『帰り道』1414/05/30
アルタァベルトは、土地に宿った魔素に意識が芽生えた存在。
それ自体が巨大な疑似生命体だ。
だが、既存の生態系システムにとっては癌に近い、あまりに強すぎる生命。
魔物を細胞として勢力を拡大し、いつかは大陸、果てには星そのものを飲み込んでしまうだろう。
そうなる前に、殺さなければならない。
自然淘汰の摂理に逆らう事にはなるが、それが人間の都合というもの。
その『都合』を叶えるのが、私の仕事だ。
「ほらよ」
ベルカに投げ渡された包みを開くと、中には無骨な鉄の杭が入っていた。
正確には『楔』だ。
私と共に『こちら』に流れてきた鉱物から精製した、異界の毒を宿した品。
これをアルタァベルトの核、魔力の集中点に突き刺す。
ドクン。
何かの脈に触れた気がした。
まるで生き物の腹に手を突っ込んだような生々しい感覚が楔を通じて伝わってくる。
そのあまりの生々しさに、私は思わず退いてしまいそうになる。
「手を緩めるな! そのまま押し込め!」
ベルカの怒号に背中を蹴られるようにして、私はどうにか楔を押し込む。
ドクン。
ドクン。
ドクンドクンドクン……ドクン!
ひときわ大きな脈動の後、アルタァベルト『廃都ヴァレンハイト』は沈黙した。
「やったか……?」
やっていた。
鉄製の楔はヴァレンハイト城最奥に突き刺さり、まるで植物が根を張るかのように枝分かれし、石畳を侵している。
楔の持つ異界の毒が効いている証拠だ。
「ふぅ……これでようやく一つか」
私とベルカは、同時に息を吐いた。
そう、これが一つ目。
我々が巡らなければならないアルタァベルトはまだ大陸の各地にある。
たかが数あるうちの一つ。
されど、確かな一つだ。
「……帰るか」
「ああ、帰ろう」
王都に戻る頃には、次の『楔』の精製が終わっているはずだ。
アルタァベルトでなくなった以上、この地にもいつか活気が戻る日が来るだろう。
そんな遠い未来のことに思いを馳せつつ、私とベルカは廃都ヴァレンハイトを後にした。
その道中、ヴァルハン街道の道すがらにて。
『帰り道』
小高い丘の上から王都に続く平原を見渡した光景を描いてみた。
道が遥か向こうまで続いている感じを出すために空気遠近法を用いたり、スケールの比較になるようベルカに道の途中で立ってもらうなどした。
「ったく、何が楽しくてこんな道端に突っ立ってなきゃならんのさ」
文句を垂れるベルカだったが、酒を奢る約束をしたら渋々ながらも協力してくれた。
これは余談だが、絵を描き終わった後に声をかけても動かなかったので確かめに行ってみると、なんと立ったまま寝ていた。
流石だ。
「まあ、最初の時よりは色々上手くなってるんじゃないかい」
どうだろう。
同じヴァルハン街道にて初めて絵を描いた時から一か月、取り出して比べてみると確かに上手くなっている気がする。
だからという訳でもないが、楽しい。
「ようやく初心者を名乗れる程度だけどね」
まあ、そうだろう。
だがそれでいい。
我々の旅はまだ始まったばかりなのだから。
第一章『廃都ヴァレンハイト』編 完
経験値『デジタル風景画を描いてみた』を手に入れた!
レベルが『絵を描きたい人』から『絵を描き始めた人』に上がった!
トロフィー『テクスチャに溺れし者』を獲得!
トロフィー『風景画初心者』を獲得!
トロフィー『第一の楔』を獲得!
第二章『大樹海ジュサ=プ=ブロス』に続く
次は森