『ヴァルハン街道から見た南』1414/05/14
挿絵機能、上手く機能してますかね?
アンダークの街を出て、第一の旅を再開する。
目指すは東、アルタァベルトの発生によって放棄された廃都ヴァレンハイトだ。
行商キャラバンに金を払って途中まで同行させてもらう事になった我々は、のんびりゆったりと揺れる馬車に身を任せていた。
だが、思いのほかヒマで、変わり映えしない景色にも飽き始めていた。
「なあ、絵はいいのか?」
ベルカに訊ねられる。
確かにヒマだが、移動中は揺れるし景色は移り変わる。
『どこか』良い光景をじっと見られるタイミングが『いつか』来たら描くさ。写真だってそのスタンスで途中までは上手くやれてた。
そう答えると、ベルカはやれやれという顔をした。
「アタシらの旅にそんな都合の良いヒマができるかねえ?」
皮肉っぽく言うが、確かに一理ある。
写真を撮るのと比べて、絵を描くのは時間が要る。
良い景色を見つけたとしても、長居できる余裕があるかどうか。
そんなことを考えていると、馬車がふいに止まった。
「何だ?」
聞いてみると、どうやらキャラバンの先頭馬車がぬかるみに車輪を取られたらしい。
商人たちが総出で馬車を押している。
「手伝ってくるよ。アンタはこういう時役に立たないんだから、おとなしくしていろよ」
ベルカは袖をまくって手伝いに行ってしまった。
「……」
長くなるだろうか。
十数人で押しても上手く抜け出せない様子を見るに、案外時間がかかるかも。
そう思った私は例の絵描き鞄を開き、辺りを見回した。
「構図も何も分からないけど、あっちがいいかな」
南、旧マグノリア浮遊大陸跡に向けてキャンバスを立て、私は恐る恐る筆を動かした。
『ヴァルハン街道から見た南』
うーん……
我ながら、その……下手だ。
最初ならこんなものだろうか……
そう思ったところに、背後から声がした。
「ふーん、描いたんだ」
「うわ!?」
戻ってきたベルカに気付かなかった私は、思わずキャンバスを隠した。
「何だい。隠すことは無いだろう」
そうは言うが、下手な絵なんて人に見られたくないだろう。
「随分と尊大な羞恥心だね。初心者なんだから、積極的に人に見せてくべきじゃないのかい?」
ベルカはそう言うと私からキャンバスを取り上げてまじまじと見つめた。
「ふむ。空は真っ青だし、山の斜面のタッチが雑だね。それに、浮遊大陸跡の『楔』は視線が集まる部分だからもう少し力を入れたほうが良い」
ぐっ……そこは今からやるつもりだったんだ。
「それに、草原の起伏はもっと意識的に描いた方が良いね。道を描こうとした跡があるから辛うじて分かるけど、近景と中景の見分けがつきにくい」
うっ……!
言葉が私の胸にグサグサと刺さる音が聞こえそうだ。
身悶えていると、ベルカはまだ何かを言おうとしていたみたいだが、やめてくれた。
「ま、今はそんなところかね。考えて描き続ければそのうち上手くなるもんさ」
ベルカは私にキャンバスを突き返すと、踵を返した。
「ほら、もう行くよ。前の馬車は動き出してる」
本当だ。
私は慌てて道具を片付けると、ベルカの後に続いた。
絵が下手?
ところがどっこい、これはそういうお話なんです。