『ハイアストラ旧魔石鉱第六採掘橋を見上げて』1414/05/20
「……思ったより長いねえ。縮尺がおかしいんじゃないかい、この地図」
ベルカが採掘所の地図を逆さまにしながら呟いた。
ハイアストラ山の中腹から旧魔石鉱に入った私たちだったが、順路だった『第六採掘橋』が崩れ落ちてしまっていたため、大幅な回り道を強いられた。
「ったく、橋なんだからもっと頑丈に作っとけばいいものを」
ベルカはぼやきながら、その辺の地面にひっくり返った。
「かったるい。昼寝する」
宣言すると、いびきをかき始めた。
ベルカのことだ。一度こうなってしまったらテコでも動かないだろう。
今までの旅でもこういうことはままあったので、別に今さらという感じだ。
しかし、暇だ。
どうやら進む先に高濃度の魔石結晶があるらしく、蓄光作用で外のように明るい。
よくこんな明るさの中を眠れるものだ。
暇潰しに探検しようかとも考えたが、ベルカから離れて歩き回るわけにもいかない。
まあ、こういう時のための絵描き道具だ。
絵筆を握りしめ、今頃は超えているはずだった第六採掘橋に向けてキャンバスを立てる。
『ハイアストラ旧魔石鉱第六採掘橋を見上げて』
うん、魔石の光り具合や空気感は上手く表現できている気がする。
……しかし、何だろう。
どこかパッとしない感じがする。
岩だらけだから岩の質感やシルエットにこだわって書いたつもりだが、どうにも全体の画がぼんやりしている気がする。
自分ではよく分からないから、後になってからベルカに見せてみた。
「何だか画面がのっぺりしてないかい? 橋の向こう側の空間は空気遠近法のおかげで上手く距離感が出ているが、少しぼかし過ぎたな。手前の岩場は描き込みに差を付けて、もっと距離感を出した方が良い。それと、絵の主役にするにはあの橋は弱すぎて視線のやり場に困る。誇張してでももう少し強調した方が絵としての締まりはいいだろうね」
なるほど。
私は頷きつつ、訊ねてみる。
なんだか思ったより絵の用語にまで詳しい気がするが、もしかして経験者だったりするのか?
「馬鹿言え。アンタが貰って来た技法書をヒマつぶしに読んだだけさ」
にしては、アドバイスが的確な気がするのだが……
まあいいか。
戦闘の達人は、絵のセンスもきっと良いのだろう。
私は独りごちると、既に出発していたベルカの背を追うのだった。
「ア、アンタ……今、何を……っ!?」
「何って、トーンカーブ機能を使って選択個所に一括で色を塗っただけだが?」