ナージャは選ぶ
ナージャしか居ない自室の扉が軽くノックされる。
「お嬢様、その……着替えが終わりました」
「はい、どうぞ」
少し恥ずかしそうな一诺の声に、ナージャはわくわくしながらそう言った。
「失礼致します」
そう言って入って来た一诺は、東洋の服を身につけていた。
中国風の忍者のような恰好のそれは、先日ナージャが商人に頼んだ物だった。商人についてはナージャが両親に頼んで呼んでもらった。珍しい、というかナージャが長過ぎる髪を切りたいと言った以来のお願い。
「い、一诺、に、いつもお世話になって、るので、その、お礼をしたいんです。その、出来れば東洋の衣服に詳しい方、に、心当たりがあれば……」
両親は、ナージャのその願いに喜んだ。娘が初めて両親に頼ってくれたから。本来子供とは親に頼る存在のハズなのだが、両親はそれが初めてである事に喜んでいた為、今まで頼られるどころか期待すらもされていなかった事には気付かなかった。
さておき、一诺の服装だ。
着物っぽい為着るのが大変そうに思えるが、動きやすそうでもある服装。一诺の東洋らしい黒髪や狐目によく合う物だった。勿論、ナージャのお願いに喜んだ両親がそれはもうしっかりとした商人を呼んだ為、完璧に似合う物を作ってもらったからというのもあるのだろうが。
「凄い!」
侠客風の漢服を身に纏った一诺を見て、ナージャは思わずそう叫んだ。それはもう、五歳児の子供がヒーローを前にした時のように。真っ白い頬をピンク色に染めて、青い瞳をキラキラさせて。
「凄いです!一诺、物凄く格好良いですよ!似合ってます!」
「……良かったです」
そう返す一诺の耳と首は、湯気が出そうな程に真っ赤だった。
「え、あ」
その反応に、ナージャは恥ずかしいのだろうかとはしゃぐのを少し躊躇う。
……妹も七五三の時や発表会とかでおめかしした時、恥ずかしそうにしてましたね……。
前世を思い出し、ナージャは内心そう独り言ちる。全ては母のように育ててくれた姉が自分の事以上に喜んでくれるのが照れ臭かっただけなのだが、それは既に前世の事なのでナージャが知る事は無かった。
「あの、恥ずかしいとか、ありますか?」
「いえ……恥ずかしい、と言いますか……」
一诺は自分が着ている服を見て、照れ臭そうにくしゃりと笑う。
「嬉しいのと、喜びと、照れ臭さがあると言いますか……正直本当に私に似合っているのだろうかという気持ちがあったので、手放しで似合っていると言っていただけたのが、恐らく、嬉し過ぎたのだと思います……」
……そういえば、一诺は前の職場が酷いところだったんですよね。
ナージャは前世では基本的にバイトを掛け持ちしたり、余裕のある時に一日バイトをしたりする事でお金を稼いでいた。なのでブラック企業に就職、というエピソードは無かった。しかしバイト仲間が前にそういう職場だったりする事も時々あり、実体験として語られるブラックエピソードはどれも酷いモノだった事を覚えている。
そして一诺は、幼い時からそんな環境だったせいで自分の中にあるプラスの感情に鈍い。
だから一诺は自分の感情を他人事のように、客観的に言ったのだろう。自分の中ではまだよくわかっていない、掴み切れていない感情だから。客観的に見る事で、把握しようとしているのだろう。
ナージャはそう理解した。
……なら、私がする事は一つです。
「一诺も喜んでくれたなら、とても良かったです。私も一诺のそんな格好良い姿を見れてとっても嬉しい気持ちになれたので、二倍ハッピーですね!」
むん、とナージャは握り拳を作ってそう言った。
当然ながら全て本心である。誰かが望みの服を着て嬉しそうにしている姿というのは、見ている側も嬉しい気分になれる。それを告げる事が重要だろう、とナージャは思った。もっとも今回ナージャがした事は両親に頼んだくらいで、一诺が着ている服に関しては殆ど商人がやってくれたのだが。
けれど、その喜びの元に関われたのだと思うととても嬉しい。
自分の行いで誰かが喜んでくれるというものは、やはりとても嬉しいものだ。普段お世話になっている相手である一诺ならば尚更の事。その感情があまりにも過ぎると独りよがりな押し付けになるから、気を付けなくてはいけないけれど。
何事も程々が適量である。
「…………」
一诺は噛み締めるように目を細めて、口をむずむずさせていた。
口角がほんのり上がっている事から、きっと喜んでくれているのだろう。一诺程他人の表情に敏感では無いナージャだが、何となくそう思った。
「……ハッピー、ええ、そうですね。私はとても嬉しくて、それでナージャ様も喜んでくれていると思うと、もっと嬉しい気分になります。喜びを共有出来ているんだ、と」
胸に手を当ててふわりと微笑みながら言う一诺に、ナージャの顔が熱くなった。目を細めて笑う姿であればいつもの事だが、こうして気が緩んだような微笑みは中々見れない。
「…………えへ、えへへ、こうやって言い合うの、ちょっと照れちゃいますね」
「本当に」
ナージャは両頬を手で覆ってへにゃりと笑い、一诺は緩む口を見せたくないのか手の甲で覆って顔を背けた。もっとも、背けた結果真っ赤になった耳と首が丸見えだったが。
「あ!そうだ、ちょっと待っててください!」
「はい?」
首を傾げる一诺に背を向けて、ナージャは机の引き出しを開ける。そこには東洋風の細かい模様が入った綺麗な小物入れがあった。それを手に取り大事に抱え、ナージャは一诺に向き直る。
「前に商人さんが来た時、一诺の採寸をしてましたよね?その間、私は時間があるからって事で、その商人さんが持って来てくれた東洋の装飾品を見てて」
「そうでしたね」
東洋の物を取り扱う商人であり、商魂逞しい人だった。服が目的だと告げているのにしっかりと装飾品を持って来て、待っている間ナージャに商品でも見て時間を潰していてくださいと薦めた。
……我ながら、乗せられてしまったというか……。
今までは両親が勝手に選ぶ為ナージャ自身で選び購入した事も無かった。けれど一人でゆっくり見る時間があった為、ついつい欲しい物を見つけてしまったのだ。
「これ、その時に買った装飾品が入ってるんです」
そう言い、ナージャは一诺に小物入れを差し出す。
「一诺、良かったら受け取ってくれませんか?」
「……え、私に、ですか」
「はい」
「ナージャ様のでは無く?」
「一诺に、です。勿論好みじゃなかったら返品しても売り払ってくれても構いませんよ」
ナージャのお小遣いで買った物なので、その辺りは気にしなくても良い。今までは親が買ってくれたというか、勝手に買って来たので全てが親の金だった。だからアクセサリー一つ捨てるのも申し訳ないという気持ちが強かった。
けれど、これはナージャ自身が出した金で買った物だ。
五歳児にあげる金額じゃないだろうというお小遣いを貰っているし、欲しい物も無ければ勝手に買い与えられていた為貯まる一方だったお金。お陰で普通に高価だったそれをポンと買う事が出来た。ちなみに小物入れは商人による今後ともご贔屓にというサービスである。
服を一诺の体格ピッタリに作ったからこそ成長に応じて作り直す必要がある為、その時ついでにお買い物してくれるのを狙っているのだろう。
「売り払いなどは絶対にしませんが……本当に、私が受け取っても良い物なのですか?」
幼いナージャに合わせてか、一诺は跪いて目線を合わせながらそう言った。新品の、それも憧れていた服を着ているのにとてもあっさりと。ナージャへの気遣いを優先してくれるその姿に、だからこそ、とナージャは思う。
……そうやって気遣いを優先してくれる一诺だからこそ、私からの贈り物をしたいって思ったんです。
喜んでもらえるかがわからないサプライズプレゼントの為、駄目だったらと思うと胃が痛い。サプライズプレゼントに関しては良い思い出が無いからだ。一诺が家族と食事の時間を過ごさなくても良いようにしてくれたのはとても嬉しかったが、両親が用意したサプライズプレゼントは総じてナージャの心に負担を重ねるものだった。
パーティなどを苦手とするナージャに誕生日おめでとうサプライズパーティを開かれた三歳の時など、そのストレスで気絶したくらいである。
……あ、駄目ですこれ物凄く緊張します……!
「……私は、一诺に受け取ってもらいたいって思いました。受け取ってというか、身につけて、と言いますか……一诺に似合うだろうなって」
ナージャがそう告げると、一诺はゆっくりと目を細めた。
「では、ありがたく頂戴致します」
恭しく受け取った一诺は、小物入れをじっと見る。
「中を拝見しても?」
「勿論です。その、喜んでもらえるかはわからないのですが」
「ナージャ様が私の為にと用意してくれただけで既に充分な程喜んでいますよ」
小物入れを大切そうに抱えて見つめながら、一诺はさらりとそう言った。
「では失礼して」
一诺は小物入れを開け、パチリと瞬く。
「これは……ブレスレットとチョーカー?」
中に入っているのは、東洋風のデザインが施された金属のブレスレットと花の意匠があしらわれたシンプルなチョーカーである。
「あ」
一诺は何かに気付いたようにチョーカーを手に持ち、じっと見つめた。
「しかもこのチョーカーは」
「一诺、広げられている装飾品の中でそれをじっと見てましたよね?」
欲しいから見ていたのかはわからない。けれど。
「じっと見ていたから、欲しいのかな、と」
外れていたら恥ずかしい、とナージャは赤くなった頬を指先で掻いた。一方チョーカーを手に持ってじっと見つめていた一诺は、ふは、と年相応な表情で吹き出す。
「いえ、ええ、確かにこれをじっと見ていましたし、欲しいとも思いましたが……私が身につけたいと思ったわけでは無いのですよ」
「あ、そうだったんですか?」
「はい」
一诺は目を細め、薄く開いたその黒い狐目でじっとナージャを見つめた。
「ただ、私の追跡魔法は物に付与しておけば常に相手の動きを把握出来るものなので、ぬいぐるみでは無くこういった装飾品に付与した方がよりナージャ様の安全に繋がるのでは、と……」
言いつつ、一诺の耳がじわじわと赤く染まる。
「……お恥ずかしい」
「いえそんな!えと、何かすみません……」
「謝らないでください。ナージャ様が私の行動を見て、欲しがっていた物を見抜いてくれた事は事実ですよ。私が身につけたいからという理由で欲していたわけではありませんでしたが……」
「?」
じ、と一诺はナージャの首を見つめた。その指は手の中にあるチョーカーを確認するように動いていて、視線はナージャの首に固定されている。
……あ、もしかして。
「追跡魔法を付与して、そのチョーカーを私にくださるんですか?」
告げた瞬間、一诺の目が限界まで見開かれた。
「あ、え、すみませ、違いますよね、私凄く恥ずかしい勘違いを」
「違います違いますその通りです」
顔を赤くしたナージャが言い切る前に一诺が凄い勢いで否定して肯定した。
「その、事実これはナージャ様に似合うだろうと思っていて、追跡魔法を付与するには身につける装飾品の方が良いだろう、というのも事実でして。実際ぬいぐるみでは、落としてしまう可能性がありますから。そうするとぬいぐるみの位置情報では追えなくなってしまいます」
「成る程」
スマホのGPS機能があったとしても、スマホを携帯していなかったら意味が無い、というアレだろう。そうナージャは納得した。
「ですのでナージャ様が身につけていて違和感の無い装飾品があればと思っていて、このチョーカーはとても似合うだろうな、と思って見ていて……ただ、その」
ぐ、と一诺は唇を噛み締める。
「貴族御用達なだけはある値段でしたので、私の給料ではまだ足りないな、と……」
ナージャはちょっと両親の金銭感覚が怖くなった。
……使用人へのお給料はちゃんと与えているどころか普通よりも多めに出しているのは知ってますけれど、それでも足りない装飾品をポンと買えるお小遣いを私は与えられていたんですか……?
二歳の時からお小遣いを貰い、貯まっていった。だからまだナージャの専属使用人になってから数か月しか経っていない一诺より貯蓄があるのは当然である。当然であるが、働いている大人と生後まだ片手で足りる年齢の子供に与える金額があまり大差無さそうなのはどうかと思う。
そのお陰でポンと買えたわけだが、ナージャは大きくなるまでにもう少し金銭価値を学んでおこうと心に決めた。
「ですので手に入れる事が出来た今、これに追跡魔法を付与してナージャ様に身につけていただければと思うのですが、しかしこれはナージャ様が購入した物ですので……」
「ええと……追跡魔法を付与するには本人が購入した物ではいけないというルールがあるとかでしょうか?」
「いえ」
一诺は首を横に振る。
「私にと贈られた物を、理由があるとはいえこれを購入してくださった方に渡すというのは……」
「何か問題なのですか?」
「……嫌ではありませんか?」
「何がでしょう」
「これはナージャ様が買った物です」
「それはもう一诺の物ですよ」
一诺にプレゼントしたのだから、それをどう使おうと一诺の自由だ。それこそ適当に捨てるのも高値で買ってくれそうな相手に売るのも、一诺の自由。
「ナージャ様が買った物を私が贈るというのは、おかしいのではないでしょうか」
「私は一诺がくれるならとても嬉しいです」
「買ったのはナージャ様です」
「買ってくれるのが重要なのではありません。一诺がそれを私に似合うと思ってくれて、手に入れる経緯が何であれ、それを私に贈ってくれるというのが嬉しいんです」
……ああ、でもこれって。
「…………ただ、その、まるで私が一诺からプレゼントされたいが為に自作自演的に用意したような感は否めませんが」
それに気づいてしまったナージャは、言いながら顔を真っ赤にした。肌の色が白い為、あっという間に顔が真っ赤になってしまう。
「いえそんな、その、ナージャ様は私がこれを欲しがっているだろうと思ってこれをくださったのであって、ナージャ様に似合うだろうと思って見ていた事は知らなかったのですから、ええと、あ~……」
一诺は顔を俯かせ、耳を赤く染めた。
「……ナージャ様、今からこのチョーカーに追跡魔法を付与し、あなたに贈っても良いでしょうか」
「はい」
断る理由が無い、とナージャは頷く。少々マッチポンプ感が否めないのが恥ずかしいが、それでも一诺からの贈り物だと思うととても嬉しい。両親が用意する、子供に身につけさせる物じゃないだろうというようなギラギラした宝石では無く、花の意匠があてがわれたシンプルなチョーカー。
それはナージャが好むデザインだった。
主張が強過ぎる事は無く、ワンポイントとして飾りがあるというデザイン。邪魔にならなそうで、長さの調節も出来る為ずっと身につける事も出来るだろう。シンプルだからこそ、どの服にも違和感無く合いそうだ。
「追跡魔法を付与してナージャ様がこれを身につければ、ナージャ様の居場所は常に私に把握される事になります。これを外しさえすれば把握出来ないようになるとはいえ、本当に良いのですか」
心配そうに、一诺は言う。確かにトイレに居るかどうかまで把握されるというのは、乙女としては少々アレだろう。しかし万が一があって困るのも、怖い思いをするのもナージャなのだ。基本的に一诺から離れる気は無いからこそ、一诺と離れる時は誰かに誘拐でもされたり無理矢理移動させられた時くらいだろう。
そう思うと、常に一诺と行動するのと状況は大して変わりはしない。
「寧ろ、離れていても把握していて貰える分、安心出来ます」
「わかりました」
頷き、一诺はチョーカーの飾りに息を吹きかけた。すると途端に、花の中心部がキラリと輝く宝石のように変化した。
「これでこのチョーカーを身につけている限り、常にナージャ様の行動が私に把握されるようになります。……身につけますか?」
尚も一诺は、心配そうな目をしていた。相変わらずハイライトの入っていない目ではあるが、拒絶されるのではないかという不安で揺れているように思える目。
だから、ナージャは微笑む。
「はい。……ええと、ただ、どうやってつけたら良いのかだけ教えてもらっても良いですか?」
「……いえ」
ふる、と一诺は首を振る。
「これは私の手でナージャ様につけたいです」
「追跡魔法にはそういうルールが」
「ありません」
即答だった。
「ただ、私が手ずからナージャ様につけたいだけなのですよ」
「ではお願いしますね」
特に断る理由も無い。だからナージャは、そう頷いた。
「あ、でもつけるところを見ていたいので鏡の前に行っても良いですか?」
「勿論です」
ドレッサーの前に移動し、ブレスレットが入っている小物入れをそこに置いてから一诺は椅子に座っているナージャの背後に回った。しゃらんと音を立てて、ナージャの細く白い首にチョーカーが巻かれる。
「わあ……これ、とっても可愛いです!」
「はい、思っていた通りよくお似合いですよ」
「ありがとうございます!」
……こんなに嬉しい贈り物、初めてかもしれません。
買ったのは自分だが、くれたのは一诺だ。一度プレゼントした時点でナージャの物という感覚は皆無になっていた為、ナージャはその贈り物がとても嬉しかった。好みでは無い、ただ派手で重いだけの宝石があしらわれまくっている首飾りよりも、ずっとずっと素敵だった。
「私に似合う物を見つけてくれて、ありがとうございます、一诺」
「……いえ。そう言っていただけると幸いです」
見上げてお礼を言うナージャに、一诺は少しだけ目を細めて微笑んだ。普段と同じ、しかしとても穏やかな笑みだった。けれどすぐに気恥ずかしくなったのか、一诺はパッと顔を逸らしてドレッサーの上に置いた小物入れを見る。
「あ、と、ところであちらのブレスレットは?あのブレスレットは私が見てはいなかったハズですが」
「……えっと」
ナージャは一诺からも鏡からも顔を背け、小さな声で言う。
「それは、私が自分で選んだ物なんです。一诺に似合いそうだな、と思って、つい……」
「ナージャ様が」
「はい、私が選びました……」
だから、とっても自信が無い。
好みでは無いかもしれないと思うと物凄い勢いで胃にダメージが来る。このチョーカーに関しては一诺がじっと見ていたからという理由があったが、ブレスレットに関してはナージャが一诺に似合いそうだと思ったから、という完全なる独断と偏見で買った物だからだ。
「……ナージャ様が、私に選んでくださったのですね」
「一诺の好みに一致するかがわからないので、不要であれば売却なりを」
「いえ」
カチャリと音がした。恐る恐るナージャが音のした方を見れば、一诺は左手首にそのブレスレットを付けていた。着ている服に似合うデザインで、ナージャは思わず目を細める。
……やっぱり、似合ってますね。
「ナージャ様」
ナージャが見ている事に気付いた一诺は一瞬はにかんだ笑みを見せてから、いつも通りに目を細めただけの笑みへと戻る。
「とても嬉しい、喜ばしい贈り物です」
一诺はナージャに跪いて頭を下げ、右手の拳を左手で覆った。
「この服と手镯に恥じぬよう、私はナージャ様を守ります」
一诺の左手首で、ブレスレットがカチャリと鳴る。ショ何とかはナージャにはわからないが、恐らくブレスレットの事だろう。そして中国に詳しくないナージャだが、今の一诺の体勢がとても真摯な感謝の表し方だという事もわかる。
だから、ナージャはこう返す。
「はい。お願いしますね」
頷きながらそう言えば、ナージャの首に巻かれたチョーカーについている花飾りがしゃらんと鳴った。