『ヴァレンハイト城』1414/05/29
平原を抜け、ついにたどり着いた。
アルタァベルトの発生によって廃棄された旧王都ヴァレンハイト。
旅の目的地だ。
私とベルカは崩れた城門を潜り抜け、もぬけの殻となったかつての目抜き通りを進む。
……寂しい。
ハイアストラ山の城塞跡とはまた違う、滅びを伴った生々しい寂しさだ。
「寂しい? 暢気なこと言ってんじゃないよ」
襲い掛かってきた魔物と死闘を演じながら、ベルカがぼやく。
凝縮した魔素が生命を模倣した存在、『魔物』。
今までも幾度となく襲われてきたが、その度にベルカが撃退してくれている。
戦闘に関してはからっきしなので、こういう時の私は完全にお荷物だ。
「ったく、多少は緊張感を持っとくれよ」
ベルカは呆れながら魔物にとどめを刺した。
疑似生命を絶たれ、魔物の身体を構成していた魔素が大気へと霧散していく。
ベルカにとってはこれぐらいお手のものだろう。
だが、この魔素濃度ではいくら狩ったところで意味が無い。
元凶を絶たなくては。
「『サイン』を見るに都の中心、ヴァレンハイト城がアルタァベルトの核だろう。城に近づけば危険度が跳ねあがるから、今日はここまでにして明日の朝に乗り込もう」
元宿屋らしき廃墟に陣取って、私たちは旅の終着に備える。
「じゃ、おやすみ」
ベルカはさっさと眠りについてしまった。
しかしどうにも落ち着かなった私は、やはり絵描き道具を取り出した。
『ヴァレンハイト城』
おお、今回は中々いい感じだ。
そもそも、ヴァレンハイト城がモチーフとしてずば抜けている。
『サイン』現象による魔光が逆光となってヴァレンハイト城の存在感を際立たせている。
そのコントラストをキチンと描けばモノになる。
そういう確信があったからか、描いている時にあまり悩まずに済んだ。
……ただ、これは絵と呼んでいいのだろうか?
その、何というか……九割以上『テクスチャ』で質感を賄っていて、全然筆のタッチを入れていない。
絵を始めておよそ一か月弱。
初めと比べて良い物を作れるようになってきたという実感はあるが、絵が上手くなったかと聞かれるとちょっと言葉に詰まってしまう。
技芸の道とは、得てしてこういう迷路のようなものなのだろうか。
はたまた、便利な技術に頼りすぎた私が勝手に邪道にはまり込んでしまったのだろうか?
この旅がひと段落したら、違う絵の描き方を試してみるのもアリかもしれない。
あと一つ気になるのは、城の中核部分から放たれている光だ。
上空の光が『サイン』によるものならば、城から放たれている光は何だ?
何か嫌な予感がする。
あそこで、恐るべき『何か』が我々を待ち受けているのではないだろうか……?
「くかーごぉぉー、すぴー……」
そんな時、ベルカのいびきが私の思考の靄を振り払う。
……まあいいか。
何が待ち受けてるにしろ、戦うのはどうせベルカだ。
当人がこうして暢気に寝息を立てている以上、私がつまらない心配をしても仕方がない。
少しずつ旅人らしい楽天的(かつ無責任)な思考に染まってきた気がしつつも、私はベルカの横で眠りについた。
最初の絵『ヴァルハン街道から見た南』を描き始めた時点から現実ではおよそ三週間が経ってます。
作中の日にちと連動させたかったんですけど、管理が面倒なのでやめました