得たのか、メリールゥが出した捜索願に非協力的な都市をほとんど知っていたようです。遺跡間転移を使ってそれらの都市だけを巡っていました。他の都市をほとんど中継せずに特定の都市に出没し、ダンジョンから持ち帰った成果で生活資金を得ている……その生活方法を推測するのにかなりの年月を要しましたが、そこまで特定できたら彼女らしい人物を発見するのに時間はかかりませんでした。」


「なるほどねえ。」

ダンジョン間転移という特殊技能は予想外だったが、それ以外は概ねギルドマスターの予想通りのようだ。


「で、彼女が次に現れるのはこの都市だと?」

「はい。理由は3つあります。1つは、失礼を承知で申し上げますと…」

「ウォッタリラのギルドはメリールゥギルドと昔から折り合いが悪く、少女ユーレンフェミリア捜索の件でも非協力的であったこと…かい?」


「――その通りです。しかしウォッタリラは、メリールゥや彼女が行ったことのある遺跡からかなり遠かったために、今までたどりつくことはなかったのでしょう。2つ目の理由は、ウォッタリラの近くにも旧世界時代の遺跡があること。」


遺跡間転移が『一度訪れたことのある遺跡間のみ』でしか使えないとすれば、その拠点を増やそうとしたと考えられる。

彼女はおそらく、ミンセフやポルドゥガといった都市を徒歩で経由しながら、拠点となるダンジョンを地道に増やしてきていた。


その最終的な目的地が、ウォッタリラだった。


「3つ目が、先日の大会です。」

「大会?」


「我々はミンセフという都市で彼女らしき人物を特定し、ミンセフギルドを通して招集命令をかけました。逃げられてしまいましたが」

「やはりあれはメリールゥが手を回していたのか。」


「手荒い手段になったと反省しております。ミンセフギルドのマスターが代替わりし、メリールゥと親交のある人物に切り替わったこのタイミングだけが彼女の手がかりを増やすチャンスでした。このことはどうか内密にお願いいたしたいのですが。」

「いいから続けな。」


「はい。――彼女は市民証を持っていなかったので、ギルドカードが都市の城門を通る際の唯一の身分証でした。ですのでそこからの足取りは概ね調べがついています。しかしこちらの意図がわからない子ではありません、近いうちにギルドカードを作り直すと踏んでおりました」


「……で、ウォッタリラの大会の制度を利用して、審査なしにカードを発行しようとするだろうと考えたわけだ。」

「御明察です。」


もともとメリールゥに非協力的だったミンセフから、マスターの代替わりによる『裏切り』にあった彼女。

ウォッタリラがメリールゥ側に回っていたとしても対処しきれるよう、素性をばらさずに戦いの実力のみでカードが手に入る、花園祭の大会を利用した。


「変装術に優れている彼女を見た目で探すことはできませんでしたが、ギルドカードの発行希望者を総当たりすれば出会えると踏んでいました。うち一人が途中で逃げたということは、カタリ族シヒナと名乗る老齢の婦人がユーレンフェミリアだったのでしょう。」


「それはまだ推測の域を出ないがね。可能性としては確かにあるが、その選手は高齢で、体調不良で途中帰宅した。そこにはちゃんとスタッフが立ち会ったという話があるんだろう?ウォッタリラに初めて来たはずの彼女に運営側の伝手があるとも考えにくいが」


「……そうですね。」


「ウォッタリラでも『魔女族レイ』という冒険者の捜索願については把握しているが、見つかったという連絡はない。その子はこの都市に来ていない可能性の方が高いと思うがね。」


「確かに、早計であった可能性もあります。ただ、今は大きな祭りの期間で、都市外の人々にも広く門戸が開かれていると聞いています。入都市審査は普段より緩くなっているはず。彼女ならば、そこに紛れ込むことは可能でしょう。」

「そう来たかい。どうしても結び付けたいらしいな」

「我々にとってはようやくつかんだ手がかりなのです。」


あくまで折れない姿勢の彼女に、ギルドマスターは観念してため息をついた。

「わかった。そこまで言うなら例のスタッフとつないでやろう。本当にあんたらの言う通り、彼がわかっていて見逃したのなら、大問題になる可能性がある。」

「……助かります。」


「ただ、ここまで話を聞く限り、お探しのその子は、包囲して捕らえるほどの重罪人じゃないだろう。特権濫用で、裁かれる可能性があるのはあんたの方だと思うがね。」


「もちろん覚悟しています。ただ、メリールゥとドラヴィダの上層部から前もって許可を受けていますので、問題があれば両都市政府から対処されたことでしょう。」


「……へえ。何かあっても都市政府がもみ消してくれたわけだ」


ギルドマスターは顔にいかにも不快そうに歪んだ笑みを浮かべ、目をそらした。

「仕方がなかったのです。ドラヴィダ兵にもウォッタリラの方々にも、彼女について詳細を明かせなかったため、あのような形になってしまいました。」

「ドラヴィダ兵が『凶悪な指名手配犯』と言っていたのは、都合よく動かすための方便ってわけかい。」

「――しかし事実、彼女にはギルドカードの複数所持という身分詐称の罪があり、それについて咎める必要はありました。」

「ふうん。じゃあそろそろ、一番重要な話を聞こうかね。」


マスターは厳しい声で続けて言葉をかける。

「返答次第ではたとえその子を見つけても一切協力できない。」


マスターの態度がまたさらに尖ったのを察知して、桃色髪の女性の方も険しい顔になる。


「何でしょうか。」

「そもそもの話だ。なぜ逃げられた?幼かった子供がそこまでして逃げ出すなんてよっぽどだろう。そして、なぜあんたがそこまで必死になって追うんだい。」


「――それは、……」


桃色髪の女性はうつむいて少し黙った後、再び顔を上げて言った。

「彼女は、私の――妹のような存在でした。だからもう一度会いたい、連れ戻したい。その一心なのです。」


ギルドマスターは鼻で笑った。

「それが本当なら、よっぽどひどい姉だったんだろうねえ?こんなに必死こいて逃げられてるんだから」

「すべては私の不甲斐なさです。研究に明け暮れ、優れた魔導士の素質を持つあの子に、ずいぶん窮屈な思いをさせてしまいました。……あの子には、申し開きのしようもありません。だからこそやり直したいのです」


「ユーレンフェミリアのSランク認定の条件に、メリールゥの領外に出てはならないというものがあったはずだ。あれはどういう意味だい?」


「あれは、私を始めとした『保護者抜きでは』、という話です。あの子は孤児で、生まれつき髪や目の色が珍しく、冒険者になる実力はあれど一人旅は危なくてさせられない……そうした、親心から来たものです。」


「親心ねえ…」

そう言われてしまえばいかんとも言い難い。


希少種族が危険な目に遭うのはマスターも重々承知している。実力があるためいろんな依頼に挑戦させてやりたいが、しかし一人でどこかに行かれると不安――その気持ちは、想像できなくもない。


そして一人で生きていける実力のある少女にとってはその環境は窮屈で、広い世界に出たくなったのだと言われると、まあ筋が通らないこともない。


それでも、ただの家出で、多くの都市をあざむきながら10歳から7年間の逃亡劇というのはマスターの感覚では理解できないが。


「身内のごたごたなんて興味ないがね。あんたが妹分とやらを大切に思うのなら、もう追い回さずに自由にさせてやりな。」


「そうもいかないのです。妹は、研究都市の重要機密を持ち出してしまいましたから。」


「重要機密?」

マスターは怪訝な顔をし、次に身を乗り出した。


「あんたの話によれば、この子は逃げ出した当時10歳だったはずだ。そんな年端も行かない子供に持ち出されるような機密ってなんだい。」


「ここでは申し上げられません。何せ機密事項ですから。しかし、まだ幼かった彼女はその重要性を理解していない。秘密を守れる保証のない人間を野放しにしてはおけません。」


「あんたがそれを言うのかい。」

マスターが眼光を今までになく鋭くする。


「“(はかりごと)天秤(リブラ)”――種族の誇りを捨てた、研究都市の犬が。」


「……」


「よく言えたものじゃないか。ええ?リブラ。同族の秘密を売ることで手に入れた地位はさぞ美味かろうね。」


桃色髪の女性――Sランク冒険者、森民族(エルフ)のリブラは、マスターの圧にも毅然とした態度を崩さない。


「…そのような、厳しい意見があるのは承知しております。」

「当たり前だろう。」


「しかし誇りで命は救えません。」

「だが誇りに生きる民もいる。あんたの行為はその者たちを殺したに等しい。」

「研究都市の成果は、より多くの未来の命を救えます。」

「やはりあんたは犬だ。話にならないね。」


マスターはややおおげさに立派な執務椅子に背をもたれ、興味が失せたように横の書類の山へ向かって椅子を回転させながら、片方の手でリブラを追い払うような仕草をした。


「さ、話は終わりだ。帰った帰った。」

「……改めて確認させていただきますが、例の魔女族ソラ氏を召喚してくださる件、受けていただけますか。」


「ああ、いいだろう。それと引き換えになる程度の情報は受け取った。まあ無駄骨だろうがね。大会の後処理関係が済んだらここに来るよう伝えておこう。」

「十分です。ありがとうございます。」

リブラは深々と頭を下げて、執務室を後にした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ