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転生したら第七王子だったので、気ままに魔術を極めます  作者: 謙虚なサークル


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出禁の可否は

 それから歩く事しばし、俺たちは教会に辿り着いた。


「うわぁー、おっきいねぇ」


 レンが教会を見上げ、感嘆の声を上げる。


「ここは支部よ。本部はもっと大きいわ」

「そうな……んですか」

「喋りにくいなら普通でいいわよ。私はそういうの気にしないから」


 サリアはレンにそう言いながら教会に無遠慮に入っていく。

 そして近くを歩いていたシスターに声をかけた。


「来たわよ」

「これはこれはサリア様、ようこそおいで下さいました! ん、そちらの子供たちは……?」

「荷物持ちよ。文句ある?」

「いいえ! 滅相もありません! ささ、お疲れでしょう。どうぞ中へ」


 シスターはサリアに睨まれると、慌てて俺たちを通す。

 おおっ、流石はVIP待遇。あっさり通して貰えたぞ。

 サリアに頼んで正解だったな。


「それじゃあロイド、私は演奏会の準備があるから。また後でね」

「うん、ありがとうサリア姉さん」


 サリアに別れを告げ、俺は教会堂へと向かう。

 道すがら、グリモが口を開いた。


「えーと、まずはここの神父に話をして出禁を解いてもらうんでしたな。そして信徒になったフリをしつつ神聖魔術について探り、習得したら適当に切り上げる、と。完璧な計画ですぜロイド様!」

「首尾よく事が運ぶといいが」

「大丈夫でしょう。教会の人間ってのは出来るだけ多くの信徒を集めたがってやすし。ロイド様みてぇな王族なら嫌がる理由がないでしょう。昔ちょっとばかりやらかしてても、問題はないはずでさ! ……ん、よく考えたらそもそも出禁になるのがおかしい気も……いやいや、考えすぎですな」


 確かに、ちょっとばかりやらかしたくらいなら大丈夫だよな。うん。

 ともあれ出たとこ勝負しかあるまい。

 おっ、神父発見。早速話しかけてみるか。


「神父様ーこんにちはー!」


 大きく手を振りながら駆け寄ると、神父は俺に気づいたようだ。


「こんにちは、元気な子だね。二人でお祈りに来たのかい? ……おや、君とはもしかして一度会っているかな?」

「はい、ロイドです。お久しぶりです」

「ロイド……はっ!? ま、まさか、『あの』ロイド=ディ=サルームかっ!?」


 俺が名乗るなり、神父はすごい勢いで後ずさった。

 胸元の十字架を手に取り、震え始める。


「間違いない! 二年前に突如現れ、この平和な教会を恐怖のどん底に陥れた悪魔の子が何故ここにっ!?」


 いきなりとんでもない事を言い出す神父。

 ちょっと待て、悪魔の子とはいくらなんでもな言われようである。


「うわぁ……ロイド、一体何をやらかしたの……?」

「ロイド様、いくらなんでも人体実験や拷問、殺しの類はどうかと思いやすぜ」


 それを聞いたグリモもレンもドン引きしている。

 おい、俺の信用ゼロかよ。


「失敬な、いくら何でもそんな事はしてないぞ。……まぁ当時は魔術を覚えたてだったから今ほど自重もしてなかったけど……」

「逆に今は自重しているつもりだったんですかいっ!?」


 しかも何故か驚かれてしまった。

 してるだろ、自重。……してるよね?


「……まぁロイド様が今より自重せずにいたんなら、この神父の行動も納得ですぜ。出禁の理由もね」


 納得されてしまった。ひでぇ。

 そういえば当時はまだ魔術の制御が完璧ではなかったので、色々と壊してたっけか。

 ステンドグラスとか、天使の彫像とか、でっかい絵とか。……怒るのも無理はないかもしれない。


「えーと、神父様? お話を聞いていただけますか? 当時の事はその、すみませんでした。俺も反省しています。よろしければまた通わせていただけないでしょうか?」


 精一杯の笑顔を向けるが神父は俺の手を取らず、立ち上がり睨みつけてきた。


「ならぬっ! 反省しただと? 口では何とでも言えるわ! そんな言葉、信用できるわけがあるまいっ! ワシが心血注いで作り上げた芸術作品たちを尽く粉々に砕きおって……!」

「あ、思ったより個人的な恨みだった」


 レンがぽつりと呟く。

 確かに個人的な事だが、だからこそ神父の怒りは理解出来る。

 大事なものを壊されたら怒るよなぁ。


「そこをなんとか……」

「駄目だ駄目だ! 神の御名に置いてお前を信徒になるなど許さぬ! 即刻神の庭から立ち去れい!」


 むぅ、取り付く島もないか。

 仕方ない、他の手を考えるか……そう考えて立ち去ろうとした時である。


「神父様、その辺にしてあげてはどうでしょう?」


 鈴の鳴るような声と共に扉から出てきたのは、シスター服を着た女性。

 長い金髪をさらりとなびかせ、豊かな胸をたゆらせ、柔らかい笑みを浮かべるその姿には見覚えがあった。


「イーシャ!」

「ふふっ、憶えてくれて嬉しいわ。久しぶりねロイド君」


 イーシャ=ハンニバルク、教会に長く勤めるシスターである。

 正義感と慈愛の精神に満ち溢れた聖母のような人で、当時俺がやらかしたのをよく庇ってくれていた。

 その後めちゃめちゃ怒られたが……優しいだけでなく厳しい人だ。

 教会内でもその素晴らしい歌声は高く評価されており、サリアのピアノとの演奏は神が宿る、とまで言われている。

 イーシャは神父の方を向くと、胸元に手を当て真っ直ぐに見据える。


「神父様はいつも仰られていたではありませんか。『人は過ちを犯すもの。だが反省をし、それを償うというのであれば神はきっと許して下さる』と。どうでしょう? ロイド君に償いの機会をさしあげては?」

「そうは言うがね、イーシャ君……」

「ボクからもお願いしますっ! ロイドはその、確かに無茶をすることもありますがそれはいつだって深い考えがあるからなんです! ボクも、仲間も、ロイドに救われました……!」

「オンオンッ!」


 たじろぐ神父にレンとシロが目を潤ませて詰め寄る。


「む、むぅ……そんなキラキラした目で見つめられても……」

「くぅーん、くぅーん」


 鼻を鳴らしながら擦り寄るシロを見て、神父はグッと息を呑んだ。


「……ええい、わかった! 犬好きに悪い奴はいない! 信じることにしよう!」

「本当ですかっ!」

「う、うむ……ところでこの犬の名は何というのだ?」

「シロです。可愛いでしょう。抱っこします?」

「……是非、頼む」


 神父はそう言うと、目元を緩ませながらシロを抱き上げる。

 なんて幸せそうな顔だ。いい仕事したな、シロ。


「ふふっ、ロイド君たらあんなに無邪気に喜んじゃって。さっきサリアと共に教会へ入ってくるのが見えたという事は、目当ては聖餐会での演奏会ですね。二年前、嫌そうに讃美歌を歌うあの子の声には神が宿っていました。神聖魔術、その中でも最上位の人たちが持つ声――しかも今のロイド君はあの時よりも成長している……! きっと音楽の道に進んでくれると思って待ち続けていたけど、やっとその日が来てくれましたね。安心してくださいロイド君、もう出禁になんてさせません。私が立派な歌い手に育てて差し上げます。そして十分に育ったロイド君と私が合唱をすれば、今まで誰も聞いたことがないような歌が生まれるはず……あぁとっても楽しみです! ふふ、ふふふふふ……」


 イーシャが何かブツブツ言っている。

 なんだかわからないが俺はいつも通り、俺のやるべきことをやるだけだな。うん。

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― 新着の感想 ―
[良い点] みんなぶつぶつと自分の世界に入り込む優しい世界
[一言] ロイドがイヤイヤ歌う… 棒読みで歌う… 棒歌ロイドかな?
[一言] お? なんかロイドに神聖術の才能あるっぽい?
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