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魔法使いはどこから来たか。  作者: きみかげ
第1章 商業都市ウォッタリラ
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7 『訳アリ』たちの住む家


深い森の中の整備された丘に、川と畑と庭、そして緑の屋根の家。

童話の中に入り込んだような空間に見とれそうになる彼女に、ソラが声をかける。


「こっちこっち。」


家の入口まで続く一本道を通り、畑の作物、庭の花々を横目に通り抜けながら小川にかかる橋を渡り、玄関までたどり着く。

家は、間近で見るとかなり大きかった。1家族が住むような規模には見えない。


「ここ、俺たちの家ね。」

「い、いえ?」

見たところかなりの山奥だが、2人はここでいっしょに住んでいるのか?


ソラは扉を開けて中に向かって声をかけた。


「ただいま――」


すると、奥からぱたぱたと足音が聞こえてきた。

「おかえりソラ、アーデル」

「ただいま、シブキ。」


ソラとアーデルの背中に阻まれて玄関の中が見えないが、中で迎えているのは少年の声だ。

「今誰がいる?部屋使いたいんだけど」

「ああ、使えると思うよ。みんないないし」

「ナグモは?」

「わかんない」


それから3人は2、3話した後、少年がまたぱたぱたと奥へ戻っていった気配がし、ソラがこちらに向き直った。


「じゃ、あがって。」

「お、おじゃまします…?」


何が何だかわからないが、こうなっては成り行きに任せるしかない。

そう思って、少女は玄関をくぐった。


家の規模から考えて当然だが、玄関は広く、左側には大きな靴棚があった。それとは別に、足元にはサンダルや作業靴がいくつか散乱している。畑作業するための靴だろうか。


廊下に入ってすぐ左に扉があり、そこを開けるとリビングらしき部屋についた。やや低いテーブルが真ん中に置かれ、それを囲むようにソファが4つ置かれている。


リビングというより応接間だろうか。


「そこ座って待ってて。俺飲み物持ってくる」

「あ…はい」

ソラは部屋を出ていったので、言われた通りにソファに腰掛けるが、アーデルは入り口の横に立ったままだ。


そのまま少女をじっと見降ろしているらしい気配がして、そちらを振り向くのが怖くなる。

居心地の悪い空気が流れた。


「あのさ」

「は、はい」


先に沈黙を破ったのはアーデルの方だった。

「あんた、いつもそんなおどおどしてんの?」

「いえ、そういうわけでは」

「いざとなったらどう逃げるかって構えているでしょ。違う?」


図星をつかれて少女は返す言葉に困った。


「逃げる算段の前に、自分がどこに連れてこられたのか気にならないの?」

「……気になります。」

「そ。ならさっさと聞けばいいのよ」


そう言って彼女はソファの向かい側にドサッと音を立てて腰掛けた。

「ここは『門外地区』。ウォッタリラの領内だけど、正式な居住区じゃない。」


「……あなたはここに住んでいるんですか?」

「そう。ここは街中に住むのを好まない『訳アリ』の人間が住む場所なの。」


そう言って彼女は窓の方を指さした。

「来るとき見たでしょ。畑。もちろん街に降りて買い物もするけど、作れるものは自分たちで作ってるの。まあ半分趣味だけれどね」

「花も?」

「花はまあ、私の趣味ね。」

彼女はテーブルに肘をついて窓の外を眺めた。


「何に役立つってわけでもないけど、場所が余ってたから。」

「…好きなんですね。」

窓辺にさしてある花瓶の花を見ながら言った。

「別に、暇だし。やることやってたらあとは好きにしていいのよ、ここは。だからあんたもここに呼ばれた以上は身構える必要ないわ」


――もしかして、安心させようとしてくれているのだろうか。


言い方がぶっきらぼうなだけで、確かに怖い人ではないかもしれない。


「どうして私はここに呼ばれたのでしょう。」

「さあ?訳アリだからじゃないの。あんたの話、この後私も聞かせてもらうけど」


少女はうつむいた。

「さっきあなたに言われた通り、私は身分詐称とギルドの規約違反をしています。だから…」

「その程度私もやってるわ。」

「え?」

思わずアーデルの顔を見る。

「訳アリって言ったでしょ。」

「でもさっき、あんなに…」


「理由話さなきゃギルドに突き出すって言っただけよ。それ自体を否定した覚えはないわ。その場限りの嘘でごまかそうとしてたら遠慮なく突き出してたかもしれないけど。信用できない奴はいらない」

「……」


ぽかんとした少女から目をそらしながら、アーデルは続ける。

「私は変な連中に追われてるってことだけ聞いたわ。ちゃんと話しなさい。どんな話でもここの連中は慣れっこだから」

「――はい…」

うなずいたところで、ドアが開いてお盆を持ったソラが入ってきた。


「お茶淹れてきたけど、どう、ちょっとは打ち解けた?」

「全然。」

「……」

やっぱり怖い人かもしれないと考え直す。


「リュメさんもうすぐ着くって。」

「じゃあ私、迎えに行ってくるわ。」


立ち上がって部屋を出ていったアーデルと入れ替わりで、ソラがソファに座る。


「悪いな、何が何だかわかんねえだろ。あ、これ飲んでいいぞ」

「あの、リュメさんという方は…」

「ギルドの人だけど、ドラヴィダ兵の包囲情報流してくれた人だから。大丈夫。」

「その方も、あなたも、私のことをどこまで知っているんですか?」

「その話も含めて、おいおいな。それよりレイ、入出都市審査に使える身分証欲しいだろ?ここの管理人の養子ってことにすれば市民証取得できるぞ。」

「市民証…」

「だから、正直に事情話せよな。」


市民証。それは彼女が何年も前から欲しているものだった。


市民証は戸籍証明を兼ねた最も正式な身分証。あらゆる場面で必要となる。しかし新たに取得するには身元保証人が必須で、彼女にはそれを頼める存在がいなかった。


「アーデル戻ってくるまでもうちょい待ってくれ。ここ結界に囲まれてるから、中の住人が迎えに行ってやらないと入れないんだ。」

「結界?」

「人除けと獣除けと、あと感知結界とかいろいろ。城壁の外にあるから周りの森じゃ猛獣も魔物も普通に出るんだ。あと人避けは…ここがどういう場所か聞いた?」

「訳アリの人が住む非公式な居住区と教えてもらいました。」

「そうそう。ちゃんとアーデル説明してやってんだな」


ソラはカップの茶を口に含む。

「そんなわけで、やばい奴らに狙われてた住人もいるからさ。部外者は勝手に入れないようになってんだ。」

「厳重なんですね。」


ますます、自分はなぜ入ることを許されているのか疑問に感じる。


「ま、ここの連中は全員Aランク並の冒険者だから、多少変な奴入ってきても対処できるけどな」

ということは、アーデルも実力者なのか。

確かにただものではない雰囲気を感じたが。


「アーデルとリュメさんって人がそろったら、レイがドラヴィダ兵とメリールゥの奴らに追われてる理由話してもらう。」

「……はい。」


どちらにしろ、この都市には協力者を求めてきていた。こういう展開で話すことは決めている。

それよりも、

「助けてくれた時、遺跡での借りを返すって言ってましたけど…なんで私だとわかったんですか?」

一番の疑問だった。


彼と遺跡で出会った時とは姿と名前を大きく変えていたはずだった。変装術の精度にはかなりの自信があったのだが。

ギルドに正体がばれていたのか、それともSランクの彼に優れた洞察眼でもあるのか。


「それも含めてだ。リュメさんもそろってからだな」



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